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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【22】ローズ(4)

 ローズの望みは、ただ、『弟と二人で幸せに暮らす』と言う事だけだった。


 そのために、両親まで手に掛けた。


 ……なぜ?


 運命の力は、ローズから弟を奪ったのか……。


 答えは簡単だ。


 運命の力は、否が応でもローズに都合が良いように世界を書き換える。


 だが、それは=ローズが望む結果とは限らない。


 ローズにとって『都合の良い事』とは……必ずしもローズの『望む事』ではないのだ。


 ハッキリ言ってしまえば、病気がちだった弟はローズにとってお荷物であり……都合の良い存在とは言えない。


 運命は、ローズの弟を()()()()()()だと判断した……。


 ……運命を捻じ曲げる力は、ローズの大切な弟を彼女から切り離したのだ。


 それは、両親も同じ。


 ローズにとって、家族は全てだった。


 家族に依存し、家族のために生き、家族に良い生活をさせたいが故に『王宮剣士』となり……それなりの生活ができれば良いと、現状に満足していたのだ。


 だが、ローズを上へと押し上げようとする力──〝運命力〟は、その『それなり』を許さなかった。


 ローズはその事実に気付き、絶望するが──


 その時考えたのは、ある意味、自分の〝副恩恵〟で殺してしまった弟への謝罪でも──


 両親を、その手にかけてしまった事への懺悔でもない。


 自由が効かない、自分の能力に対する恨みの念でもない……。


 ──唯一、セシリアの事だ。


 ローズにとって〝都合の悪い存在〟だと判断されれば、運命の力は確実にセシリアを排除するだろう……。


 ローズが、弟の命を助けられなかった様に……。


 そんな事は耐えきれない。


 許されない。


 しかも、ローズより強い者がいない聖王国では、その歪な運命の流れに逆らえる者も存在しない。


 一度拗れてしまった運命の糸は、それを解く者がいなければ、絡まったまま真っ直ぐになる事はないのだ。


 おそらく、運命の歯車は──セシリアを〝邪魔者〟と判断し、排除しようと回り続けるだろう。


 違う……


 セシリアは、ローズにとって何者にも変え難い……大切な存在だ。


 しかし、運命の力は、ローズにとって──セシリアを必要な存在だと判断してはいなかった……。


         *


 「王国の麗しき月──セシリア王女殿下にご挨拶申し上げます」


 玉座の前で跪き、恭しく頭を垂れる若者……ローン侯爵家のユリアン公子だ。


 いいや、一年ほど前に父親である侯爵が亡くなり、爵位を継いだと言う話……今はユリアン侯爵と呼ぶのが正しいだろう。


 「いえ……。一年前、父が身罷りまして……。今は爵位を継ぎ、私が侯爵となりました」


 やはり。


 ローズはその事実を確認しただけで、その若者について何の興味をなかった。


 考えるのは、隣で玉座に座るセシリアの事だけだ。


 いかにして、セシリアが『運命』に喰われぬように護り切るかと言う事だけ……。


 「ああ、大変失礼しました。未だ、この地位に慣れておらず……知らない事も多くて。ダメですね。父なら──先王なら、もう少し上手くやれたのかしら?」


 「いいえ! 不敬ながら、我々も前国王陛下の圧政には頭を抱えていましたから……。王女殿下が立ってくださり、正直、胸を撫で下ろしているところです」


 「ふふ、正確には、わたくしは聖王国の国主ではありません。『下級聖剣』ですし……。今は、真なる国主が現れるまでの代理としてここに座っているだけ……。ねえ、ローズ?」


 二人の会話を上の空で聞いていたローズは、突然セシリアに話を振られた事に反応できず──


 ──ぷい


 思わずそっぽを向いてしまう。


 そして、痛いくらいに拳をギュッと握り込んだ。


 『国主代理』……


 『下級聖剣』……


 そう言った、セシリアの自分を卑下する発言が……ローズはあまり好きではなかった。


 セシリアは、今まで誰にも顧みられる事もなく、散々な扱いを受けてきたが……ローズにとっては唯一、自分から仕えると決めた君主だ。


 そして、唯一、ローズが本気で愛する存在でもある。


 以前、セシリアに『死んだ弟の様だ』と、暗に『弟の代わり』だと仄めかした事があったが……それも──


 『主人を愛する』


 と言う不敬から、そう話しただけに過ぎなかった。


 ローズは、『セシリアこそ聖王国の国主であるべき』だと本気で思っている。


 ──運命が、どう判断しようともだ……。


 だから……


 「──でも、いーらない」


 セシリアがそう言って、ユリアンの『粛清』を決めた瞬間も、『セシリアがそうしたいなら、そうすべきだ』と考えていた。


 逆に……


 『ローズに色目を使うな』


 とセシリアがユリアンに言い放った事について、『分かりかねる』とそっけなく答えたものの……その嫉妬心を『嬉しい』とすら思ってしまったのだ……。


         *


 別に、このユリアンと言う青年を助けたかった訳ではない。


 ハッキリ言って、この青年がどうなろうと……

 

