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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【23】ローズ(5)

 何となく……。


 運命力に翻弄され続け、疲れ果ててしまったローズは、本当に何となく……。


 今は、住む者の居なくなった生家を訪れていた。


 「シル……。私は……お姉ちゃんはどうすれば良い……?」


 弟の部屋のベットに腰掛け、埃をかぶって薄汚れてしまったシーツを掴む。


 ここに……ローズの弟は眠っていた。


 毎日、ローズが子守唄を歌ってあげなければ、不安で寝付けない甘えん坊な子だった。


 線が細く、10歳になったと言うのに、同年代の子達よりもずいぶん小柄だった弟……。


 未だ、弟を失った傷は癒えていない……。


 ローズは思い悩み、行き詰まった時などに度々この部屋を訪れ、今はもう居なくなってしまった弟に悩みを打ち明けるのだ。


 ──ギギィ……


 ローズはそのまま弟のベッドに仰向けに倒れ込み、見慣れた──いいや、今は遠くなってしまった天井を見上げた。


 埃臭いシーツからは、当然、そこにあったはずの弟の温もりなど感じられず──


 それが、より一層、ローズの不安を掻き立てる様で……ローズは、自分の心を落ち着けるために静かに目を閉じる。


 すると、しばらくして、急激な眠気に襲われた。


 最近のローズは、考える事が多すぎてロクに眠る事も出来ず、慢性的な不眠症に悩まされていたが……


 おそらく、弟の部屋と言う──少しでも警戒心を解ける場所にいる事で、安心して眠くなったのだろう。


 ローズは、その急激な眠気に身を任せる事にした……。


         *


 「ここだよ、アルト兄。僕が言ってたターゲット」


 「おいおい、ヨシュア。こんなボロ屋に何があるってんだよ? それに、どう見ても廃墟だろう……これ」


 「いや、それがさ……この家は──王宮剣士様の生まれ育った家らしいんだよ。ただ、奇妙な事件があってから、誰にも触れられずにそのまま残ってるらしくて──」


 「ああ、そう言う事か……。確かに、王宮剣士様の生家なら、金目の物もあるかな。……それに、事件があって憲兵が管理してるなら、手付かずの可能性も高いって事か……」


 「そうそう。それに、今は誰も居なさそうだし……見つかるリスクも低いだろ? 何もなければ、他を探せば良いし……」


 「……まあな。でも、良いのかな? シリスさんは『悪い事はするな』って言ってたけど……バレたら嫌われるんじゃ……そんなの絶対に嫌だよ……」


 「急にウジウジするなよ……キモいな。──アルト兄……僕らに良くしてくれてる先生に恩返ししたいんだろ? なら、大金を手に入れる方法は〝大仕事(これ)〟しかないよ? この家は空き家なんだし……持ち主のいない品を少しくらい貰ったって、『悪い事』には当たらないよ」


