30話 裏切り
お知らせ
2026年8月30日に一部キャラの呼称を変更しました。
以下の通りです。
旧 バーナンス
新 ロイド
詳細は以下のURLに記載しています。に記載しています。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3021267/blogkey/3697585/
(クソ!!どうすればいい!?)
山賊達とデトマールの私兵団に囲まれている中、逃げ道を失ったカイトは自身の軽率な行動を後悔していた。
もしあの時、隠し通路があっても入ろうとしなければ。
もしその先に山賊達とデトマール家の私兵団がいると分かった時点ですぐに引き返していたら。
しかし、そう過去のことを考えていた所でどうしようもない。何故なら今、この目の前の状況こそ最悪な事態であり現実なのだから。
(せめて、セレナさんだけでも守らないと!)
カイトは、セレナを守るように前に出る。
本来、逃げるべき自身の後方は既にデトマールの私兵団の部下、ウォーレスと呼ばれた男が生成した壁によって塞がれている。
前も後ろも塞がれた袋小路。カイトにできることはただ、前に立ち続けることだった。
もしかしたら、誰かが助けにくるかもしれない。そんな希望的観測を乗せて。
「総員戦闘態勢、異世界人を始末しセレナ・アルカードを確保しろ。その後、裏口へと脱出する」
私兵団の隊長が命令を下し、部下たちも戦闘態勢を整えカイトに襲い掛かろうとしている。
「おい、異世界人を殺すのか?そいつも確保にしとけよ!!」
しかし、一緒にいた山賊の頭は眉をひそめ、不満顔で声を上げる。
私兵団の隊長はそんな彼に不快感を露にする。
「我々の目的はセレナ・アルカードだけだ。あの異世界人を残したところでメリットはない」
「それは、てめぇらの都合だろうが!!異世界人は裏奴隷界隈では結構な金になるんだ!!何よりこっちは既に攻め込んできた特務機関共のせいで部下が殺されまくってんだぞ!異世界人を奴らに引き渡してこっちを見逃すように交渉する材料にもできる!!」
山賊達とデトマールの私兵団達が激しく言い争う。
そんな中、カイトの後ろにいたセレナが彼らの背後に立っているムドに視線を向ける。
「ムド……本当にアルカード家を、私達を裏切ったの?」
声を震わせながらもセレナは問いかける。
ムドはそんなセレナにゆっくりと視線を向ける。しかしその目は、カイトに向けていた侮蔑の眼差しよりも、更に冷たかった。
「違います……と言った方がいいですか?いつものようにご機嫌取りとして」
ムドは冷たく言い放つ。
その言葉にセレナは口を引き結んで、肩を強張らせる。
常に侮蔑な目で見られたカイトにとって普段のムドのことは知らない。しかし、セレナの反応を見ると今のムドは彼女が知るのとは正反対であることは理解できた。
セレナは小さく震えながらも言葉を続ける。
「……あの時、私のお父さんに拾われたから恩を返したいって」
「えぇ、恩を返したいと思ったのは本当でしたよ。実際、あの時は野垂れ死んでいたかもしれませんからね。……ですが、それも生きているうちの話ですが」
「生きているうちの話?」
セレナはムドの言葉の意味が分からず聞き返す。
その困惑した表情を見て、ムドは「そうだ」と吐き捨てた。苛立ちが声の端々に滲んでいる。
「私は本来、こんな廃れた領地に従者なぞする立場じゃない!!私は本来、中央貴族のエリート街道に立つにふさわしかった。我が家では私を除け者にした兄弟を上から見下せると思っていた……なのに周りが私の邪魔をする!!」
ムドは片手で頭を掻きむしる。
「屑共に場所を奪われ路頭に迷ったところでアルカード家に拾われたのは幸運だと思いましたよ!中央貴族ではないとはいえ、勢いのある家だった!そこならまだ成り上がれると思っていた。だが、アンタの父、クリス・アルカードは戦争ですぐにくたばりやがった!!しかも、その妻もろとも揃って亡くなりやがって!!」
まるで、セレナを責め立てるかのように指を突きつけ罵声を浴びせる。
セレナはただ、唇を噛んで、必死に涙を堪えている。手が、かすかに握りしめられているのがカイトには見えた。
カイトはセレナから彼女の両親のことを聞いていた。
特に母親の方はセレナにとって、落ち込んだ自分を励ましてくれた人だと、セレナはとても嬉しそうに話していた。父親の方は知らないがあの時のセレナの表情から両親ともに大切な存在であることは確かだった。
そして父親と母親が亡くなった時のことを話したときのセレナは辛そうだった。
それでも必死に前を向いて頑張ろうとしていた。
そんな大切な両親を、自分が信じていた人間から罵られる。
カイトはすぐにでもムドの言葉を遮りたかった。しかし、下手に動けばセレナを危険に晒しかねずただ奥歯を噛みしめることしかできなかった。
「それで、残ったのは出来損ないの息子と縮小された領地、挙句の果てに貴様のようなお荷物以下の”化け物”を押し付けられる!俺が何をした!?何故、こんな仕打ちを受けないといけない!!本来、中央貴族でエリートになれる程の実力があった俺が、弱小貴族の小娘のおべっかをしなければならない。分かるか?この屈辱が」
ムドはそのままセレナを睨み続ける。そして自身の今までの鬱憤を全てセレナにぶつける。
セレナは何も言えず涙をボロボロと流している。
(……セレナさん)
カイトはただ、その背中を見つめることしかできなかった。
カイトにとってムドは出会った当初から警戒と侮蔑の目を向けてきた人物だ。
それは辛かったが、もともと心の距離があった分、まだ我慢することができた。しかしセレナは違う。
セレナはムドのことを信頼していたのだ。
セレナにとってのムドは責任感が強く、自身が来る前までは優しく接してくれており信頼している人物だった。
そんな人物が、今、こうしてセレナを責め立てている。
セレナの心は決壊寸前だった。
すると、さっきまで苛立ちでセレナに叫び散らしていたムドは大きく息を吸って平静を取り戻す。
「そんななか、デトマール家から誘いがきた。このままアルカード家の内通者として彼らの没落の協力をしたらそれ相応の地位を約束するとな。連中は星級の”規格外”である貴様を欲しがっていたからな」
カイトはムドが言った”規格外”という言葉に目を丸くする。
(星級の”規格外”!?まさかセレナさんが!?)
あまりに高い霊力で真名がコントロールできず発動すれば自身で止めることができなくなる症状であるということをアンクから聞いたことがあった。
ムドは言葉を続ける。
「私は迷わず、それに乗った。……こればかりは貴様の父親に拾われて本当によかったと思っているよ。こうしてどん底から這い上がれる機会を得られたのだからな」
ムドはそう言い終わると後ろにいるデトマールの私兵団に目をやる。
それとともに私兵団はまだ、喚いている山賊達を無視して動き出す。
ムドがセレナに向ける眼差しは、もはや自身が仕える令嬢を見るものではなく、まるで出世の踏み台でも見るかのようだった。
「セレナさん……後ろに下がって」
カイトはセレナの肩を優しく手で置き後ろに下がらせる。
「カイト?」
今も涙を流しているセレナは自分をムドから隠すように立っているカイトを見つめる。
そんなセレナを背にカイトはデトマールの私兵団を睨みつけていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は9月5日(土)、18時の予定です。
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