第39話:【臨界突破】抑圧された感情が決壊! 100万クックの超新星爆発
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
巨大なクマのぬいぐるみに抱きついたまま、ヴァルキリアは頭を抱えて激しく悶絶していた。
口の中に残る、甘美なカスタードプリンの余韻。
肌に触れる、ふわふわで温かいモフモフの感触。
そして――それらを「心地よい」「美味しい」と感じてしまった、自分自身の心の脆さ。
「私は……神託の勇者……! 帝国の最終兵器……! いかなる拷問にも屈せず、敵の首を淡々と狩るはずの冷徹なる刃……!」
ヴァルキリアの全身が、カタカタと激しく震え始める。
十数年間にわたって心の奥底へ押し込め、超高圧で圧縮し続けてきた「少女としての本音」「甘えたい欲求」「弱音」「恥じらい」。
その全てが、プリンの一撃によって、一気に臨界点へと達しようとしていた。
「それが……なんというザマだ……! 敵の用意した子供部屋のような場所で、巨大なぬいぐるみに埋もれ……敵の男にあーんと菓子を食べさせられて……美味しかったなどと涙を流すなど……!」
ヴァルキリアの顔面が、沸騰したヤカンのように真っ赤に染まり、目角から止めどなく涙が溢れ出す。
羞恥、後悔、自己嫌悪、そして抑圧からの解放。
あらゆる感情の核融合反応が、彼女の魂の中で超新星爆発を引き起こした。
「恥ずかしい……! 恥ずかしすぎるぅぅぅぅぅっ!! こんな姿を帝国の民に見られたら、私は死んでも死にきれない!!」
ヴァルキリアはクマのぬいぐるみを放り出し、立ち上がり、天に向かって全身全霊の絶叫を放った。
十数年分の封印を完全に解き放った、魂の慟哭――!!
「私を殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! ひと思いに首を刎ねろ! 灰も残さず消滅させろぉぉぉぉっ!! くっ……殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
ピピピピピピピピピピピピピピピピッ――ドガァァァァァァンッ!!!!!
俺の手元の最高級測定器が、眩い青白の光を放ちながら、破片となって爆散した。
それだけではない。
部屋の四方に設置されていた高耐久ミスリル製エネルギー集光ピラーが、負荷に耐えきれず真っ赤に溶解し、天井の排熱ファンが火を噴いて吹き飛んだ。
【計測値:1,000,000クック(神域Ω波・封印解除スーパーノヴァ)を検知!】
「ひゃ、百万クック……!? メガクック領域に到達しただとぉぉぉぉっ!?」
俺は吹き荒れる暴風の中で、吹き飛びそうになる眼鏡を必死に押さえながら絶叫した。
ヴァルキリアの身体から放たれたのは、もはやオーラなどという生易しいものではなかった。
天を衝く巨大な光の柱!
神々しい純白と黄金の熱波が、新館の屋根を吹き飛ばし、夜空の雲を一瞬で消し去って成層圏まで届く巨大な光柱を形成していた。
「な、なんだありゃあぁぁぁっ!?」
外にいたバールック大佐が、腰を抜かして空を見上げた。
野営地中のオークたちが、あまりの神々しさに武器を取り落とし、地面にひれ伏して祈りを捧げ始めている。
「神様だ……! ゼノ先生が、天から本物の光の神様を降臨させなさった……!」
光の奔流は、ギガ・リアクターを通じて要塞都市の全蓄電施設へと雪崩れ込んだ。
大地が震え、研究所を中心とした半径十キロメートル全域に、不可視の神聖絶対結界が幾重にも展開される。
帝国のいかなる戦略級魔導兵器であっても、指一本触れることすら叶わない、神の領域の防壁だ。
「や……やったぞ……!」
俺は煙を上げる測定器の残骸を見つめ、歓喜の震えを抑えきれなかった。
「完璧だ! 無感情の女勇者の心を解体した結果、宇宙開闢以来最高のエネルギー抽出に成功した! これで我がオーク軍の勝利は、数学的に百パーセント確定したぞ!!」
光の中心で、顔を覆って泣き崩れる元・無感情の女勇者。
最強の刺客を最大出力の味方へと変貌させた研究所に、最終決戦の号砲が鳴り響こうとしていた。
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