第63話 チョコバナナは、なんか試作の時が一番楽しい
学園祭まで二週間半。
放課後。
俺は家庭科室へ呼び出されていた。
「先輩!」
ひよりが元気よく手を振る。
エプロン姿だった。
白いエプロン。
ポニーテール。
なぜかやる気満々である。
「何するんだ?」
「試作品です!」
「何の?」
「出店メニューの!」
なるほど。
学園祭準備らしい話だった。
◇
家庭科室にはすでに数人集まっていた。
ひより。
天音。
りく。
そしてナナ。
なぜか全員いる。
「シオンさんは?」
「協会本部です」
ひよりが答える。
「最近忙しいみたいです」
そういえば武闘会関連の打ち合わせもあるらしい。
S級探索者は大変そうだ。
「というわけで!」
ひよりがホワイトボードを指差す。
【ホットドッグ】
【フライドポテト】
【チョコバナナ】
「どれをメイン商品にするか決めます!」
「全部じゃ駄目なのか?」
「予算があります!」
しっかりしていた。
さすが学園祭委員。
◇
まずはホットドッグ。
「できました!」
ひよりが差し出す。
見た目は普通。
美味そう。
一口食べる。
「うまい」
「本当ですか!?」
「普通に売れる」
ひよりが嬉しそうに飛び跳ねた。
かわいい。
【しろまる:今配信してる?】
【クラゲ:してる】
【ねむ太:飯テロ】
そう。
なぜか配信されていた。
「エイト」
『はい!』
「いつからだ?」
『三分前です!』
「勝手に始めるな」
『学園祭準備回は需要がありますので!』
需要があるらしい。
◇
次。
フライドポテト。
これは安定だった。
「うまい」
「ですよね!」
りくが大量に食べている。
「これ絶対売れるぞ」
「りくさんは何でも売れるって言います」
「うまいからな!」
説得力はあった。
◇
そして。
本命。
チョコバナナ。
ひよりが慎重にチョコレートをかける。
固まるまで待つ。
完成。
「どうでしょう!」
俺は受け取る。
一口。
「うまい」
「やった!」
ひよりが両手を上げた。
今日一番嬉しそうだった。
「先輩、どれが一番ですか?」
「え?」
「え?」
なぜ圧をかける。
「全部うまい」
「選んでください」
「ひより」
「選んでください」
逃げられなかった。
「チョコバナナかな」
ひよりが固まった。
そして。
顔が真っ赤になる。
「やったぁ……」
小さくガッツポーズしていた。
【クラゲ:かわいい】
【しろまる:勝った】
【ねむ太:チョコバナナ優勝】
コメント欄も盛り上がっている。
◇
一方。
天音はノートを開いていた。
「何してる?」
「展示会の資料整理です」
「まだやってるのか」
「まだやっています」
怖い。
非常に怖い。
「ちなみに」
天音が眼鏡を押し上げる。
「中学時代の配信記録も発見しました」
「消せ」
「却下です」
最近みんな却下する。
◇
その時だった。
ナナが静かに言った。
『マスター』
「ん?」
『ナナも手伝いました』
「何を?」
『チョコバナナです』
ひよりが頷く。
「チョコレートを均一にかける方法を教えてもらいました」
『成功率九十八パーセントです』
「高いな」
『当然です』
どこか誇らしげだった。
「じゃあナナのおかげか」
『はい』
即答だった。
そこは遠慮しないらしい。
◇
すると。
エイトが突然現れた。
嫌な予感。
『コスプレ喫茶の準備も進めなきゃです!』
「本当にやるのか?」
『やります!』
自信満々だった。
『ひよりちゃん!』
「えっ?」
ホログラムが光る。
次の瞬間。
ひよりがウェイトレス風の衣装になっていた。
「きゃっ!?」
「エイト!」
『シミュレーションです!』
絶対違う。配信映えを狙ってるに決まってる。
【クラゲ:かわいい】
【しろまる:採用】
【ねむ太:優勝】
コメント欄が盛り上がる。
さらに。
『天音ちゃん!』
「えっ」
天音まで着替えさせられた。
クラシカルなメイド服。
妙に似合う。
「ど、どうですか……」
なぜ俺に聞く。
「似合う」
「ありがとうございます」
即答だった。
顔は真っ赤だった。
◇
その様子を見ていたナナが。
ぽつりと言った。
『マスター』
「なんだ」
『ナナも学園祭で接客を行います』
「え?」
『問題ありません』
「いや」
『マスターのお客様を歓迎します』
妙にやる気だった。
髪飾りが揺れる。
どうやら本気らしい。
【クラゲ:ナナちゃん接客】
【しろまる:絶対行く】
【ねむ太:行列できる】
コメント欄はさらに盛り上がった。
◇
結局。
出店メニューは。
【チョコバナナ】
【ホットドッグ】
【フライドポテト】
全部やることになった。
「結局全部じゃないか」
「全部やりたかったので!」
ひよりが笑う。
楽しそうだった。
その顔を見ていると。
学園祭も悪くない気がする。
たぶん。
平和に終われば。
だけど。
俺はまだ知らない。
学園祭の裏で。
鑪璃艶が何を考えているのかを。
お読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムでも連載中です。
続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




