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配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第三章 キャンプ場でのドキドキ潜伏生活

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第32話 キャンプ飯は、なんか誰かが必ず失敗する

「《フォレストゴブリン》です!」


 エイトが元気よく叫んだ。


 森の中。


 草むらから飛び出してきた小鬼たちが、棍棒を振り上げてこちらへ向かってくる。


 緑色の肌。


 小柄な身体。


 尖った耳。


 木の葉みたいな腰布。


 名前の通り、森に住んでいそうなタイプのゴブリンだった。


「いや、キャンプ場に出る名前じゃないだろ!」


『ダンジョン内キャンプ場ですので』


「そもそもダンジョン内キャンプ場ってなんなんだよ!」


 俺がツッコんでいる間にも、りくが前へ出た。


「よっしゃ、準備運動だな!」


 スポーティなタンクトップにショートパンツ。


 褐色の肌。


 引き締まった脚。


 動きやすさ重視の格好が、りくにはよく似合っていた。


 というか、似合いすぎている。


 健康的で、力強くて、見ているだけでこっちまで身体を動かしたくなる。


「ナギ! 見てろよ!」


「見てる」


「変な意味じゃないよな!?」


「知らん」


「知らんってなんだ!」


 言いながら、りくは一気に踏み込んだ。


「《衝牙》!」


 ドンッ、と地面が鳴る。


 りくの身体が一瞬で距離を詰める。


 次の瞬間、《フォレストゴブリン》の一体が真横へ吹き飛んだ。


「もう一発!」


 続けて回し蹴り。


 草むらごとモンスターが転がっていく。


「強いなぁ」


『褐色筋肉個体の戦闘能力は、キャンプ場警備員として非常に優秀です』


「誰が警備員だ!」


 りくが振り向いて怒鳴った。


 その隙に、別の《フォレストゴブリン》がひよりの方へ走る。


「ひより!」


「は、はいっ!」


 ひよりは慌てつつも、腰のポーチから小型の魔力弾を取り出した。


 大きめのパーカー。


 ショートパンツ。


 帽子。


 小柄な身体に少し大きめの服がだぼっとしていて、妙に可愛い。


 動くたびに帽子のつばが揺れて、必死に頑張っている感じがよく出ていた。


「え、えいっ!」


 魔力弾が弾ける。


 淡い光。


 《フォレストゴブリン》の足元が一瞬だけ光って、動きが止まった。


「先輩、今です!」


「助かる」


 俺は一歩踏み込み、動きの止まったモンスターの頭を軽く叩いた。


 ごん。


 それだけで、モンスターは爆発四散した。


「……相変わらず、先輩の身体能力はすごすぎです!」


「そう?」


『マスターの身体能力は依然として異常値です』


「それはもう聞き飽きた」


 残りの一体は、エイトが空中でくるりと回りながら紫色の光で撃ち抜いた。


『はい、害獣駆除完了です! それでは改めまして、テント設営を開始しましょう!』


     ◇


 テント設営は大変だった。


 主に俺が。


「先輩、そっち持ちます!」


「ありがとう」


 ひよりは普通に手伝ってくれる。


 頼りないように見えて、意外と丁寧だ。


 ペグを渡す時も、ロープを結ぶ時も、いちいち真面目に確認してくる。


「ここ、こうで合ってますか?」


「たぶん」


「たぶんで進めていいんですか?」


「エイトが見てるし」


『任せてください! わたしは口だけ出します!』


「手も出せ」


『ホログラムなので!』


 役に立たない。


 一方、りくは力仕事担当だった。


「この柱、こっちでいいのか?」


「たぶん」


「よっしゃ!」


 りくが大きな支柱を軽々と持ち上げる。


 タンクトップ姿で動くたび、鍛えられた腕や肩がよく分かる。


 健康的。


 すごく健康的。


「ナギ?」


「ん?」


「今、こっち見てなかったか?」


「テント見てた」


「ほんとか?」


『マスターの視線停滞を確認しました』


「ナナ」


『事実です』


「言わなくていい事実もある」


 りくの耳が少し赤くなる。


「べ、別に見るなとは言わねーけどさ……いや、やっぱ見るな! なんか恥ずい!」


「どっちだよ」


 そんな感じで騒ぎながらも、テントは少しずつ形になっていく。


 問題は天音だった。


「任せてください!」


