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Iの冒険記  作者: 一発KO
第一章 異世界漂流変
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2話 アルカード領


よくよく、考えればこの世界が違う世界ではないかと思える所はいくつもあった。

まず服装だ。セレナは貴族令嬢が着そうな服装だったし、そのあと助けに来てくれたゼラスたちも現代とはまるで違う中世の貴族とその従者といった感じだった。

セレナを襲おうとしていた山賊だと思われる者たちはフードつきのマントをしていたので具体的によく分からなかったが、少なくともカイトにとって見慣れない服装だった。

そしてゼラス達に連れられ森を出ると馬が待機していた。従者の後ろに乗せられたカイトが見た周りの光景はまさに別世界だった。

道は舗装されているがコンクリートというよりも地面を踏み固めてできた道で遠くからは麦畑が広がっていた。そこで働いているのか農夫がロバを連れて収穫した麦を運んでるのが見える。

カイトは周りの光景にただ茫然としていた。自分はどこに来てしまったのか?海外だとしてもこんな場所にカイトには心当たりがない。こんな昔の風景が存在しているならさすがにテレビやネットとかで取り上げられて嫌でも印象に残りそうだ。

そんな疑問が頭の中で渦巻いているうちにゼラスの館(ここも中世ヨーロッパ風な建物だったがここまで来ると驚く気力もなくなっていた)が見え、事情聴取として地図を見せられた時、自分は今まで疑っていた異世界に飛ばされたという事実に確信を持てたのだ。


「本当に異世界に転移してたなんて」


「正直、私も驚いてるよ。異世界人を見るのは初めてだからね」


カイトは執務室でゼラスと話をしていた。部屋は派手さはなくどちらかと言うと質素な見た目だが掃除や手入れが行き届いており、ゼラスの近くに二人の従者と部屋の隅でメイドが待機していた。

ゼラス達が見せた地図によるとアルス王国と呼ばれている最西端にある小さな男爵領、アルカード領にカイトは転移したのだ。

当然、カイトはそんな場所を知るはずもないし地理感もない。そんな状態なところにゼラス達に出会い屋敷に案内されたのは自身にとって幸運だとカイトは思えた。


「でも、君が嘘を言っている訳じゃなさそうだね。君の身につけている物や出身地も私達には見たことも聞いたこともないのがたくさんある」


何故ならゼラスにとってカイトが異世界人、転移者だということを理解していたからだ。

そのおかげでカイトの言葉も信じてくれた。


(地図を見るまで、自分自身ですら信じきれていなかったのに)


カイト自身が異世界に来たなんて信じられなかったのでこうして理解してくれる人物がいたことに感謝を覚えた。


「どっちにしろ君がセレナを助けてくれたことに変わりはない。改めて領主として……兄としてお礼を言わせてほしい。彼女を助けてくれてありがとう」


そう言ってゼラスは立ち上がるとカイトに頭を下げた。


ゼラスの行動に彼の近くにいた一部の従者達は動揺しており、カイトも慌ててゼラスが頭を上げるよう止めた。


「えっ?待ってください!頭をあげてください!あの時は何もできていませんし……ただ彼女を連れて逃げ回ることしか出来ませんでした。寧ろお礼を言うのは俺……私の方で」


セレナを山賊から守ったのはカイトにとっては成り行き……結果的にそうなっただけにすぎなかった。あの時は状況が読めず山賊が出たときは怖くてセレナを連れて逃げただけであって今になって思えばあれが最善な行動なのか分からなかった。

寧ろカイトにとってゼラス達がカイトとセレナから山賊を守ってくれたと思えるほどだった。


「そんなことはない。君の行動はセレナを守ってくれてたんだ。もし君がいなかったら我々が来た時にはもう手遅れかもしれなかったんだ。あの時はセレナが山賊に襲われたと知った時、すぐに助けに来ることができなかったんだ」


「そうなんですか?」


「そうだ。セレナが山賊に襲われたと聞いたのは襲撃から一時間も経った後だったんだ」


ゼラスから聞いた話だとセレナは彼女のある理由で彼女の世話係……使用人と一緒に外出していたところを山賊に襲われその何人かを彼女と一緒にいた使用人が抑えている間にセレナは近くの森に逃げ込んだのだ。

その報せを聞いたゼラスも慌ててセレナの救援に向かったが、現場の時にはすでに襲撃からかなり時間が経っていた。

そのようなことからゼラスは最悪の事態を覚悟していた。


「でも、来てみれば君がセレナを連れて山賊から逃げていたからね。君が彼女を私達が来るまで守ったおかげで、間に合うことができたんだよ」


「……」


ゼラスはカイトにそう説明して感謝していたが複雑な感情が残っていた。


(俺自身は何か助けられたわけじゃない。ただ、セレナを引いて逃げていただけ。あれ以外にももっといい方法があったんじゃないかな……)