 その親族や、彼に近しいものがどうなろうと……


 知った事ではなかった。


 ただ、国主になったばかりのセシリアが、『粛清』など頻繁に行えば、セシリアの国主たる資質が疑われる事にもなりかねない。


 だからと言って、一家臣であるローズがあの場で意見すれば、それはそれで資質がないと判断されてしまう可能性がある。


 後で冷静に考えてみれば、もう少しやりようもあったと思うが……

 

 その時のローズは、


 『自分の〝副恩恵〟が齎す結果からセシリアを護る事』


 に考えが集中し過ぎており、そんな事しかセシリアの汚名を濯ぐ方法が思いつかなかったのだ。


 ローズがユリアンを助ける事で、彼が後々セシリアに対する悪意を無くし、聖王国に戻ってくれば……


 セシリアを害そうと言う考えも、持たなくなくなるかもしれない。


 ローズは、本気でそんな子供の様な事を考えていた。


 ……そんな筈はない。


 ユリアンが国外に逃れ、命は助かったとしても……


 爵位は剥奪され──子供を除いた大人たちは全員『粛清』すると、セシリアは暗に宣言したのだから……。


 なので──


 「この馬車を使って国外に落ち延びてください。そして、いつかセシリア様に──」


 「セシリア! あの悪女め! 国外に逃れ、力を取り戻したら──必ず王座から引き摺り下ろしてやる! ローズ様、ありがとうございます! 我が領地以外にも、私の手足となって動いてくれる者たちがおります! その者たちを集め、いつか悪女セシリアに復讐を!」


 ユリアンがそんな事を言い出すのは、必然と言っていい。


 なので──


 「ローズ様も私と同じ考えをお持ちだから、私を助けてくださるのでしょう? ローズ様の思いを無駄にせず、必ずや悪政を強いる暴君を討ってみせます!」


 ユリアンが、ペラペラと自分の復讐心を露呈させるのは……当たり前の事なのだ。


 運命は──セシリアを王座から引き摺り下ろそうとしている……。


 実際には、運命力と言うよりは、セシリアの自業自得──私利私欲に走った結果なのだが……


 しかし……それが〝副恩恵〟による強制力なのか、それとも自然な運命の流れなのか……


 すでに、ローズはそう言った事が正常に判断出来なくなっていた……。


 完全なる混乱状態だ。


 「──はは、そうか……。お前も、あの方の──私の邪魔をするつもりなのだな……。この様な不遜な輩を、なぜ助けようなどと思ってしまったのか……」


 ローズは、そう言って静かに笑うと──


 ──……


 音もなく、サブウェポンを抜いた。


 「ローズ様? な、何を──」


 そして、その瞬間には全てが終わっている……。


 ゆっくりとした動作で、血管の網を縫う様に──静かに、ローズのサブウェポンがユリアンの心臓を貫いた。


 ──とぷ……


 その突きの余りの精密さに、傷口から僅かに血液が溢れ出す程度で、ほぼ出血もなく──外見からは、ユリアンが刺殺された様には見えない。


 恐るべき正確さだ。


 すでにローズの剣術は、人類最強と言われるグレン・リアーネを凌ぐと言って良いかもしれない。


 いいや、剣才だけで言えば、他に並ぶ者のいない──人類最強と言っても過言ではないだろう。


 「は、はぅ……」


 見事な手際で心臓を貫かれたユリアンは、悲鳴を上げる事もできずに絶命し、倒れ伏した……。


         *


 「ローズ様のため、必ずやあの悪女を成敗して見せます!」


 ──黙れ。


         *


 「あの悪女──魔女にこの国を任せてはおけない! 再起した暁には、魔女を火炙りにしてやる!」


 ──コイツも。


         *


 「……私は宰相として長年この国に仕えてきましたが……ここまで出来損ないの王は初めてだ。何の理由もなく、私を『粛清』するなどと……セシリア様は狂ってしまった。いずれ、天罰が下るでしょう」


 ──コイツもなのか。


         *


 「我が父はこの国の宰相でした。それを、あの魔女の所為で追い落とされ……『粛清』されてしまった。私は、父の亡骸にすら会えていません……。しかし、もしかしたら……父もローズ様が助けて下さっているのでは?」


