第68話 武闘会のリハーサルは、なんか順調みたいだ
学園祭まで、あと六日。
放課後。
今日は武闘会会場のリハーサルだった。
「実行委員長!」
ユイ先輩が元気よく手を振る。
「準備は順調であるな! はーっはっはっはっ!」
謎に自信満々な高笑い。
「順調……ですかね?」
「たぶん!」
「不安しかない。」
◇
体育館では、ステージの設営が進んでいた。
武闘会用の結界装置。
実況席。
救護テント。
探索者協会のスタッフまで集まっている。
「本格的ですね」
ひよりが目を丸くする。
「ここまで本格的にする必要はないと思うが……」
「たくさんの人たちの前で戦うなんて緊張します」
ひよりが不安そうに客席を見る。
「でも……」
急に決意に満ちた表情で俺に視線を向けるひより。
「優勝して、先輩を独り占めしたいです!」
ユイ先輩が生徒会長権限で勝手に決めた特別賞。
俺は承諾した覚えはないんだが……。
妙に気合の入っているひよりを見ていると、観念せざるを得ない気がする。
◇
「じゃあ!」
ユイ先輩が手を叩く。
「動線確認を始める!」
参加者全員で入退場の確認が始まった。
俺。
シオン。
りく。
ひより。
他の探索者たちも並んで歩く。
「ここで名前を呼ばれたら入場!」
「はい。」
「退場はこちら!」
「はい。」
順調だ。
珍しく。
本当に順調だった。
◇
その時だった。
『マスター。』
ナナが体育館の入口を見る。
「どうした?」
『鑪璃艶を確認しました。』
視線を向ける。
璃艶は協会スタッフと談笑していた。
笑顔。
穏やかな表情。
どこにも不自然なところはない。
「普通に見えるな。」
『だからです』
「え?」
『何も見えません』
「どういうことだ?」
『感情が読み取れません』
ナナが小さく眉を寄せる。
『まるで仮面です。
その言葉だけが、妙に胸に残った。
◇
「凪くん、ちょっといい?」
シオンが隣へ来る。
「少し付き合って」
「はい。」
二人で武闘会用のリングへ上がる。
「軽く手合わせよ」
「今ですか?」
「当日はできないから」
開始の合図。
次の瞬間。
氷の剣が目の前まで迫る。
「速っ!」
反射的にかわす。
拳を一発。
シオンが紙一重で避ける。
たった数秒。
それだけで周囲から拍手が起きた。
「やっぱり二人ともすごい……。」
ひよりが目を輝かせる。
「これがS級……。」
りくは腕を組みながら笑った。
「本番が楽しみだな」
◇
『マスター』
ナナが静かに近づいてくる。
『怪我はありませんか?』
「ないよ」
『安心しました』
ほっとしたように息をつく。
「心配しすぎ」
『心配します』
即答だった。
『マスターは一人しかいませんから』
「……ありがとう。」
『二十九回目です。
「まだ数えてたのか」
『もちろんです』
少しだけ誇らしげだった。
◇
体育館の二階席。
そこから璃艶が静かにリングを見下ろいていた。
「なるほど……」
誰にも聞こえない声で呟く。
「思っていた以上ね」
その瞳だけが。
笑っていなかった。
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