結果的に見れば確かにセレナを連れて逃げたことによって時間を稼いだことになっただろう。しかし、それは数分またはそれ以下でしかない。さらにカイトが来る前からずっとセレナは一人で山賊から隠れて逃げていたのだ。

カイトがいなくてもセレナだけで山賊から隠れて逃げ切り、そしてゼラスが助けに来たはずだ。


「……はい。分かりました」


最終的にカイトはゼラスのお礼を受け入れた。自分はただ手柄を横取りしただけと後ろめたさを感じながら。


「ありがとう。……それではカイト君、本題に入ろう。君の事情を聞いた中でこれからの君の処遇についてなんだけど……」


カイトが自身のお礼を受け入れたことに安堵しながら話の本題に入るため真剣な顔つきでカイトに語った。


「現状、君をアルカード家の客人として迎え入れたい」


「えっ?」


ゼラスがカイトを客人として迎え入れることにカイトは驚いていた。

そんなカイトにゼラスは苦笑いしながら言葉を続ける。


「というより、身元不明の人間を放置するわけにもいかないしね。君も住むところに困っているはずだ。もっと言うとセレナの恩人だしこれが妥当な扱いだと思っている」


「それは……そうですけど」


カイトにとってありがたいことだが、セレナを助けた恩人という立場は少し複雑な思いだった。


「色々と、迷惑を掛けるかもしれない。でもこれからよろしく頼むよ。カイト君」


カイトはそれが握手だと分かり「こちらこそ、よろしくお願いします」と慌てて右手を出して握り返した。

ここまで話が進むともう断ることができなかった。


(……不安だ)


こうしてカイトの異世界生活が始まったのだった。



*     *      *


「こちらがカイト様の部屋です」


「ありがとうございます。えっと……」


「ティグ・ルターです。ティグとお呼びください」


ティグという名の八、九歳ほどの見た目をした少年がそう言って丁寧に頭を下げた。


「えっと、よろしくお願いします」


「はい。それでは、何かあれば申し付けてください」


そう言って再び一礼すると部屋から出て行った。

誰もいなくなったのを確認したカイトは改めて部屋の周りを見た。部屋は五畳半で机とベッドだけで多少手狭だが管理が行き届いている。

部屋の奥にある窓を覗く。窓からの景色はアルカード領の景色が見え農業が発展しているのか遠くでは麦畑が見えた。時刻は夕方で日が沈みそろそろ夜になるだろう。

ここから自分の新しい生活が始まる。そう思ったカイトは窓から離れ、ベッドに倒れこむ。


「はぁ、疲れた……」


カイトにとって色々とありすぎる一日だった。唐突に知らない世界に飛ばされ、山賊に襲われ掛け、助けられたもののそこが異世界だと知り、そして貴族に居候することになったのだ。もう一七歳の学生であるカイトにとって情報量が多すぎる話だ。

カイトはそのままうつ伏せになり布団を顔に埋める。


(……これからどうしよう)


カイトは不安に押し潰されそうになっていた。異世界に転移し右も左も分からない。

元の世界に帰れるかどころかその手立てが分かるまでこの世界でやっていけるのか不安だった。


(義父さん、義母さんに何も伝えなかったな。今頃、どうしてるだろう?心配しているのかな?)


カイトがまず思い浮かべたのは義両親だった。実際に血は繋がっていなかったとはいえ十一年間、ここまで実の子のように育ててくれた人だ。まだ親孝行どころかお礼すらいえていない。それ以前にここは異世界で元の世界に帰る方法もないカイトにとって自分はどこに行ったのかを伝えることすらできない。


「義父さん、義母さん、ごめん。……」


コンコン


無意識に声でつぶやいて顔を埋めていると、扉からノックが聞こえる。


「カイト、入っていい?」


それは聞き覚えがある声だった。

カイトが「どうぞ」と返事すると扉が開き、ある少女がカイトに向かって歩みだした。


「カイト、よかった。やっと会えた」


少女の正体。カイトが転移して最初に出会った人物でゼラスの妹、セレナ・アルカードだった。カイトが執務室でゼラス達と事情聴取をしている間、セレナは山賊の襲撃での怪我の手当てを受けるため別室にいたのだ。


「聞いたよ。カイト、しばらくここで暮らすって本当?」


「はいそうですけど……」


「そう、よかった。実はカイトが異世界人だと知ってから色々と聞きたいと思って……」


セレナが目を輝かせながらカイトと話そうとした瞬間、何かに気づいたのかピタリと足を止め、カイトの顔をまじまじと見る。


「カイト、もしかして疲れてる?」


「えっ?そうですか?」


「うん。なんか、少し悲しそうだったから」


セレナの言葉にカイトは慌てて自身の顔に触れてしまったと心の中でつぶやいた。どうやら自身のこの未知の世界での生活の不安と緊張が顔に出てしまい、それがセレナに伝わってしまったらしい。


