第58話 なんか学園祭の計画は、だいたい脱線する
学園祭実行委員長に任命されてから三日後。
俺はいつものようにダンジョン配信をしていた。
場所は初級ダンジョン第三層。
出現するのはゴブリンやスライム程度。
今の俺からすると散歩コースみたいなものだ。
『配信開始を確認しました』
ナナの声が端末から響く。
今回は映像には映っていない。
本人いわく、
『学園祭まで温存です』
らしい。
何を温存するのかは知らない。
【しろまる:きたー】
【クラゲ:今日は平和枠?】
【ねむ太:ゴブリン君の命日】
コメント欄もいつもの顔ぶれだ。
そこへ、
「おーいナギ!」
りくが手を振った。
まだ本調子ではないが、リハビリも順調らしい。
黒い《イージス・バングル》も装着している。
「今日は学園祭会議だろ?」
「配信しながらな」
「いつものやつだな」
ひよりと天音も合流する。
「先輩、お疲れ様です」
「ナギさん、資料作ってきました」
「資料?」
「学園祭案です」
天音がクリアファイルを取り出した。
本当に作ってきたらしい。
【ぷにまる:仕事が早い】
【しろまる:お前本人だろ】
【クラゲ:セルフコメント草】
「まずは出店案です」
ひよりが手を上げた。
「ホットドッグ」
「無難」
「フライドポテト」
「無難」
「チョコバナナ」
「無難」
「でも学園祭っぽいです!」
ひよりは少し胸を張る。
確かにそうだ。
【ねむ太:チョコバナナいいな】
【クラゲ:学園祭感ある】
【しろまる:ひよりちゃん案かわいい】
ひよりが少し嬉しそうになる。
一方。
りくは腕を組んだ。
「いや、探索者学園だぞ?」
「うん」
「武闘会やろうぜ」
「武闘会」
「学園最強決定戦」
「絶対揉める」
「盛り上がるぞ?」
「それはそう」
りくらしい。
【クラゲ:見たい】
【しろまる:普通に見たい】
【ねむ太:りく案強い】
「私は展示です」
天音が言った。
「ナギさんの配信の歴史」
「嫌だ」
「登録者三人時代から現在まで」
「やめろ」
「初配信アーカイブ」
「やめろ」
「黒歴史もあります」
「絶対やめろ」
【ぷにまる:賛成】
【しろまる:お前本人だろ】
【クラゲ:見たい】
【ねむ太:展示希望】
味方がいない。
完全にいない。
『ナナは賛成です』
「ナナ?」
『マスターの偉大さを広める機会です』
「広めなくていい」
『広めます』
ナナまで乗り気だった。
すると。
『はいはいはーい!』
エイトが元気よく飛び出した。
『エイトちゃん案を発表します!』
「嫌な予感しかしない」
『コスプレ喫茶です!』
「帰れ」
『まだ何も言ってません!』
言わなくても分かる。
エイトは指を鳴らした。
『まず、りくちゃん!』
「おう?」
光が走る。
次の瞬間。
「……は?」
りくの服が変わった。
チアガールだった。
ミニスカート。
ポンポン付き。
健康的な褐色肌が無駄に映えている。
りくの顔が一瞬で真っ赤になる。
【しろまる:草】
【クラゲ:草】
【ねむ太:草草草】
【切り抜き職人:保存した】
「エイトぉぉぉぉ!?」
『似合ってます!』
「似合わねぇよ!!」
続いて。
『ひよりちゃん!』
「えっ」
光。
変身。
「きゃっ!?」
婦人警官だった。
しかも着崩れており、妙にポンコツそうな雰囲気。
「ど、どうでしょう……?」
ひよりがおずおず聞いてくる。
似合っていた。
悔しいけど似合っていた。
「似合う」
「っ!」
ひよりの顔も真っ赤になる。
【クラゲ:かわいい】
【しろまる:逮捕されたい】
【ねむ太:ポンコツ感ある】
【ぷにまる:かわいい】
ひよりは完全に固まった。
そして。
『天音ちゃん!』
「え?」
光。
変身。
「なっ!?」
ナース服だった。
白衣風のワンピース。
赤いフレーム眼鏡との相性が妙にいい。
「ど、どうですか……」
天音まで聞いてくる。
「似合ってる」
「ありがとうございます」
即答だった。
でも耳まで赤い。
【しろまる:強い】
【クラゲ:ナース強い】
【ねむ太:最古参が攻めてきた】
配信は大盛り上がりだった。
その時。
ふっと画面の端に光が現れた。
白銀の髪。
青白い瞳。
そして。
黒と白のメイド服。
【クラゲ:!?】
【しろまる:!?】
【ねむ太:!?】
コメントが一斉に流れた。
ナナだった。
「ナナ?」
『マスター』
「なんでメイド服」
『マスターによろこんでほしいからです』
真顔だった。
だから余計に破壊力が高い。
白銀の髪に青い花の髪飾り。
メイド服。
青白い瞳。
どう見ても美少女だった。
【かわいい】
【かわいい】
【かわいい】
【かわいい】
コメント欄が埋まる。
【クラゲ:待って】
【しろまる:今映ったよな】
【ねむ太:ナナちゃん実体化してる?】
【ぷにまる:え?】
コメントがざわつく。
だが。
【しろまる:まあエイトちゃんもいるし】
【クラゲ:今さらか】
【ねむ太:ありえなくはない】
【名無し探索民:技術進歩すごいな】
思ったより受け入れられた。
エイトが日頃から好き勝手しているせいである。
『ふふん』
エイトが胸を張る。
すると。
【ナナちゃんの方がかわいい】
誰かのコメントが流れた。
空気が止まった。
『……は?』
エイトが固まる。
【正直ナナちゃん派】
【白銀髪強い】
【美少女すぎる】
【ナナちゃんかわいい】
【エイトちゃんより好き】
追撃。
『……』
エイトが震えた。
笑顔のまま震えていた。
『みなさん』
怖い。
『エイトちゃんは傷つきました』
【草】
【草】
【草】
『傷ついたので』
エイトがにっこり笑った。
『配信終了です!』
「待て」
ぶつん。
画面が真っ暗になった。
配信終了。
強制終了。
コメント欄ごと消滅した。
沈黙。
数秒後。
『……ナナ』
『はい』
『次回は勝負です』
『受けて立ちます』
なぜかAI同士の対決が始まっていた。
学園祭の話し合いは。
結局ほとんど進まなかった。
いつものことだった。
お読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムでも連載中です。
続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




