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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【24】ローズ(6)

 ──見つけた!


 シリス(この女の)は、セシリアを救う鍵となる筈だ!


 「はっはは、そこの女──シリスとやら、私と一緒に来てもらいたい。貴方にお願いがあるのだ」


 ローズはそう言うと、握っていたサブウェポンの切先をシリスへと向ける。


 『お願い』


 ローズはそう言ったが、有無を言わさぬ雰囲気……それは、任意という名の強制だった。


 『断れば、どうなるか分かっているな?』


 ──と、ローズは暗にシリスに伝えているのだ。


 少しずつ、地震の揺れもおさまってきており……短距離の移動なら問題なさそうだ。


 鈍いシリスが何をしようと──〝副恩恵〟が機能してなかろうと──問題なく制圧できるだろう。


 ゴゴゴゴゴ──


 ゴゴゴ──


 ゴ──……


 やがて、揺れが完全におさまり……ローズは完全に自由に動ける様になる。


 逆に、シリスたちは未だに地震の余波にやられて動けない様子だ。


 ──都合が良い。


 サブウェポンの切先を向けてはいるが、ローズにシリスを傷付ける意図はなかった。


 ローズは、シリスの返事を待ち、威嚇する様に威圧感を放つだけでその場を動かない。


 「──ひっ」


 また、ローズの放つ圧力に屈し、シリスは足が竦んで動けなくなる……。


 だが、シリスはローズにとって必要な存在……必要以上に傷付けるつもりはなかった。


 「お、王宮剣士様……や、やめて下さい。この人は、僕たちの──」


 たが、それは、あくまでもシリスに対してだけで……


 そんなローズ放つ威圧感……そして、場の空気感に気付かず……


 アルトがローズとシリスの間に不用意に割って入る。


 当たり前だ。


 戦闘経験など皆無である少年が、ローズの放つ威圧感や、場を支配する緊張感になど気付けるはずがない。


 そうやって、アルトが不用意に広げた両腕は──


 「……」


 ──……

 ──……


 音もなく──


 静かに─……


 ──ポトン……


 地に落ちた。


 ローズは、少しもその場を動いた様に見えない。


 相変わらず、シリスにサブウェポンの切先を向けたままで圧を放っているだけだ。


 ──少なくとも、シリス達にはそう見えた。


 「すまないが、邪魔しないで欲しい。これは私にとって大事な事なんだ……。君はもうすぐ大人になるんだから、私の言う事を理解してくれるね?」


 「……?」


 落ち着き払った声でそう言ったローズの言葉に、アルトも最初は意味が分からず──


 「────!? !!!!!!! ────!?!? ────ひぃ?!」


 落とされた自身の両腕を、チラリと手にした事で……やっと最悪の事態に気付いた。


 「……?」


 「……??」


 一瞬の事で、鈍いシリスや幼い子供のヨシュアは気付いていない。


 ……痛みはない。


 ……出血もない。


 鮮やか過ぎて、アルトの身体は──両腕が断たれた事に気付いていなかった。


 ──ポッ……


 やがて、ただの……ただ、一滴だけの血液が、切断された肩口からジワリと溢れて──床に落ちる。


 ジワリ……


 ジワリと……


 激痛の波が、アルトの身体を這い上がって来て──


 「──……。あ、あぁ──いぃぃぃぎゃぁぁぁぁあああぃいぃぃぃィィイイィ!!!?!?!? ────…………」


 アルトは、奇声に近い絶叫を上げたかと思えば──


 直ぐに気を失い、バタリとうつ伏せ状態で床に倒れる。


 耐え難い激痛に、防衛本能が働き……アルトの脳が、意識を強制的にシャットダウンしたのだ。


 「──アルト兄!!」


 『あ──ア、アルト君!?』


 そうなって初めて、ヨシュアとシリスはアルトの置かれた状況に気が付き……直ぐに倒れたアルトの下に駆け寄った。


 「心配しなくても死にはしない。綺麗に切ったからね……。さあ、君も──名前は、ヨシュア君だったかな? 君もアルト君の様になりたくなければ、シリスさんにお願いしてくれないかな? 私にはシリスさんの力が必要なんだ……」


 「何言って──」


 ヨシュアが思わず反論しかて、ローズの方を見上げ、


 『貴方、なんて事を!! ワタシの大事な子供達に──』


 シリスが咄嗟に、自身の右手をローズに向かって差し出そうと動き出す、


 その前に……


 ススッ──……


 プシュ……!