「いや、いいえ大丈夫ですよ。確かに少し疲れているだけでセレナお嬢様が気にするとは……」


(何やってんだよ。彼女にまで不安を与える必要はなかったじゃないか……)


カイトは自身の問題を自分より年下のセレナにまで気を遣わせたことに情けなく感じながら、さっきまで悲しそうな疲れた顔から無理やり作り笑顔でセレナに応える。


「……そう」


セレナは少し複雑そうな顔をしながら応えたが、何かを思いついたのかカイトに笑顔を向けた。


「そうだ。カイトって本を読むの好き?」


「えっ?嫌いじゃないですけど……」


前の世界では図書室で色々な本を借りてよんでいたカイトにとっては嫌いではなかった。


「だったら明日、書庫室に行こう。私は山賊の件があるからしばらく外に出られないし、カイトも外に出られないよね?」


セレナは安全を考慮してしばらく外に出られないことになっていた。

なお、カイトの方もセレナほどではないが無断でこの館から外にでないでほしいとゼラス達とあらかじめ話されていた。


「あそこにはたくさん本があるし、カイトもしばらくここに過ごすなら暇にならないかなと思って」


セレナはそう言って、少し期待するようにカイトを見つめた。


「そうですけど……いいんですか?セレナお嬢様?」


「セレナでいいよ」


「へ?」


丁寧に答えていたカイトは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。


「初めて会ったときはカイトも普通に話してたでしょ?だから、私の時は気軽に話してほしいの年も私より年上だし、そっちの方が私も気が楽だし」


「えっと……」


「……でもそれでは……」


「気軽に」


「うっ」


相手が貴族令嬢であることから気軽に話しづらかったがセレナの懇願にカイトは言葉を詰まらせる。


「えっと、それじゃセレナ”さん”で」


(さすがに相手が女の子でいきなり呼び捨てにするのは気が引けるけど、これでいいかな?)


とりあえず、失礼すぎずそれなりの距離感でいられる”さん”付けで呼ぶことにした。

セレナはそれが少し嬉しかったのか「セレナさんか……」とはにかんで笑う。


「うんじゃあこれからセレナさんで、よろしくねカイト」


「えっと、はい、よろしくお願いします。セレナさん」


こうしてカイトはセレナのことをセレナさんと呼ぶことが決まった。


「あっ、そういえばセレナさん。本当に書庫室に行っていいんですか?」


「問題ないと思うよ。ねっティグおじさん?」


セレナはそう言って後ろに振り向き、自分と一緒に入ってきたティグに向き直る。


(え?……ティグ”おじさん”?)


セレナの言葉にカイトは首を傾げる。

何せ、ティグはどう見てもおじさんと呼べるほどの年齢とは思えない。しかし少年の使用人の名前はティグと言っていた。


「はい。私から離れなければ問題ありません」


(……おじさん!?)


ティグが反応したことにカイトは心の中で驚いていた。


(どういうこと?……あまり突っ込まないほうがいいのかな?……とりあえず”おじさん”……”ティグさん”って言えばいいのかな?)


変に触れない方がいいと思いカイトはティグが何故、おじさんなのか聞かなかった。

そんな中、ティグの返事にセレナは「ありがとう」と彼に笑顔で応え再びカイトの方に向き直った。


「それじゃ今日は帰るね。また明日、カイト」


「えっと、それじゃまた明日、セレナさん」


「うん、また明日」


セレナはカイトの部屋を後にしてさっき入った扉から戻るが「あっ、そういえば」と足を止める。


「カイトに言い忘れたことがあったんだ」


セレナは思い出したように言うと姿勢を正し頭を下げる。


「あの時、山賊に襲われていた時に助けていただきありがとうございました。もしあなたがいなかったら私はこの場にいませんでした」


(えっ!?)


突然セレナがお礼を言ったことにカイトは驚いて茫然としてしまう。


「これでよし。ゼラスお兄様もお礼を言ったのに実際に助けられた私が言わないのはおかしいよね。それじゃ、カイトまた明日」


カイトは茫然としたまま、セレナは部屋を後にしてしまった。カイトがようやく我に返った時にはセレナはもう外に出ていた。

再び、静寂が訪れるとカイトは布団に倒れこむ。


(まさか、セレナさんにまでお礼を言われるとは思わなかったな)


ゼラスばかりか、あの時、ずっと側にいたセレナにまでお礼を言われるとは思わずカイトは言葉を失っていた。


(結局、俺はどうして、ここに転移したんだろう?)


もしこれが小説や漫画だったら転移に何か大きな意味があるのだろう。

しかし、意味があったとして自分にどうすればいいのか分からなかった。

新しい環境に変わったからと言ってそこに特別な目標が持てるわけではない。


(とにかく、目標が決まるまでここでは迷惑を掛けないようにしよう)


恩を仇で返すようなことはしない。カイトはそう誓い、目をゆっくり閉じた。

その夜、夢を見た。


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