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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第一章

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第11話

「大分奥まで来たわね」

「ああ、ここまで来ると奥地だな」


 シュリの言葉に頷きながら、レオンは視線を辺りに向ける。

 時刻はもう昼過ぎで、二人は大分の距離を長く歩いてきた。シュリの活躍が目覚ましかったこともあり、想定よりも早く奥まで分け入ることができた。

 辺りは木々が鬱蒼と茂り、歩いていくのも困難だ。密集した木々が競い合うように空へ伸び、天を塞いでしまっている。おかげで暗く、湿った雰囲気になっている。

 無論、道も茂みや低木が邪魔している。二人が進んでいるのはわずかな獣道だが、それも時折、折れた枝や茂みで遮られている。

 シュリは剣で、レオンは鉈を抜いて道を切り開き、前へ前へと進んでいた。


「しかし、ここまで茂っていると、どこにグランド・ベアがいるのか分からないわね」


 彼女は鬱陶しそうに目の前の枝を剣で斬り払いつつ、飛んできた虫を落ち着いて斬り捨てる。その一方でレオンは注意深く辺りを観察しながら口を開いた。


「いや、大丈夫だ――それに関してはもう目星がついている」


 というか、と言葉を続けながら、近くの木の幹に触れた。


「もう、グランド・ベアの縄張りだな」

「そうなの?」

「ああ、この幹に傷跡がある」


 指差した幹にはまるで斬りつけられたような、鋭い傷跡が刻まれている。木の皮は抉れ、どこか痛々しく見える。

 間違いなく、魔獣の爪痕だ。


「グランド・ベアは、ああやって同族に向けて自分の存在――縄張りを示すんだ。ここは俺の場所だ、近づくなよ、って。この後はつけられたのは、ごく最近かな」

「なら、この辺の近くにいるわけ?」


 警戒するようにシュリは腰の剣に指をかける。いや、とレオンは首を振って否定する。


「周りの木々を観察しながら歩いていたけど、爪痕が現れたのはこれが初めてだ。恐らく、ここが縄張りの端っこ。グランド・ベアはその縄張りの真ん中を寝床にしている。まだ、この辺には現れないはずだ」

「なるほど、そうなるとここからまた探索?」

「そうなる、けど――」


 少し迷ってから視線を辺りに向ける。鬱蒼と茂った森は薄暗いが、その闇は増してきている気がする。昼過ぎとはいえ、もう夕暮れが近いのだ。


(――ここは無理できないな)


