第56話 美少女AIにプレゼントをしたらなんか夫婦判定された
退院祝いの翌日。
俺は、探索者向けの装備店に来ていた。
駅前の雑居ビル、その地下二階。
店の名前は《アルカナ・ギア》。
武器、防具、魔導具、回復薬。
ダンジョン探索に必要なものなら、だいたい揃っているらしい。
店内へ入ると、金属と魔石が混ざった独特の匂いがした。
探索者らしい客も多い。
俺たちも、その中へ自然に溶け込む。
今回、装備を買うことにした理由は単純だった。
《Leviathan》との死闘。
協会本部で起きた騒動。
暴走したシオン。
重傷を負ったりく。
あの時は、運が良かっただけだ。
誰か一人欠けていても、おかしくなかった。
正直、これから先も何が起きるか分からない。
ナナのこと。
旧施設のこと。
面倒ごとは、たぶん終わっていない。
そして――。
俺が「危ないから来るな」と言ったところで。
りくは来る。
ひよりも来る。
天音も、たぶん来る。
シオンだって放っておけない。
だったら、もう諦めるしかない。
なんだかんだ言って。
俺は今のこのメンバーが嫌いじゃない。
むしろ、かなり気に入っている。
だからこそ。
少しでも安全に。
少しでも無事に帰れるように。
装備くらいは整えておきたかった。
『マスター』
「ん?」
『今の思考は重要です』
「勝手に思考を読むなよ」
『マスターが仲間を大切にしているという事実はナナにとって重要な要素です』
「別にそんな大げさな話じゃない」
『ナナは高く評価します』
「評価するな」
『します』
そんなやり取りをしながら店内を歩く。
今日は全員いる。
りく。
ひより。
天音。
シオン。
そしてナナ。
エイトもいるけど、あいつは数に入れなくていい気がした。
『ひどくないですか!?』
「聞いてたのか」
『常時聞いてます!』
怖い。
◇
「まずは、りくだな」
「オレ?」
りくはまだ長時間歩けないため、杖をついていた。
本人は嫌そうだ。
「武器はいらないよな」
「なんでだよ」
「りくに強い武器を渡したら無茶する」
「信用ないな」
『妥当です』
「ナナまで!」
結局、防御用魔導具の棚へ向かう。
そこで見つけたのは派手な装飾の黒い腕輪だった。
《イージス・バングル》
魔力障壁を展開する防御用魔導具。
店員の説明を聞いたあと、俺は即決した。
「りくはこれだな」
「オレ向きか?」
「向いてる」
「なんか複雑だな」
「防御を覚えろ」
「善処する」
『信用できません』
「お前ら厳しいな!?」
でも、りくは嬉しそうだった。
腕輪を装着して何度も眺めている。
格好いいのは大事らしい。
◇
次はひよりと天音。
二人には、自衛用の魔導銃を選んだ。
銃と言っても実弾ではない。
魔力を弾丸状にして発射する補助魔導具だ。
「かわいい……」
ひよりは白と水色の小型モデルを手に取った。
どちらかというと玩具みたいな見た目だ。
『ひよりさんとの相性は良好です』
「本当ですか?」
『はい。《魔力視》との連携も可能です』
協会本部ではひよりの《魔力視》に助けられた。
これまで戦闘力は皆無だったが、せめて護身用に魔導銃ぐらいはもってほしかった。
《魔力視》との連携も可能ということなら心強い。
一方、天音はゴテゴテとした装飾がついた黒と赤の細身モデルを選んでいた。
「こっちにします」
「見た目?」
「見た目です」
「即答だな」
「もちろん性能も見ました」
『天音さんは比較表を作成済みです』
「ナナちゃん!?」
「さすが最古参」
「関係ありません!」
でも嬉しそうだった。
ケースを抱えている姿が分かりやすい。
◇
最後はシオン。
「私は必要ないわ」
予想通りだった。
「協会支給品があるし」
「じゃあ実用品じゃなくていいです」
「え?」
俺は衣類コーナーへ向かう。
そこで見つけた。
紺色のショートマント。
銀色の刺繍入り。
防寒と魔力耐性付き。
そして何より――。
似合いそうだった。
「これ」
「私に?」
「はい」
シオンは少し驚いた顔をした。
「似合うと思うので」
言ったあとで少し恥ずかしくなった。
シオンは数秒黙ったあと、ふっと笑った。
「そういうことを自然に言うのね」
「何がです?」
「なんでもないわ」
マントを羽織る。
やっぱり似合っていた。
「どうです?」
「気に入ったわ」
その笑顔は、本当に嬉しそうだった。
『シオンの好感度上昇を確認』
「ナナ」
『はい』
「言わなくていい」
『なぜですか』
「なんとなく」
シオンが笑っている。
たぶん伝わってない。
◇
会計へ向かう。
思ったより高い。
考えないことにした。
その時だった。
袖が引っ張られる。
『マスター』
ナナだった。
「何?」
『ナナには、ありませんか』
少しだけ視線が泳いでいる。
珍しい。
「欲しいものあるの?」
『特にありません』
即答。
でも。
視線は小物棚へ向いていた。
「嘘だな」
『嘘ではありません』
「見てるぞ」
そこにはアクセサリーが並んでいた。
そして。
一つだけ目に入った。
白銀の土台。
青い花を模した髪飾り。
中心には小さな透明魔石。
ナナの瞳と似た色だった。
「これ」
『……ナナに、ですか』
「うん」
ナナは固まった。
本当に固まった。
CPU使用率が上がってそうだった。
「つけてみるか」
俺は髪飾りを手に取る。
ナナが少しだけ緊張した顔になる。
白銀の髪へそっと留める。
青い花が揺れた。
綺麗だった。
驚くほど似合っていた。
「うん」
俺は頷く。
「似合ってる」
ナナの瞳が大きく開いた。
『マスター』
「何?」
『もう一度お願いします』
「何を」
『今の評価です』
「似合ってる」
『もう一度』
「何回言わせるんだ」
『重要です』
ひよりたちが見ている。
りくは笑いそうになっている。
天音は尊いものを見る目をしている。
シオンさんは優しく微笑んでいた。
俺は観念した。
「ナナ」
『はい』
「すごく似合ってる」
数秒。
ナナは動かなかった。
それから。
そっと髪飾りへ触れる。
『ありがとうございます』
声が少しだけ柔らかかった。
『マスターから初めてもらった装飾品です』
「そんな大げさな」
『大げさではありません』
ナナは首を振った。
『ナナは、この髪飾りを永久保存します』
「消えないのか?」
『仮実体化解除後も、データとして保存可能です』
「便利だな」
『失うことは許容できません』
「そこまでか」
『そこまでです』
そして。
ナナは少しだけ俺の隣へ寄った。
本当に少しだけ。
『マスターからのプレゼントは、とても嬉しいです』
その言葉に。
ひよりが羨ましそうな顔をし。
天音が小さく悔しそうにし。
シオンさんが優しく笑った。
りくだけは、
「お前ら夫婦みたいだな」
と余計なことを言った。
『夫婦判定について詳細を要求します』
「食いつくなナナ!」
店内に笑い声が広がる。
装備を整えるだけのつもりだった。
でも。
みんなが少しだけ強くなって。
少しだけ安全になって。
ナナがあんな顔をしたなら。
今日の買い物は大成功だったと思う。
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