第3話:【プリン消滅】鉄のテーブルを粉砕せよ! 驚愕の実証実験
「女騎士の捕虜だと……?」
ガルガドス師団長とバールック大佐が怪訝そうな顔で見つめ合う。
「先日の小競り合いで捕まえた、帝国の下級女騎士なら牢にいるが……あいつをどうする気だ?」
「私の理論をその目で確かめていただくだけです」
俺は縄をほどいてもらうと、手早くホワイトボードを組み立て、持参した測定器とコードを接続した。コードの先には、吸盤付きの小さな金属端子がついている。
やがて、オーク兵二人に引きずられるようにして、一人の女騎士が天幕に連れてこられた。
年の頃は二十歳前後。軽装鎧を身につけ、気の強そうな吊り目が特徴的な見習い騎士だ。
泥に汚れながらも、その瞳には強い敵意が宿っている。
「ふん……! 私をどうする気だ、野蛮なオークどもめ! どんな拷問にも口は割らんぞ!」
(おお……実に素晴らしい! 絵に描いたようなテンプレの敵愾心!)
俺は内心で拍手喝采した。
「よし、被験体A。君の頭部にこの測定端子を装着させてもらうよ」
「な、何をする変態学者!? 触るな! 私を殺すならひと思いに――」
「はい、装着完了」
俺はコードのもう一方を、天幕の隅にあった分厚い鉄製の作業テーブル(重量約200キロ)に接続した。
ガルガドスとバールックが腕を組んで見守る。
「おいゼノ、これで何が起きるんだ?」
「見ていてください。……被験体A、君にとても残念なお知らせがある」
俺は真顔で、彼女の目をじっと見つめて言った。
「君が昨晩からずっと楽しみにしていた帝都限定スイーツ『極上プレミアム・カスタードプリン』だがね。先ほどオークの兵卒が、一口で全部美味しく平らげてしまったよ」
「…………は?」
女騎士がポカンとした。
「な、何を言っている……? そんな子供騙しの嘘で私が動揺するとでも……」
「嘘ではない。カラメルソースの最後の一滴まで、彼らがスプーンで綺麗に舐め取ったそうだ。君の分は、もうこの世界に存在しない」
「な……っ!? あ、あれは私が三ヶ月待ちの予約券を握りしめて……! 貴様ら、捕虜の私にそんな精神的苦痛を……っ!」
女騎士の顔が屈辱と悔しさでみるみる真っ赤に染まっていく。
自尊心が音を立てて軋み、瞳に涙が浮かぶ。
「う……うぅ……! オークの分際で私のプリンを……! くっ……殺せぇぇぇぇっ!!」
ピピピピピピッ!!
俺の測定器の針が猛烈な勢いで跳ね上がった。
【計測値:850クック(正統派β波)を検知!】
「エネルギー充填完了! 鉄製テーブルへ転送――放電!」
チュドォォォォォォンッ!!!!!
閃光が天幕を焼き、凄まじい衝撃波が吹き荒れた。
爆風でオーク兵たちが吹き飛び、ガルガドス師団長の書類が紙吹雪のように舞い散る。
煙が晴れた後――そこにあったはずの重量200キロの頑丈な鉄製テーブルは、跡形もなく消滅し、地面にクレーターが穿たれていた。
「「「…………!?」」」
天幕の中が、完全な静寂に包まれた。
オーク兵たちは腰を抜かし、ガルガドス師団長は顎が外れそうなほど口を開けて固まっている。
女騎士本人も「えっ……? 私の叫びで……何が……?」と呆然自失だ。
その静寂を破ったのは――。
「ガ……ガハ……」
バールック大佐だった。
巨漢の肩がプルプルと震え、次の瞬間、天幕を揺るがす大爆笑が轟いた。
「ガハハハハハハハハハッ!! なんだありゃあぁぁぁっ!! プリンの恨みで鉄の机が消し飛んだぞオイィィッ!!」
バールックは腹を抱えて転げ回り、地面をドンドンと叩いた。
「おいゼノ! お前、マジでとんでもねぇ化け物だな! 女騎士が『くっ殺』と叫んだだけで、攻城兵器並みの威力が出やがったぞ!」
「ええ。これはまだ下級騎士の低出力波形(850クック)に過ぎません。これが高潔な姫騎士や聖女クラスになれば、城壁どころか山一つ消滅させられます」
俺が胸を張ると、ガルガドス師団長が震える手で俺の肩を掴んだ。
「ぜ、ゼノ先生……! 我がオーク第1師団は、貴方を『最高魔導顧問』として招聘したい! 研究室でも予算でも何でも好きなだけ出す! 頼む、我が軍に力を貸してくれ!」
「話が早くて助かります、師団長」
俺は笑顔で握手を交わした。
「契約成立ですね。ではまず――女騎士たちへの暴力・拷問を一切禁止し、極上の紅茶とケーキを用意してください。最高級の『くっ殺』を引き出すための、VIP待遇プロトコルを開始します!」
こうして、追放されたマッドサイエンティストとオーク軍の、世界を変える共同研究が幕を開けたのだった。
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