第21話 最古参リスナーがなんか現地参戦してきた
「退院、おめでとうございます!」
ひよりが拍手した。
「そこまで大げさなイベント?」
「大げさです!」
病院のロビー。
俺はようやく退院許可をもらっていた。
全身まだちょっと痛いけど、普通に歩けるくらいには回復している。
『マスターの回復速度は異常値です』
「それ、もう褒めてないだろ」
『事実です』
イヤホンから、いつものナナの声。
相変わらず淡々としている。
でも、《Guardian Type-Ω》との戦いを経て、ほんの少しだけ声が柔らかくなっている気がした。
『なお、無理をすると再入院の可能性があります』
「はいはい」
『具体的には全身筋断裂、神経損傷、魔力循環――』
「怖い怖い怖い」
「先輩、ちゃんと安静にしてくださいね!?」
ひよりが本気で心配そうだった。
そこへ。
「よっしゃああ!! オレも退院だぁぁ!!」
病室に響き渡るりくの声。
ガラッと扉が開く。
ギプスは減っていたけど、まだ包帯だらけだった。
「医者に止められてなかった?」
「気合で突破!」
「絶対怒られるやつ」
『褐色筋肉個体、生命力が異常です』
「言い方ぁ!」
りくが笑う。
その後ろから、りくの母親が出てきた。
「気合で突破じゃないわよ!」
バシィッ!!
「いってぇ!?」
豪快なツッコミ。
父親がおろおろしている。
「き、君……病院では静かに……」
「うるさい!」
いつも通りだった。
騒がしい。
でも、なんか嫌いじゃない。
『マスター』
「ん?」
『現在、心拍数が安定しています』
「健康診断?」
『違います』
少しだけ間。
『……安心しています』
小さい声だった。
でも、ちゃんと聞こえた。
◇
「で、これからどうします?」
ひよりが聞いてくる。
「帰る」
「ですよね」
「配信は?」
りくが聞く。
「数日は休む」
『えー!?』
エイトが騒いだ。
『視聴者が禁断症状起こしますよ!?』
「知らん」
『“ナギ成分不足”で世界が危険です!』
「スケールでかいな」
そんな話をしていた時だった。
「あ、あの……!」
後ろから声。
振り返る。
そこにいたのは、赤フレームの眼鏡をかけた少女だった。
平均くらいの身長。
焦げ茶色の髪をゆるいハーフアップにしている。
少しオーバーサイズ気味のパーカー。
ロングスカート。
肩には、アニメイベントとかで物販並んでそうな、オタク感のある大きめトートバッグ。
しかもバッグには、小さい缶バッジがいくつか付いていた。
緊張してるのが、遠目でも分かる。
「あ……」
見覚えがある。
確かこの子は……俺史上最悪の黒歴《参加者3人地獄のオフ会》にきていた……。
「……あまねこ?」
「っ!?」
少女が固まる。
顔が一気に赤くなった。
「お、覚えてるんですか!?」
「そりゃ最古参だし」
「~~~~っ!!」
しゃがみ込んだ。
「え、ちょ、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないです……! 認知された……!」
なんか限界オタクみたいなこと言ってる。
「え、えっと……はじめまして……!」
少女が慌てて立ち上がる。
「茂菅 天音です……!」
ぺこっと頭を下げる。
「どうも」
「その……本当に、生きててよかったです……」
声が少し震えていた。
本気で心配してたっぽい。
「病院まで来たの?」
「うぅ……」
なんか泣きそうになってる。
『解析結果』
ナナが静かに言う。
『重度のナギオタク個体です』
「ナナちゃん!?」
天音がナナのセリフに反応した。
「え、えっと! いつも配信で聞いてます!」
『認識しています』
「っ!?」
『最古参リスナー、“あまねこ”です』
「ナナちゃんにも認識されてるぅ!?」
忙しいなこの人。
でも、次の瞬間、天音のスイッチが入った。
「い、いやでも! 当然ですよね!?」
「何が?」
「だってわたし、初期配信から全部見てますし!」
「全部?」
「はい!」
早口になった。
「登録者3人時代の“深夜カップ焼きそば雑談回”とか、“二層で30分迷子になった回”とか、“コメントゼロで一人でしゃべってた回”とか、全部リアタイしてましたし!」
「やめろ、それは黒歴史!」
「あと初期のナギさん、今よりちょっと声低いんですよ!」
「そうだっけ」
「あと疲れると右肩から壁に寄りかかる癖あります!」
「怖っ」
『確認しました』
ナナが割り込む。
『マスターは疲労時、右側へ体重を預ける傾向があります』
「ナナちゃんも張り合わないで」
「で、でも! ナギさんが第四層初めて行った時、実はちょっとテンション上がってたの、私はわかってしたからね!」
「嘘だろ」
「“へー”って言いながら、ちょっとだけ声上ずってました!」
「観察力どうなってんの」
天音が胸を張る。
「ナギさんオタクなので」
「堂々と言うなぁ」
『ナナは配信時以外もマスターに常時接続しています』
「それズルくないですか!?」
『合理性です』
「うわぁ、AIつよい……!」
完全に押されてる。
でも、なんか楽しそうだった。
ひよりが、じーっと天音を見る。
新たなライバルとして認識したっぽい。
りくも腕を組んでいた。
「へぇー」
「な、なんですか!?」
「いや別に?」
完全に牽制してる。
空気が、ちょっとだけバチバチする。
『マスター』
「ん?」
『ヒロインの個体数が増加しています』
「数えるな」
『現在、混沌としています』
「お前のせいでもあるだろ」
『否定します』
『いや絶対お姉ちゃんのせいもありますって』
エイトが笑う。
その時。
天音が、意を決したみたいに顔を上げた。
「あ、あの!」
「はい」
「もしよかったら……また配信してください!」
その目は、完全にファンの目だった。
でも、少しだけ、それだけじゃない気もした。
「待ってる人、いっぱいいるので!」
俺は少しだけ笑う。
「……まあ、そのうちな」
その瞬間、天音の顔が、ぱぁっと明るくなった。
わかりやすい人だなぁ。
『確認しました』
ナナが静かに言う。
『マスターは現在、かなり好かれています』
「今さら?」
『はい』
少しだけ間。
『……ナナも安心しました』
その声は、ほんの少しだけ嬉しそうだった。
お読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムでも連載中です。
小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。
続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




