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Iの冒険記  作者: 一発KO
第二章 異世界漂流編 下
43/43

39話 戦える力


<デトマール私兵団 ミネル視点>


(クソ!何故、ここまで来て手こずるのだ!!)


デトマール家の私兵団の隊長、ミネルは苛立ちを抑えられなかった。

本来ならセレナ・アルカードを攫うだけでよかったはずだ。

その後のアルカード家の没落は山賊達と中央貴族達によって完遂するはずだった。

もっと早く誘拐できたはずが、カイトという異世界人に邪魔された。そして、ようやく攫えたと思えば予定より早い特務機関の到着。

それによって山賊の拠点ごと襲撃されている。

挙句の果てに自分達の前で突如、現れた謎の少年に邪魔される始末だ。


「相手、動きはありません」


「分かっている」


そして今、その少年とカイト達をウォーレスが作り出した壁の後ろに追い込んでいる。

ウォーレスの真名によって生み出した壁は本人でも消せないためミネルの水弾で壊そうと壁を攻撃していた。


「おい、ムド!!あの子供はなんだ?貴様の情報には何も載っていないぞ」


水弾を撃ち続け壁にそれなりに罅が入り始めたころ、ミネルはアルカード家からデトマール家に寝返ったムドに視線を向ける。

しかし彼は顔を青くしながら首を横に振るだけだった。


「いえ、し、知りません!アルカード領の、それも村の子供にこんな戦える真名を持っているなど聞いたことも……」


その態度にミネルは苛立ちを更に強くさせる。


(ふざけるな!己の領だった人間すら把握していないだと!?そんなんだから貴様は中央貴族から見限られるのだ!!)


本来なら、ムドに罵声を浴びせたいミネルだが現在の状況から心の中で留める。

そしてカイト達と突如、現れた少年を壁の向こうに追い込んだ所に視線を向ける。


(レイブンを失ってしまったが、おかげで相手の真名が分かっただけでも彼が無駄死にではなかったのが救いか……)


ミネルは謎の少年をそう考察しながら積りに積もった苛立ちを抑える。

触れた相手の集中力と記憶力を低下させる付与型の真名を持った部下、レイブンの命と引き換えにその子供の真名は単体に強いが連発と集団戦に不向きな“特定型”であることを知ることができた。

具体的な能力までは分からずとも型さえ分かればどうってことはない。

ムドを除いても、こっちは自分を含め部下、ウォーレスとハリーの三人だ。

向こうも三人だが、カイトという異世界人は自分達の敵ではない。何故か怪我が一つも残ってなかったが、つい先ほど瀕死の重傷まで追い詰めたのだ。

三対一。しかも相手の真名の型は割れている。

そんな中、壁の罅が多くそして深くなり始めた。後、数発、撃てば崩れそうになっている。


「とにかく壁を破壊する!ハリー前列で構えておけ!!ウォーレスはカバーだ」


「「はっ!!」」


ミネルの指示を受けハリーは毛穴から鋭い針を生やす体質変化型の真名によって全身にハリネズミのような棘を伸ばして待機し、ウォーレスは後方で構える。

もうすぐ始まる戦闘、まず突如現れた特定型の少年に警戒しながらカイトを始末しセレナ・アルカードを確保する算段を立てる……その時だった。


「……!!」


その時、壁の後ろから人が現れたのだ。念のため、ミネルは攻撃を止めてその人物に視線を向ける。

しかし、出てきたのは異世界人、カイトだった。

何故、今になって彼だけ出てきたのか、ミネルは困惑を隠せなかった。


(何故、奴が今になって!?投降か?それとも時間稼ぎ?……いや、今はそれどころではない!奴よりセレナとあの子供だ)


カイトの目的は不明だが、警戒するほどではないと判断した。

それよりも恐らく壁の後ろにいる特定型の真名を使う子供とターゲットであるセレナ・アルカードの方が優先だった。

ミネルは部下のハリーとウォーレスに目配せするとそのままジリジリとカイトを、正確には後ろにいるセレナ達の方に詰め寄る。

だが、ミネルは途中で立ち止まった。

目の前にいたカイトが突然、痙攣しだしたのだ。

それを見たミネル達は反射的に距離を取り始めた。


(なんだ!?何が起こった!?)