 赤いフレームの眼鏡を光らせ、天音がロープを握る。


 ベージュのキャップ。


 大きめのパーカー。


 カーゴパンツ。


 リュック。


 格好だけはキャンプ女子だった。


「わたし、予習してきました!」


「いつ」


「昨日の夜です!」


「寝ろよ」


「動画を十八本見ました!」


「逆に不安だな」


 その不安は的中した。


「ここをこうして、こう!」


 天音が自信満々にロープを引く。


 次の瞬間。


 ばさっ。


 せっかく立ちかけていたテントの片側が崩れた。


「……」


「……」


「……」


「すみませんでしたぁ!」


 土下座が早かった。


『見事なフラグ回収でした』


「うぅ……動画では簡単そうだったんです……」


「動画は大体そう」


 泣きそうな天音を、ひよりが慌てて慰める。


「だ、大丈夫です! 最初はみんな失敗しますから!」


「ひよりちゃん優しい……」


「でも、次はロープを引く前に確認しましょうね」


「はい……」


 結局、テントはナナの指示でどうにかなった。


『右の支柱を三センチ前方へ。左ロープの張力を二十パーセント下げてください。マスター、そこではありません。右です』


「細かいな」


『安全な睡眠環境は重要です』


 ナナはいつになく真剣だった。


 そのおかげで、テントはかなり立派に仕上がった。


 見た目だけなら、本当にキャンプらしい。


「おお……!」


 天音が感動している。


「すごいです! 私たち、キャンプしてます!」


「してるな」


「逃亡中なのに!」


「それ言うな」


     ◇


 次は料理だった。


「キャンプといえばカレーです!」


 ひよりが両手で鍋を持ちながら言った。


 目がきらきらしている。


「ひより、料理できるの?」


「少しだけですけど……家でよく手伝ってます」


「偉い」


「えへへ……」


 素直に褒めると、ひよりは嬉しそうに笑った。


『マスター』


「ん?」


『後輩個体への好感度上昇を確認しました』


「分析するな」


「えっ、えっ、好感度ですか!?」


 ひよりが真っ赤になる。


 包丁を持っているので危ない。


「ひより、手元」


「あっ、はい!」


 りくは肉担当だった。


「肉だ! 肉焼こうぜ!」


「カレーだって言ってるだろ」


「カレーに肉入れるだろ!」


「そういう意味じゃない」


 でも、りくは楽しそうだった。


 串に肉と野菜を刺していく手つきは意外と器用だ。


「こういうの慣れてるのか?」


「親父と母ちゃんがアウトドア好きなんだよ。昔からよく連れてかれてた」


「へぇ」


「だから火起こしとか得意だぞ!」


 胸を張る。


 こういう時のりくは、本当に頼もしい。


 一方、天音は。


「わたしも手伝います!」


 自信満々だった。


「何やる?」


「じゃがいも切ります!」


 全員が黙った。


「……なんですか、その沈黙」


「いや」


「さっきのロープが」


「包丁は危ないかなって」


「信用がない!」


 天音は頬を膨らませた。


 赤フレーム眼鏡の奥の目が本気だ。


「大丈夫です! 料理動画も見ました!」


「動画に頼るな」


「任せてください!」


 結果。


 じゃがいもは大きさが全部違った。


 小さいものはサイコロ。


 大きいものは岩。


「個性です!」


「火の通りがバラバラになるやつ」


「うぅ……」


 それでも、ひよりが丁寧に修正し、りくが火加減を見て、俺が鍋を混ぜる。


 エイトは空中で実況していた。


『始まりました、第一回ナギキャンプ飯選手権! 優勝候補は堅実派ひより選手! 対抗は肉の申し子りく選手! そして大穴、動画知識だけで挑む天音選手です!』


「実況するな」


『なお天音選手、ここまで失点が大きいです』


「言わないでください!」


『古のネットならこう言いますね。これはひどい』


「本当に古いな」


『でも通じますよね?』


「通じるのが嫌だ」


 鍋から湯気が立つ。


 カレーの匂いが広がる。


 森の中。


 人工の空。


 静かな川の音。


 焚き火のぱちぱちという音。


 少しずつ、腹が減ってきた。


「……いい匂いだな」


「はい!」


 ひよりが嬉しそうに頷く。


「先輩、味見します?」


「する」


 小皿に少しだけカレーをよそってもらう。


 ひよりがスプーンですくい、こちらへ差し出してきた。


「はい、あーん……って、あっ」


