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配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第三章 キャンプ場でのドキドキ潜伏生活

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第39話 キャンプの終わり際はなんか名残惜しい

 隠れ家キャンプ場で過ごし始めて、一週間が経った。


 その間、俺たちは思っていた以上に普通のキャンプ生活を送っていた。


 朝は川の音で起きる。


 昼は飯を作ったり、森を歩いたり、りくに付き合わされて山道をトレッキングしたりした。


 夜は焚き火を囲んで、どうでもいい話をする。


 ダンジョンの中で。


 人工の空の下で。


 たまに小型モンスターが出る場所で。


 普通、という言葉が合っているのかは分からない。


 でも、少なくとも俺たちは、それなりに穏やかな一週間を過ごしていた。


 もちろん、その裏で何もなかったわけではない。


『現在、世間の主流意見は“ナギの配信はAI生成フェイク動画だった説”へ移行中です』


 朝食後。


 エイトが、空中にニュースサイトやSNSの反応をいくつも表示しながら言った。


「そんな説、誰が流したんだよ」


『エイトちゃんです!』


「堂々と言うな」


『だって、その方が都合いいじゃないですか。旧施設とか《Leviathan》とか、適応済み個体とか、世界の秘密とか、全部本物ですって言うより、“AIで作ったフェイク動画でした”の方がみんな安心するんですよ』


