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【第二部】勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました〜紅蓮の涙《クリムゾン・ティア》〜  作者: まりあんぬさま
妖精迷宮《フェアリー・ラビリンス》編

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四英傑、動く

「先日――王都から要請がありました」


 アストリアの穏やかな声が、円卓に落ちた。

 その一言に、最初に反応したのはレオガだった。


「王都から……?」


 白虎の獣人の耳がぴくりと動く。

 冒険者にとって王都とは、あまりいい印象を持ってはいない。

 王族、貴族がその権威を振りかざし、闊歩しているような所であり、何より種族に対する差別意識が激しいからだ。

 レオガは、不快な言葉を耳にし、グルルと喉を鳴らす。


 そんなレオガを気にせず、アストリアは静かに続ける。


「現在、魔王の侵攻によって――世界の四割が壊滅しています。その対抗戦力として、我が冒険者ギルドに応援を要請しているようです」


 円卓の空気がわずかに沈む。

 この場に集まる4人も世界の状況は理解している。

 既に、名のある国や里が壊滅しいることも、今尚、その勢力を拡大するために、魔王の軍勢の勢いが増していることも。


 しかし、世界の四割を飲み込んだ辺りから侵攻が遅れているのも事実だった。

 それは、王都により抵抗の結果ではない、一重にこの場に集まる4人の英傑に功績ともいえる。

 

 アークをはじめ、彼らは世界の各所で、侵攻をする魔王の軍勢を見つけては、壊滅させてきたのだ。

 それは、この場の誰もが知っている事実だった。

 だからこそ、世界は四割の壊滅で堪えていられ、その活躍を知るからこそ王都は冒険者ギルドに要請を出したのだ。


「はっ!」


 レオガが吐き捨てるように笑った。


「都合のいい連中だぜ。自分らで守れねーから、俺たちに泣きついてきたってわけか」


 腕を組み、牙を見せる。


「本当ですね。他に頼るしか出来ないとは、何とも愚かなことです」

 サリシアは蒼い瞳を細め、深いため息をつく。

 

「別に~王都とかなくなってもいいし~無視すればよくない?」


 神楽が爪を眺めながら興味なさそうに言った。

 実際、アークを除き他の三人は王都が壊滅しようとどうでもいいのだ。

 それでも三人が魔王の軍勢を潰しているのは、冒険者ギルドの最強のパーティーとして、クローヴァの印の一色を担っているからであり、何よりも苦しむ人々を守るためだからだ。

