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Iの冒険記  作者: 一発KO
第二章 異世界漂流編 下
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36話 君の声


(なんだ!?なんなんだ!?)


気づけばカイトは謎の空間の中にいた。

感覚は視覚と聴覚以外、何も感じない。

まるで体そのものが液体みたいになり流されていくようだった。

カイトはこの事態を理解することができなかった。

ここはどこなのか、自分はどうなっているのか全く分からない。


(!!)


すると突然、カイトの頭の中に謎の声と断片的な映像が流れ出す。



『やぁ、君が〇〇〇だね』


とある森、目の前に現れた男、その男の目元は暗い靄か影で見えない。


『逃げて!〇〇〇』


『“バッドエンド”、止めろ!!○○〇から離れろ!!』


逃げるようにと我が子の名前を叫ぶ女性と、目元の見えない男から我が子を守ろうと駆け寄る男性。


『ひどいな。久しぶりの再会だろ?』


目元の見えない男は笑う。


(俺は……俺はこの光景を知っている!?)


カイトはこの映像を知らない。だが、何故か見覚えがあった。

しかし、思い出そうとするとより強い拒絶感に襲われる。


映像が飛ぶ。


目元の見えない男の手から、ゴルフボールほどの大きさをした不気味な結晶が、幾何学的な光を放ちながら浮かび上がる。



(……ぐっ!?)


その瞬間、さっきより強い拒絶感とともに映像と声が乱れる。


映像が飛ぶ。


『〇〇〇!!お願い戻って!!』


『ぐげがだださささ!?トウサン?カアサン?ぼく!?僕!?ボク!?』


呼びかける女性。動き出すこの世のものとは思えない化け物。


『そんな……』


『素晴らしい!!やはり君は“救世主”だ!!他の者とは群を抜いている!!』


歓喜の声を上げる目元の見えない男。その様子に我が子を守ろうとしていた男性は愕然としていた。


カイトは戸惑いを隠せなかった。

カイトはこの光景を知っているはずがないのに、既視感だけが強くなる。

それを考える暇もなく映像が乱れる。今度はさっきより長いノイズがカイトを襲った。


違う映像が映し出される。

しかし、この光景にカイトは見覚えがあった。


(ここって日本?いやここって俺の……通学路あたりか?)


雨の降る中、その映像はカイトのよく知る場所、カイトが住んでいた前の世界の場所とそっくりだった。

そこに映し出されたのは、子供を抱きかかえた男性の姿だった。その先には男女がいた。



『あなた!?』


『なんだ!?君は』



『時間がない。この世界もあなた達も誰だか知らないですが、この子をお願いします。……この子はあの世界にいるべきではない』


傘を差している二人組の男女が驚きの声を上げる。

しかし、子供を抱きかかえた男性は言葉を発する。そしてその子供を優しく彼らに手渡した。

映像が乱れる。


先ほどと同じく長いノイズが流れた。

そして、ノイズが晴れるとまた別の映像が流れた。

しかし、そこには子供を手渡した男性はいない。

いるのは先ほど傘を差していた男性と女性の二人とそして孤児院の院長と思われる男性だった。


『本当によろしいのですか?』


『えぇ、よろしくお願いします』


『彼は自身の親や名前どころか、保護される以前の記憶すら覚えていないんですよ。一応、医者からは部分的な記憶喪失みたいでして』


院長はそういうと子供の境遇について語り始めた。

その話を聞く男性と女性。


(お義父さん、お義母さん?)


何故、昔の姿をした義両親が映っているのか、カイトは声を失った。

映像が飛ぶ。


『分かっています。それを承知の上で引き取ると決めました』


義父と義母は院長の言葉に頷きながらそのまま泣いている子供の前まで歩き、目線を合わせるためしゃがんで話しかけた。


映像が飛ぶ。


義父は子供を見て少し黙った後、優しく抱きしめた。


『大丈夫。少なくとも私たちは君をいらないと思っていない。行く宛て……親がいないなら私たちが親になる。私は君を見捨てない』


義父は子供の頭を撫でながら優しく諭した。義母もそれに追随するように優しく頭を撫でる。子供が安心したのか目に涙がたまっていたが徐々に泣き止んでいった。


『……そういえば君に名前がなかったね……せっかくだし名前を……新しい名前が必要だね……決めた。“一ノ瀬カイト”。君の名前は“一ノ瀬カイト”だ』


(一ノ瀬カイト……)


義父が名付けた名前をカイトは心の中で呟いた。


(……!!)