 「……むう」


 ──遠くから……


 壁を隔てた外側から、声が聞こえた。


 薄いとは言え、壁を挟んでいるために、話の内容は詳しく聞き取れなかったが……


 家の前に誰かが居るらしい。


 近くに人の気配を感じ、熟睡していたはずのローズの意識がゆっくりと覚醒していく。


 居るのは壁の外側──


 それに、敵意を感じない……。


 そう言った理由から、ローズの目覚めは比較的ゆっくりだった。


 声の感じから、相手はいずれも少年……


 そして、壁越しに感じる気配から、人数は二人だろう。


 ローズは、未だにベッドに身を預けたままで、そう言った事を冷静に分析していた。


 その結果──警戒するに値しない相手だと判断する。


 ローズが少年らの事を気にせず、再び目を閉じようとすると……


 ギギギィ──……


 その少年らは、家の中に居るローズの存在に気付かず、そろりそろりと静かに家に入って来た。


 ──ギッ、ギッ、ギッ……


 ガサ、ガサ、ゴソゴソ……


 ゆっくり、ゆっくりと、玄関から足音が近付いて来る……。


 少年らが歩くたびに、木製の床が軋む音と──そして、何かを物色する様な音も聞こえてきた。


 「……」


 ローズは無言。


 特に、侵入者を捕まえようとする訳でも、その行為を邪魔しようとする訳でもない。


 ただ、静かに目を閉じて、その幼い侵入者達の到着を待った……。


 ──ギィ……


 軋んだ音を立てながら、ローズの居る──弟の部屋の扉が開く。


 ローズがゆっくりと目を開け、そちらへと視線を向けると……


 現れたのは──


 やはり、少年が二人。


 一人は10歳くらいの、まだ幼さが際立つ顔付きの男の子。


 もう一人は、14、5歳くらいの、頼りない印象の男の子だ。


 「……良い物は見つかりましたか?」


 ローズは、弟の部屋に入って来ようとした少年二人にそう声をかける。


 「──ひぃ!」


 「──ぎゃ!」


 少年はそれぞれ驚いた声を上げ、驚愕の表情のまま固まって動かなくなった。


 その様子が何とも可笑しく……相手は侵入者だと言うのに、ローズは思わず笑みを漏らしてしまった。


 少年たちは、ベッドに横たわったままで、ジッと見つめて来るローズの姿に気付き──


 「……や、やばいよ、アルト兄。あの人、王宮剣士様だ……」


 震える声で、少年の一人が、隣にいた少年にそう耳打ちした。


 ローズには丸聞こえだったが──そんな事をいちいち指摘するつもりもない。


 「お、王宮剣士……ほ、本当なのか? ヨ、ヨシュア、な、何でそんな事がわかるんだよ……?」


 こちらも、ヨシュアと呼ばれた少年よりも、余程恐怖に震えた様子で……アルトと呼ばれた少年がそう問う。


 「ぼ、僕は……剣士様になりたいから……し、知ってる。あ、あの格好は……間違いなく、お、王宮剣士様だよ……」


 「そ、そんな……」


 廃墟と言えども、他人の家への不法侵入……捕まってしまえば只では済まされないだろう。


 そして、相手が王宮剣士なら、この場から逃げ仰るはずもない。


 そう言う事が、幼いながらに分かっていた二人は──


 「あ、あの……お、王宮剣士様……ぼ、僕たちは……」


 シドロモドロになりながら、アタフタと何か言おうと口を開く。


 何か、言い訳をしようとする少年に対し、ローズは──


 「……別に、構いませんよ? この国の情勢が不安定である事は、王宮剣士である私も良く理解しています。でも、ごめんなさいね……この家には、お金になる様な物は置いてないの」


 努めて優しく聞こえる様に心掛けて、そう言う。


 ローズは、目的のためなら子供相手でも──手段を選ばない性格であったが……


 元来優しさも持ち合わせており、『大切な者』に害をなさないなら、子供相手に別段厳しく接する事もなかった。


 「い、いえ……オレたちはそんなつもりじゃ……。な、ヨシュア?」


 「う、うん。ただ、王宮剣士様の育った家を見学したくて……。ぼ、僕も将来は剣士になりたくて……」


 少年らのこれまでの行動から、盗みに入った事は明らかなのに……


 一所懸命誤魔化そうとする様子が、ローズに怒られた時に弟が見せていた様子と重なって……自然と笑みが溢れる。


 「ふふ、そうですか……。私の弟も、よくそんな夢を語ってました。『剣士になって、少しでも姉ちゃんの役に立ちたい』って……」


 少年たちの姿から、弟のそんな言葉を思い出し、少しだけ暖かい気持ちになる。


 そして、ローズは少年たちの姿を見てあることに気付く。


 「……? 貴方たち、聖剣は……? ……ああ、そうか、平民は『無剣』でしたね。私たちがそうしたと言うのに、そんな事すら忘れてました」


 聖剣を持たない……。


 一方は、14、5歳……明らかに聖剣を『授与』されているはずの年齢にも関わらず、その少年は丸腰の状態……。


 しかし、そうなってしまった原因は──


 ローズにも、その責任の一端がある。


 「……?」


 「……」


 ヨシュアは、ローズの言葉の意味が分からずに首を傾げ……


 アルトは、何となく意味が分かっているのか無言で俯いた。


 「いつか……この国がセシリア様の下に正しく治ったら……君達にも聖剣が与えられますよ。だから、それまで少し待っていてくれますか?」


 半分は、自分に言い聞かせる様に言う。


 セシリアの名の下に……それはローズの一番の望みだ。


 「……う、うん。何だかよく分からないけど……待ってるよ。ね、アルト兄」


 「う、うん」


 「良い子たちですね。……さあ、もう家にお帰りなさい。きっと、貴方達の大切な人が帰りを待ってますよ? 大切な人がいるなら、その人の側を離れる事なく……一緒に居なくては。後悔してからでは遅いんです」


