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【番外編】ギルバートの横で side:ハイネ

 僕は今日、二度目の舞踏会へ行く。

 アグニス陛下がオリヴィアとの結婚を大々的に発表するからだ。

 絶対来てね、と念を押された舞踏会の招待状がベッドの上に置かれている。行きたくないけど、友達のためなら頑張れる気がした。

 それに今回は最初からギルバートと一緒だ。


「ハイネ、腕伸ばして」


 ギルバートが僕に礼装のジャケットを着せ、メイドが僕の襟元にフリルを付けていく。着せ替え人形みたいだ、と思ったが嫌な気分にはならなかった。

 袖を見ると黒地に銀糸で夜を彷彿させる青い刺繍を浮かび上がらせていた。


「これ、ギルバートの色?」


「ああ、俺の瞳の色は暗いから銀糸で囲ってくれってお願いしたんだ。いい出来でびっくりしたよ」


「……すごく綺麗だ」


「良かった。ハイネ、顔少し上げてくれる?」


 フリルの場所に何か付けられる。メイドが鏡を持ってきた。

 袖口の他にも左肩から右腰に掛けて刺繍が入っていて、ブローチは僕の瞳と同じ色だった。これは前にギルバートがつけていたものだ。

 後ろでギルバートが自分で着替えながらメイドにフリルを付けてもらいブローチを付けて貰おうとしていた。


「僕が付ける!」


 メイドからブローチを貰ってギルバートに付ける。僕がこの間付けていた暗めの青のブローチだった。


「ギルバートの刺繍はオレンジなんだね。嬉しい」


 僕と同じ黒地の礼服に袖口と右肩から左腰にかけて刺繍が入っていた。金糸がほんの少し混ざっている様だった。


「お二人とも美しいです」


 メイドたちが惚れ惚れと見てくるもんだから恥ずかしくなった。


「ありがとう。今日は夜遅くなるから君達もゆっくり過ごしてくれ」


「ありがとうございます」


 ギルバートはこの屋敷の執事とメイドに好かれている。というより好かれるようになった。メイド曰く、労りが良すぎて困るくらいだという。

 褒めてくれるし、困ったことがあれば助けてくれるし、仕事の合間にとつまめるお菓子を置いていくらしい。

 ちょっと僕が嫉妬するレベルだ。でも、それがギルバートだからしょうがない。

 僕もその優しさに救われた一人だ。


「さあ、行こうか」


 手を差し伸べられ、僕はその手を取った。










 王宮が近づいて来ると僕の胃が痛くなってきた。貴族達の白い目が怖い。


「ハイネ、俺を見て」


 前に座っていたギルバートが僕の横に腰を下ろす。


「会場でも俺を見ているんだ。他の貴族達なんか見なくていい」


 頬を撫でられ、そっと目元に口付けを落とす。小さなリップ音が僕の耳を刺激する。

 ギルバートは分かっていないんだ。自分がどれほど綺麗な顔をしているのか。やっとずっと見れるようになったけど、人前で見ろって無理がある。

 それに今日は貴族らしい礼服だから、余計にかっこよく見える。


「分かったから」


 あまり近付かないで欲しかった。アルファの香りもそうだけど、いつもと違う雰囲気のギルバートに僕の心臓が耐えられそうにない。

 そんなことしていると馬車が止まり、僕はギルバートにエスコートをされながら中に入って行く。


「あれがイシュタルグの悪魔?嘘でしょ」


「すごく幸せそうじゃない」


 そうだ。僕はもうイシュタルグの悪魔じゃないし、すごく幸せだ。

 背筋を伸ばすんだ。


「あの方、騎士団のあの王命で出来たっていうとこの副隊長ですって」


「綺麗な顔してるわね」


「声掛けるくらいなら、いいよな」


 ちょっと待って、ギルバートが他の貴族に狙われてない?

 それはやだ。ギルバートを見るとどうした?と言わんばかりに微笑んでくる。

 その顔を見た貴族達がざわつき始める。

 どうしよう、もう帰りたい。


「ハイネ、ほらこっちだ」


 手を引かれ、会場に入る。ざわめきが一瞬起こった。


「イシュタルグの悪魔よ」


「でも、雰囲気がだいぶ違うわ」


「あの礼装、対になってる」


 前の白い目は少なくなっていた。ギルバートを見ると満足そうに笑っていた。


「あの、ギルバート様ですか?」


「少しお話しても」


「申し訳ないが、妻を一人にさせてしまうので」


 そう言ってギルバートは僕の手を引いていく。

 やっぱモテるのか、この人。やだな。僕だけのギルバートなのに。


「そんな可愛い顔してるとここでキスしたくなる」


「……え!?」


「うそだよ」


 顔を真っ赤にするとギルバートが楽しそうに笑う。その姿を見て、初めて舞踏会がちょっとだけ楽しいと思った。

 アグニス陛下の名前が呼ばれ、扉の方を向けば美しく着飾ったオリヴィアが幸せそうな顔をして入って来る。


「オリヴィア様、綺麗だな」


 耳元でこそり、というギルバートに僕は大きく頷いた。

 オリヴィアは過去に言っていた。


「素敵な旦那様を見つけて、絶対に幸せになってみせるわ!」


 叶ったじゃないか。僕は何を言ってたっけ。


「幸せになりたい。それだけでいい」


 そうだ。そんなこと言ってたっけ。僕も叶ってたよ。オリヴィア。

 目元が自然と熱くなった。友達が幸せそうで、それに僕の隣にギルバートがいるということがどんなに素晴らしいことなのか、改めて実感してしまったからかもしれない。

 アグニス陛下は貴族達の前で大々的にオリヴィアを王妃にすると宣言した。拍手が巻き起こる。

 オリヴィアが幸せそうに微笑み、アグニス陛下を見上げる。


「オリヴィア、おめでとう」


 僕は心から祝福をした。

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