第3話 協会に行ったらなんかS級探索者がいた
「……行きたくない」
ベッドの上で言う。
『肯定します』
「お前もかよ」
朝。
ダンジョン管理協会から指定された時間まで、
あと三十分。
俺はまだベッドにいた。
『現在のマスターは、
二度寝へ移行する可能性が高いです』
「する」
『推奨しません』
「なんで」
『協会職員からの心証が悪化します』
「もう悪いだろたぶん」
昨日の配信を思い出す。
ダンジョン管理AIとの遭遇。
AIがなぜか俺を観察対象にした。
配信切り忘れ。
炎上。
「うわぁ……」
『マスター』
「んー」
『現実逃避を確認しました』
「便利だなお前」
結局、適当に高校の制服へ着替えて家を出た。
◇
ダンジョン管理協会。
そびえ建つ白亜のビル。
朝から探索者が多い。
受付、依頼掲示板、素材買取。
朝の駅みたいに騒がしい。
「帰りたい」
『マスターは入館から12秒で撤退を希望しました。マスターがこの施設を苦手にしていることを記録します』
「この施設が苦手というより、人多いの苦手」
『マスターは配信者です』
「コメント欄のリスナーは人にカウントしてないから」
『なるほど』
納得するな。
受付へ向かう。
「えっと……昨日電話もらった大豆島です」
受付のお姉さんが、
一瞬固まった。
あ。
これ絶対知ってる顔だ。
「……あの“配信切り忘れ”の」
「違います」
『事実確認:配信は切り忘れていました』
「黙ってろ、ナナ」
受付のお姉さんが肩を震わせてる。
笑ってるなこれ。
「こちらへどうぞ」
通されたのは、
上の階。
普通の探索者があまり来ないエリアだった。
「嫌な予感がする」
『高確率で面倒事です』
「知ってた」
案内された部屋の扉が開く。
その瞬間。
冷たい空気が流れてきた。
いや。
実際に温度が低い。
「……うわ」
部屋の奥。
長い青髪。
黒いスーツ。
机に脚を組んで座っている女性。
綺麗だ。
でも。
先に来るのは威圧感だった。
【氷姫】
探索者なら誰でも知ってる。
S級探索者。
氷鉋シオン。
「なんで氷鉋シオンがここに…?」
『S級探索者“氷姫”、氷鉋シオンを確認しました』
その瞬間。
イヤホン越しに、
小さく電子音が走る。
『……高出力魔力反応を確認』
「ん?」
『危険度を再測定します』
「お前でもそういうのあるんだ」
シオンがこっちを見る。
青い目。
静かなのに、
妙に目を逸らしづらい。
「……あなたが大豆島凪くん?」
「そうです」
「配信、見たわ」
「うわぁ……」
『マスターの精神的ダメージを確認』
「実況するな」
シオンが少しだけ笑った。
綺麗な人が笑うと破壊力がすごい。
「安心して。今日は取り調べじゃないわ」
「じゃあなんです?」
「確認」
「何を」
シオンが脚を組み替える。
その動きだけで、
なんか空気が変わる。
「あなた」
「俺?」
「昨日の回避。あれ、誰に習ったの?」
「いや別に」
「無意識で?」
「たぶん」
「……そう」
シオンが立ち上がる。
ヒールの音が静かに響いた。
そのまま、俺の近くまで来る。
近い。
なんかいい匂いする。
「ねぇ、凪くん」
「はい」
「あなた、自分がどれだけおかしいか分かってないでしょう?」
「よく言われます」
『実際、マスターは極めて特殊です』
「お前まで言うのか」
シオンが少しだけ身を屈める。
距離が近い。
青い瞳が、
じっとこっちを見ていた。
「面白い子」
「はぁ」
「普通、私にそんな反応しないのよ?」
「そうなんですか?」
「ええ。もっと緊張するか、怯えるか……見惚れるか」
「へー」
「……本当に動じないのね」
『警告』
「ん?」
ナナの声が少し低い。
『この個体は、マスターへ接近しすぎています』
一瞬。
部屋が静かになる。
シオンの眉が少しだけ動いた。
「……このAI、嫉妬したの?」
『否定します』
「早かったな否定」
『ナナは、マスターの安全確保を優先しています』
「へぇ」
シオンが、楽しそうに目を細める。
「かわいいAIね」
『……評価を確認しました』
「褒められてるぞ」
『ですが』
「ん?」
『この個体は危険です』
「面と向かって言うな」
シオンが小さく笑う。
なんか。
この人、
楽しんでるな。
「それで」
シオンの視線が、俺の耳元へ向く。
空気が変わる。
静かになる。
「そのAI」
数秒。
沈黙。
『……ナナです』
初めてだった。
ナナが俺以外に自分から名乗ったのは。
シオンだけが、静かに目を細める。
「……やっぱり」
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本作はカクヨムでも連載中です。
小説家になろう版は、本日5話まで投稿し、明日からはしばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。
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