第19話 なんかいつもと違う反応?
目を開ける。
白い天井。
消毒液の匂い。
「……病院?」
「お、起きたか」
隣から声がした。
見ると、りくがいた。
右腕と左脚がギプスで固められている。
包帯だらけ。
でも、本人は普通に笑っていた。
「よぉ、重症患者」
「そっちのほうが重症じゃん」
「ははっ!」
笑った瞬間、傷が痛んだのか「いってぇ……」って顔になる。
なんかいつものりくらしい。
「どれくらい寝てた?」
「二日」
「うわ」
思ったより長い。
『マスター』
イヤホンから、いつもの声。
『覚醒を確認しました』
「おはようナナ」
『おはようございます』
普通だった。
いつも通り。
淡々としていて、静かな声。
でも、なんとなく分かる。
少しだけ、無理してる。
「……先輩!!」
病室の扉が勢いよく開いた。
ひよりだった。
制服姿。
コンビニ袋を抱えている。
俺の顔を見るなり、涙目になった。
「よ、よかったぁ……!」
「そんな大げさな」
「大げさじゃないです!!」
ひよりがベッド横まで来る。
そのまま、ぐいっと顔を近づけた。
「先輩、全然起きないから……!」
「寝てただけだろ」
「二日もですよ!?」
ひよりは本気で心配してたらしく、目元が少し赤い。
『後輩個体のストレス値は高水準でした』
「ナナちゃん!?」
『マスター不在時、平均心拍数の上昇も確認しています』
「わー!!」
ひよりが慌ててイヤホンを押さえる。
近い。
顔が近い。
小動物みたいだった。
その時、病室の扉が再び開いた。
「りくー! 生きてるー!?」
元気すぎる女性の声。
「うげっ」
りくが露骨に嫌そうな顔をした。
入ってきたのは、褐色肌の女性だった。
短髪に引き締まった身体。
スポーティな服装。
しかも、めちゃくちゃ美人。
「母ちゃん、声でけぇって……」
その後ろから、
気弱そうな男性も入ってくる。
「り、りく……大丈夫かい……?」
「親父まで来たのかよ」
完全に家族だった。
『解析結果』
エイトが楽しそうにつぶやく。
『りくの母親、めちゃくちゃ強いです』
「わかる」
空気で分かる。
たぶん、かなりの格闘家だ。
「いやー! でも安心したわ!」
りくの母親が、ばんばん背中を叩く。
「ぐぇっ!?」
「怪我人にそれやるな」
「細かい!」
豪快だった。
一方、父親のほうは、おろおろしている。
「き、君……もう少し優しく……」
「えー?」
完全に尻に敷かれてた。
りくの母親が、俺を見た。
「あんたがナギくん?」
「どうも」
「りくを助けてくれたんだって?」
「いや、助けたっていうか」
「うちの娘、家ではずっとあんたの話してのよ」
「母ちゃん!!?」
りくが真っ赤になる。
「“ナギはすげーんだ!” “ナギの動きやべーんだ!” “ナギともっと戦いてぇ!”」
「やめろぉぉぉ!!」
りくが暴れる。
でもギプスだらけなので弱い。
ひよりが、ぴくっと反応した。
じーっと、りくを見る。
りくも負けじと見返した。
なんか火花散ってる。
「……先輩は、すごいですから」
「わかってるっつーの!」
ライバル視がすごい。
りくの母親が、にやにやしていた。
「青春ねぇ」
「違ぇって!!」
病室が騒がしい。
でも、なんか少しだけ眩しかった。
家族。
そういう空気。
俺には、もうないものだった。
中学生の頃に、両親は事故で死んだ。
……そう記憶している。
だから。
こういう光景を見ると、少しだけ胸が変な感じになる。
『……マスター』
ナナだった。
声が少し静かだった。
『現在、心拍数の微細な変動を確認しました』
「便利だなお前」
『マスターは、少しだけ寂しそうです』
図星だった。
「……別に」
『嘘です』
「断定するな」
『長期間観測しています』
なんか嫌な言い方だな。
でも、少しだけ気が紛れた。
「そういやシオンは?」
なんとなく聞く。
ひよりが、少しだけ視線を逸らした。
「シオンさんは……その」
『現在、修行中です』
ナナが即答した。
「修行?」
『敗北を反省しているものと思われます』
なるほど。
シオンらしい。
あの人、負けず嫌いだし。
『あの人、自分がボコボコのボコにされたこと、めちゃくちゃ気にしてますよ!』
エイトが明るく言う。
「エイト」
『はい?』
「空気読め」
『えへ☆』
読んでない。
その時、ナナが静かに言った。
『……マスター』
「ん?」
『現在、身体へ高負荷後遺症を確認しています』
「全身痛い」
『当然です』
いつもの声。
でも、少しだけ硬い。
『本来、人類へ適用しない出力でした』
「へー」
『……』
沈黙。
少し長い。
『ナナの判断ミスです』
小さな声だった。
病室が少し静かになる。
「……別によくない?」
俺は普通に答える。
「死んでないし」
『ですが』
「助かったんだろ?」
『……はい』
「じゃあ結果オーライ」
すると、イヤホンの向こうで、ほんの少しだけノイズが走った。
呼吸みたいな。
『……マスターは、時々意味不明です』
「褒め言葉?」
『現在、処理不能です』
でも、その声は少しだけ柔らかかった。
そして、誰にも聞こえないくらい小さな声で。
『……よかった』
ナナがそうつぶやいた気がした。
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本作はカクヨムでも連載中です。
小説家になろう版は、しばらく1日2話ずつ投稿していく予定です。
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