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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第一章

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第12話

「シュリの妹――カグヤのことだ」


 その言葉にぴくり、と彼女は柳のような眉を跳ねさせる。しばらく彼女は黙り込んだが、深く吐息をついて言葉を押し出す。


「……話さないと、ダメかしら」

「詮索しないつもりだから、無理に話さなくてもいいが……背中を任せる相手だ。正直、隠し事はなしにしてもらいたい、というのが本音だ」


 戦場で、何かしこりがあれば、それが命取りになる。

 特に、大型の魔物狩りでは、阿吽の呼吸が要求されるときがある。それが乱れれば――死はすぐそこまで迫ってくるのだ。

 シュリは少しだけ苦笑いを浮かべて頷いた。


「まぁ、そうね。といっても話すほどのことでもなくて、ただ相性が悪いだけなのよ」

「それだけで、あれだけ喧嘩するのか?」

「本当、どうしてかしらねぇ……あたしでも不思議よ。あの子相手だと、すぐに頭に血が昇って抑えられなくなるのよ」


 彼女は憂鬱そうに吐息をつくと、遠い目をして言葉を続ける。


「改めて説明するとね、カグヤはあたしの一人きりの家族で、三歳年下の妹よ。昔は聞き分けがよくて――でも、あまり身体が強くなくて熱を出すことがしばしばあったわ」

「そう、なのか……」


 カグヤの姿を思い浮かべる。確かに小柄で体力がなさそうだった。だが、あまり病気にかかりそうな雰囲気はなかった。


「昔はそこまで仲が悪くなかったわ。憎まれ口を叩きながらもよくやっていた。だけど、両親が死んでから、あたしが冒険者になって出稼ぎするようになって――なんだか段々、カグヤと嚙み合わなくなってきたの」

「噛み合わなく?」

「うん、特に自分も働くと言い出して聞かなかったのよ」

「あー、さすがにシュリに負い目があったんじゃないのか? 負担になりたくないとか」

「それはないわね。絶対に」


 レオンの言葉をきっぱりと否定し、シュリは微かに苛立ちを瞳に浮かべる。


「そんな殊勝な子なら、あたしも苦労していないわよ。どうせ頼りないとか、人様に迷惑をかけていないか心配しているのよ――現に正面から言われたし」


 そう告げたシュリはそのことを思い出したのか、少し凹んだようにため息をこぼす。だが、すぐに気を取り直すと、言葉を続けてくれる。


「――正直、カグヤが王立魔術学院に入学する、って言ったときはほっとしたわ。働くよりもやっぱり、やりたいことを見つけて貫いて欲しかったから。だから、学費なんていくらでも稼いでやろうと意気込んで頑張ったわ」

「……そうか。苦労したんだな」


 聞いている限りだと、シュリはいいお姉さんをしているように思える。レオンが相槌を打つと、ありがと、と彼女は儚げな笑みを向ける。

 だが、すぐにその笑みは引っ込められ、再びため息をこぼす。


「けど――卒業を間近に控えた頃の手紙が『冒険者になる』と書いてあったのだから――もう、仰天したわ。心の底からね」


 その彼女の表情はあまりに苦々しかった。口いっぱいに、まずいものを食べたかのような渋面で言葉を続ける。


「あの子、箱入り娘みたいなところもあるし、人見知りだから、冒険者なんてできるはずがないと思ったの。だから、あたしはそれを止めようと彼女の学院の下宿まで行って――もう大喧嘩よ。まともに、カグヤとは喧嘩したことがなかったから、もう全力での大喧嘩。いつの間に魔法を学んでいたのか、氷の礫で滅多打ち……もう、ひどい目に遭ったわ」


