第64話 なんか展示会が黒歴史の開示になっている
学園祭まで二週間。
放課後。
俺は第二視聴覚室へ連れてこられていた。
「ナギさん!」
天音が満面の笑みで迎えてくる。
珍しい。
こんなにテンションが高い天音は初めて見た。
「準備、順調です!」
「嫌な予感しかしない」
「展示パネルが完成しました!」
「聞いてない」
教室の中には、大きなパネルが何枚も並んでいた。
しかも全部。
俺だった。
「……」
「どうですか?」
「帰っていい?」
「駄目です」
即答だった。
◇
一枚目。
【大豆島凪 配信者年表】
「年表まであるの?」
「あります」
「なんで?」
「必要だからです」
必要なのか。
本当に。
パネルには、
『初配信』
『登録者三人』
『初コメント』
『初スーパーチャット』
『シャドウファングに追い回された回』
などなど。
妙に細かくまとめられていた。
「よく残ってたな」
「全部保存してあります」
「怖い」
天音が少し照れたように笑う。
「最古参なので」
それで済ませていいレベルじゃない。
【しろまる:展示見たい】
【クラゲ:本当に作ってる】
【ねむ太:資料館じゃん】
コメント欄も妙に盛り上がっていた。
「……配信してるな?」
『はい!』
エイトだった。
「もう驚かないぞ」
『慣れましたね!』
「慣れたくなかった」
◇
「こちらです」
天音が次のパネルを指す。
【配信機材の変遷】
「ここまでいる?」
「いります」
「なんで?」
「努力が見えるので」
机の上には、
最初に使っていた安物のカメラ。
傷だらけの端末。
古い配信用マイク。
全部並べられていた。
「捨てたと思ってた」
「りくさんが保管してました」
「なんで?」
「思い出だからって」
あいつ。
意外とそういうところあるな。
◇
「そして」
天音が少し得意そうに笑う。
「メイン展示です」
「嫌だ」
「こちらです」
カーテンが開く。
そこに映し出されたのは。
俺の初配信だった。
「消せぇぇぇ!」
高校一年。
今より髪も長い。
緊張しまくっている。
『こ、こんにちは……』
「うわぁぁぁ!」
見ていられない。
恥ずかしい。
【クラゲ:www】
【しろまる:初々しい】
【ねむ太:かわいい】
「かわいくない!」
「私は好きです」
天音がぽつりと言う。
「今よりずっと不器用で」
「やめろ」
「でも、一生懸命でした」
少しだけ。
照れくさかった。
◇
その時だった。
『マスター』
ナナが俺の袖を引く。
「どうした?」
『こちらです』
小さな展示ケース。
中には。
青い花の髪飾りと同じデザインのプレートが飾られていた。
「これ」
『学園祭限定展示です』
「なんで?」
『マスターからいただいた、大切な装飾品です』
「展示するの?」
『複製です』
「複製ならいいか」
『本物は身につけています』
ナナが少しだけ髪へ触れる。
青い花が揺れた。
【クラゲ:尊い】
【しろまる:これ付き合ってる?】
【ねむ太:夫婦かな】
「違うからな」
『違います』
ナナも否定する。
『まだ』
「まだ?」
『いえ』
「今何か言った?」
『気のせいです』
絶対違う。
◇
そこへ。
りくが顔を出した。
「おー」
展示室を見回す。
「結構いいじゃん」
「そう?」
「ナギの配信って、こうやって見ると歴史あるんだな」
「まだ二年くらいだけど」
「二年でも十分だろ」
ひよりもやってきた。
「わあ!」
目を輝かせる。
「すごいですね!」
「恥ずかしいだけだ」
「そんなことありません!」
天音が力強く言う。
「この展示は」
少しだけ真面目な顔になる。
「ナギさんが、ずっと諦めなかった証拠です」
教室が静かになる。
「登録者三人の頃も」
「コメントがゼロの日も」
「配信を続けたから」
「今があります」
俺は少しだけ頭をかいた。
「……そんな立派なもんじゃない」
「立派です」
天音は笑った。
「私は、それを一番近くで見ていましたから」
最古参。
その言葉に嘘はなかった。
◇
『はいはーい!』
静かな空気を壊したのは。
もちろんエイトだった。
『最後に重大発表です!』
「嫌な予感」
『展示会限定!』
モニターに映像が映る。
【ナギ名場面ランキング】
「待て」
『ベスト100です!』
「百もあるの!?」
『あります!』
コメント欄は大爆笑だった。
【クラゲ:www】
【しろまる:100は多い】
【ねむ太:全部見る】
「展示会、本当に大丈夫か……」
不安しかなかった。
でも。
天音は満足そうだった。
その笑顔を見ていると。
まあ、これくらいならいいか。
そんな気もしてきた。
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