 撫でる様に、優しく……


 ローズのサブウェポンの切先が、薄くヨシュアの首元を横一文字に伝った。


 「あぁ……!? あげぇ……い、いだいぃ……」


 『ヨシュア君!!』


 ヨシュアの首から、一瞬だけ血飛沫が上がるが……見た目ほど深い傷ではない。


 勿論、致命傷でもない。


 『出来るだけ派手に見える様に』


 ……そういう風に調整した。


 まあ、首の皮一枚であっても、実際に切られたのだから……子供にとってはそれでも激痛なのだろうが……。


 これは脅しだ。


 『言うことを聞かなければ、子供とて容赦はしない』


 そう言う意味の……脅し。


 現に、幼子であるヨシュアも、直ぐ隣で身構えていたシリスも……ローズの動きに反応すら出来ていなかった。


 逆らえば、なす術もなく斬られる……。


 ローズの脅しは、否が応にも、シリスたちに自分が置かれた状況を気付かせたのだ。


 「ヨシュア君……痛いだろう? さあ、早くシリスさんにお願いするんだ。そうすれば、私が聖剣教会の神官に頼んで……アルト君と君を治療させよう」


 「……ひぃ。ぼ、僕は……」


 ローズに威圧され、どうして良いのか分からずに──


 ヨシュアは首筋を鮮血に染めながら、


 泡を吹いて気絶するアルトと──


 アルトの身体を胸に抱き、鋭い視線でローズを睨み付けるシリスとを交互に見た。


 『──止めて下さい! これ以上子供達に手を出せば──』


 このままでは、ヨシュアもアルトと同じ様に……


 シリスはヨシュアを護ろうと、一歩前に出てローズに向かって右手を差し出し──


 「脅しではないぞ? あくまでも〝お願い〟だ……。大人しく私の願いを聞いてくれないか? 私だって、出来ればこんな事はしたくないんだ……」


 トン──……


 シリスが、差し出した右手に『破壊の光』を纏うよりも速く、ローズがその右手に無造作に〝何か〟を握らせた。


 『……あ。……あぁ』


 腕……


 子供の右腕……


 肩口から手の先までの……


 小さな……


 小さな……──


 「あぁぁぁぁぁ……!? ぜ、ぜんぜいぃぃぃ──ぎゃぎぃぃぃぃ!!!!」


 突如、シリスの後方から痛々しい絶叫が響く。


 『ヨシュア君!?』


 そんな──


 ヨシュアを護るため、間に割って入ったはずなのに……


 背に護っていたはずなのに……


 相手は、少しも動いた様には見えなかったのに……


 シリスは余りに出鱈目なローズの動きに驚愕し、そして恐怖した。


 ヨシュアは、アルトの様に即座に気絶することが出来ず……気が狂いそうなほどの痛みに、悲鳴を上げながら床を転げ回る。


 ……これも、ローズが意図した事だ。


 サブウェポンが入る角度を微妙に変え、切断する速度を遅くし──


 『痛みを感じるが、気絶しない程度に留める』


 と……そう言う調整をした。


 まあ、いずれは、身体が完全に『腕が切断された』事に気付き、アルトと同じ様に気絶してしまうだろうが……


 『……あぁ。ヨ……シュア……く……ん……』


 ヨシュアの絶叫は、シリスの心を折るには十分のな効果があった。


 反抗する気など、完全に失せてしまう。


 いいや、そもそも、最初から勝負にすらなっていなかったのだ。


 「可哀想に……。聞き分けの悪い──愚かな親を持つと子供が苦労するな。私の両親もそうだった……。愚かにも、私の大切なものを傷付けた。……お前も〝愚かな親〟の一人なのか?」