「嫌な安心だな」


『人類は、理解できない真実より、わかりやすい嘘を好みます』


 エイトが急にそれっぽいことを言う。


「たまにまともなこと言うな」


『照れますね』


「褒めてない」


 その横で、天音が赤フレーム眼鏡を押さえながら震えていた。


「ナギさんの配信は本物です! 全部本物なんです! なのに……なのに、AIフェイク扱い……!」


「いや、今回はその方が助かるだろ」


「理屈ではわかっています。でも、最古参としては複雑です!」


『マスターの安全確保が最優先です』


 ナナの声が静かに入る。


『マスターに関する報道量は、この一週間で大幅に減少しました。マスコミの主要な関心事は現在、有名探索者の二股交際疑惑へ移行しています』


「何それ」


『S級一歩手前の男性探索者が、同じパーティー内の女性二名と同時に交際していた可能性が浮上しています』


「情報が生々しいな」


『人類は世界の秘密より恋愛スキャンダルが好きなのです』


 エイトがうんうんと頷いた。


「嫌な納得感がある」


「二股はよくないです!」


 ひよりが真面目な顔で言う。


「そうだな」


「ちゃんと一人の人を大事にしないと……」


 言いながら、なぜかちらっとこっちを見る。


「何で俺を見る」


「い、いえっ、一般論です!」


 りくも腕を組んで頷いた。


「ナギはそのへん大丈夫だよな?」


「何が」


「いや、なんか、周りに女の子多いし……」


「お前らが勝手に集まってるんだろ」


「勝手って言うな!」


 りくが頬を膨らませる。


 天音もすぐに身を乗り出した。


「私は自分の意思で現地参戦しています!」


「だから怖いんだよ」


『マスターの周辺における恋愛的密度は高値を維持しています』


「ナナまでやめろ」


『事実です』


 朝から騒がしい。


 でも、この騒がしさも今日で終わりらしい。


     ◇


『マスター』


 ナナの声が、少しだけ改まった。


『マスコミの熱は十分に低下しました。一般報道、まとめサイト、動画配信者の関心も低下傾向です』


「つまり?」


『本日中に帰還可能です』


 その言葉に、少しだけ場が静かになった。


 帰れる。


 もともと、ここは隠れるための場所だった。


 いつまでもいる場所ではない。


 それはわかっている。


 わかっているのに、なんとなく空気が変わった。


「……帰るのか」


 りくがつぶやいた。


「まあ、学校もあるしな」


「そうだけどさ」


 りくは川の方を見る。


「次は、もっと普通に遊びに来ようぜ。逃げるためじゃなくてさ」


「ここ、ダンジョンだけどな」


「もう慣れたって言っただろ」


 りくは笑った。


 少しだけ寂しそうだった。


「先輩」


 ひよりが、片付けた食器を抱えながら言う。


「私も、また来たいです」


「気に入ったのか?」


「はい。怖いこともありましたけど……楽しかったです」


 ひよりは小さく笑った。


「川遊びも、花火も、みんなでご飯を食べたことも。全部、楽しかったです」


「そうだな」


「次は、もっとちゃんと料理を準備してきますね」


「十分うまかったけどな」


「っ……ありがとうございます」


 ひよりは嬉しそうに俯いた。


 天音はすでにメモ帳を開いていた。


「次回来る時は、持ち物リストを作ります。テント設営手順、調理器具、虫対策、非常食、予備の眼鏡、防水カメラ、ナギさん観察ノート……」


「最後いらない」


「いります!」


「防水カメラも怪しい」


「思い出を残すためです!」


『ナナはこのダンジョンの盗撮防止機能を強化します』


「ナナちゃん!?」


 エイトが空中でくるっと回る。


『次回、隠れ家キャンプ第二弾! 乞うご期待!』


「配信しないからな」


『もちろんです。心のサムネです』


「天音みたいなこと言うな」


「心のサムネは大事です!」


「同調するな」


 騒がしい。


 最後まで騒がしい。


 でも、それでよかった。


     ◇


 撤収は、思ったより早く終わった。


 テントを畳む。


 荷物をまとめる。


 焚き火の跡を片付ける。


 川辺に忘れ物がないか確認する。


 最初に来た時より、みんな手際がよくなっていた。


 一週間もいれば、少しは慣れるらしい。


『マスター』


「ん?」


 帰還用の転移地点の前で、ナナが声をかけてきた。


『この場所は、マスターの療養と保護を目的として再稼働しました』


「うん」


『結果として、マスターは一定の休息を得ました』


「そうだな」


『観測上、マスターが笑う頻度も増加しています』


「そうなのか」


『はい』


 少し間があった。


『マスターが楽しそうでした』


 その声は、いつもの報告口調に近い。


 でも、少しだけ違った。


 ナナ自身が、それを大事にしているみたいに聞こえた。


「楽しかったよ」


 俺は言った。


「ここに来てよかった」


『……そうですか』


 短い返事。


 でも、声が少し柔らかい。


『それなら、この場所を用意した意味がありました』


「ああ」


『マスター』


「何?」


『また、ここへ来てくれますか』


 その問いは、少しだけ不安そうだった。


 俺は振り返る。


 人工の空。


 森。


 川。


 焚き火跡。


 花火をした川辺。


 肝試しで歩いた森の奥。


 楽しいだけじゃなかった。


 怖いこともあった。


 面倒な伏線も増えた。


 それでも。


「来るよ」


 俺は答えた。


「次は、隠れるためじゃなくてな」


 少しだけ沈黙。


『……はい』


 ナナの声が、嬉しそうに揺れた。


『予約として記録しました』


「記録好きだな」


『重要情報です』


「そうか」


『はい』


 俺は少し笑った。


「じゃあ、帰るか」


『はい。帰還転移を開始します』


     ◇


 一週間ぶりに、現実へ戻った。


 場所は、県立深界原高等学校の敷地内。


 人目につきにくい校舎裏だった。


 夕方の空。


 本物の風。


 遠くから聞こえる車の音。


 人工のキャンプ場とは違う、現実の匂いがした。


「戻ってきたな」


 りくが伸びをする。


「なんか、変な感じです」


 ひよりが小さく言う。


「一週間だけなのに、すごく久しぶりみたいです」


「わかります」


 天音が頷いた。


「そして校門前にマスコミがいません!」


「それが普通なんだよ」


『マスコミ、野次馬、迷惑配信者の反応は確認されません』


 ナナが言う。


『少なくとも、表面上の騒動は沈静化しています』


「表面上、か」


『はい』


 その言い方が少し気になった。


 だが、深く聞く前に。


 俺の端末が震えた。


「……ん?」


 画面を見る。


 差出人は、探索者協会本部。


 件名には、こう書かれていた。


【氷鉋シオンのS級探索者資格一時停止に関する通達】


「……シオン?」


 嫌な予感がした。


 S級探索者資格の一時停止。


 あの氷姫に、そんな言葉が結びつくとは思えなかった。


 ひよりが不安そうに俺を見る。


「シオンさんに、何かあったんでしょうか」


 りくの表情も少し変わる。


「協会本部からって、普通じゃないよな」


 天音が赤いフレームの眼鏡を押さえた。


「資格一時停止……かなり重い言葉です」


 ナナの声が、少しだけ低くなる。


『マスター。これは、無視できません』


「だよな」


 隠れ家キャンプは終わった。


 マスコミの騒ぎも、ひとまず遠ざかった。


 でも、日常が戻ってきたわけじゃない。


 俺たちはまた、別の面倒ごとへ引き戻されようとしていた。

お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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