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配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第三章 キャンプ場でのドキドキ潜伏生活

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第35話 焚き火の前では、なんかだいたい本音が漏れる

 夜。


 人工の空に星が浮かんでいた。


 本物ではない。


 ホログラム。


 それでも、キャンプ場の空気と焚き火の匂いが混ざると、妙にそれらしく見える。


 ぱちぱちと薪が爆ぜる。


 火の粉がふわっと舞い上がる。


 その周りに、俺たちは座っていた。


「キャンプっぽいな」


 思わず呟く。


「キャンプだろ」


 りくが当然みたいに言った。


 今日は黒いタンクトップにショートパンツ。


 昼間より少し薄手のパーカーを羽織っている。


 焚き火の光に褐色の肌が照らされて、いつもより少し大人びて見えた。


「ダンジョンだけどな」


『安全性は確保しています』


 ナナが言う。


『周囲三百メートル以内に大型モンスター反応はありません』


「大型は、か」


『小型はいます』


「いるのかよ」


『ダンジョンですので』


「それはそうだけどな……」


「細かいこと気にすんなって」


 そう言うとりくが豪快に笑う。


 心底楽しそうだった。


 その横で、天音がうっとりと空を見上げていた。


 赤フレーム眼鏡に焚き火の光が映っている。


 今夜はゆったりしたパーカーにロングスカート。


 膝にはブランケット。


 昼間の川遊びとは違って、完全に夜キャンプモードだった。


「でも、すごいです。ダンジョンの中で焚き火して、星を見てるんですよ。これ、配信してたら絶対バズってました」


「配信は休止中だ」


「分かってます。でも、心の中ではサムネ作ってます」


「作るな」


『タイトルは“深層ダンジョンで焚き火したら、星空が綺麗すぎた件”ですね』


 エイトが空中でくるりと回る。


 今日は白とブルーのアウトドアパーカー姿だった。


 赤いボブ髪の半透明ホログラムが、焚き火の光を受けて淡く揺れている。


「勝手に動画にするな」


『視聴率は高そうです』


「配信休止中だって言ってるだろ」


『古のネット民ならこう言いますね。うp主失踪中』


「失踪してない」


 エイトは楽しそうに笑って誤魔化した。


 騒がしい。


 でも、この騒がしさにもだいぶ慣れてきた。


     ◇


「はい、先輩」


 ひよりがマグカップを差し出してきた。


 中には温かいココアが入っている。


 甘い香りがした。


「ありがとう」


「熱いので気をつけてくださいね」


 ひよりは淡いピンクのパーカーに、膝丈のスカート。


 上からブランケットを羽織っている。


 焚き火の前で両手を膝の上に置いて座る姿が、妙に絵になっていた。


「ひよりは本当に気が利くな」


「そ、そんなことないです。ただ、夜は冷えるかなって思って……」


 顔が赤い。


 焚き火のせいだけじゃない気がする。


『後輩個体による飲料提供。好感度上昇行動です』


「ナナ」


『事実です』


「分析しなくていい」


「ナナちゃん……!」


 ひよりがマグカップを抱えたまま固まる。


 すると、りくが負けじと身を乗り出してきた。


「ナギ、焼きマシュマロ食うか?」


「急に?」


「キャンプといえばこれだろ!」


 りくは串に刺したマシュマロを焚き火へ近づける。


 しかし、近づけすぎた。


 ぼっ。


「あっ」


 マシュマロが燃えた。


「燃えてる」


「知ってる!」


「食えるのか、それ」


「食える!」


 りくは慌てて火を吹き消し、少し焦げたマシュマロを差し出してくる。


「ほら!」


「焦げてる」


「香ばしいんだよ!」


「ものは言いようだな」


 受け取って食べる。


 甘い。


 焦げてる。


 でも、まあ悪くない。


「うまい」


「だろ!」


 りくが嬉しそうに笑う。


 その笑顔は、焚き火の光でいつもより柔らかく見えた。


「じゃあ次はもっと上手く焼く!」


「やっぱり今のは失敗だったんだな」


「成功だ! 成功だけど、もっと成功させる!」


「前向きだな」


「オレのいいところだからな!」


 その距離が近い。


 焚き火を囲んでいるはずなのに、いつの間にか肩が触れそうな位置まで来ている。


 りくはあまり気にしていないように見える。


 いや。


 たぶん気にしている。


 耳が少し赤い。


『筋肉個体の接近を確認しました』


「ナナ、今日は取り締まりが多いな」


『夜間は事故が増えます』


「何の事故だよ」


『恋愛的事故です』


「分類するな」


 りくが口を尖らせた。


「事故じゃねーし」


「じゃあ何だよ」


