31話 業火
お知らせ
2026年8月30日に一部キャラの呼称を変更しました。
以下の通りです。
旧 バーナンス
新 ロイド
詳細は以下のURLに記載しています。に記載しています。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3021267/blogkey/3697585/
涙をボロボロと流すセレナ。
彼女を守るようにカイトは前に立つ。
「なんだ?いっちょ前に”化け物”から守ろうとするじゃないか?不純物、世界のゴミの分際が騎士の真似事をするんじゃない」
その姿を見てムドはハッと鼻で笑う。
「……だが、ずっとお前のことは気に食わなかった。お前のせいでかなり邪魔されたからな。ここで死ね」
そう吐き捨てるとムドは後ろにいるデトマールの私兵団の隊長に「後はお願いします」と言わんばかりに視線を移す。その視線を受け取ったのかデトマールの私兵団の隊長は先ほど山賊達との口論を打ち切って動き出す。
話を打ち切られた山賊の頭が「まだ、話が終わってねぇぞ」と騒ぐがその言葉を無視し私兵団の”4人”がカイトを殺そうと戦闘態勢をとる。
「ウォーレス」
「はっ!」
私兵団の隊長が自身の部下、ウォーレスに指示を出す。
ズゴゴゴゴゴゴゴ
すると、カイトの周りを壁がまばらにせりあがり囲み始める。
(また、あの時の壁が……)
競り上がった壁がカイトの逃げ道を塞ぐと私兵団の隊長は別の部下に視線を向ける。
「……ハリー」
「はっ!」
命令を受けたもう一人部下、ハリーが動き出した。
すると、彼が着ていたローブを引き裂き、無数の棘が上半身を覆う。
そしてーー
「おらぁ!!」
ハリーと呼ばれた私兵団の部下が勢いよくカイトに突撃しながら棘の生えた腕を横なぎで振りぬいた。
「セレナさん!!」
「きゃっ!?」
セレナにも当たりかねないと思ったカイトはセレナを庇うように後ろへと飛びのく。
部下が振りぬいた腕から生えた棘はカイトの背中を引っかき大きい切り傷を作る。
「グゥ!」
背中の傷がズキズキと痛みだす。
その傷に気づいたセレナが声を上げようとする。
「カイト!!」
「大丈夫です!!後ろに下がってて」
カイトは心配を掛けないようにしながら彼女を後ろに下がらせる。
「てめぇ!!勝手に殺そうとしてんじゃねぇ!!こいつは特務機関の交渉に使うんだよ!!」
そんな中、勝手に殺そうと動いた私兵団に対し激高する山賊の頭が怒声を放つが山賊達は参加する気配はない。
しかし、カイトにとって状況は最悪であることは変わりはない。
(ダメだ!!セレナさんを連れて逃げるのは無理だ!!まして倒すことも)
自身と私兵団の実力の違いをカイトは思い知らされる。
とてもじゃないが戦って勝つのは現実的じゃない。
(……とにかく、この状況をどうにかしないと)
少し前に山賊の拳銃で掠めた肩と、先ほどハリーに付けられた背中の傷の痛みに耐えながらカイトは打開策を考えようとする。
現在、カイトは後方の逃げ道を塞がれ、目の前には山賊達とデトマールの私兵団達が自身を殺すために迫っている。
山賊達はデトマールの私兵団やムドのようにカイトを殺す気はない。しかし、逃がす気もない様子だ。
おまけに相手は真名を使ってくるのに対し、カイトは真名を使えない。いや、使えないというより「使い方を知らない」と言った方が適切だった。 以前、レテロ村で起きた山賊との戦いで使い、それ以降は発動できなかった。
戦うことも逃げることもできないカイトが取れる行動は一つだけだった。
「かかってこい!!殺せるものならやってみろ!!」
(とにかく、注意を引いて誰かが助けに来るまで時間を稼がないと……)
そして自身に注意を向けさせるために相手を挑発した。
とにかく時間を稼いで誰かが助けに来ることに賭けたのだ。
もしかしたらセレナを助けるためにゼラスが向かっているかもしれない。
またはアンクが自分達と同じ攫われた子供達を安全な場所に置いた後、来てくれるかもしれない。
相手が悪すぎるが希望がないわけではなかった。
そんなカイトの行動に私兵団の隊長は失笑する。
「舐められたものだな。確かに異世界人は厄介だが戦闘慣れしていない、おまけにムドの報告では真名を碌に使いこなせないと聞く。そんな相手に我らが遅れをとるものかよ!!」
そう言うと私兵団の隊長はカイトに手のひらを向ける。
すると、手のひらから野球ボールほどの水球が形成されていく。
(何か……来る!!)
