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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第二章

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第19話

「――その、ありがとうございます……いろいろと、助けていただいて」


 そうもぞもぞと気まずげに告げたのは、休憩を取った一時だった。

 近くの拓けた場所で、二人は腰を降ろし、一息つく。カグヤはもじもじと指先を地面に這わせていた。落ち込んでいるように、ため息をこぼす。


「いつもはこんな失態をしないのですが……」


 その様子に少しだけレオンは苦笑をこぼす。

 それだけ落ち込むのも無理はない。ブラッドクロウとの戦いの後も、何回か魔獣と戦ったが、そのたびにカグヤは小さなミスを繰り返していた。

 張り切って前に出過ぎて後ろの警戒が疎かになったり。

 規模の大きな魔術を使い、レオンを巻き込みかけたり。

 あるいは、乗っている馬を暴走させてしまったり。

 そのたびにレオンは彼女をフォローし、怪我がないように立ち回っていた。


「まぁ、気にするな。そこまで大きなミスもなかったし、魔術には助けられている。差し引きで考えれば、助かっている方かな」


 レオンはそう言いながら、傍で草を食んでいる馬の首筋を撫でる。馬もしばらく興奮状態だったが、もう大分落ち着いてくれた。

 だが、カグヤはその言葉で慰めきれなかったのか、まだため息をこぼしている。


「すみません、A級でありながら情けないです」

「A級でもミスするときはあるだろ。そういうときに助け合うのが仲間なんだから」

「助け合う、仲間……」

「そう、仲間」


 頷きながらレオンは馬の首筋を撫で続けながら、カグヤに視線を戻した。


「逆に俺は銃という武器だから、決定打に掛ける。その点、カグヤの魔術があるおかげで、すぐに制圧できている。俺が不得手な部分を、カグヤは支えてくれているんだ」


 その言葉にカグヤは少しだけ顔を上げ、小さくはにかんだ。


「――ありがとうございます。励ましてくれて」

「励ましもあるが、半分以上は事実だからな。前、共闘したときも思ったが、カグヤの制圧力はかなり高いし、状況に応じた対応ができていると思う」


 彼女はどの戦いでも的確に効果的な魔術を選択し、攻撃を繰り返していた。

 回避能力が高い魔獣には火力は低いが、規模は大きい魔術。

 防御力が高い魔獣には高火力でピンポイントな魔術。

 敵の数が多い場合は、手数を重視して連射性の高い魔術。

 レオンが少し時間を稼いでいる間に、適切な魔術を叩き込み、魔獣を追い詰めていくのだ。後はレオンがそれに合わせるだけでいい。


「それに索敵能力は、俺以上だな――それもびっくりした」

「一応、常時、索敵魔術を展開しているので」


 カグヤは杖の先端の水晶を見せてくれる。それをよく見ると、表面で光の魔法陣がくるくると回っている。それが恐らく索敵魔術なのだろう。

 それを感心しながら見ていると、カグヤは微かに唇を尖らせた。


「というか、それと同じくらいレオンさんも索敵するじゃないですか。一体、どうやって探り当てているのか気になります」

「まぁ、俺の場合は匂いや音、あとは経験則か」

「経験則……?」

「俺も森で長く暮らしてきたからな。森を通じて動く気配を探ることはある」


 森は意外と物が動く様子が分かりやすい。木の葉の擦れる音や、動物たちが身動きする気配で、何かがいることが分かったりする。


「まぁ、魔術とは違った手段だから、あまり当てにしないでくれ」

「とはいえ、その精度が高いから驚いています」

「なら、この経験も捨てたものじゃないな」


 軽く笑いながら言うと、カグヤもおかしそうにくすりと笑みをこぼす。その顔色は大分明るくなり、落ち込みから立ち直ってきたようだ。

 レオンは目を細めながら、ふと気になってカグヤに訊ねる。


「折角だから、カグヤの魔術について聞かせてくれるか。氷魔術が得意なのは、何となく理解してきたが、他に何ができるかとか」

「そうですね、言ってしまえば大抵のことは」


 そう言いながら彼女は座ったまま、杖を地面に突き立てた。その先端に埋め込まれた水晶が淡い光を放っている。彼女がそれに手をかざすと、様々な魔法陣が浮かんでは消えていく。その文様は実に多彩だ。

 それを感心しながら見ていると、カグヤは横目でレオンの方を見て訊ねる。


「レオンさん、魔術の心得は?」

「……いや、正直、何も知らなくてな」

「では、一から説明すると。そもそも、魔術とは体内の魔力を変換して、たとえば炎や氷などにすることです。それをどのような形に変換するか決めるのが、魔法陣です」


 そう言いながら彼女は杖を前に突き出した。水晶の表面に魔法陣が浮かび、それに魔力が流れ込むと、目の前に氷の塊が生み出された。

 彼女は杖を振ってその魔術をかき消すと、別の模様の魔法陣を描いて魔力を流す。

 またしても発生したのは氷――だが、形状はナイフのように鋭い。


「……要するに、魔力が食材、魔法陣がレシピ、というところか」


 レオンが眉を寄せながら訊ねると、いい例えですね、とカグヤは淡く微笑む。


「その例えだと、猪肉も焼けば串焼き、煮ればシチュー、野菜と炒めれば肉野菜炒め――そういう風に、魔力を炎や氷、あるいは氷の形状や動き方まで、細かく魔法陣で指定することができるのです」

