第31話 ナナはなんかキャンプ場も管理しているらしい
「しばらくは大人しくしてください」
ナナにそう言われてから一日。
俺たちは学校からさらに別の場所へ移動していた。
「で」
目の前の景色を見ながら言う。
「ここどこ?」
『安全地帯です』
ナナが胸を張る。
『ナナが管理していた旧施設です』
「施設?」
『はい』
次の瞬間。
視界が開けた。
「……は?」
思わず声が漏れた。
森。
川。
草原。
遠くには山。
青空まで広がっている。
どう見ても自然そのものだった。
「ダンジョンだよな?」
『ダンジョンです』
「空あるけど」
『天井にホログラムを映して空を再現しています』
「意味が分からない」
巨大なドーム状空間。
だが天井は見えない。
本物の山奥にしか見えなかった。
「うわぁぁぁ!」
最初に反応したのは天音だった。
赤いフレームの眼鏡がきらりと光る。
ベージュのキャップ。
大きめのパーカー。
カーゴパンツ。
リュック。
完全にキャンプ初心者スタイルだった。
「キャンプ場ですよこれ!」
「まあ見た目はな」
「見た目じゃなくてもです!」
テンションが高い。
マスコミから逃げている人間とは思えなかった。
「いいじゃん!」
りくが笑う。
黒髪ショートが揺れた。
スポーティなタンクトップにショートパンツ。
健康的な雰囲気がよく似合う。
「川あるぞ!」
「ほんとですね……」
ひよりも少し嬉しそうだった。
大きめのパーカーにショートパンツ。
帽子を被っていて、どこか小動物みたいな可愛さがある。
「先輩」
「ん?」
「私、こういう場所、初めてです」
少しだけ照れたように笑う。
その笑顔を見ると、連れてきてよかったと思える。
『マスター』
ナナが得意げに言う。
『どうですか』
「すごいな」
『えへへ』
褒められて嬉しそうだった。
『ここなら一般人は来ません。協会もここを把握していません。もちろん報道陣も来ません』
「それは助かる」
正直、今は静かに過ごしたかった。
《Leviathan》だの、適応済み個体だの、そんな話ばかり続いていたからだ。
「よし」
りくが手を叩く。
「キャンプだ!」
「キャンプですね!」
天音も乗っかる。
「まず何するんだ?」
「テント!」
「料理!」
「川!」
「全部やる!」
うるさかった。
だが、悪くない。
少なくとも今は。
こんな時間があってもいい。
『ではテント設営を開始します』
エイトが空中へ設計図を表示する。
『テントの設営はマスター担当』
「なんか嫌な予感」
『重労働です』
「当たった」
その時だった。
ガサガサ。
草むらが揺れる。
全員が振り返る。
「ん?」
りくが首を傾げる。
ひよりも立ち止まる。
ナナが一瞬だけ真顔になった。
『あ』
「どうした?」
『モンスターです』
「出るのかよ!」
草むらから飛び出してきたのは。
緑色の小柄な人影だった。
棍棒を持った小鬼。
そしてその後ろからもう一匹。
さらにもう一匹。
「キャンプ場じゃなかったのか!」
『ダンジョン内キャンプ場ですので』
「先に言え!」
こうして。
俺たちの潜伏生活は。
開始五分で騒がしくなったのだった。
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