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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第一章

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第10話

「……ここなら、安全かな」


 歩いていたレオンが立ち止まり、ぐるりと辺りを見渡す。

 そこはケルドの森の中でも、あまり見ない少し拓けた場所だった。障害物が少なく、獣道からも充分離れている。ここならもし、他の冒険者が通りかかってもすぐ気づける。

 シュリも立ち止まり、手に持っていた拳銃を大事そうに持ち上げ、少し眉を寄せた。


「けど……いいの? あたしが勝手に撃って」

「シュリなら大切に扱ってくれると信じているからな」

「う……地味にプレッシャーね。壊さないかしら……」


 彼女は緊張した手つきでその拳銃を両手で握りしめる。レオンは思わず苦笑いをこぼしながら、その隣に並んでぽんと肩を叩く。


「大丈夫だ。そうそう簡単に壊れないから――じゃあ、始めるけどその前に」


 シュリの横顔を見やり、四本の指を立てて振る。


「銃を撃つときに、四つのルールを心掛けて欲しい」

「四つのルール?」

「そう、簡単なルールだ。これさえ守れば、そうそう事故は起こらない」


 そう前置きすると、シュリは真剣な顔つきで頷く。その目を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりとそのルールを口にする。


「一つ。全ての銃には弾が入っていると思うこと」


 銃の暴発事故のほとんどは『銃弾が入っていない』と思い込んで起きる。だからこそ、常に入っているという意識が重要だ。


「二つ。壊したくないものには銃口を向けないこと」


 当然だが、銃口から弾丸は飛ぶ。その先に壊したくないもの、たとえば器物だけでなく、自分の体の一部がないかどうかも確認する。


「三つ。目標に銃口を向けるまでは引き金に指をかけないこと」


 引き金に指をかけた状態でいれば、何かしらの拍子に引き金に触れてしまうかもしれない。指を外しておけば、その危険性はゼロになる。


「四つ。目標を確認し、その周囲に何があるかを確認する」


 銃弾は貫通力がある。また、魔獣の鱗で弾が弾かれ、あらぬ方向に行く可能性もある。跳弾、あるいは外した弾丸がどこに行くかは常に意識しなければならない。

 指折り丁寧に告げると、シュリは視線を宙に浮かべ、ぶつぶつと諳んじてから深く頷いた。


「覚えたわ。なるほど、よくできているルールね」

「ああ、よく守ってくれ。何せ、引き金を引くだけで弾が出る都合上、簡単に人を殺傷してしまう武器だ。扱う人の注意が散漫なら、事故は起こってしまう――常に、これは心掛けてくれ」


 念を押すようなレオンの言葉に、シュリは真面目な目つきで頷いた。

 レオンは頷き返すと、腰からマガジンを取り出し、それを差し出す。


「これが弾倉(マガジン)。銃弾が入っている箱だ。それを銃把(グリップ)の下から差し込んで、しっかりと押し込む。叩き込むくらいの勢いが丁度いい」


 そう告げると、シュリは銃把(グリップ)の位置を確かめ、弾倉(マガジン)を握るとぎこちなくそこに差し込み、掌でしっかりと押し込んだ。


「そのまま、銃身の後ろを掴んで引っ張る――これで、銃弾が装填される」


 遊底(スライド)をしっかりと引き、手を放すとスプリングの力でスライドが前進。銃弾がしっかりと薬室へと送り込まれる。

 じゃこん、とスライドが前進する小気味いい音が森の中で響いた。


「……これで、銃が撃てるのよね?」


 そう言うシュリはおっかなびっくり、という手つきで銃を前に伸ばしている。だが、レオンは軽く笑い、首を振ってみせる。


「この拳銃には暴発を防ぐために、安全装置(セーフティ)がある。この銃の横の小さなレバーだ」


 そう言いながら、引き金(トリガー)銃把(グリップ)の間にある、小さなレバーを示す。これを押し上げれば、安全装置(セーフティ)は外れる。


「けど、その前にまずは構え方を教えるぞ」

「う、うん、お願い」


 おずおずと頷いたシュリの後ろに回り込み、レオンは丁寧に構えを教えていく。

 利き手の右手を銃身に限りなく近づけさせた状態で、銃把(グリップ)を握り込ませる。

 その上から左手を重ねさせる。トリガーガードに左手が触れ、その親指はフレームに添わせる。右手の人差し指はフレームの上に載せ、引き金(トリガー)にはまだ掛けさせない。

