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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第一章

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第13話

 翌朝、レオンとシュリは朝早くから行動を始めていた。

 お互いに見張りを任せ、しっかりと仮眠を取った後に食事も済ませて準備が万端。まだ薄暗い森の中を二人はゆっくりと歩きながら進む。


「……随分、静かね」

「……確かに、な」


 早朝は、夜行性の獣が眠り、日中動く獣が寝ぼけている、動きやすい時間帯だ。魔物と遭遇する確率はぐんと減る。だが、それにしては静かすぎる。

 グランド・ベアはおろか、他の生き物の気配が感じられない。


「やっぱり、グランド・ベアの縄張りだから、かしら」

「……かも、しれないな。少し気になるが」


 レオンはぐるりと周りを見渡してから、地面に視線を落とす。


「とにかく、もう少し、奥を目指すか。この辺には獲物がいなさそうだ」

「……地面を見ただけで、よく分かるわね。レオン」


 レオンは屈んで地面に指先で触れていると、その横にシュリは膝を揃えてちょこんとしゃがみながら、そっと目を細めた。

 耳に掛かった、短い髪を少し掻き上げる。その仕草を見ながらレオンは頷いた。


「ここには、何もないからな――食われた山菜でもあれば、話は別だけど」

「え、でも、グランド・ベアは肉を食べるんじゃないの?」

「正直、グランド・ベアは雑食だからな。飢えていれば、なんでも食う」


 レオンは立ち上がりながら言い、軽く樹皮に触れて言う。


「敢えて言うなら、グランド・ベアは、草食獣を獲物にする。その草食獣が食べるのが、山菜や果物だ。だけど、その跡がない、ということは――」

「食料がないから、ここにはいない可能性が高い――ということ、で合っているかしら」


 少し自信なさげなシュリに、レオンは笑いかけて頷く。


「うん、そういうこと――もう少し自信を持ってもいいぞ?」

「うう、でもいつもカグヤにバカ姉、アホ姉言われているから……」

「まあ、カグヤさんは頭の回転が速そうだからな……」


 その点、逆にシュリは分かりやすい――いい意味でも、悪い意味でも。

 そんなことを考えていると、シュリは察したのか半眼を向けてくる。


「レオン、失礼なこと考えたでしょ」

「いいや、そんなことはない――ぞ?」

「考えているじゃない……貴方、だんだん失礼になってきたわね」

「打ち解けていると言ってくれ」


 二人は言い合いながら、木々の間を進んでいく。シュリは辺りをぐるりと見渡しながら、少しげんなりしたように吐息をこぼす。


「この辺にいない、ということは大分、日数がかかりそうね。三日で見つけられるかしら。食料、それくらいしか持ってきていないけど」

「いや、そこまでは掛からない。今日中には、見つかるんじゃないか?」

「え――そうなの?」


 意外そうにシュリはレオンを振り返る。レオンは軽く請け負うように頷いた。


「まあ、賢いとはいえ獲物は図体がでかいからな」


 獲物のグランド・ベアは、ケルドの森の奥に出没する魔獣の一つ。

 毛皮は丈夫で、防具としても使われ、その肉は絶品であるため『魔界の霜降り肉』と呼ばれるほど。また、肝も珍味であり、一頭売り飛ばせば、一流の装備一式揃うと言われる。

 だが、その価値は個体数の少なさではなく――狩りの困難さから生じている。

