第60話 なんか仲間が強すぎる
学園祭の企画会議が終わった翌日。
俺たちはいつものようにダンジョンへ来ていた。
配信もつけている。
場所は中層手前の探索エリア。
以前ならそれなりに危険だった場所だ。
今は――。
『配信開始を確認しました』
ナナの声が響く。
白銀の髪。
青い花の髪飾り。
最近は仮実体化したまま配信に映ることも増えた。
【しろまる:きた】
【クラゲ:いつもの】
【ねむ太:平和回だな】
コメント欄もだいぶ落ち着いている。
視聴者数は少ない。
だが、居心地は悪くない。
その時だった。
「おらぁぁぁ!」
りくが元気よく飛び出した。
復帰戦である。
まだ全快ではない。
だが本人は元気だった。
元気すぎた。
「りく! 前!」
「わかってる!」
ゴブリンの棍棒を避ける。
そして拳。
吹き飛ぶゴブリン。
続けて二体目。
三体目。
「復帰戦だぁぁぁ!」
【クラゲ:元気すぎる】
【しろまる:退院したばっかだろ】
【ねむ太:医者泣くぞ】
だが以前とは違う。
左腕の黒い腕輪。
《イージス・バングル》が淡く光る。
半透明の障壁が展開された。
飛んできた投石を弾く。
「おっ」
俺は思わず声を出した。
「ちゃんと使ってるな」
「当たり前だろ」
りくが笑う。
「せっかくもらったんだからな」
【クラゲ:防御してる】
【しろまる:成長した】
【ねむ太:感動】
「なんで感動されてるんだよ!」
普段の信用がないからだと思う。
◇
「先輩!」
ひよりが声を上げた。
「右です!」
俺が振り向く前に。
ぱんっ。
乾いた音が響く。
魔導銃から放たれた光弾。
茂みから飛び出したシャドウファングの鼻先へ直撃した。
「ギャンッ!?」
狼型モンスターがひるむ。
そのまま逃げていった。
「当たりました!」
「当たったな」
「当たりました!」
二回言った。
よほど嬉しいらしい。
《魔力視》。
ひよりの感知能力と魔導銃の相性は抜群だった。
敵を見つける。
狙う。
撃つ。
シンプルだが強い。
【しろまる:ひよりちゃん強い】
【クラゲ:普通に戦力】
【ねむ太:成長したなぁ】
「ありがとうございます!」
ひよりが胸を張った。
◇
「えいっ!」
今度は天音。
ぱんっ。
魔導銃の光弾。
見事に命中。
スライムが消滅する。
「やりました!」
「やったな」
「やりました!」
こっちも二回言った。
【クラゲ:かわいい】
【しろまる:最古参頑張ってる】
【ねむ太:戦えるようになったな】
「ありがとうございます」
天音もだいぶ配信に出ることに慣れしてきたらしい。
◇
その時。
通路の奥から重たい足音が響いた。
ずしん。
ずしん。
地面が微かに揺れる。
「ん?」
俺が視線を向ける。
現れたのは巨大なトカゲだった。
全長三メートル近い巨体。
灰褐色の鱗は岩そのもの。
太い四肢。
棍棒のような尻尾。
歩く岩壁みたいな姿だった。
『ロックリザードを確認』
ナナが即座に分析する。
『中層に生息する爬虫類型モンスターです』
『高い防御力を持ちます』
【クラゲ:出た】
【しろまる:岩トカゲ】
【ねむ太:硬いやつ】
「おお」
りくが嬉しそうに笑う。
「久々にまともな相手だな」
ロックリザードが低く唸る。
そして。
見た目に反して速かった。
巨大な身体で突進してくる。
「先輩!」
ひよりが声を上げる。
だが。
俺が動くより早く。
『排除します』
ナナだった。
空中に青白い魔法陣。
光。
轟音。
次の瞬間。
ロックリザードが吹き飛んでいた。
壁に激突。
沈黙。
討伐完了。
「……」
「……」
「……」
全員黙った。
【クラゲ:かわいそう】
【しろまる:ロックリザード君】
【ねむ太:出番終了】
【切り抜き職人:30秒で終わった】
『脅威を排除しました』
ナナは真顔だった。
「まあ」
俺は肩をすくめる。
「効率はいいな」
『ありがとうございます』
ロックリザードが少し可哀想だった。
◇
一時間後。
討伐数。
ナナ。
圧倒的。
りく。
二位。
ひより。
三位。
天音。
四位。
俺。
五位。
【しろまる:配信主(笑)】
【クラゲ:配信主は他世れだっけ?】
【ねむ太:見守ってた】
『最下位というの……』
「ナナ?」
『事実です』
最近容赦がない。
◇
帰還ゲートへ向かう途中だった。
前方から一人の女性が歩いてくる。
長い黒髪。
黒いコート。
妖艶な笑み。
歩いているだけなのに目を引く。
不思議な存在感だった。
「へぇ」
女性が笑う。
そして。
真っ直ぐ俺を見る。
「あなたが大豆島凪くん?」
「そうですけど」
「ふふ」
女性は楽しそうに微笑んだ。
「思ったより面白そうな子ね」
その瞬間。
ナナが黙った。
珍しい。
『マスター』
声が低い。
「どうした?」
『警戒を推奨します』
「え?」
『この個体は危険です』
俺は女性を見る。
相変わらず笑っている。
綺麗な笑み。
だが。
なぜか背筋が少し冷えた。
「自己紹介がまだだったわね」
女性は優雅に一礼する。
「鑪璃艶」
その名前に。
ひよりと天音が顔を上げる。
りくも目を丸くした。
「学園祭武闘会の」
「特別参加者だな」
りくが呟く。
璃艶は楽しそうに笑った。
「ええ」
「学園祭」
その瞳が俺を見る。
「楽しみね」
なぜだろう。
その一言だけなのに。
妙に意味深に聞こえた。
まるで。
武闘会だけを楽しみにしているわけではないような。
『マスター』
ナナの声が再び響く。
『嫌な予感がします』
「またか?」
『はい』
珍しい。
ナナがこんな曖昧な言い方をするなんて。
璃艶は微笑む。
その笑顔は美しい。
なのに。
どこか獲物を見つけた猛獣にも見えた。
「また会いましょう」
そう言って彼女は通り過ぎていく。
誰も言葉を発しなかった。
数秒後。
エイトが口を開く。
『うわぁ』
「何だよ」
『あれ絶対強いやつですよ』
「見れば分かる」
『しかも美人です』
「そこか」
『重要です』
重要らしい。
俺は振り返る。
璃艶の姿はもう見えない。
だが。
学園祭武闘会が少しだけ楽しみになった。
そして同時に。
少しだけ嫌な予感もしていた。
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