 脇を引き締め、腕の筋肉だけでなく、胸筋や背筋も使ってしっかり銃を保持。


「持ち方は、こんな感じだな。そのまま、銃口(マズル)を持ち上げる」

「こ、こう……?」

「銃は肩関節まで持ち上げて、少し前のめりに。足は肩幅で開いて」


 構え方はいろいろあるが、一番簡単な左右対称の射撃姿勢(アイソセレススタンス)を取らせる。

 猫背にならないよう、腰から前傾にさせる。頭は真っ直ぐにし、視界を確保。その姿勢のまま銃の中心線と、視線が重なるように銃の持ち方を微調整。

 一歩離れてみると、シュリはなかなか様になる構え方をしている。


「これが両手持ちの基本形だ。あとは撃ちながらやりやすいように変えていけばいい」

「変えても良いの?」

「所詮は『当てやすい構え』だからな。実際に当てられる方が大事だ」


 レオンは肩を竦めて言い、彼女の手から銃を抜き取ると、無造作に片手で構える。

 目の前にあるのは、拓けた場所で、一本だけ生えている低木。茂っている枝葉のうち、一本に狙いを定めて引き金を引いた。

 甲高い銃声が響き渡り、火線が宙を裂く。数瞬後、撃たれて宙を舞った枝が、くるくると回転しながら地面に落ちた。

 シュリは大きく目を見開き、小さくつぶやく。


「すご……あんな雑な狙い方で、精密射撃?」

「大体、二十歩くらいだったら余裕だよ」


 そう言いながら一旦セーフティを掛け、彼女に銃を手渡す。構え直させてからセーフティを解除し、レオンはシュリの斜め後ろに立った。


「まずは、木の幹でいい。狙ってみて」

「わ、分かった」


 ぎこちなく銃を構え、狙いをつけるシュリ。まだ頼りなく左右にふらつく銃口を見ながら、レオンは説明を加える。


「銃の先端に凸みたいな形をしたくぼみが見えるな。そこが照星(フロントサイト)。手前の凹みたいな形が照門(リアサイト)。そこが丁度重なるように、そこで狙いをつけて。脇はしっかり締めて。狙いをつけたら、引き金を絞り込んで」


 だんだんと定まる銃口。ぴたりと止まったところでシュリはゆっくりと引き金を絞り込む。瞬間、小気味いい銃声と共に軽く少女の手が跳ね上がった。わっ、と小さく声を漏らし、呆然とシュリは手元を見つめる。


「う、撃てた――」

「最初にしては上出来だ。ほら」


 前を見るよう促す。低木の幹には、ど真ん中に銃弾がめり込んだ痕跡がある。


「最初はそんな風に真ん中を狙えばいい。さっき言ったようにこの銃は撃ったら自動的に薬室(チャンバー)内へ銃弾が送り込まれるから、後はどんどん引き金を引くだけだ」

「な、なるほど……」

「マガジン全部使っていいから、まずは撃って慣れよう。ゆっくりで構わない。身体がブレたらその都度指摘するから」

「え、ええ」


 シュリは頷くと、おっかなびっくりと言った様子で構え直し、射撃を続ける。

 センスがいいのか、フォームを保ったまま銃を撃ち続け、二度ほど指摘するだけで彼女は一つの弾倉(マガジン)を撃ち切った。

 最後の一発を撃ち切ると、スライドが後ろに下がった状態で拳銃は静止した。


「この状態がホールドオープン――いわゆる弾切れだ。銃身にも弾が残っていない。そうしたら、再装填(リロード)の仕方だな。銃身にマガジンキャッチっていう小さなスイッチがある。それを押し込むと、弾倉(マガジン)が外れる。地面に落として良いぞ」


 シュリがそのスイッチを探り当て、弾倉を真下に落とす。レオンはその横から新しい弾倉(マガジン)を差し出した。


「これを装填のときの同じように下から差し込む。んで、またスライドを引けば銃の中に装填(ロード)される、という仕組み。便利だろ」


 無事に再装填(リロード)を終えたシュリは、へぇ、とその機構に感心し――ふと気になったように小首を傾げた。しゃらり、と髪が軽やかに揺れる。


「そういえば、昔見た銃はここから空薬莢が出た記憶があるのだけど」

「よく知っているな。それは多分、旧式だな」

「旧式?」

「ああ、火薬式の銃だと思う。俺のは最新の魔導式だ」


 旧式の銃と魔導式の銃の違いは構造もそうだが、銃弾にもある。

 旧式は雷管、火薬、弾頭が一つになり、薬莢に詰まっている銃弾を装填する。それが銃身内部で撃発される。弾頭を発射し、空になった薬莢は自動的に排出される。

 だけど、魔導式は違う。レオンはマガジンを抜き、中身を見せる。


「これは弾頭しか入っていないんだ。そして、薬室(チャンバー)には『爆発』の魔術式が刻まれている。引き金を引くと、そこに魔力が流れて撃発している」

「なるほどね、つまり、そもそも排出する薬莢がないわけ」


 シュリの言葉にレオンは頷く。だからこそ、空薬莢が詰まることがないため、旧式と比較して圧倒的にジャムを起こす確率が低いのだ。


「理解していただけて何より――じゃ、最後に後始末の方法だけ」

「銃の片付けね」

「ああ、といっても難しいことはない。基本的に射撃が終わったら、弾を抜くことだ。弾倉(マガジン)の抜き方は覚えているな?」

「ええ、マガジンキャッチを押して――と」


 マガジンキャッチを押し込み、弾倉(マガジン)を外す。そして安全装置(チャンバー)をかけてほっと一息つくシュリに、レオンは手で、待った、と制する。

 きょとんとする彼女に、苦笑交じりに小さく指摘した。


「え――あっ」


 シュリは数秒考えた後、息を呑んで拳銃を見つめる。レオンは頷いて言った。


「そう、拳銃の薬室(チャンバー)には、もう銃弾が送り込まれている。それを取り除かないといけない。遊底(スライド)を引いて。そうすることで、中に入っている銃弾が外へ出るから」

