27話 機略と仁愛
<特務機関>
カイトとセレナが攫われた子供達を逃がすために決死の囮作戦を行っているそのころ、山賊の拠点となっている元関所の外。
「エネギスB級士官、ロイドC級士官、ダルデD級士官の班、そしてアルカード男爵達の配置は完了したそうです」
「ごくろう、引き続き関所の様子を確認してくれ」
「はっ!」
部下に指示を出した後、特務機関のエネギスはそのままもう一人の部下、バートンに視線を向けた。
「バートン君、それでどうだい?中の様子は?」
「はい、先に突入したピー助……インコからセレナ・アルカードと思われる人物を確認しました」
「そうか、それで様子は?」
「申し訳ありません。現在、セレナ・アルカードは従者とともに山賊達から逃走しているようです。その後は見失いました」
「なるほど、アルカード家は豪胆な者たちが多いね。どちらにしろ、この紙の情報の信憑性が高いと言っていいだろう」
バートンの真名、触れた対象の視覚を共有することができる能力で得た情報を聞いた特務機関のフィクス・エネギスは懐からある紙を取り出す。
「なぜ、こんなものがあったのか分からないままだったけど、おかげでセレナ嬢が攫われた場所も、山賊が根城にしているのもすぐに見つけることができた」
エネギスが持っている紙はカイトがアンクの集めてくれた山賊に関する情報をゼラス達に渡すために書いた紙だった。
なお、その事情をエネギスは知る由もなかった。
「さて、そろそろ動くとしよう。今回の山賊騒動、デトマール家の関与の証拠も集めないといけないしね」
エネギスは紙を懐にしまい、代わりに通信機を取り出す。
「アルカード男爵、聞こえていますか?予定通り、我々は三班に別れて拠点に突入、山賊を一人残らず掃討します。男爵は合図から5分後に裏口から潜入してください」
『はい、分かりました』
「言っておきますが、あなた方はあくまでもセレナ・アルカード嬢の救出のみ、無駄な戦闘は極力避け、救出後は離脱してください」
『分かっています。……それが条件ですよね』
「えぇ。山賊の掃討は我々にお任せください。残りの約束も忘れずに。それでは、ご武運を男爵」
『……こちらこそ、エネギスB級士官』
エネギスはゼラスとの通信を終え、部下たちに視線を向ける。
「……さて、回線は?」
「アルカード男爵ら以外、全班繋がっています」
アルカード家以外の通信が繋がっていることを確認したエネギスは自身の班と通信越しで聞いている二つの班に指示を飛ばす。
「さて諸君、これからはアルカード領が活動拠点となる。その前の大掃除だ。山賊とそれに手を貸している連中も一人たりとも逃がさないように」
『『「はっ!!」』』
エネギスの言葉に部下たちは張りの声で返事をする。
「あぁ、後、セレナ・アルカード嬢は我々で救出する。もちろん、アルカード男爵より先にね」
しかし、次のエネギスの言葉に一部の部下たちは戸惑いの声を上げる。
「エネギスB級士官、セレナ嬢の救出は男爵の役割だと打合せたはずでは?」
バートンが動揺している部下達の代弁をするように話しかけると、エネギスは軽く笑いながら応える。
「なに山賊を制圧していたら偶然、セレナ嬢を発見し保護したとなれば相手も文句は言うまい。現場とは常に予定通りというわけではないからね」
エネギスは悪びれる様子もなく話す。
「それに、今回の一件のおかげでアルカード男爵は我々の本来の要求を呑んでくれたのだ。ここは更に恩を売ろうじゃないか」
エネギスはそう呟きながら通信機を口元に寄せる。
「それでは諸君、競争だ。誰よりも多く山賊を討伐し誰よりも早くセレナ・アルカード嬢を確保せよ」
『『「了解」』』
「一番、活躍した班には……そうだな。王都にある有名な洋菓子店”シャトーレ”で君たちの好きな菓子を私のポケットマネーで出すとしよう。アルドS級士官ほどではないが、私も良い上司として振る舞わなくてはね」
それを聞いて無言を貫くもの、小声で「おぉ」と顔を微妙にほころばせるもの様々な反応を見せる。
自身の部下の士気が高くなったことを確認したエネギスは山賊の拠点に向けて腕を振り下ろす。
「それでは諸君、行動を開始せよ。セレナ・アルカード嬢は我々が守る」
エネギスの合図とともに特務機関は動き出した。
* * *
「ゼラス様、合図です。特務機関、エネギスB級士官達が行動を開始しました」
「分かっている。ありがとうクロノ」
外で待機していたゼラス達はこれから突入するであろう山賊の拠点こと元関所の裏口を見据えていた。
「改めて、見るとすごいな」
中からは特務機関と山賊が争っているであろう銃声や轟音、そして悲鳴と断末魔が外からでも聞こえていた。
「自分は領主として不甲斐ないだろうか」
「今回の一件は貴族、それも複数関わっている可能性がありました。ましてや我々の所に内通者がいたことなど……」
「言わないでくれ、クロノ。分かってる、分かってるんだ……」
ゼラスは下唇を噛み締めながら自分に言い聞かせる。
今まで、山賊の問題が起きているにも関わらず自分の力で解決することができなかった。
それが特務機関と協力して本格的に動くことができたのだ。
「もしセレナが攫われたままだったら、セレナどころか私達も無事ではすまなかっただろう。だから、彼らの手を借りるしかなかった。例え、あの条件を呑むことになってもね」
セレナ・アルカードの誘拐。
それは兄であるゼラスにとっても衝撃的なことだった。
幸い、カイトが残してあった紙から山賊の拠点としている場所もその戦力もすぐに分かった。だが、問題があった。
それは、山賊の戦力に対しアルカード家だけでは対抗できなかったのだ。
そこでゼラスは特務機関、エネギス達に力を借りるために、以前より持ち掛けられていた条件と向き合うことになった。
領の共同運営、機関が主体となる防衛体制の構築、そしてセレナ・アルカードの引き渡し。
最初はゼラスもすぐに吞むことができなかった。
だが、セレナが攫われた今、迷っている猶予はなかった。彼らの協力を得るしかなかった。
ゼラスはその条件を吞んだのだ。
(僕はなんのために頑張ったのだろう……)
ゼラスはこの5年間、この領地をよくするため、セレナを守るために周りから認められようと頑張っていた。
しかし、自分は他の貴族からは自分が領主になることを最初から認められていなかった。
領民たちにも山賊騒動を解決する力がないせいで苦しめた。
そして、自身の妹、セレナも山賊に誘拐されている。
もう、自分ではセレナをみんなを守ることはできない。
ゼラスは無力感に打ちひしがれていた。
最終的にはセレナだけは幸せに生きてほしいと願っていたのに、今はセレナを助けるために自分の手で彼女を特務機関という危険な道へと送ろうとしている。
(いや、もう後のことは考えなくていい、今は目の前のことだ)
セレナは山賊に囚われている。このままでは特務機関に送られる以上に過酷な運命が待っているかもしれない。
どうにかして守らないといけない。
それが兄として妹にできることだった。
すると、近くにいた子供の姿をしているゼラスの従者ティグから声が掛かる。
「ゼラス様、そろそろお時間です」
「分かってるよ、ティグさん。……行こう」
エネギス達の合図から5分経過したことを知りゼラスたちは動き出す。
(セレナは……僕が守る!)
決意の瞳を灯したゼラスは山賊の拠点に向かうのだった。
兄として最後の役目を果たすために。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は8月15日(土)、18時の予定です。
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