28話 殲滅と独行
<山賊の拠点 内部>
「なっ、異物狩り!?なんで、ゲボバッ」
「ヒィ!もうダメだ、逃げろ!!」
「馬鹿野郎!!数はこっちが上なんだ!!戦か…グベ」
現在、山賊達にとって凄惨な状況と呼べるものだった。
彼ら、山賊達はこのアルカード領のみならず他の領でも略奪や誘拐の限りを尽くしていた。
自分達より弱い者を追い回し痛めつける。それが彼らの本職みたいなものだった。
しかし、それは特務機関こと異物狩りによって逆に追い詰められ狩られている。
状況が分からず、茫然としていた所を狙われ倒れる者。
恐慌状態になり涙を流しながら逃げ出す者。
応戦しようとして返り討ちに遭う者。
数では自分達の方が多いがそれ以上に高い相手の練度の差に手も足もでない山賊達は恐慌状態となっていた。
「ちくしょう、ちくしょう。なんで俺がこんな目に……」
その山賊の一人、ルーザスは見つからないように部屋の隅でデトマール家の人間から提供された拳銃を抱えてガタガタと震えていた。
「まずいぞ。ルーザス!!戦う?いや、逃げるべきか!?」
ちょうど自分の近くにいた同じ山賊のガルボは必死にルーザスに話しかける。
(知るかよ!大体、勝てる訳ねぇだろ!!向こうは国級以上の真名でまとまっているうえに異世界人(不純物)共や”怪奇種”ていう化け物と殺り合おうとする、イカれ集団だぞ!?)
パニック状態になって冷静な判断ができていないガルボを見てルーザスは苛立ちを覚える。
(おかしい、おかしいだろ!?俺が何したっていうんだ!?たかが、大した反撃もできないガキ共を痛めつけただけだぜ!?なんで国際基準の国家戦力なんかと戦わないといけないんだ!!)
ルーザスは霊力がなかったために真名を碌に使えない村級としてランクづけられていた。
地域差にもよるが村級程度だと爪はじきされるものは少なくない。
周りに相手にされず居場所がなかったルーザスはそのまま山賊となり自分と同じかそれより弱い人間を狙うようになった。
最初は罪悪感はあったが長い間、山賊をやっていくうちにそれも薄れていった。
それどころか、自分は弱い立場だからこれぐらい仕方がない。寧ろやって当然だと思うようになっていった。
そんな中で今、国家戦力に等しい特務機関が自分達を殺しにくる状況は理不尽以外の何物でもないとルーザスは思っていた。
最早、ルーザスは戦う気力すらなかった。だが、逃げることも不可能だということも理解していた。
「大体、アルカード領に来たのもお頭とデトマール家の連中が勝手に言い出したからだ。俺は投降するぞ、殺されるよりマシだ」
「馬鹿言うな、見逃すわけないだろ!!相手は特務機関だぞ!!」
ルーザスが投降するという言葉を聞いてガルボは顔を青くして叫ぶ。
「きっ、聞いたことがあるんだ。特務機関が起こした、”ブロスト領事変”……あれは、10年くらい前の話、ブロスト領にいる異世界人を特務機関も引き渡すよう要求したのを当時の領主が拒否したんだ……それで連中が……特務機関が何をしたと思う?」
ルーザスの言葉にガルボは答えることができない。
この雰囲気で察することはできるが、それが本当だと思いたくなかったからだ。
「特務機関は異世界人ごとブロスト領内の人間を抹殺したんだよ!噂じゃあ、子供一人以外、全員殺されたんだ」
その言葉にルーザスは冷や汗が出る。
今、外で響いている轟音と銃声、仲間の断末魔がガルボが話した内容を連想したからだ。
「……そんなエグいことを平気でやる連中が降伏なんて聞くわけがねぇ!!」
「でっ……出鱈目だ!!いくら何でも、そこまでする訳ねぇだろ!?俺たちはただ、貴族の命令に従ってただけだぜ!?何でそれで殺されなきゃならねぇんだ!!」
ルーザスは叫んだ。
ガルボの言ったことを否定したかったのか。それとも、最悪なことを考えている自分を必死に抑え込もうとしているのか分からなかった。
だが、こうして叫ばないとどうにかなりそうだった。
その時ーー。
ドガァ!