「え、ええ……油断していたわ」


 慎重に遊底(スライド)を引き、弾を抜く。そして安全装置(セーフティ)をかけてから銃口を下げ、レオンを振り返る。これでいいの? と語りかけている目にレオンは笑って頷く。


「お疲れ様。どうだったか? 銃を撃つのは」

「意外と神経を使うわね。だけど、便利なのは確か」


 レオンに拳銃を返しながら、シュリは少し考えるように腕を組む。


「魔術を使うよりも少ない魔力で、威力のある弾丸を叩き込める。しかも攻撃速度も速いのも魅力的――面白い武器だと思うわ」


 的確な分析の後、ただ、と彼女は言葉を続けながら撃った低木に視線を向ける。放った銃弾はほとんどが幹に命中している。だが、弾痕はいろんなところに刻まれている。


「――狙ったところに命中させるのは難しいわね」

「ま、一朝一夕では、難しいだろうな」


 これは経験や訓練を積まなければ、正確に当てるのは難しい。それに、とシュリは鋭い眼差しで木の幹を観察して告げる。


「それにある程度、威力はあるけれど、一部の魔獣には弱すぎる」

「それも、ご明察だ」


 特に弱いのは毛皮の厚い魔獣や鱗のある魔獣だ。そういう敵に対しては戦う際には、航空や眼球を狙うなどの工夫が求められる。


「銃を魔獣相手に扱うには、弱点を的確に把握し、そこに弾丸を当てなければならない。だからこそ、対人間の護身用としては役立つけど、魔獣を相手取る冒険者はあまり使わない」


 それに、と軽く付け加えるようにレオンは肩を竦める。


「戦うたびに銃弾をばらまくから、剣や魔法に比べて攻撃するのにコストがかかる」

「まぁ、収入が安定しない冒険者としては死活問題よね……」


 シュリは納得したように、うんうんと頷き――ふと、ぴたりとその動きが止まる。


「……ちなみに、いくらくらい?」

「まぁ、マガジン一本分で三食分のお金と等価くらいかな」


 高いとは言えないが、決して安くもない値段だ。

 レオンは頷いて正直に答えると、シュリは表情を引きつらせた。


「……うそ、あたし、マガジン一本分、撃っちゃったわよ?」

「構わないよ。これくらい、必要経費だ。それを惜しむよりも、シュリに銃について知ってもらう方がよほど価値があるし」

「……うう、でもさすがに申し訳ないというか……」


 シュリは申し訳なさそうに視線を伏せさせる。その様子に、レオンは目を細める。


(……本当に、悪い子じゃないんだな。妹が絡むと暴走するだけで)


 律儀で真っ直ぐな子だ。それ故に空回りするところもあるけど、そこがまた微笑ましい。故郷にいる幼なじみを思い出し、何気なく手を伸ばして――きょとんとしているシュリと目が合って我に返る。


「――っと、すまん、つい癖で」

「え、癖?」

「幼なじみ相手に、よく頭を撫でていたんだ」


 さすがに普通の女性相手にやるのは、あまりにも不躾だ。だが、シュリは微笑んで頭を軽く下げた。


「ふふ、そうなんだ。じゃあ、どうぞ」

「ん、いいのか?」

「いいわよ。貴方は嫌な相手じゃないし」


 くすっと笑みをこぼし、一歩間合いを詰めてくるシュリ。その頬はわずかに色づかせながら、頭を差し出す。レオンは恐る恐る手を伸ばし、さらり、と揺れた髪に触れる。

 想像以上に小さい頭。指を通る髪の感触が心地いい。

 レオンがぎこちなく頭を撫でながら、彼女に声を掛ける。


「弾代を気にするなら、飯を奢ってくれよ」

「……え?」

「ほら、この前の約束もまだだから」


 カグヤの乱入で流れてしまったが、まだ彼女から食事をご馳走してもらっていないのだから。レオンの言葉にシュリは目を丸くしていたが、やがてへにゃりと眉尻を下げる。


「なら、あたしがご飯を四回奢る。それなら?」

「ああ、それで。というか、かなりの回数だな」

「それだけ貴方に一緒にいられるのよ。あたしにとっては役得だわ。だって貴方を口説き落とせるチャンスがそれだけあるということだし」


 シュリは片目を閉じながら、晴れ渡るような笑顔を見せてくれる。レオンは釣られて笑みをこぼしながら、軽く肩を竦めた。


「本当に物好きだな。こんな銃撃手を相棒にしよう、だなんて」

「相棒になってくれるの?」

「今、検討中だ。お互いのことだから軽々しく決められないし」

「なら、口説くのは続行ね」


 楽しそうにそう告げたシュリは、ぐっと小さな頭をレオンの手に押しつけてくる。

 そのくすぐったい感触に頬を緩めながら、レオンはしばらくその頭を撫で続けていた。

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