その瞬間、まるで空間が引き延ばされる感じで引っ張られる。


森……


顔に靄が掛かった女性と男性……そして白い髪の子供。


樹……


血……


声……


頭の中で断続的に映像が流れ続ける。

やがて……。


気づけばカイトは知らない森に立っていた。


「……ここは?……体!!」


カイトは思い出したかのように自身の体を触る。

今度はちゃんと体があった。


「……よかった」


このままもう戻らないのかと思っていたので安心したのか今度は両手をグーパーと握るのを繰り返す。


「……やっぱり、ダメだった」


「!!」


瞬間、目の前から声が聞こえた。その声は聞き覚えがあった。

それはカイトの頭の中で語り掛ける声そのものだったからだ。

カイトは慌てて目の前に視線を向ける。

そこにいたのは銀髪の少年だった。年齢は“5、6歳”くらいだろうか。彼の目元は黒い影かモヤみたいなものに阻まれ見ることができない。


「君は……」


「僕のせいだ」


カイトはその少年に声を掛けようとするが少年は話を続ける。



「僕のせいで……力の一部が、君に完全に渡ってしまった」


悲しい声色がカイトの耳に届く。


「もう止まらない……進み始めた……いやもう既に君が車に轢かれそうになったのを助けようとした時から始めたのが間違いだったのかな?」


「えっ!?」


「君が山賊から子供達やアンクを守ろうとしたときはまだ大丈夫だと思ったけど……今回でもう、取り返しがつかなくなってしまった」


その言葉をカイトは思い出す。

この世界に転移する前、カイトは車に轢かれそうになった親子を助けた結果、自分が轢かれそうになった。その時から頭から声が聞こえ、その後、異世界に転移した。

山賊の件もそうだ。山賊に殺されそうになっているアンクを助けたいと思った時も、頭から声が聞こえた。その直後、カイトは暴走し、味方であるはずのアンクにまで攻撃を仕掛けてしまった。それでも結果的に山賊を撃退することはできたが――。

その時の声はノイズがひどすぎて内容が分からなかったが、その少年はずっとカイトを助けていたのだ。


「僕は……僕は誰も救えなかった……自分は全てを壊してしまった。あの時も、そしてこれからも……」


少年は泣いていた。目元が見えないはずなのに涙が流れていた。

そして少年はカイトに懇願するように話し始める。


「お願いだ……君だけはここに来ないで……僕の所に辿り着かないで」


その瞬間、まるでカイトと少年の間に空間が引き延ばされたかのように遠のいていく。



「待って!!君は……」


カイトは少年に向かって走り出そうとする。

カイトは目の前の少年に聞きたいことが山ほどあった。

その少年はカイトにとって他人とは思えない、身近な存在、そう義両親に養子として引き取られるずっと前からいた存在に感じたからだ。


「もう……離れて」


しかし、少年はカイトを拒絶する。

どんどん引き延ばされていき、そして……カイトの視界は暗くなった。


*     *     *


「……イト!……カイト!!」


「……ん?」


少女が必死に自身の名前を呼んでいる声にカイトは目を開ける。


「……セレナさん?」


「よかった。立ったまま動かなくなったから心配してたの」


自身の名前を呼びかけた少女、セレナが心配そうに視線を向ける。


「えっと、なにが起きたんですか?」


「分からないの。私も急にカイトが光りだして気づいたら……なにか戻ってて」


セレナの言葉でカイトは周囲を見渡す。


そこはさっきまでいた場所、山賊の拠点の隠し部屋だ。


「私……真名が暴走して抑えるのに必死で何が起きたか分からないの……気づいたら暴走が治まってて……あっ、えっとカイト、違うの、暴走っていうのはその……」


セレナが戸惑いながらカイトに話しかけていたが耳に入ってこなかった。


カイトは辺りを見回し続ける。さっきまでこの部屋は業火で燃えていて一部が溶けて赤熱している箇所もあった。

しかし、今は炎どころか溶けた後や焦げた跡すらない。

そう、まるでここの部屋は最初から何も起きていなかったかのような状態に戻っていた。


(これは一体、いや俺は……)


カイトは先ほど見た映像と少年のことを思い出す。

あの映像はなんだったのか。夢だとしても腑に落ちない点が多すぎた。


「俺は……一体」


自分が見たあれは何か関係があるのではないか、そう思った瞬間だった。


「……!!カイト!!」



すると、セレナはカイトに向かって飛びつく。

その勢いでカイトはそのまま倒れ込んだ。


バシャ!!


