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配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第三章 キャンプ場でのドキドキ潜伏生活

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第42話 協会本部は、なんかいつも歓迎してくれない

探索者協会本部に来るのは、これが初めてではない。


 以前来た時も、広くて、きっちりしていて、いかにも組織の中心という感じの場所だった。


 けれど。


 今日の協会本部は、前とはまるで空気が違っていた。


 入口の警備員が、俺たちを見た瞬間に姿勢を正す。


 受付の奥にいた職員たちが、一瞬だけ会話を止める。


 行き交う探索者たちの視線が、こちらに刺さる。


 歓迎、という感じではない。


 観察。


 警戒。


 もっと言えば、厄介なものが来た、という目だった。


「……前に来た時より、ずいぶん空気が重いな」


『当然です』


 ナナの声が、端末から低く響く。


『マスターは現在、重要監察対象です』


「言い方がいちいち重い」


『事実です』


 隣を歩くシオンさんは、何も言わなかった。


 白いコート。


 黒い服。


 腰に下げた《氷葬細剣 フリーレン・ローズ》。


 いつもなら余裕のある笑みを浮かべている人なのに、今日は表情が硬い。


 俺たちをここへ連れてきた本人なのに、まるで自分も連れてこられたみたいだった。


「凪くん」


「はい」


「この先では、余計なことは言わない方がいいわ」


「それ、俺にとって一番難しいやつですね」


「自覚はあるのね」


「多少は」


『多少では不十分です』


 ナナが即座に言う。


 エイトのホログラムが、俺の肩の少し上にふわっと出た。


『はいはい、みなさん落ち着いてー。協会本部に来ただけです。まだ何も起きてません。まだ、ね!』


「最後の一言が不安なんだよ」


『フラグ管理は大事ですので!』


 俺たちは受付を通され、奥のエレベーターへ案内された。


 案内役の職員は、俺の顔を一度見てから、すぐに視線を逸らした。


 なんだその反応。


 こっちはまだ何も壊してないぞ。


 たぶん。


「先輩」


 ひよりが小声で俺の袖を引いた。


「この建物、少し変です」


「変?」


「魔力の流れが、普通の施設と違います。壁の奥に、青白い線みたいなのが見えます」


 ひよりの瞳に、淡い光が揺れている。


 《魔力視マナサイト》。


 本人はのほほんとしているが、その目はかなり頼りになる。


「ダンジョンに似てるってことか?」


「はい。でも、ダンジョンそのものじゃなくて……古い機械みたいな感じです」


『旧施設由来の設備が組み込まれている可能性があります』


 ナナの声が、さらに低くなった。


「協会本部に?」


『探索者協会が旧施設の情報を一部把握しているなら、不自然ではありません』


「なるほど。つまり怪しいわけだ」


『はい』


 即答だった。


 りくが拳を握る。


「なら、何かあったらぶっ壊せばいいな」


「本当に単純だな」


「でも、わかりやすいだろ?」


「まあ、わかりやすい」


 天音が赤いフレームの眼鏡を押し上げた。


「できれば壊さない方向でお願いします。協会本部破壊事件は、さすがに切り抜きタイトルとして強すぎます」


「切り抜くな」


「き、切り抜きませんよ。……たぶん」


「たぶん?」


 そんなやり取りをしているうちに、エレベーターが止まった。


 地下。


 扉が開く。


 そこは、白い通路だった。


 床も壁も天井も白い。


 照明だけが妙に明るい。


 病院にも、研究所にも見える。


 案内役の職員が立ち止まった。


「大豆島凪さん。こちらへ」


「俺だけ?」


「まずは基礎検査を行います。同行者の方々は待機室でお待ちください」


 りくがすぐに前へ出る。


「待てよ。ナギだけ連れて行くのか?」


「規定です」


「規定って便利な言葉だな、おい!」


 りくの声が低くなる。


 だが、シオンさんが片手を上げて制した。


「りくちゃん。ここは従って」


「でも」


「大丈夫よ。少なくとも、今すぐ危害を加えるような真似はしないはずだから」


「その言い方、全然安心できねぇんだけど」


「私も安心はしていないわ」


 シオンさんは淡々と言った。


 それが逆に怖い。


 ひよりが不安そうに俺を見る。


「先輩……」


「大丈夫。検査だけだろ」


『その“大丈夫”は信用できません』


「ナナ、今のは普通の大丈夫だ」


『信用できません』


「厳しい」


 天音までじっと俺を見ている。


「ナギさん。声、軽いです」


「天音まで」


「最古参なので」


 なんだその無敵の肩書き。


 俺は小さく息を吐いた。


「本当に、何かあったらすぐ呼ぶ」


『ナナが常時監視します』


『エイトちゃんもいますよー。検査室実況はお任せください!』


「実況するな」


 俺は職員に案内され、白い扉の向こうへ入った。


 検査室の中も、やっぱり白かった。


 中央に椅子。


 その周囲を囲むように、いくつもの機械。


 壁にはモニター。


 天井には、円形のスキャナーらしきもの。


「上着を脱いで、こちらの検査着に着替えてください」


「検査着」


 渡されたのは、薄い灰色の服だった。


 病院で着るようなやつに近い。


『マスターへの過剰接触を確認した場合、即座に抗議します』


「まだ着替えろって言われただけだ」


『警戒は必要です』


『検査着イベントですか? サービス回ですか?』


「男の検査着でサービスになるか」


『需要は多様です!』


「黙ってろ」


 職員が微妙な顔をした。


 やめろ。


 俺だって好きで端末とホログラムにツッコミを入れてるわけじゃない。


 検査着に着替えて椅子に座る。


 冷たい金属の感触が背中に触れた。


 右手を専用の台に置くよう指示される。


「旧施設関連反応の確認を行います」


「確認だけですよね?」


「現時点では」


「現時点では、って言葉やめてもらっていいですか」


 返事はなかった。


 機械が低く唸る。


 俺の右手に、白い光が当たった。


 最初は何も起きなかった。


 モニターに数字が並ぶ。


 職員が眉をひそめる。


「魔力値、通常範囲内。身体反応、異常なし。旧施設信号、微弱……」


 そこで、言葉が止まった。


 俺の右手の甲が、熱を持った。


「……っ」


『マスター?』


 ナナの声が鋭くなる。


 皮膚の奥で、何かが脈打つ。


 青白い光。


 それは、前にも見た。


 地下湖で。


 《Leviathan》を前にした時に。


 俺の右手に、青白い紋章が浮かび上がった。


 検査装置が、甲高い音を立てる。


 モニターの数字が一斉に跳ね上がった。


「反応増大!」


「旧施設信号、規定値を超過!」


「接続先、不明!」


『検査を中止してください』


 ナナの声が、冷たく響いた。


『今すぐ、マスターから機器を離してください』


 だが、職員たちは動けない。


 次の瞬間。


 部屋の照明が赤く染まった。


 協会本部の警報が、一斉に鳴り響いた。

お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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