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配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第二章 水着回のはずなのに世界の謎が増えていく

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30/63

第30話 シオン外伝②氷姫と憧れと……

 吹雪が荒れていた。


 第六層。


 極寒の大地。


 白銀の世界で、シオンは静かに剣を振る。


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 氷の軌跡が空へ刻まれる。


「……違う」


 まだ足りない。


 冬華には届かない。


 もっと先へ。


 もっと高みへ。


 そう思った時だった。


「シオン様ぁぁぁぁぁぁ!!」


 静寂が死んだ。


 シオンはゆっくり振り返る。


 そこにいたのは。


 白いコート。


 青いマフラー。


 細剣。


 明るい金髪のサイドテール。


 そして、豊かな胸を揺らしながら雪原を駆けてくる少女。


「シオン様、会いたかったですぅぅぅ!!」


「誰?」


「上ケ屋アリスです!」


「知らない」


「ですよね!」


 元気だった。


 異常なほど元気だった。


「私、シオン様の大ファンなんです!」


「そう」


「大好きです!」


「そう」


「結婚してください!」


「帰りなさい」


 即答だった。


 だが、アリスはまったくめげない。


「いきなり結婚が無理なら、せめてお友達になってください」


「悪いけど、無理。今の私は……」


 言いかけたシオンのセリフをアリスが遮る。


「修行中なんですよね!」


「ええ……まあ……」


 思わずたじろぐシオン。


「と、とにかく、ここは危険よ。見たところそこまでの腕はなさそうだし、早く帰りなさい」


「嫌です!」


「死にたいの?」


「だって、だって! やっとシオン様を見つけたんですもの!」


「私の話、聞いてる? 大体、どうやってここまできたのよ」


「へ?」


「いや、よく私の居場所がわかったなぁって……」


 シオンは気づくとアリスのペースに巻き込まれていた。


「そんなの簡単です!」


 アリスが胸を張る。


「探索者掲示板! SNS! 配信者コミュニティ! ダンジョン情報サイト! 全部チェックしてシオン様の目撃情報を集めました!」


「暇なの?」


「暇じゃないです!」


 即答。


「シオン様、最近、ナギの配信に出てなかったじゃないですか!」


 シオンの眉が少し動く。


「だからどこか修行しているんじゃないかと思って、探しまくったんです!」


「……」


「そしたら第六層で白災を見たって目撃情報があって!」


「それで?」


「護衛を雇いました!」


「は?」


「A級探索者三人です!」


「馬鹿なの?」


「お金ならあります!」


 ドヤ顔だった。


 シオンは額を押さえる。


「いくら護衛を雇ったからって、第六層にくるなんて危険すぎるわ」


「でも会えました!」


「A級を護衛に雇ったってことは、あなたはよくてB級、下手するとC級以下でしょ? A級以下の探索者が第六層に来るなんて無謀よ」


「でも会えました!」


「話聞いてる?」


「聞いてます!」


 聞いていなかった。


 完全に聞いていない。


「それで護衛は?」


「帰しました!」


「は?」


「だってシオン様見つけたので!」


 当然みたいに言う。


「シオン様と一緒なら安全です!」


「帰りなさい」


「嫌です!」


 頭が痛かった。


     ◇


「ところで」


 アリスが隣を歩きながら言う。


「シオン様はナギのことどう思ってるんですか?」


「どうって?」


「私はナギのこと、嫌いです!」


「そう」


「シオン様と距離近いので!」


 シオンは空を見上げた。


 吹雪いていた。


 なぜ自分はこんな話を聞いているんだろう。


「そうだ! シオン様……」


「何」


「私のコーデ見てください!」


 アリスが両手を広げる。


「シオン様コーデです!」


 白コート。


 青マフラー。


 細剣。


 確かに似ている。


 だが。


「真似しても強くなれない」


 シオンは静かに言う。


「憧れているうちは強くなれないわ」


 アリスが止まる。


 珍しく真面目な顔になった。


「あなたはあなたの戦い方を探しなさい」


 それは。


 少し前のシオンなら言えなかった言葉だった。


 強さだけを追いかけていた頃の自分なら。


「シオン様……」


 アリスが恍惚とした表情を浮かべていた。


 嫌な予感がした。


「つまり、まだまだシオン様に近づけてないってことですね!」


「違う」


「ならもっと近づくために……抱きつきます!」


 ぎゅっ。


「離れなさい」


「嫌です!」


 やっぱり伝わっていなかった。


     ◇


 数時間後。


 第二層。



「ここまで送ってあげたんだから、今日はおとなしく帰りなさい」


「嫌です!」


 シオンの言葉に安定の返答を返すアリス。


 第二層は、本来なら初心者向け。


 比較的安全な階層。


 だが……。


 突然、警報音が鳴り響いた。


 ピピピピピピッ!!


