38話 力を貸せ
<山賊の拠点 カイト視点>
「無事かカイト!?……後、セレナ……さん」
「「アンク!!」」
カイト達を襲おうとしていたデトマールの私兵団の一人を倒し血の付いた刃物を持ったアンクが駆けつけてくれていた。
「アンク、どうしてここに!?」
アンクは攫われた子供達を安全な場所へと逃がす際、自分達が囮となってから遠くへ離れていたはずだった。
「どうしてって……やべ、避けろ!!」
アンクは何か応えようとしたが言葉より先に体を慌てて飛びのく。
するとアンクのいた場所に水弾が飛んできて近くの壁に大きくヒビが入る。
「集中的に狙え!!あのガキが何者か知らないが、真名は恐らく“特定型”だ!!再発動される前に叩け!!」
自身の部下が倒された際、すでにアンクの真名を見ていた私兵団の隊長は水弾を作り攻撃する。
部下の一人、ウォーレスも地面から競り上げさせた壁でアンクを狙う。
「セレナさん、危ない!!」
「キャ!?」
その攻撃はカイト達の方にも飛んできた。
その様子から相手もなりふり構っていられないことが伝わってくる。
攻撃を避けながらアンクは叫ぶ。
「カイト!!セレナ!!壁に隠れるぞ!!」
アンクは近くの壁の裏を指差しながら走り出した。
「行こう!!セレナさん」
「えっ?うん!!」
カイトもセレナの手を引っ張る。
後ろからは私兵団の攻撃が飛んでくる。
必死にそれを避けながらカイト達は近くの壁を滑り込むように後ろに回り込んだ。
セレナの手を引っ張りながら必死に走ったカイトはゆっくりと息を吐く。
その瞬間、壁越しに強い衝撃が襲う。
振り返ると、壁が揺れていた。
デトマールの私兵団達が壁ごと壊そうとしていたのだ。
今のところ、壁は耐えているがいくつか亀裂が入っておりいつまでもつか分からない。
「……なるほど、一人は水でもう一人は壁を生成するのか……後者は幸い、使用者でも生み出した壁は消せない感じみたいだな」
荒い息を整えているアンク。カイトはさっき聞けなかったことを問いかけた。
「アンク、なんでここに?」
「なんでって、言ったろ?必ず助けるって……お前らを探していたら見覚えない通路があったからもしかしたらと思ったらビンゴだったぜ」
「アンク……」
「子供達は、もう外に脱出させている。ちょうど安全な場所があったから今は、そこで大人しくしているよ……中もこんな騒ぎだしすぐには見つからないだろう」
どうやら子供達を安全な場所に避難させた後、必死に探してくれていたのだ。
よく見ると、彼の腕に微かだが火傷のような傷もあった。
本人は平気そうだが、かなり無茶したことが分かる。
「ありがとう……」
「礼なんか言っている場合じゃないぞ……それより、今はこの状況をどうにか切り抜けるぞ」
アンクはそう言って自分達を守っている壁の方を見る。
壁から相変わらず衝撃が伝わってくる。
「困ったな。連中、俺の真名が特定型と分かっていやがる」
相手の攻撃の様子からアンクは舌打ちする。
「後、どれくらいで撃てる?」
相手に必中である代わりに単体にしか狙えず連続で撃つことはできない特定型の特徴を知っているカイトはアンクに尋ねる。
アンクは苦い顔をしながら頷く。
「早くて3分くらいだ。もっともその前に壁が壊れるな、こりゃ」
壁には既に多くの亀裂が走っており、3分どころか、1分持てるかどうか分からない状態だった。
この壁が壊れれば本格的な戦闘が始まるだろう。
「まぁ、インターバル無視して連続でやればいけるな。霊力が馬鹿みたいに削れるから余裕は残しておきたいが……」
「もう、いい。二人とも私を置いて逃げて……」
すると、二人の間を挟むように、か細い声が聞こえた。
「セレナさん!?」
その声はセレナだった。
彼女は憔悴しきっており、顔を伏せたまま小さく肩を震わせていた。
「私はカイトを巻き込んでしまった。私に力がなかったからカイトを傷つけてしまった。私が真名なんか使ったからみんなを危険な目に遭わせた」
「セレナさん、そんなことは……」
「私は、もう嫌なの!!私のせいで誰かが死ぬのは!!」
彼女は涙を流す。
「私、本当はただの役立たずなの。自分のせいでゼラス兄様やみんなの迷惑になっている。そうならないように心配されないように頑張ったの……でも、役に立てるどころかカイトもアンクも巻き込んでしまった……もう、私はいないほうがいいの」
それは罪を告白するかのような声だった。
語尾が震え、最後のほうはほとんど聞き取れなかった。普段は明るく振る舞っていた彼女が、この言葉を何度も心の中で繰り返してきたのかもしれない。
(俺はずっと、彼女のことが見えていなかったんだ……)
一番、近くにいたのに、セレナが苦しんでいることに気づけなかった。カイトは唇を噛んだ。
「アンク、お願い。私が目の前に立てば相手も躊躇うからその間にカイトを連れて逃げて。アンクならできるはずだよね?」
「けどお前は……」
アンクの表情が揺れていた。無理もない。
確かに相手の目的はセレナだ。
カイトも、アンクも殺すつもりでいるだろうが、彼らも追い込まれておりそこまで余裕がないだろう。
セレナを確保すればそのまま引くかもしれない。
だからといって迷わず自分より年下の少女を囮にして逃げれる人間がどれくらいいるだろうか。
少なくともアンクは、すぐには答えを出せずにいた。
(何か手はないのか?セレナさんも、みんなが助かる方法が……)
カイトは必死に考える。
このまま三人で逃げるのは不可能だ。
しかし、相手はムドも含めて四人。
それも、こちらでまともに戦えるのはアンクだけだった。
ドン、と壁が揺れ、亀裂から細かい破片が落ちた。
もう、時間は残されていない。
(考えろ!!考えるんだ!!)