 ローズはそう言いながら、少年二人にニッコリと微笑みかける。


 それは、自分に対する戒めの言葉でもあった。


 ローズは、弟を虐待していた両親を遠ざける事で、弟と幸せに暮らしていけると思っていた……。


 しかし、そうはならず、弟は病気で死んだ。


 これからだと言うのに、良い思いをさせてあげる事も出来ずに……。


 少しでも長く、大切な人の側に……。


 それは、弟を幸せに出来なかった事への後悔と……


 これから、『セシリアと言う大切な人のために常に側にいる』と言う自分に向けた宣言でもあった。


 この少年たちに出会って、ローズは『大切な者(セシリア)』を思い、気持ちを新たにする事が出来たのだ。


 ──シャッ


 ローズは、流れる様な動作でサブウェポンを引き抜き──


 その刀身に写る、自身の顔を眺め、『ふふ』と自嘲気味に笑った。


 思ったよりも、数倍は疲れた顔をしている……。


 こんな顔で、セシリアの前に出る訳にはいかないだろう。


 『しばらく休んでから王城に帰るか』


 などと考え、子供達を送り出すために、立ち上がろうとした時──


 『何を……やっているんですか?』


 いつの間にか、見知らぬ女がそこに立っていた。


         *


 今まで、幾度となく戦場を渡り歩いてきたローズの直感……。


 それが、その女を見た瞬間──激しく警鐘を鳴らす。


 ──何だコイツは?


 ──いつからそこにいた??


 気配を全く感じなかった……。


 この世の黒という黒を煮詰めた様な、漆黒の髪……。


 血の様に赤く、燃え盛る炎の様に紅い、両の瞳……。


 怒りに燃えるその身体から発せられるのは、相手を圧倒するほどの威圧感──


 ──バケモノだ。


 少し対峙しただけで、そう、ハッキリと分かった。


 サブウェポンを持ったままで、少年たちを前に立ち上がろうとするローズ……。


 おそらく、その女は勘違いしたのだろう……。


 傍から見れば、ローズが、サブウェポンを使って少年たちを「襲おうとしている』様に見える。


 「せ、先生ぃ……」


 「シ、シリスさん……」


 少年らがその女を見て、言った。


 バツが悪そうに頬を掻くヨシュアと……


 女の存在に驚き、不安げに女を見つめるアルト……


 二人は、その女が放つ威圧感に囚われてはいなかった。


 当たり前だ。


 女の敵意は、ローズにのみ向けられているのだから……。


 状況的に見ても、この女──シリスと呼ばれた女は、少年たちの知り合いで、状況を勘違いしたのだろうが……


 誤解を解く……?


 ローズはそんな事を考え──


 「──つっ!?」


 いいや、考える前に既に身体が動いていた。


 シリスが放つ敵意──威圧感に身体が勝手に反応し──


 ──……


 音もなく、軽やかに、滑る様にサブウェポンを走らせ──


 『──!?』


 ローズの動きに反応して、シリスもゆっくりと動き出す。


 右手を、ローズに向かって差し出そうとする。


 ノロノロ……


 ノロノロと……。


 ──遅い。


 ────あまりに遅い。


 が、これほどの威圧感を放つ相手なのだ。


 それほど遅い攻撃でも、ローズを捉えられると踏んでいるのだろう。


 ──先ずは、相手を無効化して──誤解を解くのはその後だ!


 ローズは相手の出方を伺う事なく、そのままサブウェポンを滑らせる。


 相手がどう出ようと、〝副恩恵〟はその動きを正確に、つぶさにローズに見せてくれる。


 忌々しい力だが、これを持つローズが負けるはずがない。


 どんな相手だろうと……。


 致命傷にならない程度に攻撃を与え、無効化を!


 ──その瞬間、ローズは今まで感じた事のない感覚に戦慄した。


 ノロノロと、明らかに遅すぎるシリスの攻撃が──


 (──動きが先読み出来ない!?)