 ──そんな訳がない。


 この者の父親……元宰相のウォルコットはローズが殺した。


 恐れ多くも、セシリアに天罰が下るなどと不遜な事を言ったからだ。


 それを否定しても、最早、詮ない事……


 何故なら……


 「父の生死がどうあれ、無念は晴らさなければ……。私は新兵ですが必ずや、あの魔女を……。しかし、私が国外に逃げるとなれば、残された病気の母が──」


 ──……


 ──とぷ……


 もう喋らなくて良い。


 結局、誰も彼もセシリアを害そうとする。


 ローズが慈悲をかけようとも、セシリアの印象を良くしようと働きかけても……


 最終的にはセシリアの敵となるのだ。


         *


 こんな事もあった……。


 セシリアが、王になって初めて打ち上げた政策──


 『平民間の格差を無くすために、聖剣を取り上げる』


 と、家臣団の前で宣言した時の事だ……。


 家臣団は、セシリアの政策に暗に反対の意思を示した。


 ローズが代替案を出した事で、取り敢えずその場は何事もなく終わったのだが……


 ローズはその時思った。


 ──嫌な顔だ。


 セシリアの意見を否定した家臣団の顔は──


 セシリアを嘲笑する様に見下しており……


 ()()、セシリアが無理矢理意見を通そうとすれば、反乱を企てるに違いない。


 もう良い。


 セシリアの害となる様な愚か者は──


 皆殺しにしてやる……。


         *


 ローズは、セシリアが『粛清』を言い渡した者たちを、国外に逃す手配をしながら……


 その裏で、その者たちを悉く殺害していった。


 最初から、殺害する事を目的としていた訳ではなく……あくまでも、『セシリアに対して害意を見せた者を』だ。


 それと同時に、セシリアに楯突く者や──はたまた、軽く反対意見を言った者まで秘密裏に『粛清』していったのだ……。


 ローズは、〝副恩恵〟が齎す運命力に翻弄され……少しずつおかしくなっていた……。


         *


 そんな事を四年間も続け、やがて、セシリアに逆らう貴族はほとんど居なくなった。


 セシリアに『粛清』を言い渡された者は勿論、少しでも反論した者たちまで秘密裏に消されている事に、皆気付いていたからだ。


 中には、腕に自信があり──『何があっても大丈夫だ』と高を括る者もいたが……


 そう言う者たちですら、セシリアには気を遣って接する様になっていた。


 歪な形ではあるが、聖王国はセシリアの名の下に、ある程度正常に回り始めていたのだ。


 だが……その歪な正常とて、長くは続かない。


 何故なら──


 王はセシリアであって、ローズではないのだ。


 運命の力は、それを良しとしない。


 いつしか、貴族たちは……


 セシリアが治世に無関心なのを良い事に、民を虐げ、搾取し始めた。


 それも、女王であるセシリアの名の下に……。


 国民の負の感情は、全てセシリアに向く事となり──セシリアは、歴史的な暗君……最悪の悪女と呼ばれる様になってしまった。


 ローズがその流れを止めようと、陰で足掻いたところで、〝副恩恵〟による運命の流れは変わる事はない。


 ローズに運命力を制御できない限り、その流れを堰き止めることなど出来ないのだ……。


 『悪女に死を』


 『我々の国を暴君から取り戻せ』


 そんな言葉を掲げて、市民が集会を行なっていると言う噂が──セシリアの近くに居るローズの耳にまで届いている。


 市民たちの不満は飽和状態……このままでは、いつ反乱が起きてもおかしくはない。


 だが、秘密裏に反乱分子を始末するのとは違い、相手が市民だとしても……


 数が集まり、圧倒的な物量で押されれば、いくらローズとてセシリアを護る事など不可能だろう。


 ……運命の流れを変える……強力な運命力を持った者が居なければ……結局、ローズの〝副恩恵〟が齎す〝運命の改変〟に抗う事はできないのだ。


 ──最悪の場合、ローズが自決し、自らの手で運命の楔を断ち切ると言う判断も……。


 ローズは度々、その様な最悪の場合も想定していたが……


 〝副恩恵〟が──


 運命を捻じ曲げる力が──


 それを易々と許すとは思えない。


 判断を間違えば、その選択によってセシリアに危険が及ぶ可能性も考えられるのだ。


 そうして、運命の袋小路に迷い込んでいたローズは……遂に、自分の〝運命力〟に()()()()()()()()()()()に出会った。


 その者の名は『シリス』……


 『破壊と再生』を司る魔王だ。

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