 互いの呼吸が理解しつつあるが、完全ではない。


「少し早いが、野宿の準備をするか。それで明日の早朝から動けばいい」

「分かった。けど――グランド・ベアの縄張りの近くで? 危なくない?」


 シュリは少し不思議そうに首を傾げる。それにレオンは大丈夫だ、と笑いかける。


「ここがグランド・ベアの縄張りなのは他の魔獣も知っている。ということは、あまり迂闊には入ってこない――逆に安全なんだ」

「……そういえば少し魔獣の気配が遠のいたかも」

「だろう? だから上手い塩梅まで歩を進めて、野宿しやすい場所を見つけよう」

「了解。まだグランド・ベアを刺激し過ぎない距離感、ってことね」


 レオンとシュリは頷き合うと、それからしばらく辺りを慎重に歩き回り、野宿に向いている場所を探す。しばらく歩くと、おあつらえ向きの場所が目に入る。

 下草がなく、乾いた地面が露出した場所。そこで二人は立ち止まると、どちらからともなく地面に荷物を下ろした。

 シュリは軽く背伸びをしてから、よし、と一つ頷いた。


「今日はここで野宿ね。準備をしましょうか」

「ああ。確か、近くに水場があったな」

「少し戻った場所ね。私が水を汲んでくるわ」

「じゃあ、薪を集めておく」

「頼んだわね」


 油断していると、すぐに日が暮れてしまう。二人でてきぱきと役割分担を決めると、すぐさま野宿の準備に取り掛かる。

 森の中は、薪に事欠かない。辺りをぐるっと一回りしてレオンは薪を集めて戻ると、シュリも水を汲んだ革袋を手にすぐに戻ってきた。


「えっと、火打石は……」

「ああ、あるから任せろ」


 火打石と打鉄を取り出し、集めた枯れ草の真上で打ち鳴らす。火の雨のように火花が降り注ぎ、瞬く間に細い煙が上がり始めた。

 それに息を吹きかけ、火をつけるのをシュリは感心したようにつぶやく。


「手慣れているわね」

「狩りでよく森に潜るんだ。これくらいは朝飯前だよ」

「なるほど。だからケルドの森にも慣れているのね」

「ここまで潜るのは久々だけどな」


 話している間にも、火は徐々に大きくなっていく。それを組んだ薪の中に放り込む。しばらく待っていると、火は薪に燃え移り、ゆらゆらと温かな光を放つ。

 焚火ができて一息つくと、それを待っていたかのように周りが一気に闇に沈む。空はもう漆黒。天を覆う枝葉の隙間から、星が瞬いているのが見えた。

 シュリは横に腰を下ろすと、手にした食料を手渡してくる。


「はい、携帯食。といっても、店で買った黒パンだけど」

「わざわざ用意してくれたのか? ありがとう」

「どういたしまして。じゃあ、食べましょうか」


 紙に包まれた固いパンを手にし、レオンはそれを口にする。

 固く焼かれたパンは味気なく固い。だが、日持ちはするので優秀な食料だ。ゆっくりと噛みしめて腹の中を満たしながら空を見上げる。

 澄んだ空気の中で、数え切れない星が顔を覗かせている。綺麗な星空だ。

 シュリもまた、空を見上げていた。小さな唇が、そっと弧を描く。


「……なんだか、不思議。こうしてゆっくりできるなんて」

「まぁ、一人で野宿だと大変だからな」

「それもそうだけど……それだけじゃなくて」


 彼女はパンを食べきると、レオンを横目で見て少しだけ苦笑いを浮かべる。


「あたし、いつも考えずに適当に野宿しているから、よく魔獣に襲われるの。だから、こんなにゆっくり野宿できるなんて」

「ここでも襲われる可能性はあるけどな」

「ふふ、そうね。でも、なんだか安心感が違うなぁ……」


 彼女は膝を抱えて焚火を見つめながらつぶやく。その横顔はいつも無邪気な彼女ではなく、どこか儚げな表情だ。焚火に照らされた彼女の違う一面に、少しだけ目を奪われてしまう。

 レオンも焚火に視線を向けると、小さく頷いた。


「……俺も、分かる気がする。戦い続けて、呼吸が分かったおかげかな」

「うん、そうね。あたしが想像していたよりも貴方は優秀で助かったわ」

「A級剣士様に褒めていただけるとは光栄だ」


 レオンは軽い口調で答えながら、焚火を見つめて内心で吐息をこぼしていた。


(やはり――実力が違うよな。俺とシュリでは)


 ケルドの森を進み続けて戦闘が何度か。その中で思い知ったのはシュリの圧倒的な剣技だ。銃弾が通らない毛皮でも容易く斬り払い、魔獣を斬り捨てる。

 居合抜きの速さに至っては、まさに神速だ。

 攻撃力、速度共に超一流。たった一本の剣だけで、敵を圧倒してしまうのだ。


「まぁ……やっぱり、シュリの剣には俺の銃弾は叶わないな」


 胸の内の気持ちが、つい口から突いて出てくる。焚火の穏やかな空気のせいだろうか。シュリは真面目な目つきで、んん、と軽く首を傾げる。


「どうかしらね。よく分からないけど……正直に言わせてもらっていい?」

「ん、どうぞ」

「どちらが上でも、あたしは構わないと思うわよ」


 そう言ったシュリの口調はあっさりとしていて、だけど、その横顔は至って真剣だ。自分の手を持ち上げて焚火に透かしながら続ける。


「確かにあたしの剣はそれなりに強い自負はあるけど、これはいろいろ努力して積み重ねた結果であって、そんな大したものではないのよ」

「んな……あっさり魔獣の首、刎ねてよく言うよ」

「その言葉、貴方にそのまま返すわよ」


 くすりと笑い、彼女はレオンの目を真っ直ぐ見つめ返した。


「貴方だって的確に魔獣の弱点を撃ち抜く。実際に撃たせてもらったから分かるわ。自分も動きながら、動く相手の一点を的確に狙い撃つ――それがどんなに難しいか」


 そこまで言い、ううん、と彼女は首を振って続ける。


「その結果だけでなく、一つ一つの仕草から分かるわ。構え方、狙いのつけ方、引き金の引き方、どれをとっても洗練されていて迷いがない。だから、分かる。貴方も努力を積み上げて、この技を磨き上げたんだって」


 シュリの穏やかな眼差しが、包み込むようにレオンを見つめる。

 その視線と言葉が胸の内側をくすぐっているようで、なんだかこそばゆい。思わず視線を逸らしながらレオンはつぶやく。


「……やはり、買い被り過ぎな気がするけど」

「ふふ、レオンは謙虚ね。でも、あたしは貴方のことをそれだけ認めたわ」


 シュリが穏やかな口調でそう言いながら、真っ直ぐにレオンを見つめてくる。レオンがその視線を見つめ返すと、彼女は真剣な眼差しで言葉を続けた。


「改めてお願いしたい。あたしと組んで一緒にやっていかない? 二人でなら、どんな困難な任務でもやっていけるわ」


 真っ直ぐすぎるほどの言葉に、思わず頬が緩みそうになるのを自制した。

 まさか、ここまで買ってくれるとは、思わなかった。

 すぐにでも頷きたくなる申し出――だが、レオンはそれを律する。

 脳裏に浮かぶのは、法衣姿の少女。シュリと顔が似通った妹の存在。何故、彼女とシュリはあそこまで不和なのか――。


(シュリが真っ直ぐな人だけに、少し気になる)


 だからこそ、レオンは深呼吸して気持ちを落ち着けると、シュリの瞳を見つめ返す。


「それに応える前に――聞きたいことがある」

「ん、何かしら」


「シュリの妹――カグヤのことだ」

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