「……作戦?」


「言ったな」


「言ってない!」


 言った。


     ◇


「ナギさん!」


 天音が手を挙げた。


「私からも差し入れがあります!」


「またお手製のじゃがバターか?」


「違います! ちゃんと買ってきました!」


 天音がトートバッグから取り出したのは、個包装のお菓子だった。


 チョコ。


 クッキー。


 グミ。


 謎に種類が多い。


「遠足か」


「キャンプです!」


「似たようなものか」


「それでですね」


 天音が真剣な顔で、チョコを一つ差し出してくる。


「これは、ナギさんが昔の配信で“甘いものは嫌いじゃない”と言っていた発言をもとに厳選したチョコです」


「記憶力どうなってんの」


「ナギさんオタクなので」


「堂々と言うな」


『ナナもマスターの嗜好情報は把握しています』


 ナナが割り込む。


『マスターは疲労時、甘味の摂取量が増加する傾向があります』


「ナナちゃん、データで殴ってくる……!」


「張り合うな」


 天音は少しだけ唇を尖らせる。


「でも、私は配信の空気で分かります。ナギさんが“まあまあ”って言う時、本当は結構好きな時です」


「そうだっけ」


「そうです!」


『確認しました。マスターは高評価時にも“まあまあ”と表現する傾向があります』


「二人で分析するな」


 ひよりが小さく笑う。


「先輩、わかりにくいですもんね」


「そう?」


「はい」


 りくも頷く。


「ナギはだいたい顔に出ないけど、楽しそうな時はちょっと声が軽い」


「お前まで?」


「わかるぞ、それくらい」


 なんか、急に居心地が悪い。


 全員から観察されている気がする。


「俺、そんなにわかりやすい?」


「わかりにやすいです」


 ひよりが微笑む。


「よーく見てるオレたちにとってはわかりやすい! 普通のヤツはわかりづらいかもだけどな」


 りくが胸を張る。


「最古参なので分かります」


 天音はニヤリと笑った。


『常時観測しているので分かります』


 ナナの声もどこか楽しげだ。


『わたしは空気で分かります』


 エイトは適当だった。


「最後だけ雑」


『ノリです』


 焚き火がぱちっと鳴った。


 こういうのは、なんというか。


 照れる。


 自分が知らないところで、ちゃんと見られていたらしい。


     ◇


「じゃあ」


 エイトが急に手を叩いた。


『せっかくの焚き火ですし、恋バナしましょう!』


「嫌な予感」


『安心してください。平和なイベントです』


「その言い方で安心できたことがない」


『テーマはこちら!』


 空中にホログラム文字が浮かぶ。


 ――好きなタイプ。


「直球すぎる」


「おお!」


 りくがなぜか食いついた。


「いいじゃん!」


「い、いいんですか……?」


 ひよりはすでに顔が赤い。


 天音は眼鏡を押し上げ、真剣な表情になった。


「重要テーマですね」


「重要なのか」


「重要です。恋愛戦線における基本情報です」


「また戦線になってる」


『ではまず、ひより選手から』


「えぇっ!? 私ですか!?」


 ひよりは慌てる。


 マグカップを両手で握りしめ、視線を泳がせる。


「す、好きなタイプ……」


 ちらっと俺を見る。


 すぐ逸らす。


「えっと……優しくて、危ない時に助けてくれて、でも自分のことをあまり大事にしない人は、ちょっと困ります」


「後半、文句じゃない?」


「文句じゃないです! 心配です!」


 ひよりは必死だった。


「あと、だらっとしてるのに、本当はすごく強い人とか……」


 またちらっと見る。


 いや、それ。


 かなり具体的じゃないか。


『該当個体を検索中』


「検索しなくていい」


『一件ヒットしました』


 ひよりは両手で顔を隠した。


「わぁぁぁ……!」


 次はりくだった。


「オレか」


 りくは少し考える。


「強いやつ」


「シンプル」


「あと、一緒に戦ってて楽しいやつ。こっちが本気出しても引かないやつ。変にかっこつけてないのに、いざって時はちゃんと前に出るやつ」


 言いながら、りくが俺を見る。


 りくは視線を逸らさなかった。


「そういうやつがいい」


「……」


「な、なんだよ」


「いや」


「今のは一般論だからな!」


「一般論にしては目が合ってたけど」


「うるせぇ!」


 りくが焦げかけたマシュマロを投げようとしてくる。


「食べ物を投げるな」


「じゃあ食え!」


「結局食わせるのか」


 強引だった。


 次は天音。


 彼女は待ってましたと言わんばかりに眼鏡を押し上げた。


「私の好きなタイプは、ローテンションで、でも優しくて、配信中はゆるいのに戦闘になると異常に強くて、コメント欄に対して雑だけどちゃんと見ていて、コーヒーより麦茶を飲む頻度が上がってきていて、最近は少し笑うことが増えた人です」