それでもカイトは必死に考える。
せめて、自分にも戦える力があれば何か変わるかもしれない。
自分に何か特別な……。
『僕のせいで……力の一部が、君に完全に渡ってしまった』
(あっ……)
その時、カイトは思い出した。
謎の森の空間で、白髪の子供が話したあの言葉を。
彼は誰か分からない。だがその子供はカイトに何かを渡したのだ。
(まさか……)
カイトはそっと目を閉じる。
『ぉ……』
『……は……』
『……み……な』
自分の中に別の誰かが囁いてくる。
自分には何も聞き取れないし、意味も分からない。
だが、それが自分の力だと言うことは理解できた。
まるでそれが元からあったかのように。
(もしかしたら……今なら)
目をゆっくりと開きカイトはアンクに声を掛ける。
「……アンクの特定型の発動はまだ時間が掛かるんだよね」
「そうだが……それがどうしたんだ」
アンクは質問の意図が分からず、困惑したように応える。
カイトは言葉を続ける。
「誰かが彼らを引きつけてくれたら、アンクは時間を稼げるし援護に徹せるよね?」
「何が言いたいんだ」
「俺が戦う。アンクの真名がもう一度、放てるように」
「なっ!?」
カイトの発言にアンクは驚愕する。
「カイト、ダメ!!……そしたら、カイトが殺されちゃう……」
セレナも縋りつくように止める。その手は震えていた。
カイトはその手を優しく握る。
「大丈夫です。セレナさん、考えはあります」
「カイト……」
しかし、セレナの心配は消えない。セレナの目には、ついさっきカイトが死にかけた光景が焼き付いているのだろう。
(信じてもらえないのは分かっている)
だが、もう彼女を苦しませたくない。
ずっと、辛くても必死に頑張っている。そんな少女を見捨てることはできなかった。
「もしもの時は、アンクが守ってくれます。……それでもダメだったら、その時は、手を貸してください。セレナさんの手を」
カイトの言葉にセレナは目を見開く。
「俺がセレナさんを守るんじゃないんです。みんなでこの場を乗り越えたいんです」
そう、守るだけじゃダメだった。仮に助けられたとしてもセレナはこれから自分のせいだと責めて生きてしまう。そう考えたカイトが出した言葉だった。
「だから、今は俺を信じてください」
その言葉にセレナは少し黙った。
アンクも声を掛けない。
聞こえるのは壁から伝わる衝撃音と崩れて落ちる破片の音だけだった。
「……分かった。必ず戻ってきて」
やがて、セレナは絞り出すように口を開く。
そして彼女はそっと手を離した。
「はい、必ず戻ってきます。セレナさんもお願いします」
カイトはそう言って立ち上がる。
「カイト、お前……」
「……アンク、お願いがあるんだ」
「なんだ?」
「俺が戦っている間は、セレナを守ってほしい。アンクにしか頼めないんだ」
自分の力が何か分からない。もしかしたら何もできないかもしれない。
その何かによって、セレナが巻き込まれるのはあってはならない。
「……分かった」
アンクは黙ったまま小さく頷いた。
「ありがとう。アンク、もしものことがあったらセレナを連れて……」
「待て、俺は現世人は信頼してねぇんだ。だから……お前が責任持って連れて帰れ」
「……そうだね」
遠まわしに死ぬなと言われたカイトは素直に頷く。
「それじゃ、行ってくるよ。壁も限界だし」
すでに壊れる寸前となっていることに気づきカイトは壁の外に出ようとした。
目の前の相手と決着を付けるために。
* * *
攻撃に間が空いたことを確認したカイトは壁の外に出る。
すると、さっきまで攻撃していた私兵団は動きを止める。その後ろにいるムドが驚いた顔をしていた。
だが、相手がカイトだと分かったのかすぐに戦闘態勢をとりジリジリと詰め寄る。
相手の行動に対しカイトは別のことを考えていた。
(セレナさんを守ろうとしたときに見たあの映像はなんだったんだろう……)
あの時見た光景は、かなり昔の記憶のようだった。断片的で全部は分からなかったが、義父と義母の姿は確かにあった。それに、前にも見た目元の見えない男と、二人の男女。そして、ずっと語りかけてきた銀髪の少年。
なぜか、他人とは思えなかった。
(なぁ、俺は何者だったんだ。お前は誰だったんだ?俺は昔、何があったんだ?)
時間がゆっくりと感じられた。
結局、あれだけでは自分は何者か分からなかった。
しかし、やることは変わらない。
(分からない。何も知らない……けど)
カイトは私兵団と向き合う。
(俺はセレナさんを、みんなを守りたい。だから今は……俺に力を貸せ!!)
そして力を使った。
レテロ達の村での山賊相手に初めて使った時と同じ、別の人格のようなものが意識に流れ込んでくる。
しかも、前よりずっと多くの声が混ざっていた。
だが、カイトは不思議と拒絶感がなかった。それが自然だったかのように。
流れ込むものに身を任せると、意識が切り離されていった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は10月31日(土)、18時の予定です。
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