ズゴゴゴゴゴ!!


その時、カイトのいた場所に水球が勢いよくぶつかり、地面から壁が斜めに競り上がった。


「いました!!セレナ・アルカードの真名が収まっています!!」


「規格外をどうやって……いや、相手が異世界人ならありえない話でもないか」


すると奥から話し声とともに複数の人だかりが姿を現す。


(あれはデトマール家の!?)


カイト達の前に現れた集団、デトマールの私兵団達だ。


セレナ・アルカードの真名の暴走と自身に起きた異変に気を取られてカイトは忘れていたが今、自分は敵地にいて状況は好転したわけではなかった。


「……ムド」


元アルカード家の従者のムドがデトマールの私兵団達の後ろに付いてくるように現れたことにセレナは気づく。


「馬鹿な!?まだあの不純物が生きているのか!?」


しかし、ムドはそんなセレナを見ずカイトの方に視線を向けて驚愕する。


「何をしているのですか!?早く、殺してください!!あの不純物の相手をするために来たのでしょう?」


既にデトマール家の走狗になり果てているムドは、私兵団の隊長に懇願する。

彼の姿はもうアルカード家に仕えてきた従者の面影など微塵もなかった。

ムドに懇願された私兵団の隊長は舌打ちしながらも近くにいる部下に命令を下す。


「……!!」


すると、その部下がカイトの周りに複数の壁を囲むように競りあがらせる。

完全に逃げ場を塞がれてしまった。


「セレナさん、後ろに」


「カイト!?」


カイトはセレナを守るように前に出る。


「……どうやらまたボロ雑巾にしないと気がすまないようだな」


若干、苛立ちのある言葉を発した私兵団の隊長。

その彼の視線がセレナの近くにある壁に向けられていることにカイトは気づいた。


(これは……まさか)


カイトは思い出す。

一度、私兵団と戦ったとき、生成された壁から別の私兵団の部下が潜伏していた。

今回も壁が自分の周りを囲んでいる。しかし、その壁と壁の合間には人が一人抜け出せる隙間があった。


「セレナさん!!」


思わず、セレナを守るために振り向いたが遅かった。

相手はセレナを誘拐するのが目的のため決して攻撃してこないだろうと思っていたため反応が遅れてしまった。


「ふん!!まずはセレナ・アルカードだ!!貴様から動きを封じさせてもらうぞ!!」


壁の隙間からデトマールの私兵団の部下が飛び出す。

競り上がった壁にもう一人の部下が潜んでいたのだ。


カイトはすぐにセレナに手を伸ばす。

セレナも壁に隠れた部下に気づいた。

しかし、間に合わない。


私兵団の部下がセレナに向かって手を伸ばそうとした……その時だった。


「……!!」


突如、手を伸ばそうとした私兵団の部下がバランスを崩し倒れる。


「なっ!?レイブン、どうした!?」


それを見た私兵団の隊長は戸惑いの声を上げ倒れた部下、レイブンに声を掛ける。

しかし、レイブンにはその声は届かなかった。


「何だここは!?……なっ!?声が出ない!?」


レイブンは空を切るように手足をもがく。

その異様な光景にデトマールの私兵団もムドも、そしてセレナも何が起きたのか理解できなかった。

しかし、カイトだけは理解していた。

現に自分も受けたことがあるのだ。

特定の相手の五感を遮断させる。

そんなことができる“真名”を持った人物をカイトは知っていた。

パニックを起こしているレイブンは叫び声を上げる。


「一体、何が!?ウォーレス!!ハリー!!隊長!!どこにいったの……でげが!?」


すると、複数の壁の影から縫うように走り出した子供がレイブンの首筋をナイフで突きさす。

首筋を刺されたレイブンはぴくぴくと痙攣した後、動かなくなった。

動かなくなったレイブンを一瞥すると、子供は突き刺したナイフを抜き、そのままカイト達に駆け寄り、デトマールの私兵団と対峙するようにカイトの前に立つ。


「無事かカイト!?……後、セレナ……さん」


「「アンク!!」」


自分と同じ異世界人、アンクが駆けつけてくれた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回の投稿は10月17日(土)、18時の予定です。


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