明らかに攻撃が来ると感じカイトは身構える。
そして……。
ビュン!!
風を切る音と共に凄い勢いで水球がカイトに飛んでくる。
ビッ!!
外れたのか、咄嗟の反応で避けたのか分からない。
水球はカイトの腕を掠め、後ろで大きな音を立てた。
カイトは慌てて後ろを振り返る。
すると、着弾したであろう地面に濡れた跡と、やや大き目なヒビが残っていた。
(水でこの威力……)
掠めた腕をさすると、触った手には濡れた感触があり、腕にじんわりとした痛みが走った。
見ると、掠っただけだが確かにそこから血が出ていた。
「うぉらぁ!!」
更にハリーが棘の生えた腕でカイトに追撃を加える。
(クソ!!)
カイトは転ぶように棘の生えた腕の攻撃を避けようとした。
(えっ!?)
すると、相手の腕の針が若干伸び、カイトの腰辺りに突き刺さる。
転びながら避けたので貫通する前に通りすぎたが、深い切り傷が残った。
「ちっ、ちょこまかと」
幸い致命傷を避けられたことにハリーは舌打ちするが、それを聞く余裕はカイトになかった。
「はぁ、はぁ……くぅ!!」
息を付く間もなくカイトの周りの地面がせり上がる。
「逃がさん!!」
「がっ!!」
そのせり上がる壁にカイトは避けきれず脇腹に直撃し、打ち上げられる。
体の中で何かが折れる音が聞こえ、鈍い痛みが駆け巡る。
しかし、ここで倒れるわけにはいかないカイトは周りが”壁だらけ”になっている場所で立ちあがる。
(今、どんくらい経ったんだ?助けはまだ?)
既に息を吐くのもままならない程の激痛がカイトの体を駆け巡っている。
(とにかく、耐えるんだ!!セレナさんを助けるために)
それでも誰かが助けに来るまで耐える。カイトは痛みを堪えながら相手を睨む。
(とにかく、時間を稼ぐんだ。この3人から……3人?)
相手を睨んでいたカイトは私兵団の数に違和感を感じた。
カイトの目の前にいる私兵団は3人……そう3人だけなのだ。
(後、一人はどこだ!?”4人”いたはずなのに)
カイトが最初、見たときは4人、山賊達とムドは参加していない。
しかし今は3人しかいない。一人、いないのだ。
カイトは必死に辺りを見回そうとした。
ゴッ!!
「がっ!?」
突然、脇腹に鋭い痛みが走る。
しかし、先ほどの三人のような針や水球、壁などによる攻撃ではなく誰かに殴られた痛みだった。
「ようやく隙ができたな」
カイトを殴り飛ばした別のデトマールの私兵団の一人はそう呟く。
(いつから……そこに!?)
カイトは突然、現れた男に戸惑いを覚える。
しかし、その原因がすぐに分かった。
彼の後方にもウォーレスによって競り上げられた壁が無数に広がっている。
(もしかして壁に隠れて隙をうかがって……あれ)
ウォーレスと呼ばれた私兵団の部下が生み出した壁に隠れて、カイトに接近していたのだ。
しかし、その結論に辿り着こうとした瞬間、カイト自身に異変が起きる。
(あれ?なんだ?……壁に隠れてて……それから?)