轟音と共にルーザス達の前に大きな物体が飛んでくる。
「ヒッ」
ガルボはその物体を見て短い悲鳴を上げた。
その物体は自分と同じ仲間の死体だったからだ。
その死体の目は白目を向いており胴体には大穴が空いてそこから血が流れている。
その飛んできた方向から多くの人間がゾロゾロとやってきた。
自分達のような革鎧や布などお粗末な装備とは違い、しっかりした軍服を思わせるコートを着た集団、特務機関だった。
その装備をみたルーザスは、特務機関のコートがある古代金属を繊維状にした特殊仕様だという噂を聞いたことを思い出したが、今はそれどころではない。
(こっ……殺される)
ルーザスは咄嗟に抱えていた拳銃を横に投げ捨て両手を上げる。
さっきのガルボの噂は嘘だと思いたかったのか、自分なら降伏を聞き入れてくれるという根拠のない考えに縋りたかったのか。
ルーザスは何かあるかどうか分からない希望に、それでもしがみつきたかったのだ。
「まっ、待て投降する!!殺さ……」
ザシュッ
自分が最後まで言う前に特務機関の一人が一瞬で間合いを詰めルーザスを袈裟斬りにした。
何が起きたか分からないまま、激しい激痛と共にルーザスは意識が遠くなっていく。
朦朧とした意識の中、地面に倒れたルーザスは悲鳴を上げて逃げようとしているガルボが自身と同じように切り落とされるのを見ながら思った。
(どうして、俺だけこんな目に……)
* * *
<特務機関 山賊の拠点内部>
「ロイドC級士官、よろしかったのですか?先ほどの男は降伏しようとしていたように見えたのですが」
「エネギスB級士官の命令では山賊を皆殺しにしろという命令だ。それに数が相手の方が多い以上、一々、捕虜を確保する人材を割く余裕はない」
先ほどの山賊、ルーザスを切り伏せたことに不安の言葉を漏らす部下にロイドは気にするそぶりもなく返しながら自身の剣についた山賊の血を軽く払う。
「何度でも言うが救出対象であるセレナ・アルカード嬢以外の山賊とデトマール関係者は必ず始末しろ。我々がよくやる異世界人……“劣等人種”共を狩るのと同じ仕事をすればいい」
「いや、そこらのアウトロー(犯罪者)と異世界人となると少し違うと思うんですけど……それと、異世界人を蔑称で”不純物”って言う人はいますけど”劣等人種”なんて言えるのはロイドC級士官だけですよ?」
「あいつら(異世界人)が、俺たち現世人より上だと言いたいのか?あんなカス共を?」
部下の言葉にロイドは強い視線を向ける。それは異世界人に対して強い憎悪を抱いた目だった。
その目に部下は尻込みしてしまう。
すると、もう一人、違うロイドより年配の部下が声を掛ける。
「ロイドC級士官、早く奥へと進みましょう。他の班に山賊取られるのも癪ですし」
「そうだったな、時間も限られている。急ぐぞ」
年配の部下の言葉にロイドはハッと我に返り自身の殺気を抑え奥へと足を進める。
「了解です。では、”全ては我ら純粋な魂を持つ者たちが生きる世界のために”ですね」
年配の言葉を最後に他の部下たちもロイドの後に続く。
そして再び、山賊の掃討を再開した。
* * *
<ロイドとは別の班、エネギス>
「エネギスB級士官。ロイドの班は、無事山賊の拠点を制圧中です。ダルデの班は一部、国級の真名を持った山賊がいて多少、苦戦したものの負傷者は無しで制圧したとのことです」
「ごくろう、バートン君。やはり山賊達の大半は町級か村級程度で国級はごく僅かだったようだね」
エネギスは自分達が倒した死体となった山賊の一人に視線を向ける。
そしてその山賊が持っていた拳銃を拾い上げた。
その拳銃をバートンが受け取り注意深く検める。
「この拳銃は我々や軍部以外だけで貴族でも一部しか提供されていないものです。これを証拠物とし押さえておきますか?」
「それはいいけど、これだけでは弱い、弱すぎるね。もっとデトマール家が言い逃れできない証拠を見つけないと」
これだけでは証拠として不十分だと首を横に振るエネギスにバートンは自身の肩に乗っている梟を自身の腕に乗せる。
「分かりました。内部は暗いのでインコの代わりに今度はモクジロウ……梟でもう一度、探ってみます」
「そうだね。敵の索敵のついでに証拠物の捜索をモクジロウに任せるとしよう」
「エネギスB級士官……分かりました。飛ばしておきます」
バートンは自身の真名で視界を共有した梟を通路の奥へ飛ばす。
その様子を見ながらエネギスは今朝、出会ったある人物、一ノ瀬カイトを思い出していた。
(確かセレナだけでなく、イチノセカイトという従者も攫われてここにいるんだったね)
ゼラスが従者と呼んでいるカイトはセレナ・アルカードと一緒に山賊に攫われている情報は知っていた。
そして現在、バートンの情報からセレナと一緒に逃げていることも。
(……動くなら今か)
エネギスはバートンに視線を移す。
「バートン君。私はこれから一人で行動するよ。どうしても自身で調べたいことがあるからね」
「えっ!?……エネギスB級士官、しかしそれでは指揮は……」
「ならば君が指揮すればいい。部下たちを任せたよ」
エネギスの言葉に一瞬戸惑いを見せたバートンだったが、すぐに表情を引き締め頷く。
「……了解しました」
その様子を確認したエネギスは踵を返し、後方に控える部下たち全員へと向き直った。
「……総員。これより指揮はバートンD級士官に従うように」
「「「了解です。エネギスB級士官」」」
エネギスは再びバートンに視線を戻す。
「では行ってくる」
「ご武運を」
バートン達はそのまま残りの部下を連れて奥に進んでいった。
それを確認したエネギスは「……さて」と彼らとは別の通路へと足を進める。
(イチノセカイト、君は何があるかな?)
エネギスはカイトという存在自体に違和感を覚えていた。
彼には何かがある。自分に関係する何かが、そんな予感がエネギスにはあった。
「さて、山賊討伐とセレナ嬢の救出は部下たちに任せて私は謎解きと行こうか」
カイト自身に対する謎を見つけるためにエネギスは一人、動き出した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は8月22日(土)、18時の予定です。
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