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配信切り忘れた俺、ダンジョン管理AI(たぶん美少女)の最推しになっていた  作者: 斎藤ゆうすけ
第二章 水着回のはずなのに世界の謎が増えていく

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29/61

第29話 なんか配信事故は終わってなかった

「ナギさん!」


 天音だった。


「温泉入ります!?」


「まだ入るの?」


「せっかく来たんですよ!?」


「確かに」


「オレも入る!」


 りくが元気よく手を挙げる。


 黒ビキニ。


 褐色肌。


 ついさっきまで命懸けの戦いをしていたとは思えない。


「私も入りたいです……」


 ひよりも小さく手を挙げた。


 旧型スクール水着姿のまま。


 少しだけ恥ずかしそうだった。


「お前ら元気だなぁ」


「先輩も入るんですよ?」


「まあ温泉旅行だしな」


 なんだかんだ楽しかった。


 世界の秘密とか。


 深層ダンジョンとか。


 そういうのは一旦忘れたい。


 温泉に浸かってのんびりしたい。


 人類共通の願望だと思う。


『賛成です』


 エイトが頷く。


『せっかくなので本日は温泉配信第二部を――』


 そこで、俺は止まった。


「ん?」


 嫌な違和感。


 今、エイト、なんて言った?


「配信?」


『はい』


「配信?」


『はい』


 静寂。


「エイト」


『はい』


「配信切ったよな?」


『……』


 エイトが固まる。


「切ったよな?」


『……』


「切ったよな?」


『……あ』


 全員止まる。


『まだです』


「おい」


 慌ててスマホを見る。


 配信中。


 普通に配信中。


 しかも。


 同時接続。


 五百万人突破。


「増えてるぅ!?」


『おめでとうございます!』


「よくない!」


 コメント欄が滝みたいに流れていた。


【クラゲ:温泉回継続】

【しろまる:まだ終わらないのかよw】

【ねむ太:ずっと水着見れて助かる】

【探索者A:ひよりちゃんかわいい】

【初見です:おすすめから来た】

【切り抜き勢:これ本当に生配信?】

【考察好き太郎:Leviathanの考察しろ】

【海外ニキ:SUBTITLE PLEASE】

【温泉巡り勢:普通に旅館行きたい】

【新人探索者:りくさん推しになった】

【寝不足社会人:仕事休みたい】

【考察班:誰も本題を話していない】

【クラゲ:平常運転だな】

【しろまる:ナギまだ気付いてなくて草】


「終わりだ」


 俺は即座に配信停止ボタンを押した。


 画面が暗転する。


「終わった……」


『終わりましたね』


 エイトが頷く。


「いろんな意味でな」


 その時だった。


「大豆島凪さん!!」


「一言お願いします!!」


「Leviathanについて!!」


「適応済み個体とは何ですか!!」


 旅館の外から大音量が響いた。


 全員が固まる。


「……」


「……」


「……」


 嫌な予感しかしない。


 恐る恐る窓を見る。


 人。


 人。


 人。


「うわぁ……」


 天音が引いた。


 テレビのレポーターに雑誌記者、配信者に野次馬にスマホを構えた一般人。


 旅館の前は完全にお祭り状態だった。


「なんでいるんだよ!?」


 思わず叫ぶ。


『まあ、協会は来てませんでしたが、マスコミと野次馬は来ますよね。世界の秘密っぽいものが配信されたわけですからね。しかも同時接続五百万人です。むしろ来ない方がおかしいです』


