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Iの冒険記  作者: 一発KO
第二章 異世界漂流編 下
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26話 逃走

アンクに連れられカイトを先頭に部屋を出た。

部屋を出た先は、埃が立ち込める荒れた石造りの長方形の広間になっていた。

その部屋にはカイトが閉じ込められたのと同じであろう部屋が左右対称にいくつもあった。


「うっ……」


外に出た直後、目の前の光景にカイトは目を背ける。

そこにはアンクと争ったであろう山賊の死体が首筋から血を流しながら放置されていたのだ。


「アンク、セレナさんが出る前にこの二人の死体になんか布かぶせない?」


「いや、何で……ってまぁ、そうか。待ってろ。何か隠すもの探してくる」


アンクはそう言ってカイト達から離れていった。


「カイトどうしたの?」


「セレナさん今は出ないで」


気になったのか部屋から出ようとするセレナをカイトは止める。

自分より幼いセレナにこの光景を見せたくない思いと自身に死体を直で見る勇気がないカイトはセレナとともに部屋の中に戻る。

そうこうしているうちに布を持ってきたアンクが山賊の死体の上半身全体を隠すようにかぶせる。


(……血が流れているのが見えるけど少しマシになったからこれで良しとしよう)


血などが残っているが精神衛生上多少マシになったカイトはセレナを連れて外に出た。

布で隠された山賊の死体を見たセレナは一瞬、驚いて硬直するが状況を察したのかすぐに平静を取り戻す。


「とにかくここから出よう。あの扉から出ればいいの?」



カイトは対象的に並ぶ物置部屋の扉とは明らかに違う、奥にある黒い扉に目を付ける。


「いや、そこは普通の通路だから山賊と出くわす可能性がある。付いてこい。俺が入ってきた場所はここだ」


アンクはそう言うと黒い扉とは反対側の方に向かう。

そしてその向かい側に辿り着くとアンクは若干、へこみがある壁を軽く押す。


「!!」


その瞬間、壁が音もなく回転して隠し通路が現れた。


「これは……」


「すごい、まるで異界の資料にあった“忍者屋敷”みたい」


突然のことにカイトは驚きセレナもやや目を輝かせながらその通路を見つめる。


「まぁ、隠し通路ってやつだ。ここを拠点として利用したばかりの山賊も全ては把握していなかったようだな。俺もこの前来た時偶然見つけたんだ」


「たしかここって昔は商人の施設だよね?昔の人は何でこんな仕組みを?」


「そこまでは知らねぇよ。そんなの当時の人に聞けよ」


昔は多くの商人が休憩する場所として利用されていた。

この施設は放棄され山賊の根城と化しているが山賊の知らないところで機能はまだ生きていたのだ。

何故、隠し通路などがあるのかカイト達には理解できなかったが。


「とにかく、ここを脱出するのが先だ。急ぐぞ」


「分かったよ、アンク。行きましょう、セレナさん」


「うん、カイト。アンクお願い」


「へいへい、それじゃ行くぞ。カイト、セレナ……さん」


まだ“セレナさん”と呼びなれないアンクの案内の元、カイトはセレナと共に隠し通路に入ろうとした。


「ねぇ、外に誰かいるの?」


その時、どこかで子供の声が聞こえた。

カイトは辺りを見回す。

しかし、そこには誰もいない。

もちろん、アンクやセレナではない。


「いるなら助けてお願い」


声の場所はカイトがいた部屋の向かい側の別の部屋だった。

そうしている間に、声は更に多くなる。


「お願い、助けてこのままじゃ、マルが……」


「パパ、ママの所に帰りたいよぉ……」


扉の向こうに誰かいるのに気づいたのか、複数の子供達の声がカイトに助けを求めていた。


「カイト、これって……」


セレナはカイトの手を引く。

彼女の手に引かれたまま、カイトはアンクに視線を向ける。


「アンク、この部屋の鍵は持っている?」


「持っているが、本当に助けるつもりか?ここは敵地だぜ」


「お願い」


「……しょうがねぇな。開けるぞ」


セレナの頼みにアンクは懐から山賊から奪ったであろう鍵束を取り出し扉の鍵を開けた。


「「!!」」


その部屋の先を見てカイトとセレナは目を丸くする。


「……やっぱりな」


アンクはすでにこの部屋に誰がいるのか察していた。

部屋にいたのは男女合わせて八人。

そのうちの一番、背が低い、恐らく男の子であろう子供は誰かに殴られた又は蹴られたかひどい怪我だった。そんな子を女の子が抱きかかえている。


(もしかして、アルカード領で攫われた子供達?)