 今まで、どのような強者に相対しても、ローズには必ずその動きの軌跡が見えていた。


 相手がどの様に動き、どの様に攻撃を仕掛けてくるか……そう言った事が全て先読み出来たのだ。


 何だコイツは──!?


 動きが読めない相手の、得体の知れない攻撃──


 直ぐに、差し出しかけていたシリスの右手が眩い光を放ち始める。


 ──その女の右手から放たれる光は──


 『ローズを一瞬で葬り去るだけの威力を持った攻撃』であると、一見してすぐに分かった。


 ──取られる!


 背筋に冷たい汗が流れ、その女が放つ威圧感に圧倒され──全身が硬直し、動けなくなる。


 無論、そうなってしまえば、ローズの攻撃の手は止まり──


 ローズは、その一瞬の間に、死を覚悟した。


 ゆっくり、ゆっくりと、シリスの右腕がローズを捕えようと眼前に迫って来る。


 ……これが走馬灯と言うやつか。


 ローズはそんな事を考えて、直後に迫り来るであろう衝撃に備え、身構えた。


 ──が、


 ノロノロ──……


 ……遅い。


 これは、走馬灯などではなく……


 シリスの動きが、本当に──


 ビックリするくらい遅いのだ。


 「……」


 ──ペシッ!


 ローズは、余りにノロイ攻撃に、難なく自身の右手(サブウェポンを待っていない方の手)でシリスの攻撃を叩いて逸らした。


 シリスに〝副恩恵〟が反応しない理由は謎だったが……先ずは、誤解を解かなければ。


 「……あの、これは違うんです。この子達は──」


 そう言って、誤解を解こうとしたローズだったが──


 ──ドゴォォォォォォォ!!!!!


 瞬間──


 ローズが逸らしたシリスの右手が、偶然にも部屋の壁に触れ──光が爆発した。


 弟の部屋の壁を粉々に破壊し──


 それだけに飽き足らず、廊下を全て飲み込み──玄関を貫いて──庭に生えていた大きな木まで薙ぎ倒す……


 「──なっ!?」


 シリスが放った『破壊の光』は、全てを飲み込み、圧倒的な破壊力を持って──


 ローズの生家を、一瞬の内に半壊させてしまった。


 『──きゃん!?』


 そんな事をしでかした当の本人は、『破壊』の勢いに煽られ、少女の様な可愛い悲鳴を上げながら尻餅をつく。


 ──ゴゴゴゴゴ!!


 『破壊』の力が齎した余波は、地震となり、大地を揺らす。


 そんな、立っているのもやっとの状況の中で──


 違う──


 この女は───


 シリスは─────!


 圧倒的に、強力無比な力を持っている。


 ローズの〝副恩恵〟も及ばない、先読みなど出来ない、圧倒的な運命力を持っている。


 しかも、


 しかも──


 与し易い。


 自分の仕掛けた攻撃が逸らされただけで、尻餅をついて動けなくなっている様……


 強力な力を持っているが、おそらく、フィジカル面では雑魚に等しい……。


 だが、ローズの〝副恩恵〟を持ってしても、見通せない〝運命力〟は……。


 この女の力があれば、ローズの…運命の楔〟を断ち切れるかもしれない。


 そう思ったら……


 そう思い至ったら……


 自然と、笑いが込み上げて来た。


 「ふ、ふふ……はははははははっ!! 遂に、遂に見つけたぞ!! 私の望みを叶える者──私の運命力を上回る存在を!!!」


 見つけた──!


 見つけた────!!


 この者がいれば、セシリアを排除しようとする〝副恩恵〟に抗える。


 『望まぬ結末』を書き換える事が出来る。


 少年たちが見ている……


 関係ない!


 ローズの余りの変わり様に、少年たちが怯えている……


 そんな事、関係あるものか!!


 少年たちを──


 少年たちが、この女の『大切な存在』なのだとしたら──


 それを(かどわ)かしてでも──この女に言う事を聞かせてやる!!!


 ローズは笑いが止まらず、地震によって動く事も出来ないままに……狂った様に笑い続ける。


 そして──


 チャキッ──……


 再び、シリスに向かってサブウェポンを構えた……。

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