 エイトが肩をすくめる。


「他人事か」


『古のインターネットなら釣り乙、ソースは脳内、はいはいワロスワロスで終わったんですけどねぇ』


「いつの時代だよ」


『2000年代です』


「古すぎる」


 その横で、天音が少しだけ胸を張った。


「現場の特定は、わたしの方が早かったですね!」


「誇るな」


「でも事実です」


「事実でも誇るな」


 天音はちょっと嬉しそうだった。


「いや本当にどうやって来たんだよ」


「旅館の壁紙と観葉植物と売店の商品棚で特定しました」


「怖っ」


「あと移動中に旅館名映ってました」


「はいはい」


『マスター』


 ナナだった。


 声が冷たい。


 かなり冷たい。


『現在、ナナは怒っています』


「珍しいな」


『珍しくありません。療養中のマスターへ押しかけるのは迷惑行為です』


 静かな怒りだった。


 なんかマスコミの方が可哀想になってきた。


『ナナお姉ちゃん、ちょっと怖いです』


『正常です』


『絶対正常じゃないです』


 エイトが苦笑する。


 外ではまだ記者たちが騒いでいる。


「大豆島さん!」


「少しだけ!」


「取材を!」


「コメントお願いします!」


 無理だろこれ。


 旅館にも迷惑だ。


 ひよりが不安そうに窓を見る。


「先輩……どうします?」


「逃げる」


 即答だった。


「だよな」


 りくも頷く。


「オレもそう思う」


「賛成です」


 天音も即答した。


「こんなの絶対囲まれます」


『では』


 ナナが静かに言う。


『強制退避を実施します』


「その言い方ちょっと怖いな」


『問題ありません』


 次の瞬間。


 視界が白く染まった。


「うおっ!?」


「きゃっ!?」


「えぇぇぇ!?」


 そして。


 気付くと。


 俺たちは教室にいた。


 俺たちが通う県立深界原高等学校。


 放課後の教室。


「……」


「……」


「……」


「学校だ」


「学校ですね」


 ひより。


「学校だな」


 りく。


「学校ですぅ!?」


 天音。


『緊急退避完了です』


 ナナが満足そうに言った。


『しばらくは身を隠します』


     ◇


「で?」


 俺は机へ腰掛ける。


「これからどうするんだ」


『まず配信は休止です』


 ナナが即答した。


『最低でも数日は姿を隠してください』


「まあ、そうなるか」


『現在の状況で配信すると、マスターの居場所が再び特定される可能性があります』


「絶対されます!」


 天音が力強く言った。


「わたしなら特定できます!」


「お前基準で話すな」


『というわけで』


 エイトが手を挙げる。


『炎上対策を実施します』


「嫌な予感しかしない」


『安心してください』


 全然安心できなかった。


『Leviathanの映像、旧人類施設、管理AI……全部CGでしたってことにします。全部ナギがバズるために仕込みました、という噂を流します』


「待て」


『はい』


「待て」


『はい』


「俺が嘘つきになるじゃん」


『細かいことは気にしない方向で』


「気にするわ」


 ナナの声が冷える。


『反対です』


 即答だった。


『マスターは嘘をついていません。なのに嘘つき扱いされます』


 本気で不満そうだった。


「わ、わたしも反対です!」


 天音も手を挙げる。


「ナギさんは本物なんです!」


「言い方」


「だって本当ですし!」


 完全にファンだった。


 一方、りくは肩をすくめる。


「まあ仕方ねーんじゃね?」


 ひよりも少し悩んだ後で頷いた。


「先輩が安全になるなら……」


『ありがとうございます!』


 エイトが元気になる。


『大体、ネットなんてそんなもんですから! 釣りでした! 壮大なドッキリでした! 実はCGでした! はい解散! そして三日後には別の話題で祭りになります!』


「雑だなぁ」


『人の噂も七十五日です』


 そこで、ひよりが少し不安そうに言った。


「でも……これで本当におさまるんでしょうか?」


 エイトが珍しく真面目な顔になる。


『正直』


 少し間。


『協会、企業、研究施設……その辺は全然おさまりません』


 教室が静かになった。


『でも、マスコミとネット民はそのうち次の話題へ行きます。なので、とりあえず一般人対策としては有効です』


「なるほどな」


『今のマスターは話題になりすぎています。まずは熱を冷ましましょう』


 窓の外を見る。


 夕焼け。


 静かな校庭。


 少なくとも今は。


 誰も追いかけてこない。


 記者もいない。


 野次馬もいない。


 ナナが小さく言う。


『マスター』


「ん?」


『しばらくは大人しくしてください』


「善処する」


『信用できません』


「ひどい」


 でも。


 その声は少しだけ優しかった。


 温泉旅行は終わった。


 配信もしばらく休み。


 マスコミからも隠れなきゃいけない。


 面倒なことばかりだ。


 それでも。


 少しくらいは静かに過ごせるだろうか。


 そんなことを考えながら。


 俺は夕焼けに染まる校庭を眺めていた。

お読みいただきありがとうございます。


本作はカクヨムでも連載中です。

小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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