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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第二章

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第18話

 敵の気配に、馬上の二人は速やかに戦闘態勢に入っていた。

 カグヤは杖を抜き放ち、それを前に突き出す。杖の先端には水晶が埋め込まれており、彼女が集中させた意識に呼応するように淡く輝きを放つ。

 くるり、と彼女は先端で円を描き、小さくつぶやく。


「敵影八つ。このシルエットは……鳥、ですね」

「なるほど、ブラッドクロウか」


 ブラッドクロウは、別名、血濡れのカラス。

 カラスが魔獣化したものであり、その姿は猛禽さながらの大きさになる。十匹前後の群れを作り、空から獲物を狙う。

 それが道の上に覆いかぶさる木の枝で、待ち構えているようだ。


「差し詰め、下を通りかかったところを襲うつもりだったようだが」

「私たちを狙ったのが、運の尽きですね」


 レオンはひらりと馬から降り立ち、拳銃を引き抜く。遊底を引き、初弾を薬室に送り込む。滑らかな動きで、小気味いい音を響かせる。


「レオンさん、前衛はお任せしますね」

「ああ、もちろん。一匹たりとて、カグヤに近づけさせない」


 不敵に言い放ちながら、両手で拳銃を構える。短く息を吸い込みながら、狙いを定める。狙った先の木の枝が、微かに揺れる――。

 瞬間、引き金(トリガー)を絞る。鋭い銃声が、森の中に響き渡った。

 それに驚いたように、目の前の木からばさばさと羽音を響かせ、いくつもの影が飛び出した。宙に舞い上がったのは、漆黒の猛禽――ブラッドクロウだ。


(想定通り……さて、ここからか)


 レオンは素早く狙いを上空の敵影に定める。だが、翼のある魔獣たちはひらひらと宙を舞い、狙いを定めさせない――飛び道具があることを、すでに理解しているのだ。

 さすがカラスの亜種。ずる賢い生き物だ。


(けど……人間を出し抜くには、まだ早いな)


 レオンは息を吸い込みながら両手で銃把(グリップ)を保持。冷静に狙いを研ぎ澄ませ、引き金(トリガー)を引く。甲高い銃声の直後、大空の敵影の一つがぱっと羽を散らす。

 そのまま、中空で石になったかのように、一つの影が墜落する。

 まずは、一つ。冷静にレオンは次に狙いを定める。


(連中の動きを追おうとしない。連中が行く先に狙いを定めればいいだけ――)


 銃口が狙うのは、虚空。そこへ向けて引き金(トリガー)を引く。

 銃声と共に、火線は真っ直ぐに空へと飛び――その位置に飛び込むように、ブラッドクロウが割り込んでいた。弾丸が吸い込まれ、空で羽が飛び散る。

 それが地面に落ちる前に、レオンは次のブラッドクロウを視界に捉えていた。

 その先を予測するように、またしても虚空を狙って引き金(トリガー)を引けば、そこに魔獣が飛び込んできて血飛沫と羽を散らす。

 偏差射撃。手品のような射撃術にブラッドクロウは動きが乱れる。

 だが、動揺は一瞬。すぐに示し合わせたように、猛禽たちは急降下を始める。

 急転直下の強襲。レオンは焦らずバックステップを踏みながら、腰に手を伸ばす。ベルトにぶら下げた小瓶を引き抜き、中空へ放った。

 間髪入れず、それに銃口を向けて撃ち抜く。小瓶が空中で砕けた瞬間、爆ぜるように黒煙が噴き出す。その煙幕で視界を遮りながら、レオンはバックステップを踏み。

 それを待ち受けていたように、カグヤは高らかに詠唱を響かせた。


「集え、氷刃――雨霰となって、打ち穿てッ! アイス・ツヴァイッ!」


 水晶が眩い光を放ち、虚空から氷の刃が次々に放たれる。それが煙幕の中へと弾幕のように吸い込まれる。直後、響き渡ったのは甲高い断末魔の悲鳴。

 どさどさ、と音を立て、目の前に落ちるブラッドクロウ。

 それらは地面でじたばたとしていたが、翼を氷で貫かれてはもう動けない。やがて、ぴくりとも動かなくなった。

 レオンは吐息をこぼすと、背後を振り返って笑みを見せた。


「さすがだな、カグヤ。助かったよ」

「いえ、レオンさんが隙を作って下さったおかげです」


 馬上の彼女は淡く笑いながら、差し向けていた杖を降ろし――。


「――え、あっ!」


 不意に、馬が嘶きと同時に、軽く暴れた。彼女はしがみつこうとするが、上手く行かずに体勢を崩す。

 咄嗟に、レオンは地を蹴っていた。スライディングの要領で、落ちる少女の下に滑り込み、その小さな身体を受け止める――ずっしり、と腕の中に感触。

 気が付けば、仰向けに倒れるレオンの胸の中に、小柄な少女の身体が収まっていた。


(軽くて、小さくて――柔らかい)


 華奢な身体なのに、どこかふんわりした感触だ。冷たい印象とは違って、間近な顔は少し幼げで可愛らしい。見るからに弾力のありそうな、桃色の唇が悩ましげに吐息をつく。

 やがて、睫毛が揺れて――固く閉じられていた瞼が開く。びっくりするほどくりくりで、つぶらな瞳。その蜂蜜色の瞳と、じっと見つめ合い――。


「あ――大丈夫、か?」


 何故か掠れてしまう声。レオンが問いかけると、彼女の目が見開かれ――顔が真っ赤に染まっていく。慌てて横にずれるように、カグヤは上から退いた。


「す、すみません、レオンさん――庇って、いただいて」

「い、いや、護衛だしな。守るのは、当然だ」


 頬をかきながらレオンは身体を起こし、傍で嘶く馬を見上げる。頭の上で、魔術をぶっ放されたのが余程気に食わなかったようだ。じろり、と何故かレオンを見下ろし、不服そうに嘶く。


「悪い、悪い――だが、急に暴れてくれるな」


 立ち上がり、その首筋を軽く叩くと馬は大人しくなる。レオンが銃をホルスターに収めながら、カグヤに手を差し伸べる。

 彼女はぺたんと地面に女の子座りし、潤んだ瞳で見上げ――レオンの手を、ゆっくりと取る。その小さな手と、眼差しはあまりにも冒険者らしくない。


(なるほど、箱入り娘、か――)


 レオンは納得しながら、できるだけ丁寧に優しく彼女を助け起こす。

 その手はあまりにも小さく、握る手つきも弱々しかった。

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