「で、それを柔軟に使いこなせるかが、魔術師の腕の見せどころか」

「そういうことです。こんな風に」


 彼女はそう言いながら魔法陣を次々と切り替え、それに魔力を注ぎ込む。その目の前で氷が変幻自在に姿を変えた。煌びやかな光景にレオンは思わず目を奪われてしまう。


(すごい――綺麗だ)


 一つとして同じ形はない。それだけ彼女が作り出す魔法陣が多いということだろう。カグヤは最後に杖を一振りすると、氷が千々に砕け散った。

 風に乗って光の残滓が舞い散る。その光景の中で振り返ったカグヤは目を細めた。


「私の凄さが少しは分かっていただけましたか?」

「それはもう十分、分かっているって」


 どこか自慢げに笑うカグヤに、レオンは笑い返しながら少しほっとする。気がまぎれたのか、随分明るい表情を見せてくれている。


「じゃあ、カグヤ、質問いいか?」

「はい、どうぞ。レオンさん」

「カグヤは魔術を使うとき、呪文を唱えているが、あれはどういう役割?」

「いい質問ですね。あれは、魔法陣を呼び出すためのものなんです」

「魔法陣を呼び出す……?」

「そう、魔術を使うたびに、一々魔法陣を描いていたら手間ですからね」


 カグヤはそう言いながら、杖に浮かんでいる魔法陣に視線をやる。確かに、その魔法陣は煩雑な造形をしている。魔法を使うたびにこれを手で描いていたら面倒だろう。


「その手間を省くために、この水晶があります。これは魔水晶といって、使用者の深層心理とリンクし、魔法陣の形状を出力することができるのです」

「なるほど、呪文は深層心理にアクセスし、魔法陣の形状を呼び出すための、いわばパスワードみたいなところか」

「またいい例えですね。さすがの理解力です」


 カグヤは嬉しそうに頷き、杖を抱えながら続ける。


「これによって魔術の行使を簡略化できるのです。といっても、パルマ・フォレストのような巨大魔術になると、詠唱も手間なのですが」

「……予め、魔法陣を紙か何かに書いておくのはダメなのか?」

「またまたいい質問です。結論を言えば、可能ですよ」


 彼女はそう言いながら、法衣の懐から何かを取り出す。長方形の紙切れ――それには細かく何か紋様が刻まれている。魔法陣だ。


「ですが、これには弱点があります――脆いんです」


 そう言いながら、彼女は指先で挟んだ呪符に力を込める。瞬間、指先から紫電が迸り、地面に焦げ跡を残す。

 だが、それと同時に紙がぼろぼろと崩れ去っていく――。


「魔力に耐性がない素材だと、すぐに崩壊します。だから、基本は使い捨てです。私もこれと同じようなものをいくつか用意していますが、これは奥の手ですね」

「……なるほど、だから気軽には使えない、と」

「そうなります。折角ですので、こちらをどうぞ」


 彼女はそう言いながら一枚の呪符を渡してくれる。


「これは?」

「結界術式の呪符です。一発なら攻撃を凌いでくれるかと。危険な状況になれば自動的に発動するので、懐に入れておくことをオススメします。レオンさん」

「なるほど、ありがとう。助かるよ」


 レオンはありがたく受け取り、それを懐に収める。カグヤは軽く頷きながら、レオンの腰に視線を向けて続けた。


「これならレオンさんが持ち歩いている魔道具に干渉しないと思いますので」

「え、ああ、これ?」


 ベルトにぶら下げている、いくつかの小瓶。そのうちの一つを引き抜く。


「馴染みの鍛冶屋で買った、煙幕や爆薬だけど……これも魔道具なのか?」

「はい、そうですよ――失礼しますね」


 カグヤはそれを受け取ると、それを揺らして一つ頷く。


「中身は魔石――魔力のバッテリーみたいなものです。表面には魔法陣が細かく刻まれているんです。恐らく、空気に触れたら魔術が作動するようにできています。腕のいい鍛冶屋さんなのですね」

「へぇ……」


 アレスタの、また腕のいい一面が垣間見えてしまった。


(あのおっさん、こんな腕前をどこで身につけたんだ?)


 銃の整備技術といい、只者ではない気がするのが……。

 レオンは内心首を傾げていると、カグヤは小瓶をレオンに返しながらくすりと笑みをこぼす。


「ちなみに、私も作れますよ? 当然ですけど」

「……え、マジで?」

「はい、大マジです。専属契約で割安に作って差し上げましょうか?」


 思わずぐらりと心が揺らぐほど、魅力的な提案に頷きそうになる。だが、レオンはぐっとそれを堪え、半眼になりながら答える。


「その代価は、相棒になれ、とか?」

「あ、バレましたか。レオンさんは手ごわいですね」


 てへぺろ、とごまかすように舌を突き出すカグヤ。そのあざといけど、可愛らしい仕草に毒気が抜かれてしまう。レオンは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


「ま、いずれにせよ、任務を終わってからの話だな」

「それもそうですね。では、そろそろ行きましょうか」


 彼女は笑みをこぼしながら腰を上げた。レオンも頷きながら腰を上げ、傍の馬の様子を確かめる。軽く鼻息を立てる馬も充分休憩できたようだ。

 レオンはその馬に跨ると、カグヤに手を差し伸べた。


「ああ、お互いに助け合って、だな。カグヤ」

「はい、よろしくお願い致します。レオンさん」


 カグヤの小さな手を掴んで引き上げれば、カグヤは身軽にレオンの後ろに跨った。その距離はまた少し近く感じられる。

 レオンの腰を掴むカグヤの感触に目を細めながら、彼は馬を歩かせ始めた。

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