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【番外編】何か、よそよそしい side:ハイネ

 ギルバートが最近、紙を見つめながら悩んでいるようだった。


「どうしたの?」


「いや、何でもないんだ」


 そう言って持っていた紙を隠して僕の側を離れていく。

 何かしてしまったのだろうか。そうやって変に悩む癖が付いてしまった。前だったらきっと怒鳴って子供のように暴れていたかもしれない。

 悪魔の仮面が取れてしまえば、こんなに弱い僕になってしまう。

 オリヴィアに聞いてみようかな。






「……怪しいわね、それは」


 僕はオリヴィアに約束を取り付け、ギルバートの出勤と一緒に王宮の庭園に来ていた。


「そうだろう。僕はどうしたらいいんだ」


「でも、待って。あのギルバート様よ……ハイネのことを嫌うはずはないわ」


「どういうこと……あれ?それ、なに?」


 オリヴィアの薬指には綺麗な何かが付けられていた。


「あ、これ?アグニス様から頂いたの。指輪っていうものらしいの。好きな人に贈るんですって。これは婚約指輪で、夫婦になったら別の指輪を付けるらしいの」


 幸せそうな表情で指輪を見つめるオリヴィアの姿に僕は羨ましいと思った。

 でも僕たちだって、花瓶があるじゃないか。これ以上、何が欲しいって言うんだ。甘やかされ過ぎて、欲張りになって来ている気がする。

 僕は左手の薬指を撫でてしまう。


「ギルバート様の上官に当たるレオニー隊長のこと、知ってる?」


 過去に僕をダミアン様から離してくれた人だ。覚えてる。あの人には感謝しかない。


「アグニス様の所に良く来られるんだけど、ギルバート様がハイネの惚気をよく言ってるらしくてね。レオニー隊長、凄く楽しそうに話してたわ」


 何を話しているんだ、ギルバート。僕の知らないギルバートがいる。綺麗でかっこよくて逞しくて、優しい。

 そんな人が惚気だなんて。


「……僕、ギルバートのとこ今から行ってもいいかな。仕事の邪魔になるかな」


「ちょっと覗くだけならいいんじゃない?」


 僕はオリヴィアに腕を引かれ、騎士団にあるギルバートの部署へ向かった。






 騎士団に行くと皆が僕達の姿を見ている。


「なあ、やっぱ戻ろう」


「気になるんでしょ?不安は今のうちに解消しといた方がいいわよ」


「でもっ……うわっ」


 オリヴィアがいきなり足を止める。

 なんだ、と前を見るとレオニー隊長がいた。


「あれー?オリヴィア様じゃないですかー?それと、あれれ。ギルバートのところの……」


 オリヴィアはレオニー隊長に先程の話をする。

 真剣な顔で聞いていたレオニー隊長は段々面白そうな顔でニヤつき始めた。


「いいこと思いついたよ」


 目をキラキラさせたレオニー隊長は僕たちを執務室に案内してくれた。ギルバートはここでいつも仕事しているのか。

 綺麗に整頓されていて、ギルバートらしいなって思った。


「お姫様方、どうぞこの中に」


 縦長の箱が用意され、この中に入れという。

 オリヴィアと?嫌だな。

 そんなことを思っていると外からギルバートの声が聞こえた。オリヴィアに強引に押されて、中に入っていく。


「ちょっ、オリヴィア!」


「静かにして、ハイネ!我慢するのよ」


 オリヴィアに口を塞がれ、僕達は耳を澄ませる。


『ただいま、帰りましたー』


『おかえりー、進捗状況はどうだった?』


 ギルバートがレオニー隊長に何か報告をし始める。オメガ専用の建物がどうたらこうたら言っていた。

 仕事頑張っているんだな。僕はやっぱり甘え過ぎだ。


『それで、アレは決まったの?今日やっと出して来たんでしょ?』


『はい、デザインやっと決まって出して来ましたよ。毎日紙と睨めっこしてたからハイネが気にし始めて、焦りましたよ。ただ、納期が時間かかりそうです』


 なんのデザインだ?

 僕はこれ、聞いていいのかな。ギルバートは知られて欲しくないんじゃないか?

 どしよう。


「大丈夫よ、ハイネ。落ち着いて」


 オリヴィアが僕の背中を撫でてくれる。


『あー、アグニス陛下がオリヴィア様に婚約指輪の件で今、指輪ブームだもんね』


『ハイネの喜ぶ顔が早く見たいです。指輪、喜んでくれるかな』


 ああ、僕は馬鹿だ。どうしよう。凄く嬉しい。目元が熱くなった。


『そういえば、その箱なんです?こんなのさっきまでありましたっけ?また変なもの注文したとかないですよね?』


『え!?そんなことないよー』


 僕とオリヴィアは顔を見合わせる。


「どうすんだよ!」


「分かんないわよ!」


「見つかりたくない!」


「それは私もよ!」


 箱が僅かに軋む。開けられる、とぎゅっと目を閉じた。


『おい、オリヴィア知らないか?』


 扉が再び開かれる音がした。


「アグニス様!?」


 オリヴィアがはわわ、と慌て始める。


『知らないですよ~、というかノックくらいして下さいよ、陛下』


『オリヴィア様がいないってことはハイネもいないってことですよね?』


 まずい空気になってないか?

 僕とオリヴィアはお互いの震える手を掴む。


「レオニー隊長がどうにかしてくれるはずよ」


 ぎゅっ、とお互いの手を握り締める。


『この部屋からオリヴィアの匂いがするんだよな、さっきから』


『あ、俺もハイネの匂いがすると思ってました』


 なんてことだ。僕達の匂いが漏れているってどういうことだ。


「レオニー隊長、さっきから何も喋ってないぞ!」


 僕達は本当に何をしているんだ。こんな姿見られたら恥ずかし過ぎる。

 外が急に静かになる。

 オリヴィアのごくり、と生唾を飲み込む音がする。僕の心臓も早鐘を打っていた。

 暗かった視界がゆっくり明るくなっていく。


「見つけた、オリヴィア」


 にっこり笑うアグニス陛下はオリヴィアを抱き上げる。顔を真っ赤にして手で覆ったオリヴィアは恥ずかしそうにしていた。


「ハイネ、なんでここにいるんだ?さっきの話聞いてた?」


 ギルバートが僕を箱から出してくれる。小さく頷くとそっか、と少し恥ずかしそうな顔をする。

 本当は僕に聞かせたくない内容だったはず。

 ごめんなさい、ギルバート。

 僕はギルバートの顔が見れなくなって床を見つめていた。


「ハイネ、あのさ」


 僕の左手を優しくギルバートが持ち上げる。


「ここの指に俺のだっていう証、用意したから出来上がったら、付けてくれるか?」


 薬指に口付けを落とされる。

 優しい微笑みに僕は小さく頷く。


「……うん」


 オリヴィアがアグニス陛下に抱かれながら喜んでいる。


「……ギルバート、やるな。オリヴィア、俺達も早く夫婦としての証を付けたいな」


 そう言ってオリヴィアは陛下から頬にキスを貰っていた。






「いやー、良かった、良かった」


 レオニー隊長はそう言って紅茶を一口飲んでいた。すごく楽しそうだった。




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