第2話:【丸腰突撃】学者、オーク陣地に単身プレゼンへ乗り込む
帝国とオーク軍の最前線、旧ローゼンブルク男爵領。
かつては緑豊かだった平原に、無数の丸太と粗削りな岩で組まれたオーク軍の巨大な野営地が広がっていた。
そこへ、白衣姿の青年が一人、のんびりと歩いてやってくる。
右手にホワイトボード、左手に自作測定器。
武装、ゼロ。護衛、ゼロ。
見張り台にいた巨体のオーク兵が、目を丸くして相棒の肩を小突いた。
「おい……ボグ。見ろよあれ」
「あぁん? ……人間? しかも丸腰のヒョロガリだぞ」
「罠か!? 帝国軍の高度な陽動作戦か!?」
オーク兵たちは色めき立ち、大戦斧や粗末な槍を構えて俺を取り囲んだ。
身長2メートルを超える筋骨隆々のオークたちが、筋張った腕を誇示しながら野太い声で威嚇してくる。
「グオォォ! 命知らずの人間め! ここをオーク第1師団の陣地と知っての狼藉か!」
「食い殺されたくなければ、身ぐるみを剥いで――」
「やあ、ご苦労様です」
俺は爽やかな笑顔で手を挙げた。
「私、元・帝国アカデミー特命教授のゼノ・フォルスターと申します。本日は貴軍の最高指揮官殿に、戦況を一変させる画期的なエネルギー兵装の出張プレゼンテーションに参りました。至急、取り次いでいただけますか?」
「「…………は?」」
オーク兵たちは顔を見合わせ、巨大な耳をパタパタと動かした。
何を言っているのか完全に理解できないといった顔だ。
「ぷ、ぷれぜん……?」
「出張……?」
「おい、この人間、頭が狂ってるのか?」
「狂っていませんよ。極めて正気です」
俺は鞄からアポイントメント希望用紙(自作)を取り出した。
「ほら、これに記入していただければ。所要時間は約30分。実証実験付きの分かりやすいスライドを用意してきました」
「えぇい、訳の分からん呪文を唱えるな!」
オーク兵長が怒鳴り、俺の腕を後ろ手にねじ上げて縄で縛り上げた。
「おい、怪しいヤツだ! ガルガドス師団長とバールック大佐の天幕へ連行しろ! スパイなら八つ裂きにして鍋の具だ!」
「おお、連行してくれるのですか。話が早くて助かります」
「な、なんでコイツ嬉しそうなんだよ……気味悪いなオイ!」
縄でぐるぐる巻きにされながらも、俺は上機嫌でオークの陣地を進んだ。
周囲のオーク兵たちが物珍しそうに俺を見つめている。
陣地内は泥だらけで、薪の煙と獣の脂の匂いが充満していた。衛生環境はお世辞にも良いとは言えない。
(ふむ……インフラが劣悪だな。これはPCEによる熱源供給の需要が高そうだ)
やがて、陣地の中央にそびえ立つひときわ巨大な天幕へと放り込まれた。
天幕の奥、粗末な木製デスクに座っていたのは、歴戦の風格を漂わせる大柄な老オーク――ガルガドス師団長。
そしてその傍らで巨大な戦斧を手入れしていたのは、燃えるような赤銅色の筋肉を持つ巨漢――バールック打撃連隊長だった。
「報告します! 敵地の真ん中をホワイトボードを持って歩いていた不審な人間を生け捕りにしました!」
ガルガドスが眉間に深いシワを寄せ、低い声で唸った。
「……人間め。貴様、帝国の間者か? それとも死に場所を探しに来た狂人か?」
俺は縛られたまま器用に立ち上がり、一礼した。
「はじめまして、ガルガドス師団長、バールック大佐。私は魔導学者ゼノ。貴軍に『帝国の城塞を一撃で吹き飛ばし、ついでに野営地に温水シャワーを完備できる夢のエネルギー技術』を売り込みに参りました」
バールックが戦斧を止め、ギロリと俺を睨みつけた。
「……面白い口を利くヒョロガリだ。だが小僧、俺たちオークをからかっているなら、その首を斧で叩き割るぞ?」
「ええ、もちろん実証実験をお見せします」
俺は不敵に微笑んだ。
「お手数ですが、貴軍で捕らえている『一番プライドの高そうな女騎士の捕虜』を一人、ここに連れてきていただけますか?」
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