山賊によって攫われた子供達がこの拠点に連れてかれているという情報は事前に聞かされていた。

しかし、自分達とほぼ近い場所に閉じ込められていたのはカイトも予想だにしていなかった。


(まず、事情を聞かないと)


カイトは子供達に声を掛ける。


「……君たちはアルカード領の子供かい?」



カイトの質問に子供達は最初はお互い顔を見合い、最終的にこの中で背が高い子供が代表して前にでる。


「僕たち、ここに攫われて閉じ込められたんです」


「攫われたのは君たちが全員?」


「分からない。前までは他の部屋で僕たちと同じ子供達がいたけど……」


それを聞いたカイトは周りを見る。

部屋はいくつあるか分からないがこの部屋以外に他の子供達が閉じ込められた感じはなかった。


(この子たちの気のせいだったのか、それとも……今はそんなことを考えている暇じゃない)


カイトは今度はひどく怪我をしている子供に視線を向ける。


「その子、ひどく怪我をしているけど……」


すると、周りの子供達は辛そうな顔で視線を逸らす。

そのうち、一人の子供が口を開く。


「……山賊にやられたんだ」


語るだけでも辛そうな様子のまま一人の子供は話を続ける。


「山賊が部屋に入ったと思えばマルを殴ったり蹴ったりして……僕たちは怯えて見ることしかできなかった」


沈痛な面持ちで一人の子供は語る。

他の子供達も、マルが痛めつけられるのをただ見ていることしかできなかった自分を責めているようだった。

怪我をした子供を抱きかかえた女の子は「ごめんね……ごめんね」と謝っていた。


「お願いです!!マルを、みんなを助けてください。お願いします」


子供はそう言ってカイトに深く頭を下げる。

他の子供達も、「お願い」とカイトに助けを求めていた。

その懇願する姿をカイトは見捨てることができなかった。


ドンドンッ

すると、向こうの黒い扉を叩く音が聞こえる。


「……まずいぞ」


アンクは苦い顔をして黒い扉を見た。


「おい!!そろそろ、時間だ!!」


「たく、頭もデトマール家の連中共もいつまでここで待機させやがる」


黒い扉から男の声が聞こえる。


(よりによって今、山賊が来たのか!?)


声や音からしてここに来ることは間違いなかった。

扉の叩く音と山賊たちの怒鳴り声に子供たちは震えていた。


「おい、どうした!!何かあったのか!?」


「おい!!いつまで待たせてやがる!!」


誰も返事しないことに苛立ちを覚えた山賊が扉を開け放った。


「はっ!?」


「なんでガキどもが!?」


そしてカイトたちを見た山賊は驚きのあまり困惑している。

数は五人、さっきの倒れていた山賊より数が多かった。


(まずい、このままじゃ……)


