第43話:【合唱準備】指揮棒を構えるマッドサイエンティスト
帝都ルミナリアの白亜の大城門前。
オーク軍三万が静まり返る中、特設ステージの中央に立った俺は、燕尾服のように白衣を正し、一本の銀色のタクト(感情共鳴指揮棒)を構えた。
ステージ上のマイクスタンドの前には、四人の美姫が並んでいた。
ソプラノ担当――姫騎士シルフィア。
アルト担当――天才魔導士レオノーラ。
テノール担当――男装騎士アレクシア。
そして、メゾソプラノ担当――神託の勇者ヴァルキリア。
城壁の上のアルベルト総長が、震える声で叫んだ。
「ゼ、ゼノ……! 貴様、帝国の誇りたる四名の騎士たちに、一体何をさせる気だ!?」
「簡単なことですよ」
俺はマイク越しに、帝都全域へ響き渡る声で言った。
「彼女たちの魂の叫びを一つに束ね、貴方たちの頭上の古代結界を一撃で粉砕する。これぞ、感情力学の集大成――『超共鳴合唱砲』の実験だ」
「ば、馬鹿な! 言葉の叫びなどで我が結界が破れるはずが――」
「破れますよ。彼女たちのプライドが臨界点を超えた瞬間、発生する波形は戦略核を遥かに凌駕する」
俺はくるりと振り返り、ステージ上の四人を見つめた。
彼女たちの顔には、それぞれの理由による強烈な葛藤と恥じらいが浮かんでいた。
「さあ、カルテットの諸君。準備はいいね?」
「ゼノ……! 本当にこれをやる気なの!? 全帝都の民衆が見守る前で、こんな恥ずかしい叫びを合唱するなんて……!」
シルフィアが真っ赤になって抗議する。
「恥ずかしがる必要はありませんよ。君たちの叫びが、この不毛な戦争を一滴の血も流さずに終わらせるのだからね。……では、着火の儀といこうか」
俺は手元のメモ帳をめくり、四人それぞれの「最もプライドが抉られる一撃」を順番に告げていった。
「まず、シルフィア君。君の留守中、グランベルス公爵邸の君の部屋にあった『秘密のポエム日記』。帝国アカデミーの同僚たちが、全学徒の前で朗読会を開いたそうだよ」
「な……っ!? あ、あれは鍵付きの引き出しにしまっておいた私の思春期の黒歴史があぁぁぁっ!?」
シルフィアの顔が爆発寸前のトマトのように沸騰した。
「次に、レオノーラ君。君の最新論文を盗用した元上司の教授が、君の功績をすべて自分のものにして学会特別賞を受賞したそうだ」
「な……なんですってぇぇぇっ!? あのクソジジイ、私の努力を横取りしたのぉぉぉっ!?」
レオノーラがメガネを跳ね上げて激怒の炎を燃え上がらせる。
「そして、アレクシア君。先ほど君がオーク兵にフリフリエプロンでお茶を配っていた隠し撮り写真、帝都のブロマイド屋で『奇跡の萌え騎士』として完売したよ」
「だ、誰が買ったぁぁぁっ! 万死に値するぞ貴様らぁぁぁっ!!」
アレクシアの男装の誇りが粉々に吹き飛ぶ。
「最後に、ヴァルキリア君。君の部屋に置いてあった特大クマのぬいぐるみ、オークの仕立て屋が『もっと可愛くしよう』と、ピンクのリボンとイチゴのポシェットを勝手に縫い付けたよ」
「……っ!? か……可愛い……でも……恥ずかしいぃぃぃっ……!」
ヴァルキリアが両手で顔を覆って悶絶する。
四人の感情回路が、同時に超高圧の臨界状態へと達した。
手元のタクトから、青白いプラズマの火花がパチパチと散り始める。
「素晴らしい……! 完璧な不協和音にして、究極の調和だ!」
俺は指揮棒を頭上高く掲げた。
「さあ、歌いたまえ! 帝国の頭の固い年寄りたちに、新時代のエネルギーの産声を聴かせてやるのだ!!」
タクトが振り下ろされる瞬間、世界の時が止まった。
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