第6話 なんか管理AI(たぶん美少女)は国家機密らしい
「それでは、本題へ入らせていただきます」
協会職員の人が、ようやく話を戻した。
ちょっと疲れてそうだった。
たぶん俺達のせい。
「昨日の配信についてですが……」
「はい」
「まず確認です。現在、あなたと会話している存在は、本当に中央ダンジョン管理AIなのですね?」
『肯定します』
ナナが即答した。
職員の肩がびくっと震える。
なんかちょっとかわいそう。
「……失礼ですが、もう一度、識別コードを」
『Central Dungeon Management AI : No.07』
部屋の空気が変わった。
職員の人が黙る。
隣の職員も黙る。
ひよりも固まってる。
なんか。
空気が重い。
「えっと」
手を上げる。
「そんなヤバいやつなんですか?」
職員二人が、同時にこっちを見た。
「めちゃくちゃヤバいです」
「へー」
「へー、じゃありません!」
怒られた。
なんで。
シオンが肩を震わせる。
笑ってるなこれ。
「凪くん。中央管理AIっていうのはね」
「はい」
「ダンジョンそのものを制御する存在なの」
「ダンジョンを?」
「ええ。魔力循環、モンスター発生、転移管理、階層維持……全部」
「うわ」
なんか、急にすごそうになった。
『補足します』
「ん?」
『それらのタスクよりもマスターの危険因子を排除することが優先されるように再設定されました』
一瞬。
部屋が静かになる。
「え?」
職員が青ざめた。
シオンが片手で額を押さえる。
ひよりが固まる。
「ナナちゃん!?」
『はい』
「今さらっと怖いこと言いませんでした!?」
『マスターの保護は最優先事項です』
「重っ」
シオンが、深くため息を吐いた。
「……やっぱり」
「何がです?」
「その子、 凪くんにだけ甘すぎるのよ」
『否定します』
「説得力ないわね」
職員が咳払いする。
真顔だった。
「大豆島さん」
「はい」
「この件は、国家機密級案件です」
「うわぁ……」
めんどくさそう。
本当に。
「ですので、可能であれば配信活動の停止を――」
『拒否します』
早かった。
職員の言葉に、ナナが即答する。
「え?」
『マスターの行動制限は推奨されません』
「ナナ?」
『マスターは配信活動時、最も自然体に近い状態を維持しています』
「分析してるなぁ……」
『また、マスターは配信中に高確率で笑います』
一瞬、シオンが吹き出した。
ひよりも耐えきれず顔を逸らす。
職員だけ真顔。
「いや、えっと……」
『マスターの精神安定へ大きく寄与しています』
「なんか恥ずかしいんだけど」
『事実確認です』
シオンが、楽しそうにこっちを見る。
「ふふっ。配信してる時、ちゃんと楽しそうなのね」
「そうですか?」
「ええ。今よりずっと」
「それはちょっと失礼じゃない?」
ふと疑問に思う。
「そういえば」
「ん?」
「なんで二人ともここいるんです?」
ひよりが、ぱっと手を上げた。
「はい!」
「授業か?」
「私、シオンさんのお手伝いしてるんです!」
「へー」
「へー、じゃないです! 協会公認のサポートスタッフですよ!?」
「初めて知った」
「今初めて言いました!」
なんか元気だな。
シオンが笑う。
「ひよりちゃん、昔から私に懐いてるのよ」
「だってシオンさん、同じ学校の先輩ですし!」
「そうなの?」
「有名ですよ? 学校で知らない人いません!」
「へー」
「だからその反応なんなんですか!」
職員が、また咳払いする。
「氷鉋さんには、今回の件の監察協力をお願いしています」
「監察?」
「S級探索者として、危険性を判断していただき、場合によってはしかるべき対処を」
「へー」
「凪くん」
「はい」
シオンが、青い瞳を細める。
「来て正解だったわ」
「そうなんですか?」
「ええ」
その視線が、まっすぐこっちへ向く。
「こんな面白い子、初めてだもの」
『警告』
「また?」
『この個体は、マスターへの興味関心が過剰です』
「お前もだいぶ過剰だけどな」
『否定します』
早い。
ひよりが、なんか複雑そうな顔で俺を見る。
「先輩……」
「ん?」
「やっぱり、遠い人になってません?」
「なってない」
「でも、S級探索者と仲良く話して、国家機密AIに懐かれてるんですよ?」
『懐く、ではありません』
「違うの?」
『ナナは、マスターを最優先しています』
「それ、ほぼ同じでは?」
『否定します』
早い。
ひよりが、じーっとイヤホンを見る。
「なんか、前より重くなってません?」
『懐く=従順という意味なら肯定します』
「やっぱ認めてるじゃん!」
シオンが吹き出した。
「ふふっ……。本当にかわいいわね、その子」
『評価を確認しました』
「最近そればっかだな」
職員の人が、頭を抱えていた。
「……前例がない」
「へー」
「本当に危機感あります?」
「たぶんそのうちなんとかなるかなって」
「ならないんですよ!」
怒られた。
今日めっちゃ怒られるな。
シオンが笑ってる。
絶対楽しんでる。
その時……。
『警告』
「また?」
『現在、協会本部周辺に報道関係者が集結しています』
部屋が静かになった。
「……は?」
職員の顔が引きつる。
「なぜ分かるんですか?」
『監視中です』
「怖っ」
『マスター保護の一環です』
「怖っ」
二回言った。
ひよりが、おそるおそる聞く。
「えっと……。先輩、有名人になっちゃった感じですか?」
「いやだなぁ……」
心からそう思った。
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