 途中で自分の行動に気づいたらしい。


 ひよりの顔が真っ赤になる。


「す、すみません! 今のは、その、流れで……!」


「いいよ」


「いいんですか!?」


「味見だろ」


「そ、そうですけど……!」


 ひよりは震える手でスプーンを差し出す。


 俺は普通に食べた。


「うまい」


「っ!」


 ひよりの顔が一気に明るくなる。


「よかったです……!」


 その瞬間。


「おい!」


 りくが割り込んできた。


「じゃあオレの肉も食え!」


「言い方」


「肉だよ肉!」


 串焼きが差し出される。


 肉汁が落ちている。


 これはこれでうまそうだった。


「ほら、あーん!」


「ノリが雑」


「いいから!」


 強引に差し出される。


 食べる。


 普通にうまい。


「うまい」


「だろ!」


 りくが満面の笑みを浮かべた。


 その距離が近い。


 腕が肩に触れる。


 元気で、まっすぐで、距離感が近い。


 りくはそういうやつだった。


「ナギさん!」


 今度は天音だった。


「わたしのじゃがいもも!」


「じゃがいも?」


「焼いてじゃがバターにしました。この一番大きいやつを!」


「岩じゃん」


「食べ応えアリです!」


 食べてみる。


 硬かった。


「……」


「ど、どうですか?」


「個性がある」


「それおいしくない時の感想ですよね!?」


『正解です』


「エイトちゃん!」


 騒がしい。


 でも。


 笑っていた。


 みんな。


 俺もたぶん。


     ◇


 夕方。


 ようやくカレーが完成した。


 飯盒で炊いたご飯。


 鍋いっぱいのカレー。


 りくが焼いた肉串。


 ひよりが作ったサラダ。


 天音が作ったやたら存在感のあるじゃがバター。


「いただきます!」


 声が重なる。


 カレーはうまかった。


 普通に。


 かなり。


「ひより、これ店出せるんじゃない?」


「そ、そんなことないです!」


 ひよりは慌てて手を振る。


 でも嬉しそうだった。


「肉もうまい」


「だろ!」


 りくが得意げに笑う。


 天音のじゃがバターは……うん、やはり個性的だ。


 空は少しずつ夕焼けに変わっていた。


 本物ではない。


 ホログラム。


 それでも綺麗だった。


「……すごいですね」


 天音がぽつりと言う。


「ダンジョンの中なのに、空があるなんて」


「だな」


「ナナちゃん、すごいです」


『ありがとうございます』


 ナナの声が少し嬉しそうだった。


『マスターの療養環境として最適化しました』


「俺のためなのか」


『はい』


 即答だった。


『マスターに静かで安全な時間を提供するためです』


「モンスター出たけど」


『小型です』


「安全の基準がバグってる」


『問題ありません』


 問題しかない。


 それでも。


 ナナが俺のために用意してくれた場所だと思うと、文句を言いづらかった。


「ありがとな」


 なんとなく言う。


 少しだけ間があった。


『……はい』


 ナナの声が、ほんの少し柔らかくなる。


『マスターが休めているなら、ナナは嬉しいです』


 その声に。


 少しだけ胸が温かくなった。


     ◇


 食後。


 みんなで後片付けをしている時だった。


 森の奥が、ふっと青白く光った。


「ん?」


 気づいたのは俺だけかと思った。


 だが。


 ナナが一瞬だけ黙る。


『……』


「ナナ?」


『いえ』


 短い沈黙。


『問題ありません』


「そうか?」


『はい。現在は問題ありません』


 現在は。


 その言い方が、少しだけ引っかかった。


 森の奥。


 青白い光はもう消えている。


 川の音。


 虫の声。


 人工の夕焼け。


 何も起きていない。


 少なくとも今は。


「ナギー!」


 りくが呼ぶ。


「薪集め行こうぜ!」


「また俺?」


「男手!」


「雑に使うな」


 俺は立ち上がる。


 静かなキャンプ場。


 安全地帯。


 ナナが用意してくれた場所。


 そのはずなのに。


 森の奥に消えた青白い光だけが。


 なぜか少しだけ、頭に残っていた。

お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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