「情報量」


「以上です!」


「以上じゃないだろ。ほぼ個人情報だろ」


「いえ、理想像です!」


『該当個体を検索中』


「ナナ、乗るな」


『一件ヒットしました』


「ふふんっ!」


 得意げに笑うと天音は胸を張った。


 強かった。


『では最後にマスターです』


「俺もやるの?」


『当然です』


「拒否権は」


『ありません』


「横暴だな」


 全員がこっちを見る。


 ひよりは緊張した顔。


 りくはそわそわ。


 天音は完全に前のめり。


 エイトはにやにや。


 ナナは静か。


 静かすぎて逆に圧がある。


「好きなタイプねぇ」


 考える。


 正直、あまり考えたことがない。


「一緒にいて楽な人」


 なんとなく言う。


「変に気を使わなくてよくて、こっちがだらっとしてても怒らなくて、でも危ない時はちゃんと怒ってくれる人」


 言ってから、少し気づく。


 これ、かなり範囲が広いようで狭いかもしれない。


 ひよりが赤くなる。


 りくが黙る。


 天音が何かメモしようとしている。


「メモするな」


「重要情報なので!」


 そして。


 ナナが小さく言った。


『マスター』


「ん?」


『ナナは怒ります』


「知ってる」


『マスターが無茶をした時、ナナは怒ります』


「うん」


『それは、条件に含まれますか』


 焚き火の音が少し遠くなる。


 声だけなのに。


 ナナが、少しだけ不安そうに聞こえた。


「含まれるんじゃないか」


 そう答えると。


 少し間があった。


『……そうですか』


 短い返事。


 でも、今まで聞いた中でもかなり嬉しそうだった。


『記録しました』


「記録するな」


『重要情報です』


「天音と同じこと言ってる」


「ナナちゃん、強い……!」


 天音が悔しそうに震えていた。


     ◇


 恋バナは、その後も続いた。


 ひよりは途中で恥ずかしさの限界を迎えて、ブランケットに顔を埋めた。


 りくは強気なことを言うたびに自分で照れた。


 天音は過去配信の話を持ち出しては、俺に止められた。


 エイトはずっと楽しそうだった。


 ナナは時々、妙に鋭い一言を挟んだ。


 騒がしい。


 くだらない。


 でも、妙に楽しい。


 そんな時間だった。


 夜が深くなる。


 人工の星空は、いつの間にか本物みたいに瞬いていた。


「そろそろ寝るか」


 俺が言うと、ひよりが名残惜しそうに顔を上げた。


「もう少しだけ、起きていたい気もします」


「明日もあるだろ」


「はい……」


 りくが大きくあくびをする。


「明日は何する?」


『明日は肝試しイベントを予定しています』


 ナナが言った。


「肝試し?」


『はい。キャンプ場の夜間散策機能を利用します』


「嫌な予感しかしない」


『安全です』


「本当に?」


『安全性は確認済みです』


 その言い方が逆に怖い。


 エイトがにやっと笑った。


『古のネットならこう言いますね』


「何」


『次に奇妙な世界の扉を開けてしまうのは、あなたかもしれません……』


「怖いやつじゃん」


「や、やめてください!」


 ひよりが即座に俺の袖を掴む。


 天音も眼鏡を押さえながら震えた。


「私、ホラー苦手なんですけど……でもナギさんと一緒なら……!」


「勝手に組むな」


「オレは余裕だぞ!」


 りくが胸を張る。


『では明日はペアを決めて実施します』


 ナナの声が、なぜか少しだけ硬かった。


「ペア?」


『はい』


 少し間。


『マスターのペアは、ナナが厳正に管理します』


「嫌な予感しかしない」


『問題ありません』


 問題しかなさそうだった。


 焚き火が小さく揺れる。


 人工の星空の下。


 俺たちの隠れ家キャンプは、まだまだ騒がしく続きそうだった。

お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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