 身体は大きく、大の大人二人分の身長があり、その腕の太さは丸太並。加えて、性格は獰猛――竜相手だろうと、平然と喧嘩を売りに行くようなほど、好戦的だ。

 だからこそ――場所は、絞り込みやすい。


「……ほら、見つけた」


 二人が探索を始めて数時間。もうすぐお昼というところで、レオンは一点で目を留める。シュリは警戒するように表情を引き締める。


「グランド・ベア?」

「いや。でも、その痕跡だな」


 レオンは指先を横の茂みに示す――そこは、下草がぼうぼうに生えている場所だ。一見して、ただの草原のように見える。シュリは軽く首を傾げる。


「これの、どこが痕跡?」

「下草の葉を見ろ。若干、潰れていないか?」


 レオンの言葉に、シュリは草原に近づき、あ、と小さく声を上げる。


「確かに、ここの草だけ少し茎が折れている。ここだけ不自然ね」

「ああ、まるでここで何かが丸まって寝ていたみたいじゃないか?」


 レオンの言葉にシュリは息を呑む。彼は口角を吊り上げながら、その草原へと分け入って手を伸ばす。丹念に調べて――見つけ出す。

 ごわごわとした針金のような毛――グランド・ベアの毛だ。


「間違いない、ここがグランド・ベアの寝床だ」


 レオンが摘まみ上げた、ほんのひとつまみの体毛。シュリはそれをまじまじと見て吐息をこぼした。感嘆の眼差しで、レオンを振り返る。


「すごいわね、レオン。ただの草原からそこまで分かるのね」

「よく見れば分かるよ。生きとし生ける者は痕跡を残すから――多分、この寝床は三日前くらいに使ったものかな?」


 ここにグランド・ベアがつい最近までいた、と分かれば後は早い。

 レオンは荷物を置くと、丹念にその周りを探し回る。草木や樹皮などを注意深く眺め、地面も逐一確認しつつ歩き回り――見つける。

 落ち葉だまり。だが、微かに一角が盛り上がっている。

 レオンはそこに屈み、枯れ葉をかき分ける。途端に、ぷん、と鼻をつく悪臭が漂った。後ろで見守っていたシュリも思わず顔をしかめる。


「う……レオン、これは……」

「言わなくても分かるな。グランド・ベアの糞だよ」


 レオンはそう言いながら枝で叩き、糞を崩していく。その行為にシュリは眉を寄せる。


「何をしているの?」

「糞の中身を調べている。最近まで何を食べていたか分かる」

「……そんなのを調べてどうするの?」

「いろいろ分かるからな。獲物の大きさ、飢えているかどうか、好き嫌いがあるか――場合によっては、毒餌とか罠を使うことで効率よく仕留めることができるからな」

「なるほどね、えっと、敵を知り己を知れば……」


 視線を彷徨わせながら、口ごもるシュリ。レオンは頷きながらフォローする。


「百戦危うからず――古代人のことわざだな。よく知っているな、シュリ」

「え、ええ……それで何か分かったかしら。レオン」

「ん……そうだな、一見すると主食は草木と果物みたいだ」


 繊維質のまとまった便だ。砕いた中には果物の種も交ざっている。生き物の骨が交ざっている気配は一切ない。それに図体の割に、便の量が少ない。

 なるほど、レオンは徐々に確信を深めつつ顔を上げた。


「……大分、腹を空かしているな。食えるものを食いつないでいる感じだ」

「じゃあ、獰猛なのかしら?」

「かも、しれないな」


 レオンは頷きながら立ち上がり、辺りを見渡しながら眉を寄せる。


(に、しても妙だな……)


 立ち枯れしている木の一本に着目する。それは、木の皮が食われ過ぎたために、枯れてしまったようだ。地面を見ると、山菜の気配も感じられない。

 つまり、それは――食料が、食われつくされている、ということだ。


(この時期なら、もう少し緑が豊かだが……どうしてだ?)