カイトはまるで頭にモヤがかかったようにぼんやりしてしはじめる。
(もしかして、相手の真名は……あれ?俺なんて考えていたっけ?)
必死に相手の真名を推測しようにも考えようとしても考えが霧散してしまう。
今、危機的状況だとカイトは理解してても頭がボーとしてしまう。
「異世界人の”集中力”と”思考力”を低下させました!!今です!!」
カイトを殴った男が私兵団の隊長に報告する。
「よし!!下がれレイブン!!」
私兵団の隊長の命令でその男、レイブンはカイトから離れる。
その瞬間、無数の水球が私兵団の隊長の手のひらから生成されカイトに向かって勢いよく飛んでくる。
それを見たカイトは避けようとする。
(早く避けなきゃ、避けて避けて避けて……どうすればいいっけ?)
ドゴォ!!
一発目の水球が集中力が低下したカイトに衝突する。
そしてーー
ズドドドド!!
残りの水球もカイトに直撃した。
「あっ……ば……」
カイトはそのまま倒れる。
動こうとすると激痛が走った。
手足も折れて立ち上がることができない。
呼吸をしようとすると肺も潰されているのか、上手く空気が入ってこない。
(息が……俺、死……ぬ?)
カイトの体はすでに満身創痍だった。
最早、生きているのが奇跡に近い状態だった。
「ムド、お前はセレナを確保しろ……ハリー、異世界人にとどめを刺せ」
「はい!」
「了解です。隊長」
私兵団の隊長の命令で、彼らの後ろにいたムドがセレナを捕らえようとし、ハリーはカイトにとどめを刺すために動き出す。
「おい!やっぱ、殺さないほうがいいだろ?特務機関はどうするんだ?交渉で引き渡せれないだろ?」
「諦めろ、どのみち、あれではほっといても死ぬ」
戦闘に参加しなかった山賊達はカイトを生きたまま捕らえようと提案するが、私兵団の隊長はそれを一蹴した。
そしてハリーはカイトの前まで歩き、針状の腕を振り上げる。
その瞬間だった。
「なっ!?」
すると突然、ハリーの目の前に、業火が迫った。
「ハリー、伏せろ!!」
業火が直撃する寸前、ウォーレスの真名によって出現した壁に阻まれた。
「クソ!!恩に着る、ウォーレス!!……しかし、一体どこから……」
ハリー達が誰の攻撃なのか辺りを見回そうとした瞬間。
ムドが顔を青くしながら叫ぶ。
「まずい!!早く彼女を止めろ!!」
ムドが指し示す先には、手を震わせながら体のあちこちから炎を形成するセレナの姿があった。
(……セレナさん)
肺も潰れてるのか息もできず、立ち上がることもできないカイトは朦朧とした意識の中でセレナに視線を向ける。
「カイト!!逃げて!!お願い!!」
セレナはカイトに必死に逃げるように叫ぶ。
彼女の目元には涙が溜まっていた。
「まずいぞ!!急いで止めろ!!セレナ・アルカードが真名を……”規格外”が真名を使っている!!」
ムドが悲鳴に近い声で叫んだ。
その悲鳴に弾かれるように私兵団の隊長は部下に指示を飛ばした。
「セレナ・アルカードを始末する!!」
「待ってください!!デトマール様から彼女は殺さず確保するはずでは!?」
「馬鹿者!!我々にはあれを止める術がない!!被害がでかくなる前に……」
本来、セレナを確保することが目的で動いていた部下たちを一喝した瞬間、辺り一帯がまるで溶けるかのような熱気に包まれる。
そしてセレナの周りに生成された炎はまるでこの部屋一帯を包むかのように突如、大きくなる。
「えっ?、待ってお願い!!まだ暴走しないで!!」
セレナが必死に押さえつけるかのように苦悶の表情を浮かべる。
しかし、彼女から出る炎は止められない。
そしてーー
ゴゥッ!!
彼女から発する業火が周りを真っ赤に染め一気に広がった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は9月12日(土)、18時の予定です。
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