カイトは立ったまま痙攣をし続けている。まるで誰かが乗り移っているような奇怪な行動を不気味に感じた。

やがてカイトは痙攣を止め腕をダラリと下す。

部下であるウォーレスとハリーもカイトの方に警戒する。

本当に目の前にいる相手が先ほど痛めつけた者と同一人物なのかすら疑った。


『ははははは……』


すると突然、誰かと混じった声がカイトの口から漏れながらその手をミネル達に向けた。


「……!!ウォーレス、壁を!!」


「はっ!!」


咄嗟だった。ミネルは今までの勘でカイトの動きは攻撃だと判断した。

ウォーレスもその命令を理解し自分達の前に壁を地面から競りあがらせた。


ズゴオォン!!


ウォーレスの作り出した壁がミネル達の頭上数十センチまで競りあがった瞬間、壁から来る轟音と衝撃がミネル達に伝わってくる。


『がやははははあは、こわれっれる、こわらあわっわあっわあ』


壁の向こうから狂笑が響いてくる。

それと同時に壁から来る衝撃が増えていき、あっという間に罅があちこち出来始めた。


「……!?総員散開!!」


ミネルの言葉に部下たちは壁から離れるように散開する。戦闘に参加していないムドも、小さな悲鳴を上げながら壁から逃げる。

ミネル本人も壁から離れた瞬間、激しい轟音と共に壁は弾けるように砕け、そこから岩弾が飛んでくる。


『ぎぃひ……あは、俺がこわわわしてやぁ……がぁ!!』


まるで壊れたスピーカーのような声を上げながらカイトの手の平からボーリング玉ほどの岩が無数に作られる。

それを乱射し、ミネル達に襲い掛かった。

その攻撃にミネル達は必死に避けようとする。


「ひぃぃ!?」


ウォーレスより後ろにいたムドが悲鳴を上げていたがミネルは気にも止めず、カイトを睨みつける。


(クソ!!まさか、本当に真名を使ってくるとは!!)


ムドの情報からカイトの真名が岩の形成型であることは知っていた。

しかし一度、戦った際、カイトはその真名を使ってこなかった。そのため、ムドの情報は当てにならないと見ていた。その真名を、今になって使ってきたのだ。


(だが、この程度なら問題ない!!今更、戦えたところで所詮は形成型一人、仕留め方は分かっている)


予想外ではあるがミネルはこの状況に対処できると考え部下たちに指示を飛ばす。


「ハリー、奴の気を引け!!ウォーレスはカバーを!!私は奴の隙を狙う!!」


「「はっ!!」」


ミネルの指示によってウォーレスは構え、ハリーは体から棘を生やし突撃する。


『ぎゃはははははぁは!』


それに対してカイトはハリーに向かって岩塊を飛ばす。


「効くかよ!!俺の棘なめんじゃねぇ!!イカレ野郎!!」


しかし、より頑丈にさせた無数の棘が生えた腕を振るい、岩を貫き砕く。


それを見たカイトは後ろに下がる。


「逃がすかぁ!!」


『ぐが!?』


そこにウォーレスの壁が追撃しカイトは回避しきれず横腹に命中しバランスを崩す。


その隙をミネルは逃さなかった。

ミネルはハリーに気を取られたカイトの死角になるところに回り込み水弾を形成する。

カイトはそれに気づかず“両手”をハリーに向けて岩を形成する。


(素人め!!形成型は真名を発動するとき、手に集中する。両手を使えば死角への強襲に対応できまい!!)


これまで数多の戦場で様々な真名と戦ってきたミネルの経験則だった。

ミネルは水弾を放つ。

高い密度と速度で打ち出された水弾は砲丸並みに硬く、車以上の速さを誇っていた。

その攻撃がカイトの頭に吸い寄せられるように飛んでいく。

カイトもその水弾に気づいた風だったが既に両手は前にかざしており、今から防御するには間に合わない。

水弾はそのままカイトの頭に命中する……はずだった。


ズゴゴゴゴ!!


バガァ!!