 わずかな違和感を覚えつつも、シュリを振り返った。


「とにかく、飢えたグランド・ベアはさらに奥へと向かっている。そこまで遠くないはずだ。油断せずに、追いかけて行こう」

「ええ、分かったわ。出てきたら任せて」


 二人は頷き合い、再び森の中を進んでいく。下草を踏み分けながら、シュリはふと小さくつぶやく。


「しかし、本当に貴方を連れて来てよかったわ。いつもはここまで的確に絞り込めず、何日も走り回ってやっと見つけるのに」

「――もしかして、いつもそうやって討伐している?」

「ええ……何か、間違っている?」

(間違ってはいないけど……効率が、果てしなく悪いな)


 思わず苦笑いをこぼしてしまう。

 そういう戦い方だから、きっと初対面のときも、シャドウウルフに囲まれていたのだろう。ただ、その真っ直ぐさが彼女の魅力なのかもしれない。

 レオンは肩を竦めると、軽い口調で言葉を返す。


「ま、次も任せてくれよ。戦いで役に立たない分、狩人としての腕前は頼りにしてくれ」

「戦いでも頼りにしているつもりだけど……次も、誘っていいの?」


 シュリが少しだけ期待するように目を輝かせる。ん、と軽くレオンは頷いた。


「相棒云々はまた別として、共同で依頼をこなすならいつでも」

「ふふ、一歩前進ね。貴方の相棒になれるように、ここで頑張ってアピールしないと」

「はは……俺の実力の方が不足していると思うんだがな」


 思わず苦笑いがこぼれる。だが、彼女に頼られていると思うと悪い気はしない。


(精々、上手くやるとするか……)


 レオンは心に決めながら、狩人の感覚を研ぎ澄ませ、痕跡を見逃さないように前へ進んでいく。

 だが、次に発見した痕跡は、誰にでも分かるくらいあからさまだった。


「おっと、これは――」

「……真新しい、わね」


 巨木が、倒れていた。強引にひっくり返されたように、根っこがむき出しになっている。レオンはその幹に触れ、そこに刻まれた傷跡を確かめる。


「熊の爪――大きい。グランド・ベアに間違いないな」


 恐らく、何か癇癪を起こし、丸太のような腕を振り回したのだろう。辺りの草木はぐちゃぐちゃに踏み荒らされ、誰が見ても何かが暴れた跡だと分かる。


「随分、気が立っているわね。ご明察よ。レオン」

「ありがと。ついでに言うと、痕跡は真新しいぞ」

「すぐに追いかけましょう」


 レオンとシュリは頷き合い、グランド・ベアが踏み荒らした痕跡の上を駆けていく。何かを執拗に追いかけているのか、巨熊の痕跡はありありと目に見える。

 薙ぎ倒された低木を見つめ、シュリは小さくつぶやく。


「――急にこんなに痕跡が。今までは、何もなかったのに」

「グランド・ベアは賢いからな。自分の痕跡を消しながら、狩りをする」


 普通のときはのっそりとゆっくり歩き、草の上を歩くようにして足跡を残さない。だから、狩人たちは微かな痕跡を追うしかない。

 だが、グランド・ベアが獲物を前にした瞬間、その獰猛さが解き放たれる。


「縦横無尽に暴れ回り、獲物を執拗に追いすがる――それが今だな」

「でも、一体、何を追いかけているのかしら」

「……大体、予想はつくけど」


 駆けるレオンは薙ぎ倒された低木を飛び越えつつ、剥き出しの土に刻まれた痕跡を視線で確認する。グランド・ベアの足跡に交ざり、蹄のような足跡があるのを見逃さない。


「馬か、鹿……魔獣なら、スレイプニル、ゼブラウダあたりか」

「スレイプニルとゼブラウダ……どちらも馬の魔獣ね」


 どちらもすばしっこく、仕留めるのに苦労する。もしかしたら、グランド・ベアもそれに翻弄され、苛立って木々を薙ぎ倒しているのかもしれない。

 思考を巡らせながら駆けていると――ふと、それが耳に入る。


「……レオン」

「ああ、聞こえている」


 低い轟き。森の奥から聞こえてくる。

 駆ければ駆けるほど、それははっきりとしてくる。轟きは唸りとなり、徐々に大音声となって二人の耳まで届いてくる。


 野獣の咆吼。もう、二人の獲物まで近づいてきている。

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