第69話 なんか気づいたら解説者になっていた
学園祭まで、あと五日。
放課後。
今日は武闘会の実況リハーサルだった。
「実行委員長!」
ユイ先輩が大きく手を振る。
「実況席の確認をするぞ!」
「俺、実況なんですか? 確かに大会に参加するんじゃ……?」
「実況ではない!」
「よかった」
「解説者兼エキシビジョンマッチの出場者である!」
「いつからそうなった!」
嫌な予感しかしない。
◇
体育館には実況席まで設置されていた。
マイク。
大型モニター。
試合映像を映すスクリーン。
「これって本当に高校の学園祭か? 異常に予算がかかっている気が……」
「当然である!」
ユイ先輩は胸を張る。
「目玉イベントだからな!」
そこへ、妻科カオリが姿を見せた。
「準備は順調ですね」
「カオリさん」
「協会から実況補佐を一名派遣します」
さすが協会。
仕事が早い。
「事故が起きないよう、安全確認も徹底してください」
「はい」
ユイ先輩も珍しく真面目に頷いた。
◇
「実況の練習を始めるぞ!」
ユイ先輩がマイクを握る。
「さあ始まりました、探索者武闘会!」
意外とうまい。
「実況経験あるんですか?」
「昔、放送部に三日だけいた!」
「三日? 三日だけですか?」
「ぬるい部活だったので辞めた!」
長続きしなかったらしい。
◇
「では次! 解説者!」
なぜか俺がマイクを渡される。
「え?」
「やってみるのである!」
「いやいや」
「ほら!」
押し切られた。
「えっと……」
リングでは、りくとひよりが軽く手合わせをしている。
「りくの突進! これはあまりに短絡的だな」
「ひよりがかわして、魔導銃を構える! いい判断だな」
パンッ!
模擬弾がりくの肩に当たる。
「一本!」
体育館から拍手が起きた。
「おおー!」
ひよりが照れ笑いを浮かべる。
「やりました!」
「ひより、上達したな」
俺がそう言うと、
ひよりは少しだけ胸を張った。
「毎日練習しましたから!」
「りくは油断しすぎだな」
「くそーっ! まさか、ひよりにやられるなんてな……」
悔しそうなりく。
「ふむ、やはり解説は大豆島凪が適任だな」
適任らしい。
◇
『マスター』
ナナが隣へ来る。
『マスターの解説はさすがです』
「そうか?」
『はい』
「ありがとう」
『三十回目です』
「ついに三十か」
『記念すべき数字です』
ナナは少し嬉しそうだった。
「何か記念でもする?」
『では』
ナナが少しだけ考える。
『今日は一緒に帰ってください』
「いつも一緒じゃないか」
『……確かに』
少し照れたように視線を逸らす。
『では』
「まだあるのか」
『帰りにアイスを食べたいです』
「それならいいよ」
『ありがとうございます』
その笑顔は、どんな高性能AIより人間らしかった。
◇
その様子を見ていたエイトが、にやりと笑う。
『コメント欄をご覧ください!』
【あまねこ:デート……くやしいです】
【クラゲ:完全にデート】
【ねむ太:アイス回きた】
【ナナちゃん親衛隊:ナナちゃんかわいい】
「デートじゃない」
『デートではありません』
ナナも真面目に否定する。
一拍置いて、
『……まだ』
「また言った?」
『気のせいです』
絶対に気のせいじゃない。
◇
二階席。
誰もいない観客席で。
鑪璃艶が静かにリングを眺めていた。
「あと五日」
小さく呟く。
「もう少しだけ、待ちましょう」
その微笑みだけが。
どこか冷たく見えた。
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