「クソ!!」


その瞬間、アンクは山賊たちに向かって何かを投げつけた。



「うおぁ!?」


「ゲホゲホ!!」


すると、煙が一気に吹き出し山賊達はせき込み始める。


「これは……」



「山賊の情報収集時にいつぞやくすねた煙幕だ!今のうちに逃げるぞ!!」


「分かった。セレナさんもみんなも早く」


この隙にカイトたちは隠し通路に入る。

子供達もカイトたちに付いてくるように隠し通路に入り込む。


「セレナさん?」


しかし、セレナは一向に動こうとしない。そしてカイトの方に振り向く。


「ごめんカイト、アンク。私、囮になって山賊の気を引く」


「はぁ!?」


「セレナさん!?」


セレナの言葉にカイトどころかアンクも驚きの声を上げる。


「こんな多人数だと早く動けない。それにもし山賊達がこの隠し通路の存在に気づいたら逃げることができなくなる」


「……セレナさん」


セレナの言うことは正しかった。

本来はカイトとセレナ、アンクの三人だけなら問題はなかった。

しかし、そこに子供達を加えて11人、しかも一人は怪我をしている。

そんな状態の逃げる速度などたかがしれていた。

さらに煙幕の後、突然、消えた自分達を怪しむだろう。

そこでもし隠し通路を見つけ追いかけてきたら逃げきれない。


「だから、私が囮になる。山賊の狙いが私なら、山賊も逃げ出した子供達を気にしないかもしれない。……これは私がやらないといけないの」


その言葉には覚悟がこもっていた。自分の責任を果たすかのように。

そしてセレナは煙の方に向かって足を動かそうとする。

煙があるうちに目の前の山賊を突破するつもりだ。


(!!)


しかし、カイトは見てしまった。セレナの手が震えていたことに。

カイトはセレナと初めて出会ったことを思い出す。

あの時もセレナは自分を山賊から守るために前に出ていた。しかしその時も手は震えていた。

気づけばカイトはセレナの手を握っていた。


「カイト!?」


「セレナさん、俺も行きます」


(自分も戦えないけど、セレナさんを一人にさせるわけにはいかない)


カイトはセレナを一人にさせることはできなかった。


「アンク、子供達を頼んだよ!!」


「えっおい!」


アンクは呼び止めていたがカイトは振り返ることはなく、セレナの手を引いてそのまま走り出す。


「!!」


「なっ!?」


その瞬間、山賊の一人とカイトの目が合った。

山賊はカイトを捕えようと手を伸ばそうとするが突如、バランスを崩した。


「なっ、暗い!?」


そして山賊は倒れ込む。


(アンク!?)


カイトは恐らく山賊の五感を真名で奪ったであろうアンクの方に振り向く。


「後で助けに行く!!絶対にだ!!それまで死ぬんじゃねぇぞ!!」


アンクはそういうと子供達を連れ隠し通路に入り通路を閉じた。


(ありがとう、アンク)


「急ぎましょう、セレナさん!!」


「うん!!」


心の中でアンクにお礼を言ったカイトはセレナの手を引っ張って走る。


山賊達を抜け彼らが入ってきたであろう黒い扉に辿り着いた時には煙が晴れていた。


「こっちだ山賊供!!」


「捕まえるものなら捕まえて見せなさい!!」


そしてアンク達が逃げた隠し通路の存在に気づかれないようにするため、カイト達は山賊に向かって叫ぶ。


「おい!あいつらが、セレナ・アルカードが縄を解いて逃げてるぞ!!」


「どうやって出たんだ!?」


カイト達の方に振り向いた山賊達は、ようやく状況を理解し追いかけようとする。


「クソ!!」



そのうちの一人が懐から拳銃を取り出しカイト達を狙う。


「……セレナさん!!」


カイトはセレナを抱きかかえながら走る。

それと同時に銃声が響く。

いくつかの銃弾がカイトの耳元を掠めた。


「馬鹿野郎、撃つな!!セレナ・アルカードに当たるだろうが!!」


「クソが、全員、追いかけるぞ!!」


山賊が舌打ちし拳銃での発砲を止め、カイト達を捕まえに追いかけてきた。

隠し通路を探そうとする山賊は一人もおらず全員がカイト達を追いかけている。


(……よかった。セレナさんの狙い通りになった)


山賊の狙いはセレナだったことにカイトは安堵する。


「カイト、大丈夫!?」


「大丈夫ですよ。セレナさん、当たってません。急ぎましょう」


そしてカイト達は走り出す。


そこからはカイトはセレナと一緒に必死に足を動かして逃げた。


山賊の怒号と自身の呼吸と心臓の鼓動音が耳に残る。


途中でこの場では不自然な“鳥”がカイト達とすれ違ったが逃げるのに必死で気づくことはなかった。



ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回の投稿は8月8日(土)、18時の予定です。


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