 その様子は恐らく、バウマンの街で繰り広げられた喧嘩以上なのだろう。

 思わずレオンが表情を引きつらせていると、シュリは肩を竦めて言葉を続ける。


「その喧嘩はまだ続いている、ってところ。まさかこんな機会に再会するとは思っていなかったわ。しかも冒険者としてちゃんと続けているみたいだし」

「実際、実力はすごいからな。一度、共闘したけど」

「らしいわね。でも――あの子、身体が弱いのに、頑固なんだから。そこまで、姉の世話になりたくないのかしらね……」


 そう力なく笑うシュリは焚火の前で膝を抱える。彼女の言葉は途切れ、ぱち、ぱち、と焚火で薪が爆ぜる音だけが辺りに響き渡る。

 レオンは目を細めてそれを聞きながら、内心で小さく思う。


(多分、カグヤはそういうわけではない――のだと思うけど)


 ただ、それを口にするのには――まだ、レオンもカグヤに対する理解が足りていない。どういう感情で、カグヤは姉に突っかかっているのか……。

 分かるような気がして、それを説明できない。


「……そっか。そういう事情だったんだな」


 だから、当たり障りのないことで相槌を打つしかなかった。ん、と微かに喉を鳴らした彼女は視線をレオンに寄越し、抱えた膝の上に顎を載せる。


「少しは理解してもらえた?」

「ああ、納得した。話してくれて、ありがとう」

「どういたしまして――あたしも話して少しすっきりしたかも」


 小さく笑った彼女の表情はどこか寂しそうだった。その横顔を眺めながら、レオンは水を一口飲んで唇を湿らせてから告げる。


「カグヤとの確執も知れたし――何よりシュリのことがまた理解できたのが大きいな」

「……そう?」

「本当は、妹想いだけど、少し不器用な性格をしていることが、ありありと」

「べ、別にあんな妹、どうなっても構わないわよ、別に」


 シュリはふてくされたように、唇を尖らせて視線を逸らす。レオンは手を伸ばし、その頭に手を載せる。彼女は嫌がらず、逆に撫でやすいように頭を傾けてくれる。

 なので、レオンはしばらくなだめるように彼女の頭を撫でていた。


(落ち着いたら――カグヤにも話を聞いてみるかな)


 こじれた姉妹仲。あまり横槍を差すつもりはないが――。

 それでもここまで知ってしまうと、放っておけない気もするのだ。


(ま、姉妹仲が解決すれば巻き込まれなくなるだろうし)


 ぽん、と最後に軽く彼女の頭をそっと撫でると、レオンは大きく背伸びする。


「さ、腹も膨れたし、そろそろ休もう」

「……そうね。確かにもういい時間だわ」


 シュリは少しだけ名残惜しそうにしたが、すぐに切り替えて笑ってくれる。その笑顔はいつも通りで、少しだけほっとしながらレオンは笑い返す。


「一応、交互に仮眠を取る形にしよう。魔獣が来る可能性もなくはないし」

「了解。どちらから先に寝る?」

「じゃあ、シュリ、先にどうぞ」

「ん、お言葉に甘えるわね」


 さばさばした口調で、シュリは笑ってその場に横になる。寝顔を見られないようにか、レオンに背を向けるようにしてもぞもぞと動き――ふと小さく告げる。


「――レオン」

「ん?」

「ありがと。話を聞いてくれて」

「どういたしまして」

「あと――貴方と戦えて良かったと思っている。前向きに検討してね」

「ああ、もちろん。この夜にもじっくりと」

「ん――ありがと」


 彼女は最後にもう一度だけ礼を口にして静かになる。レオンは彼女から視線を外すと、空を見上げる。星が瞬いているのを眺めながら、ふと思う。


(――長らくソロだったが、誰かと一緒というのも悪くはないな)


 他愛もない雑談や軽口の応酬をずっとしていただけに、この静けさが逆に目立つ気がする。いつも意識していなかった静寂だ。

 一人の時は野宿も道中も、ただの休憩や作業でしか過ぎなかった。

 だけど、今日はどこか楽しくて――その分、この静寂が何故か心に染みる。

 それを噛みしめながら空の星を眺める。しばらくすると、穏やかなシュリの寝息が聞こえ始めていた。

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