第8話 隠しルートの先でなんかS級が地形を変えた
『マスターのみ、通行許可を推奨します』
ナナの声が響く。
薄暗い第三層通路。
俺達の前には、ただの壁しかなかった。
「……壁だけど」
『偽装されています』
次の瞬間。
壁の一部に青い線みたいな光が走った。
低い振動音。
そして。
ゆっくりと壁が開く。
【名無し:え???】
【考察班:隠し通路!?】
【クラゲ:初めて見た】
【あまねこ:ナナちゃん何者なの……】
いや、俺もそう思う。
シオンが細く息を吐いた。
「……本当に開いた」
その青い瞳が、静かに細められる。
普段余裕そうなシオンが、少しだけ真面目な顔になっていた。
「協会にも存在報告のないルートよ、これ」
「へー」
「凪くん、もう少し危機感持ちなさい」
『マスターへ危険はありません』
「あなたのその断言が一番怖いのよ」
シオンがため息を吐く。
ひよりが、おそるおそる通路奥を見る。
「……魔力反応、普通じゃないです」
《魔力視》を発動しているのか、薄茶色の瞳が淡く光っていた。
「濃い、というか……深い?」
『高濃度魔力地帯を確認』
「なんかやばそう」
『ですが、マスターは安全です』
「その理論で進むのやめない?」
でも。
ナナが言うなら、たぶん大丈夫なんだろう。
そんな気がした。
◇
隠し通路の先は、別世界みたいだった。
壁一面に、青白い結晶が生えている。
魔力の霧みたいなものまで漂っていた。
【名無し:景色すご】
【探索者A:初見エリアだろこれ】
【切り抜き職人:神回更新中】
「うわ」
足元を見る。
転がっていたのは、高純度魔力結晶。
しかもデカい。
「これ高いやつじゃない?」
『市場価格予測:482,000円』
「うわ」
【名無し:!?!?】
【クラゲ:拾うだけで金持ち】
【あまねこ:ナナちゃん便利すぎる】
さらに奥。
壁際には、見たことない素材まで落ちていた。
「先輩……それ、《蒼晶花》です」
「そうなの?」
「A級素材です!」
「へー」
「へーじゃないです!!」
ひよりがめちゃくちゃ焦ってる。
シオンが、呆れたように笑った。
「凪くんって宝くじを当てても“へー”で済ませそうね」
『マスターの幸運値は高水準です』
「ステータスみたいに言うな」
その時。
ひよりの表情が変わった。
「……来ます!」
空気が震える。
奥の暗闇。
そこから現れたのは――
巨大な白銀の狼。
全長五メートル近い。
氷みたいな外殻を纏い、赤い瞳がこちらを睨んでいる。
《ブリザード・フェンリル》。
第三層に出るようなモンスターじゃない。
【名無し:えっ!?】
【探索者A:なんでこんなのいる!?】
【考察班:災害級だぞ!!】
空気が凍る。
文字通り。
《ブリザード・フェンリル》が咆哮した瞬間、周囲温度が一気に下がった。
「グルォォォオオオオ!!」
ひよりが息を呑む。
「こ、これヤバ――」
「下がってて」
シオンだった。
静かな声。
でも。
次の瞬間。
空気が変わった。
シオンが細剣へ触れる。
白銀の刀身。
《氷葬細剣 フリーレン・ローズ》。
抜かれた瞬間、冷気が広がった。
床が凍る。
壁が白く染まる。
【名無し:うわっ!?】
【クラゲ:温度下がった!?】
【切り抜き職人:氷姫きた!!】
【考察班:いや待て】
【探索者A:相性悪くないか?】
【名無し:ブリザード・フェンリルって氷耐性クソ高いぞ】
【クラゲ:氷属性同士だよな?】
でも。
シオンは止まらない。
細剣を片手に、 静かに前へ出る。
ゆっくりと……。
たけど、次の瞬間、シオンは俺の視界から消えていた。
「――凍りなさい」
高速移動からの一閃。
細剣が走る。
一瞬遅れて。
巨大な《ブリザード・フェンリル》の身体へ、氷の亀裂が走った。
「ガァァァッ!?」
【名無し:え!?】
【探索者A:凍った!?】
【考察班:嘘だろ!?】
フェンリルが暴れる。
でも。
遅い。
シオンの周囲へ、氷の花みたいな結晶が展開された。
《氷華展開》。
空間そのものが、白く染まる。
フェンリルの動きが止まった。
脚。
胴体。
牙。
全部凍っていく。
【名無し:氷属性を凍らせてる……】
【探索者A:意味わからん】
【クラゲ:これが氷姫】
【あまねこ:格が違う……】
シオンが、静かに細剣を振る。
パキン。
次の瞬間。
《ブリザード・フェンリル》が、氷像みたいに砕け散った。
静寂。
コメント欄だけが爆速で流れていく。
【名無し:は????】
【クラゲ:芸術じゃん】
【切り抜き職人:映画か?】
【探索者A:これがS級】
シオンが振り返る。
青い髪が揺れた。
「怪我はない?」
「はい」
なんか。
この人、普通にめちゃくちゃ強いな。
『確認しました』
「ん?」
『S級個体の戦闘能力は高水準です』
「上から目線だな」
『ですが』
少し間。
『マスターの方が優秀です』
「比較するな」
「ふふっ」
シオンが吹き出した。
なんか、ちょっと機嫌よさそうだった。
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本作はカクヨムでも連載中です。
小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。
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