 床を転げ回るヨシュアに、一瞬だけ哀れみの視線を向けると……ローズは長いため息を吐く。


 『……なんで……こんな事……?』


 「何故とは異な事……君たちが勝手に、私の生家に土足で足を踏み入れたのだろう? ……まあ、それは良いとして……。どうだろうか──君が私の願いを聞いてくれれば、全員生きてここを出られるぞ?」


 『……』


 「……ふむ、まあ良いだろう。見たところ、この子達は孤児の様だし……君は孤児達の保護者だな? ならば、君に言う事を聞かせるなら──他にも駒は(孤児)いると言う事だ……」


 『……え?』


 「じゃあ、この子らは要らんな──」


 ローズはそう言って薄く笑うと、シリスに見えやすい様に大きく構え、ゆっくりとヨシュアとアルトに近付き──


 『──わ、分かりました! な、何でもしますから……この子達だけは……』


 ──チンッ──……


 『その言葉を待っていた』とばかりに、ローズは目にも留まらぬ速さでサブウェポンを鞘に納め、緊張を解く。


 そして……


 「ふふ、それで良い。子供達には悪い事をした……。直ぐに聖剣教会のに連れて行って治療を──」


 少しも悪びれた様子もなく、()()()()()()()を述べた後、ローズは自分が傷付けてしまったヨシュア達に近付こうとした。


 自分の望みを叶えるためとは言え、勿論、やり過ぎてしまった事は自覚している。


 なので、直ぐに傷の治療が出来る聖剣教会にヨシュア達を運ぶつもりだったのだ。


 だが……ローズはそこで見てしまった。


 『──ヨシュア君! アルト君! 先生が直ぐに治してあげますからね!』


 そう言って、両腕──又は片腕を切断された少年らに向かって右手を差し出すシリスを……。


 ──何をしようとしている?


 明らかに神官ではないこの女が……子供を治すだと……?


 自分でこの事態を起こしておきながら、ローズは、


 『くだらない事をやってないで、早く運んだ方が良いのでは?』


 などと、呆れを含んだ蔑みの視線をシリスに向けていた。


 しかし、そんなローズの胸中とは裏腹に──


 『──修復(リペア)──』


 シリスは、『修復』を唱える。


 ……神聖術?


 取り敢えず応急処置を……と言う事なのだろうか?


 『修復』程度の神聖術では、血を止め、傷口を簡単に塞ぐ事くらいしか出来ないだろう。


 痛みはある程度残るし、体力が回復する訳でもない……


 まったく……無意味な事を。


 ローズはそう考えたが……


 パァァァァァ──……


 「──!?」


 シリスが差し出した右手から、先ほど放った『破壊の光』の何倍も眩い光が発せられ──


 ローズは、余りの眩しさに目を閉じてしまう。

 

 「しまった……──!」


 明らかに、『修復(リペア)』の神聖術ではない……。


 (まさか、目眩しを使って──私を攻撃するつもりか!?)


 シリスが先程放った──生家の殆どの部分を削り取った『破壊の光』を思い出し、ローズは解いていた警戒心を再び──


 ──フッ……


 突然、シリスの右手から眩い光が消滅する。


 「……な……に……?」


 消滅した光の先に、ローズが見たものは……


 両腕が完全に再生し、真っ青だった顔色も正常に戻ったアルトと──


 切断された右手が戻り、痛みも完全に消えたのか、ポカンとした顔で床に寝転んでいるヨシュア──


 二人の少年のそんな姿だった。


 だが、シリスが齎した奇跡はそれだけでは終わらず……


 半壊したはずのローズの生家のも元に戻っており──それどころか、古くてボロボロだったはずの壁や天井が、新品同然に変化していたのだ。


 ローズはその様子を見て、シリスの『奇跡の力』の凄まじさに震撼した。


 そして──


 「……素晴らしい。この様な力も持っているのか……。──そうだ、この力を上手く使えば……」


 その瞬間、ローズは頭の中で、欠けていたパズルのピースがカチリとハマった様な感覚感を覚えた。


 この力を利用すれば……。


 ローズは、今後の具体的な方針が自分の中で固まり……誰にも気付かれないよう、静かに顔を歪めた……。

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