「なっ!?」


突然、カイトの目の前に壁が生成された。水弾は激しい衝突音を残すだけでカイトには届かなかった。


『げはははははは』


「うぉ!!」


一方のカイトはそのまま両手に形成した岩塊をハリーに飛ばす。

さっき貫き砕いた岩より硬く高速でそれを複数発撃ちだしてきたため、ハリーは捌ききれずたまらずカイトから距離を取った。

攻撃が失敗したのだ。ミネルはその失敗の原因であろうウォーレスに視線を向ける。


「ウォーレス!!何故、ここで壁を作った!?」


壁を生成する領域型の真名を使うのはウォーレスだけだ。

もしウォーレスが余計なことをしなければそのままカイトを仕留められた筈だった。


「違う……違います!!あれは……私が生成した壁じゃありません!!」


「なっ!?」


しかし、ウォーレスは顔を青くし首を横に振る。

その答えにミネルは絶句しカイトに視線を向ける。

カイトの方も自分達の方に視線を向けていた。


『隊長、隊長隊長隊長隊長隊長隊長、壁壁壁壁壁壁壁かべらばばばばば』


するとカイトの周囲の地面から複数の壁がズズズッと生えてきた。

まるでその壁をカイトが生み出したかのようだった。

だが、それだけではない。


「これは……ウォーレス?」


カイトの口から漏れたのは、確かに部下の声だった。しかし、ウォーレスは自分の後ろにいる。

この謎の光景にミネルは茫然とした。

そのため、その後の反応が遅れた。

突如、目の前に壁が斜め上へと競り上がりミネルへと迫ってくる。


「隊長ぉ!!」


その時、ハリーがミネルに駆け寄り突き飛ばした。

そしてその直後、ハリーはその壁に直撃する。


ボキゴキガっ!!


ハリーの体から生えた棘はへし折られ、彼の体内から何かが砕ける音とともに後ろへと吹き飛ばされる。そして遠くの地面に激突した。


「ハリー!!」


ミネルは遠くに飛ばされ倒れたハリーに向かって叫ぶ。

しかし、ハリーは倒れたまま起き上がることはなかった。

ハリーが戦闘不能だと悟り、額の汗を拭う余裕もないままカイトに向き直る。


(奴は形成型ではなかったのか!?あれでは領域型の、いや、ウォーレスの真名、そのものではないか!?)


まるで、違う能力に変わったことにミネルは戦慄する。


『穴、穴見つけた。アリの巣の穴、デトマール家ののののとこののかずずずずず』


声は紛れもなくウォーレスのものだった。だが、この状況でそんな言葉を漏らす男ではない。まるで、記憶の底に沈んでいた何かだけを拾い上げているようだった。

セレナの“規格外”の真名や、あの子供の特定型よりも、目の前のカイトの方が遥かに危険ではないか。そう思わざるを得なかった。


「何なんだ……何なんだお前はぁぁ!??」


ウォーレスは恐怖に駆られ、真名で競り上げた壁をそのままカイトにぶつける。


「よせ!!ウォーレス!!」


それに対してミネルは慌ててウォーレスを止めようとした。なぜ、そうしたか自分には分からない。

触れてはいけないものに触れたのではないかという恐怖からそう口にしたのかもしれない。


だが、その命令が間に合わず壁はそのままカイトに直撃したと思えた。

しかし、直撃した壁は何かに貫かれたのかバラバラと崩れ落ちる。

その向こうにハリネズミみたいな棘を生やしたカイトが立っていた。


『隊長、俺がぜんめ゛んにににに』


今度はハリーの声を出しながらカイトはミネル達に近づいてくる。


(まさか、相手の真名を模倣している?馬鹿な!?あり得るはずがない!!発動する型を無視した真名などありえるはずがない!!)


ミネルはその考えを必死に否定しようとする。

真名には必ず発動する型がある。

ミネルは形成型だしウォーレスは領域型、ハリーは体質変化型だ。

型は人によって異なるが、一人の人間の型が変わることはない。

故にカイトのように型を無視した真名を模倣する能力など存在しないはずだった。

なにより今のカイトの姿は不気味でならない。いくら相手が異世界人でもここまで不気味なはずがない。


(こいつは……こいつはなんなんだ!?)


ミネルは絶叫しそうになった。しかし、この場で指揮する立場故に心の中で押し殺す。いや、押し殺すことに必死だった。

それが彼の反応を更に遅らせた。


「隊長……やっ、奴の足元に」


震えながらカイトの足元を指差すウォーレスにミネルはすぐに顔を向ける。


「……なんだこれは?」


カイトの足元から、地面が泥に変わっていた。しかも、その泥はミネル達の足元へ向かって広がっている。

突然のことにミネルは困惑する。


『おいおい、ガキの誘拐な゛んで楽なもんだぜべ』


今度は全く違う声質、それは部下達でもミネルでもない。しかし、その声には聞き覚えがあった。

デトマール家が雇った山賊達、その頭のドレックと呼ばれた男の声。

彼は自分の真名が体を泥にすることができるといい、多少の柔らかい地面なら泥にすることができるとミネル達の目の前で自慢するかのように話していたことをミネルは思い出した。


その瞬間、ミネルは気づいてしまった。

今、奴が何をしようとしているのかを。


「ウォーレス!!下が……」


すぐにこの場から離れようと命令を飛ばしたが遅かった。


ズゴゴゴゴゴゴ


さっきまで自分達がいた地面が崩落し、大きな穴を作り出す。


「うぉぉわぁぁぁ!?」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??」


そのままウォーレスも、倒れているハリーとレイブンの遺体も、そしてさっきまで後ろにいたムドも巻き込まれる形で落ちていく。

ミネルも穴へと落ちながら、カイトを睨みつけた。


(奴は危険だ!!この世界に存在してはならない!!)