 シオンの端末へ異常反応が表示される。


「……何?」


 大型反応。


 危険度高。


 そして。


 第二層に存在するはずがない。


「最近多いわね……」


 ダンジョン異常。


 本来出現しないモンスター。


 脳裏に大豆島凪の顔が浮かぶ。


 そして、シオンの実力でも全く歯が立たなかった《Guardian Type-Ω》。


 だが今は考える余裕はない。


 地響き。


 雪原が揺れる。


 巨大な影が姿を現した。


 漆黒の体毛。


 赤い瞳。


 三メートルを超える巨体。


 鋭い牙。


 危険な魔力。


「《ガルム》……!?」


 シオンの表情が変わる。


 本来なら第四層以降で確認される危険種。


 新人が出会えばまず助からない。


「下がりなさい」


 シオンが前へ出る。


 だが。


「今です!!」


 アリスが飛び出した。


「認めてもらうチャンスです!!」


「待ちなさい!!」


 遅かった。


 《ガルム》の前脚が振り下ろされる。


 ドゴッ!!


「がっ……!」


 アリスの身体が吹き飛んだ。


 地面を転がる。


 血。


 悲鳴。


 シオンの顔色が変わる。


「アリス!!」


 駆け出す。


 脳裏に浮かぶ。


 炎。


 血。


 両親。


 守れなかったもの。


 そして。


 また――。


「……っ!!」


 冷気が爆発した。


 吹雪。


 氷。


 白銀。


 空間そのものが凍り始める。


「――《氷界断葬》」


 静かな声。


 次の瞬間。


 世界が白く染まった。


 《ガルム》。


 空気。


 雪。


 全て。


 絶対零度の結界へ閉じ込められる。


 そして。


 パリン。


 一音。


 《ガルム》は氷像のまま粉々に砕け散った。


     ◇


「シオン様ぁ!」


 救護班の担架の上。


 アリスは元気だった。


 大怪我をしているはずなのに。


「シオン様が助けてくれました!」


「喋らないで」


「あと抱っこされました!」


「それ関係ある?」


「あります!」


 即答だった。


「一生自慢します!」


 シオンは頭を抱える。


 だが、その笑顔を見ていると少しだけ救われる気もした。


「ごめんなさい」


 ぽつりと漏れる。


 アリスが首を傾げた。


「なんでです?」


「私がもっと早く動けていれば」


「違います!」


 アリスは笑う。


 明るく。


 真っ直ぐ。


「勝手に突っ込んだの私です!」


「……」


「だからシオン様は悪くないです!」


 シオンは返事ができなかった。


「シオン様!」


「何」


「やっぱり大好きです!」


「そう」


「結婚してください!」


「まずは傷を治しなさい」


 最後までうるさかった。


     ◇


 夜。


 救護施設の外。


 シオンは一人立っていた。


「また……」


 小さく呟く。


「救えなかった」


 助かった。


 でも大怪我をした。


 あと少し遅ければ。


 そう思うと胸が重い。


 その時だった。


「本当にそう思うか?」


 男の声。


 振り返る。


 知らない男だった。


 探索者協会の職員証。


 だが見覚えはない。


「誰?」


「ただの協会職員だ」


 男が笑う。


 どこか不気味に。


「君は強い」


「……」


「だが真実を知らない」


 シオンの眉が動く。


「何の話?」


 男が一歩近づく。


 そして。


「君の両親の死についてだ」


 世界が止まった。


 シオンの瞳が揺れる。


「……何を知っているの」


 男は答えない。


 ただ静かに笑った。


「知りたくないか?」


 冷たい夜風が吹く。


 その言葉だけが。


 シオンの胸へ深く突き刺さっていた

お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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