 決して王族や貴族のご機嫌を取るためにではない。


「みんな……! 王都だって困っているんだよ……!」


 アークが慌てて声を上げる。

 だが、誰もその言葉に反応しない。

 レオガはどうでもよさそうに目を逸らし、サリシアは聞いていないかのように目を瞑り、神楽は手鏡を見ながら髪をイジる。


「ふふ」


 アストリアの小さな笑い声が落ちる。

 まるで孫たちの会話を楽しんでいる祖母のように、その声は変わらず優しい。


「王都からの要請には、応えるつもりはありません。ですが一つ、気になる情報がありました」


 円卓の空気がわずかに変わる。

 レオガの耳がピクリと立ち、サリシアは瞑っていた目を開き僅かに細め、神楽も髪をイジっていた手が止まり、アークの背筋が伸びる。


 四人の視線が――一斉にアストリアへ集まった。

 アストリアは、静かに言う。


「とある地で、ダンジョンが生成されたとのことです」


 杖の先が、わずかに床を叩く。

 アストリアの優しい声が静かに円卓の空気に、重く落ちた瞬間、ほんの一瞬静まり返った。


 その空気を破り、最初に口を開いたのはレオガだった。


「……ダンジョンなんざ珍しいもんでもねーだろ。ギルドにだって、いくつか依頼として張り出されてるはずだ」


 白虎の獣人は腕を組み、鼻を鳴らす。

 その言葉に、サリシアも小さく頷く。


「そうですね。今さら騒ぐようなことではないと思うが」


 整った顔を僅かに傾け、蒼い髪が揺れる。


 ダンジョン――それは世界に出現する世界とは隔絶された空間が広がる場所。

 古代の遺跡、崩れた都市、魔力が溜まり続けた土地、そういった場所では、長い年月をかけて自然にダンジョンが形成されることがある。

 魔物が巣食い、宝物が眠り、冒険者たちが挑む。


 それが――ダンジョンだ。

 だからこそ、ギルドでも定期的に討伐や探索の依頼が出される。


「ええ、ダンジョンの出現自体は、稀にあることです。しかし、問題なのは――妖精族の住む土地に生成されたこと」


 アストリアは穏やかに頷き続ける。

 杖の先が、静かに床を叩いた。

 

 アークが息を呑む。


「それって……つまり……」


 言葉を探すように口を開く。


 アストリアが頷く。


「そう、ダンジョンとは通常、荒れ果てた荒野、捨てられた遺跡、そういった生き物が寄りつかない場所で――長い月日をかけて生成されるもの。それが妖精族の住まう地に生成された。これがどういう意味か、分かりますか?」


 アストリアは静かに問う。

 その問いに答えたのは――サリシアだった。


「つまり、何者かに――作られたということですか」


 蒼い瞳がわずかに鋭くなる。


「え~」


 神楽が声を漏らす。

 巨大な体を円卓に乗り出し、肘をつく。

 そして両手に顎を乗せた。


「でもそれって、ヤバくない?」


 少し楽しそうに言う。

 未知なる現象に、興味と期待を示しているようだ。

 

 アストリアはゆっくりと頷く。


「これは、始まりに過ぎません。もし、これが事実なのであれば、この先、世界各地で同様のことが起きるでしょう」


 円卓の四人を見下ろすように、アストリアの瞼がわずかに開いた。

 閉じられていたはずの目の奥には、古い時代を知る者だけが持つ――深い光が宿っていた。


「つまり――それが今回の俺たちへの依頼ってわけか」


 レオガは、ゆっくりと牙を見せる。

 獣のような笑みは、危険な匂いを感じ取った猛獣が、戦いを前にしたときの顔だった。


 アストリアは静かに頷く。


「ええ、ダンジョンの脅威は二つ」


 円卓の四人を見渡す。


「一つは、スタンピード――ダンジョン内の魔物が溢れ出す現象」


 都市一つが壊滅することすらある災害。

 だが、アストリアは続ける。


「そしてもう一つ、ダンジョン・イロージョン――ダンジョン・コアの暴走による侵食」


 国家を滅ぼす災厄、土地を侵食し、魔物を増殖させ、周囲すべてをダンジョンへ変える現象。


「よって、あなた方には、この先現れるダンジョンを潰していってもらいます」


 その言葉は、依頼というより――命令に近かった。

 世界の脅威を取り除くため、アストリアは冒険者ギルドが誇る、この四つパーティーを選んだのだ。


 円卓の四人は、誰一人として動揺しない。

 むしろ、レオガは面白そうに笑い、神楽は退屈そうに爪を眺め、サリシアはその蒼い瞳は揺れることなく見据え、そしてアークは真剣な顔をしていた。


「そして、まずは情報収集のため、アーク――あなたは妖精族の地へ向かい、生成されたダンジョンを調べてください。出来ますね?」


 アストリアの視線はアークに向けられる。

 自身の孫であり、最も信頼を寄せ、最強の称号を持つ者として、向けられる言葉だった。

 

 アークはすぐに立ち上がる。


「はい! 任せてください!」


 その言葉には、若いながらも最強と呼ばれる者の覚悟が宿っていた。

 アストリアは小さく頷く。


「それでは――皆さん、ご武運を」


 杖が床を軽く叩く音と共に、冒険者ギルド本部――最強の四人を集めた会議は、静かに幕を閉じた。

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