第16話 なんかみんな距離が近い
「で、なんでこうなった?」
休日の駅前は人が多い。
俺は今、美少女三人に囲まれつつ、ちょいちょい半透明な姿を現すVTuberと声だけの美少女AIとともに町を歩いていた。
「買い物よ」
シオンが当然みたいに言う。
長い青髪。
白シャツ。
細い黒パンツ。
シンプルな私服なのに、モデルみたいだった。
目立つ。めちゃくちゃ目立つ。
「凪くん、服に興味なさそうだもの」
「否定はしない」
「だから今日は、私が選んであげる」
「私“たち”です!」
ひよりが慌てて主張した。
「オレもいるからな!」
りくも胸を張る。
スポブラの上にパーカー。
ショートパンツ。
健康的な褐色肌。
なんか、スポーツ系雑誌から飛び出してきたみたいだった。
『リア充イベントですねぇ』
イヤホン越しに、エイトが楽しそうに言う。
『爆発しろ案件です』
「お前ほんと古いな」
エイトの言葉に呆れてい間もなく、俺は美少女たちの導かれるがまま服屋へ入っていく……。
◇
「凪くん、こっち」
シオンが自然に手招きする。
距離が近い。
しかも、いい匂いする。
「これ、着てみて」
「はい」
渡されたのは、シンプルな黒ジャケット。
試着して出る。
すると、シオンが少しだけ目を細めた。
「……うん」
「変?」
「全然」
そのまま シオンが近づいてくる。
俺の襟元へ、白い指が伸びた。
「ここ、襟、少し曲がってる」
直される。
近い。
青い髪が肩へ触れた。
「凪くんって、素材はいいのに無頓着なのよね」
「へー」
「そこはもう少し喜びなさい」
シオンが、くすっと笑う。
なんか距離感が自然すぎる。
『警告』
「始まった」
『S級個体による好感度上昇行動を確認しました』
「分析するな」
『明確に異性へ接近しています』
『お姉ちゃん重ー』
『否定します』
エイトが爆笑していた。
◇
「せ、先輩……!」
次はひよりだった。
小柄な後輩が、服を抱えて立っている。
顔赤い。
淡いグレーのオーバーサイズカーディガン。
中は白Tシャツ。
細身の黒パンツ。
シンプル。
でも、なんか雰囲気が出る。
ゆるいのに、ちゃんとかっこいい。
ひよりは少し照れながら言った。
「その……先輩って、こういう落ち着いた服、絶対似合うと思ってて……」
上目遣い。
破壊力すごいな。
「じゃあ着る」
「ほ、本当ですか!?」
反応がいちいちでかい。
試着後。
ひよりは、ぱぁっと顔を明るくした。
「に、似合ってます……!」
「そう?」
「はいっ!」
そのまま、ひよりが少し近づいてくる。
顔真っ赤。
「先輩はその……もっと、いろいろと自覚してください!」
「難しい注文だなぁ」
ひよりが、じっと俺を見上げる。
「……かっこいいです」
小さい声。
でも、ちゃんと聞こえた。
『マスター』
「ん?」
『後輩個体の心拍数上昇を確認しました』
「言うなぁ!」
「えっ!?」
ひよりが飛び上がる。
『現在、かなり緊張しています』
「ナナちゃん!?」
『ですが、マスターへの好意は――』
「わぁぁぁぁ!!」
ひよりが慌ててイヤホンへ手を伸ばした。
「だめです! それ以上禁止です!!」
近い。
小柄な身体が、ほとんど抱きつくみたいな距離だった。
「ひより、顔真っ赤」
シオンが楽しそうにひよりの耳元でささやく。
「シオンさんは黙っててください~!」
◇
「ナギ! こっちこっち!」
りくだった。
めちゃくちゃテンション高い。
「これ絶対似合うって!」
「ジャージじゃん」
「動きやすいぞ!」
りくらしい。
「ほら!」
ぐいっと肩を組まれる。
「うお」
柔らかい感触。
胸、当たってる。
しかも、りく、汗かいてる。
運動後みたいな熱が、そのまま伝わってきた。
「お前、意外とちゃんと鍛えてんな!」
「近い近い」
「ん?」
りくが首を傾げる。
そこで、ようやく気づいたらしい。
「あ」
視線が下がる。
りくの意外とやわらかい胸が俺の肘に当たってる。
「…………」
数秒停止。
その後……。
「うぉぁっ!?」
りくが勢いよく離れた。
「い、いや違うぞ!? 今の事故だからな!?」
「はいはい」
「なんだその反応!?」
顔真っ赤だった。
褐色肌だから分かりづらいけど、耳まで赤い。
『警告』
「またか」
『りくと呼称される個体による胸部接触を確認しました』
「言い方ぁ!」
『現在、りくと呼称される個体の羞恥心が急上昇しています』
「分析やめろぉ!?」
りくが頭を抱えた。
エイトが笑い転げてる。
『青春ですねぇ』
「他人事だと思って……」
◇
フードコート。
荷物が増えた。
というか、なんでこんな買わされてるんだ。
「はい、凪くん」
シオンが飲み物を渡してくる。
自然。
完全に慣れてる。
「先輩っ! こっちもどうぞ!」
ひよりはクレープ。
しかも。
「その……一口、どうですか?」
照れながら自分が食べていたクレープ差し出してきた。
「ん」
一口食べる。
甘い。
「おいしい」
「っ!」
ひよりの顔が真っ赤になった。
「よ、よかったです……!」
「ナギ! ポテト食う?」
りくは山盛りポテト。
ポテトをひょいと掴むと。
「あーん!」
「なんで?」
「ノリ!」
「断る」
「えぇー!?」
騒がしい。
でも、なんか楽しかった。
『……』
「ナナ?」
少しだけ間。
『マスターは、現在非常に楽しそうです』
「まあ、それなりに」
『……そうですか』
声が静かだった。
エイトも、少しだけ黙る。
『お姉ちゃん』
『問題ありません』
『強がり乙です』
『否定します』
でも。
今回は、ちょっとだけ元気がなかった。
◇
帰り道。
夕焼け。
シオンが隣を歩く。
ひよりが少し後ろ。
りくは相変わらず騒がしい。
「次はダンジョン用装備見に行こうぜ!」
「休日が消える」
「いいことだろ!」
そんな中、ナナだけは、そこにいなかった。
声だけ。
いつものように。
俺の耳へ届く。
『……楽しそうでした』
「そう?」
『はい』
少しだけ間。
『ナナも』
『マスターと、一緒に買い物をしてみたいです』
夕焼けの街を見ながら、俺は少しだけ笑った。
「お前、ずっといたじゃん」
『ですが』
「ん?」
『並んでは歩けません』
静かな声だった。
だから、ちょっとだけ胸に残った。
「……まあ」
なんとなく言う。
「そのうち歩けるようになるんじゃない?」
『……』
ナナが黙る。
数秒後。
『処理負荷の軽減を確認しました』
「またそれ」
『正常動作です』
でも、声は少しだけ嬉しそうだった。
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