*     *     *


<カイト視点>


(あがががが、戻れ、早く戻らないと!!)


景色が上へ流れていく光景を見ながらカイトは必死に自分の意識を戻そうとしていた。


カイトは様々な人格に意識を切り離され、複数の声が頭の中でガンガンと響いていた。それでも、目の前の光景はちゃんと見えていた。

デトマールの私兵団に対し真名と人格を切り替えながら対抗し戦っていたことも、地面を泥に変えて浸食したことで床が崩落したことも覚えていた。

そして、自分が崩落した穴に落ちているため慌てて自分の意識を戻そうとする。

戻しかたを知っているわけではない。だが、崩落したことにより出来た穴はかなり深い。

このまま落ちたら致命傷は避けられないだろう。


(戻らないと!!早く俺は僕は私を戻さないととととと!!)


カイトは必死に元の意識を戻そうとするが戻らない。

自分の中にいる複数の誰かが邪魔しているかのように、頭がガンガンと響いた。



(俺は僕は私は俺は僕は私は俺は僕は私は俺は僕は私は……)


何かが切れた。

自分の何かが切れるのを感じる。

周りは暗く何も分からない。


(……俺僕私って誰だっけ?)


分からない分からない分からない分からない分からない分からない。

目の前が真っ暗なままただ、下に落ちていく。


「……イト!」


すると、誰かが叫ぶ声が聞こえる。


(誰?)


声のする方に顔を向けようとする。

何か聞いたことがある気がする。

その声は幼く、そして安心する声。


「カイト!!」


「……!!」


カイトの名前を呼ぶ声に、目の前がはっきりと見えた。


「掴まって!!カイト!!」


目の前にはセレナが穴の縁に引っかかるように手を伸ばしていた。


「セレナさん!!」


意識がはっきりと戻ったカイトは咄嗟に彼女に手を伸ばす。


「うぉぉ!!」



「うっ」


カイトに手を掴まれたセレナのうめき声とともにカイトの視界がガクンと揺れて止まる。


「セレナさん!!」


再び、彼女の名前を叫んだカイトはそのまま顔を合わせる。


「待っててカイト、今、引き上げるから……」


セレナは必死に引き上げようとする。

しかし、カイトより小さい手では引き上げられなかった。手も震えており、このままではセレナも落ちてしまう。


(……?)


すると、崩れ落ちる瓦礫の音に混じって、何かが地面を蹴り近づいてくる音が聞こえた気がした。


「なん……うぉ!?」


その瞬間、カイトは自身の足に誰かが引っ張るような重みを感じ視界が揺れた。


「きゃっ!?」


その勢いでセレナも上半身が穴の中へ引きずり込まれそうになるが、必死に踏ん張っていた。


「逃がさないぞ……貴様は危険すぎる」


声のした方、下に視線を向けると、そこにはデトマールの私兵団、隊長のミネルがカイトの足を掴んでいた。


「我々は失敗した。セレナ・アルカードも確保できず、このまま特務機関に渡るのだろう。ならば、ここで道連れだ!!貴様諸共!!」


ミネルはそう言うと体重を掛ける。

セレナは「くっ」とうめき声を上げ体はさらに穴の方へと吸い込まれそうになる。


(まずい!このままだとセレナさんまで……こうなったら俺が奴を)


セレナまで巻き込むわけにはいかないとカイトは彼女の手を放そうとした。せめて自分の命と引き換えに、と覚悟を決めた時だった。


ズルッ


突然、カイトの足を掴んでいたミネルの手が滑り落ちていく。

そしてミネルは何が起きたか分からず手をバタつかせながら落ちていった。

すると、セレナの向こうから声が聞こえた。


「“ブラック・アウト”。文字通り闇の中に落ちてったな。全く、勝手に俺から離れてカイトの方に駆けつけやがって……」


「アンク!!」


声の主はアンクだった。

五感を奪われたミネルは、そのままカイトの足を放してしまったのだ。


「セレナさん、そのままカイトを掴んでろよ。俺も引き上げる」


そう言うとアンクもセレナと一緒にカイトの手を握り穴から引き上げた。


その二人の手の温かさからカイトはデトマールの私兵団との戦いは終わったのだと悟ったのだった。






ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回の投稿は11月7日(土)、18時の予定です。


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