表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第三章 キャンプ場でのドキドキ潜伏生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/71

第40話 シオン外伝③氷姫の決断

探索者協会本部。


 地下査問室。


 白い壁。


 白い机。


 白い照明。


 そこには、温度というものがなかった。


 氷鉋シオンは、椅子に座っていた。


 向かい側には、協会の監査官が三人。


 その後ろには記録係。


 全員が、冷たい目をしている。


 慣れている。


 S級探索者になってから、何度もこういう視線は向けられてきた。


 期待。


 警戒。


 恐怖。


 利用価値。


 そのどれか。


 けれど、今日の視線は少し違った。


 裁く側の目だった。


「氷鉋シオン」


 中央の監査官が口を開く。


「本日付で、君のS級探索者資格を一時停止する」


 白い部屋に、その言葉だけが落ちた。


 シオンは表情を変えなかった。


「理由を伺っても?」


「協会への報告義務違反。第六層における独断行動。大豆島凪との接触における中立性の欠如。そして、戦闘能力値の異常変動に伴う安全確認だ」


 淡々と読み上げられる。


 まるで、あらかじめ用意された文章を処理しているだけのようだった。


「第六層での独断行動については、報告書を提出しています」


「報告が遅い」


「救護対象がいました」


「上ケ屋アリスの件か」


 監察官の一人が資料をめくる。


「未成年探索者が危険区域に侵入し、負傷した。現場には君がいた」


「彼女は私の指示で第六層へ来たわけではありません」


「だが、結果として負傷した」


「私が救助しました」


「救助した事実と、管理責任は別だ」


 言葉が、冷たい刃のように返ってくる。


 シオンは静かに息を吸った。


 感情を出してはいけない。


 この場では、感情を見せた方が負ける。


「それで」


 シオンは監察官を見る。


「本題は、大豆島凪くんですか」


 室内の空気が、わずかに変わった。


 正解だったらしい。


「大豆島凪は、現時点で協会の最重要監察対象だ」


「知っています」


「君には、彼の危険性を判断する役割が与えられていた。S級探索者として、必要なら対処することも含めて」


「はい」


「だが、君の報告書には彼を危険視する記述が少ない。むしろ、擁護する内容が目立つ」


「現場で見た事実を書きました」


「情が移ったのではないか」


 シオンは、すぐには答えなかった。


 大豆島凪。


 低い声。


 気の抜けた態度。


 なのに、誰よりも危険な場所へ踏み込む少年。


 彼を危険ではないと言うつもりはない。


 むしろ危険だ。


 あの力も。


 彼の周りに集まるものも。


 そして、彼自身が無自覚に抱えている何かも。


 だが。


「大豆島凪は、危険因子ではあります」


 シオンは言った。


「ですが、同時に保護対象です。少なくとも現時点で、制圧対象ではありません」


「それを判断するのは君ではない」


「現場で判断するために、私を配置したのでは?」


 監査官の眉がわずかに動いた。


 記録係の指が止まる。


「言葉には気をつけたまえ」


「事実です」


 シオンは目を逸らさなかった。


 その時、別の監査官が資料を一枚持ち上げた。


「君だけの問題ではない」


「……何の話ですか」


「穂保ひより」


 その名前が出た瞬間。


 シオンの指先が、ほんのわずかに動いた。


「彼女にも、協会公認サポートスタッフとして監察補助の役割が与えられていた」


「ひよりさんは、私の補助として現場にいただけです」


「彼女の《魔力視》は高レベルの感知スキルだ。大豆島凪の魔力異常、適応反応、旧施設との接続兆候。それらを観測する役割としては十分に有用だ」


「彼女は、その任務の本質を理解していませんでした」


「理解していなかったで済む話ではない」


 監察官の声が少し硬くなる。


「彼女の報告にも、大豆島凪を危険視する記述はほとんどない。むしろ、彼を信頼しているような記述が散見される」


「それは、彼女が現場を正しく見たからです」


「君の影響を受けた可能性もある」


「ありません」


 即答だった。


 それまで平静だったシオンの声に、初めて明確な硬さが混じる。


「ひよりさんは関係ありません」


「関係ないとは言えない。彼女も協会に登録されたサポートスタッフだ」


「彼女はまだ学生です。協会の命令を十分に理解していたとは言えません」


「それを言うなら君もまだ学生だろう。それだけでは彼女に責任能力がないとは言えないな」


「責任を問うなら、私に問うべきです」


 シオンはまっすぐ監察官を見た。


「現場責任者は私です。監察判断も、報告内容も、すべて私の責任です」


「穂保ひよりを庇うのか」


「庇うのではありません。事実を述べています」


「では、君が責任を負うと?」


「はい」


 短く答えた。


 迷いはなかった。


 ひよりは、自分を慕ってくれる後輩だ。


 同じ学校の後輩。


 少し抜けていて、素直で、危なっかしい。


 協会の思惑など、深く理解していたはずがない。


 それを利用したのは、協会側だ。


 ならば。


 彼女に刃を向けさせるわけにはいかない。


「よろしい」


 中央の監察官が、ゆっくりと書類を閉じた。


「では、氷鉋シオン。君のS級探索者資格一時停止は正式に受理される」


 シオンは黙って聞いた。


「ただし、解除の道がないわけではない」


「条件は?」


「大豆島凪を協会本部へ連れてこい」


 空気が、一段冷えた。


「任意同行だ。聴取に応じさせろ」


「彼が拒否した場合は?」


「必要に応じ、君の判断で制圧しても構わない」


 シオンは、ほんの少しだけ目を細めた。


「凪くんを、ですか」


「彼は危険だ」


「まだ、そう決まったわけではありません」


「だから確認する」


 監察官は、淡々と言った。


「彼が危険ではないという君の判断が正しいのなら、君自身の手で証明しろ」


「……」


「それに」


 別の監察官が、低い声で続けた。


「君の両親の死についても、再調査が進んでいる」


 シオンの呼吸が、わずかに止まった。


 氷鉋家。


 両親。


 失った日。


 そして、姉の背中。


 忘れたことなど、一度もない。


「その情報も、審査結果によっては開示可能になるかもしれない」


「……それを、取引材料にするのですか」


「協会は、協力者に対して必要な情報を提供する」


 吐き気がするほど、整った言い方だった。


 怒りが胸の奥に立ち上がる。


 だが、シオンはそれを凍らせた。


 ここで怒れば、ひよりにも火の粉が及ぶ。


 ここで拒めば、凪にも手が伸びる。


 そして、両親の死の真相も遠のく。


「命令書を」


 シオンは言った。


 監察官が一枚の書類を差し出す。


 そこには、簡潔な文字が並んでいた。


【対象:大豆島凪】


【任務:協会本部への任意同行】


【必要に応じ、戦闘制圧を許可】


 紙が、ひどく重く感じた。


 凪くんを敵だとは思っていない。


 けれど、協会は彼を危険だと言う。


 ひよりさんを守るため。


 両親の死の真相へ近づくため。


 そして、彼が本当に危険ではないと証明するため。


 私は。


 氷姫は。


 彼の前に立たなければならない。


「……ごめんなさい、凪くん」


 誰にも聞こえないほど小さく、シオンは呟いた。


 命令書を握る指先に、白い霜が走る。


 胸の奥で、氷が軋む音がした。


 彼を守りたい。


 けれど。


 彼を守るために、私は彼へ刃を向けなければならない。


お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