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【第二部】勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました〜紅蓮の涙《クリムゾン・ティア》〜  作者: まりあんぬさま
妖精迷宮《フェアリー・ラビリンス》編

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クラウゼリアの新たな課題

「さて……そろそろ、俺も飯にするかな」


 バニッシュは軽く背伸びをしながら、椅子から立ち上がった。

 執務室の扉を開け、外へと出た瞬間、聞き覚えのある声に呼び止められ、バニッシュは足を止めて振り向く。


「あ、バニッシュ!」


 そこに立っていたのは、リュシアとライラの二人だった。


「丁度良かったわ」


 リュシアがそう言って、ライラと並んで近づいてくる。


「今、アンタの所に行くところだったのよ」


「俺に?」


 バニッシュは眉を上げる。


「どうしたんだ?」


「それがね……」


 リュシアは言葉を切り、ちらりと隣のライラへ視線を送る。

 促され、ライラが一歩前に出た。


「あの……医薬品について、お願いというか……相談があるんですけど……」


 いつもより少しだけ硬い表情。

 その視線と声色から、軽い雑談では終わらない話だと、バニッシュはすぐに察した。


「……なるほどな」


 その場で立ち話を続ける雰囲気ではない。


「それなら、ちょうどいい。立ち話もなんだし、飯でも食いに行くか。腹が減ってちゃ、話も進まないだろ?」


 バニッシュは穏やかに言い、二人へと手招きする。

 日常の延長のような誘いだったが――それが、この拠点では一番話しやすい場所へと繋がる合図でもあった。




 クラウゼリア――かつては拠点と呼ぶのが精一杯だった場所に、今ではいくつもの建物が並び、飲食店も珍しくなくなっていた。

 そのうちの一軒、木の温もりを感じさせる店内に、バニッシュたちは足を踏み入れる。


 簡素だが清潔な造り、生活の場として、この街が根付き始めていることを実感させる空間だった。

 席に着くと、ライラとリュシアが並んで腰掛け、向かい合う形でバニッシュが座る。

 軽く注文を済ませ、店内が落ち着いたのを見計らって――バニッシュが口を開いた。


「それで……相談ってのは?」


 一呼吸置いて、穏やかな切り出しだった。


「うん……」


 ライラは小さく頷き、言葉を探すように視線を落とす。


「最初の頃より、人も増えて……街も大きくなってきたじゃない。それで……皆の役に立ちたくて、今の仕事をしてるんだけど……」


 一度、言葉を切り、テーブルの上で指を組む。


「医学の勉強もしてるし、バニッシュに教えてもらって、薬草の調合もしているんだけど、でも……人が多くなったからこそ……やっぱり……」


 ライラは俯いたまま、続けた。

 その先を言わずとも、バニッシュには分かった。


「医薬品が、足りないのか」


 察したようにそう言うと、ライラは小さく、けれどはっきりと頷いた。


「……うん」


 たった一音の肯定に、責任感と焦りが滲んでいた。

 クラウゼリアは、確かに成長している。

 だからこそ――新たな課題も、確実に増え始めていた。


「……うーん」


 バニッシュは小さく唸り、指先で顎をなぞった。


 ライラに教えている調合は、本当に初歩も初歩だ。

 擦り傷や軽い打撲に使う軟膏、解熱効果のある簡単な薬――いずれもその場しのぎに近いものに過ぎない。

 そもそも、獣人族であるライラは魔法が使えない。

 回復魔法という選択肢は最初からなく、純粋に医学と調合だけで向き合っている。


(……だからって、俺が全部やるわけにもいかない)


 バニッシュ自身も、執務や研究、各種調整に追われる身だ。

 回復魔法や調合で常駐できるほど、時間に余裕はない。


 交易面でも事情は同じだった。

 ミスティリアとの取引で医薬品は確かに仕入れているが、クラウゼリアはまだ発展途上だ。

 建材、農具、防具、衣料、食料――必要な物資は山ほどある。

 医薬品だけを優先的に増やす余裕はなく、何より予算が足りない。


 そんなバニッシュの思考をなぞるように、リュシアが口を開いた。


「人が増えて、子供も増えたじゃない。だから、ライラの所に来る患者も増えてるの。ケガだけじゃなくて……風邪とか、体調を崩した人も」


 バニッシュは無言で頷く。

 街が生活の場になり始めた証拠だ。


「でもね」


 リュシアは少し言葉を選びながら続けた。


「医学を学び始めたばかりのライラじゃ、簡単な処置しか出来ないし……薬も、間に合わなくなってきてるんだって、それで、私の所に相談に来たのよ」


 今のリュシアは、バニッシュの代わりに街の相談事を受けている立場だ。

 人々の声を集め、問題を把握し、必要ならバニッシュへと繋ぐ――いつの間にか、そんな役割が自然とリュシアに集まっていた。

 バニッシュは、二人の顔を順に見てから、ゆっくりと息を吐く。


(……街が生き始めたってことか)


 それは喜ぶべき成長であり、同時に避けられない試練でもあった。


「なるほどな……」


 バニッシュは顎に手を当て、静かに考え込んだ。

 話を聞き終えたことで、状況ははっきりした。


「事情は分かった。けど……これは、今すぐにどうこう出来る問題でもないな」


 軽々しく答えを出す類の話ではない。


「とりあえず、ツヅラやフィリアたちの意見も聞いてみよう。医療だけの問題じゃないからな」


 バニッシュは顔を上げ、二人を見る。


「……うん」


 ライラは少しだけ表情を和らげ、安堵したように頷いた。

 その様子を見ていたリュシアが、ふと思い出したように尋ねる。


「ミュレアは、どうするの?」


「ああ、今、王都からの要請があってな。ミスティリアに戻るらしい」


「そうなんだ」


 リュシアは納得したように小さく頷いた。


「だから、とりあえず、今ここにいるメンバーで会議を開こう。リュシア、皆に連絡してくれるか?」


 バニッシュは話を続ける。


「分かったわ」


「俺は――ライラと一緒に、医薬品の在庫と患者の人数を調べておく。現状を把握しないと、話にもならないからな」


 バニッシュは視線をライラに向ける。


「……うん」


 ライラは真っ直ぐに頷いた。

 そうしてやるべきことが定まった。


「お待たせしました」


 店員の声とともに、注文していた食事がテーブルへと運ばれてくる。

 湯気の立つ皿から漂う香りが、先ほどまでの重たい空気を、ほんの少しだけ和らげた。


 問題は山積みだ。

 だが――腹が減っては、知恵も出ない。


 バニッシュは皿を手に取り、軽く息を整えた。

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