第62話 武闘会参加者は、だいたいクセが強い
学園祭まで三週間。
今日は探索者武闘会の参加登録日だった。
会場となる体育館には、朝から人が集まっている。
「多くないか?」
俺は受付前の行列を見ながら言った。
「多いのである!」
ユイ先輩が元気よく答える。
「大成功である!」
「まだ始まってないですよね?」
「気持ちの問題だ!」
生徒会長らしいのかどうか分からない。
◇
「うおおおお!」
「絶対優勝してやる!」
「シオン先輩と戦えるかも!」
「いや、ナギ先輩もいるぞ!」
体育館のあちこちで盛り上がっている。
理由は単純だった。
参加者一覧が公開されたのだ。
【氷鉋シオン】
【大豆島凪】
この二人の名前が載った時点で、ほぼ決まったようなものだった。
「俺、まだ出るって言ってないんだけど」
「言ったのである」
「誰が」
「私が」
ユイ先輩だった。
ひどい。
◇
一方。
りくは楽しそうだった。
「いいじゃねぇか」
「何が」
「こういうの」
すでにエントリー用紙を提出済みである。
早い。
早すぎる。
「オレ、優勝狙うからな」
「無理だろ」
「挑戦することに意味がある!」
「どこかで聞いたな」
たぶん天音だ。
◇
その天音もいた。
「私は記録係です」
赤フレーム眼鏡を押し上げる。
手には分厚いノート。
「武闘会全試合を記録します」
「本気だな」
「本気です」
怖い。
たぶん展示会にも使われる。
◇
ひよりは参加者名簿を見ていた。
「多いですね」
「探索者学園だからな」
百名近くいる。
予選だけでも大変そうだ。
「ひよりは本当に出るのか?」
「出ます!」
即答だった。
最近少し自信がついたらしい。
魔導銃のケースを大事そうに抱えている。
「一回くらい勝ってみたいです」
「応援する」
「はい!」
笑顔だった。
◇
その時。
体育館の入口が少しざわついた。
「ん?」
視線が集まる。
スーツ姿の女性が歩いてきた。
妻科カオリだった。
「お久しぶりです」
俺たちに軽く会釈する。
「カオリさん」
「学園祭期間中は協会側の窓口を担当します」
相変わらず仕事ができそうな人だ。
「武闘会も参加するんですか?」
「一応」
一応と言う人の目じゃなかった。
たぶん強い。
かなり強い。
◇
そして。
もう一人。
静かに体育館へ入ってきた女性がいた。
長い黒髪。
妖艶な笑み。
黒いコート。
鑪璃艶だった。
空気が少し変わる。
生徒たちも思わず視線を向けている。
「へぇ」
璃艶は体育館を見渡した。
「若い子がいっぱいね」
楽しそうだった。
だが。
俺の隣でシオンが僅かに眉をひそめる。
「シオンさん?」
「……なんでもないわ」
嘘だった。
絶対に何かある。
それでもシオンは何も言わない。
璃艶もこちらに気付いたらしい。
軽く手を振った。
「また会ったわね」
「どうも」
「武闘会、楽しみにしてるわ」
その言葉は昨日と同じだった。
なのに。
なぜか意味が違って聞こえる。
◇
『マスター』
ナナの声が響く。
「どうした?」
『警戒を推奨します』
「またか」
『はい』
即答だった。
『理由は説明できません』
『ですが、あの個体は危険です』
ナナがそこまで言うのは珍しい。
俺は璃艶を見る。
彼女は生徒たちと笑顔で話していた。
どう見ても普通だ。
普通なのに。
なぜか目が離せなかった。
「まあ」
俺は小さく息を吐く。
「学園祭までまだ時間はある」
『はい』
「様子を見るか」
『賛成します』
体育館では武闘会の受付が続いている。
りくは燃えている。
ひよりは緊張している。
天音は記録を取っている。
ユイ先輩は走り回っている。
学園祭は順調に近づいていた。
少なくとも表面上は。
その裏で何が動いているのか。
まだ誰も知らなかった。
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