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Iの冒険記  作者: 一発KO
第二章 異世界漂流編 下
28/43

24話 それぞれの動き


カイトとセレナが泥に引きずり込まれる十数分前、会談の準備を終えたゼラスはすでにエネギスが座って待っている応接室に入っていた。


「待たせて申し訳ありません」


「いえいえ、構いませんよ。時間はたくさんありますから」


エネギスの笑顔の対応にゼラスは向かい合う形で席に着く。


「それで話というのは?」


「はい、まず最初にもうじき来る5年の任期。その監査結果が来ました」


エネギスは手元の資料を取り出した。


「まず、こちらは今までの監査に来ていた中央貴族たちによるあなたへの評価、報告書をまとめたものです」


エネギスはそういうと資料をゼラスに手渡す。

ゼラスは無言で受け取り内容を確認した。


しかし、その内容はあまりにも自身の状況とかけ離れており、ゼラスは眩暈を覚えた。

その報告資料から今までの監査に来た中央貴族が自身の領を見ていなかったこと、そしてどれだけ自分達を没落させたかったか理解できたからだ。


一つは領に重税を強いて領民を苦しませて領主は私服を肥やしている。

一つは怪しい商人と懇意しており違法な商売をしている。

一つは、他国に密告しスパイまがいの活動をしている。

一つは領内は既に荒れ果て、領民同士で略奪が当たり前になっているという、領主としての管理能力を疑うもの。

それ以外にも悪評に近い報告が多くありこの資料にまとめられていた。


ゼラスからしたら、ほぼ言いがかりに等しい内容だった。

確かに自身の領は同じ貴族どころか商人も寄り付かない孤立した状態だったし他と比べれば豊かだとは言えないとゼラスは分かっていた。

しかし、それでもゼラスは領民が苦しまないよう、できる限りのやりくりで維持し続けていた。

現にまだ12歳という若さで領を運営し孤立した状態で大きな飢饉や破産を起こさないで5年も維持できたのはゼラス自身の才能の賜物だろう。

だが、監査に来るのが中央貴族、報告も中央貴族、それ以外は来る者がいない。誰にも邪魔されないことをいいことに事実とは捻じ曲げられた報告をされていたのだ。


「まぁ、この領地に来た時、流石の我々も中央貴族の報告は虚偽も含まれているというのは理解できましたがね……」


中央貴族のいい加減な仕事にエネギスも同情したのかゼラスの沈痛な様子を察したのか慰めの言葉を入れる。


「できれば、今回の件は我々が主体で再監査できたらいいのですがね。しかし、残念なことに今、我々も国も余裕はありません」


エネギスの声から笑みが消え、真剣なまなざしでゼラスを見据えた。


「ティシア公国、覚えていますか?」


エネギスの言葉にゼラスは唇をキュッとかみしめる。

その国はゼラス、そして今この場にいないセレナにとって忘れることができなかったからだ。


「5年前、我が国を侵攻してきたティシア公国とその周辺小国が動きを見せているのが今の情勢です」


エネギスの言葉にゼラスは沈痛な表情を見せた。

忘れもしない5年前、父と母が亡くなった原因となった戦争。

その戦争のせいで、国の領地と多くの民が奪われゼラスが11歳という若さで領地を治めることになった。

戦争の影響で領地は縮小されアルカード家が辛い立場になったが、それ以上に自身の父と母を奪った国、ティシア公国はゼラスにとっては元凶そのものだった。


「正直、いつ戦争が起きてもおかしくない、戦争になれば国境に近いこのアルカード領も戦争は避けられないでしょう。その中で一部の貴族があなたの領を信用できないと言い始めたのです」


エネギスは淡々と事実を付きつけるようにゼラスに話し続ける。


「戦争となれば前線に近い領主たちも柵を超えて団結する。そんな中、あなたみたいにまだ若く未熟、自分の領地を維持するだけで精一杯……後、最近、山賊に手を焼いてますよね」


「……」


ゼラスは何も言えなかった。


アルカード領は国境沿いではないとはいえティシア公国と戦争した場合、参戦しざるを得ない地理にいるのは確かだった。

そんな中で最近、自身の領はそれなりの軍事力、防衛力がなかった。

現に山賊が自身の領で好き放題に暴れているのに何もできていないのがその証明であった。


「まぁ、要するにどれだけあなたが領主として一般的に及第点の評価があっても周囲があなたに抱く不信感が消えない限り、そのまま領主として認めるのは不可能ということです」


エネギスのとどめとも言える言葉にゼラスは無力感に打ちひしがれる。

自身は国から拒絶された気分だった。


もし、5年前のような戦争がなかったら。

前領主、父が健在だったら。

自身の領がティシア公国との戦争に参戦せざるを得ない場所でなかったら。


もしかしたらまだ希望があったかもしれない。しかし、それは”もしも”の話、どうすることもできなかった。


「”理不尽だ”、そう思ってますね。アルカード男爵」


「いえ、そんなことは!」


「大丈夫ですよ。寧ろ、このような状況でそんなことを思えない人間の方が私にとっては信用できませんから」


エネギスはゼラスに優しく笑顔で応える。


「それに今は現状を話しただけであって、あなた方、アルカード家が正式に取り潰しが確定したわけではありませんので」


「それはどういうことですか?」


「言ったでしょう?あなた方にプラスになる話だと、我々が来た目的は”報告”ではなく”提案”です」


エネギスはそう言うと机に広げた中央貴族の査定報告の資料を片づけて後ろの部下に渡す。

それと交換するように違う資料を手に取る。


<><>


「これは、王都で議論され、正式に決定された提案書です。私はその責任者として派遣されました」


そう言うとエネギスはゼラスに資料を見せた。


「この提案さえ吞んでいただければ、あなたは正式にアルカード領の領主として国に認められます」


ゼラスはエネギスが見せた資料、提案書を手に取り、内容を見る。


「……これは!?」


そして驚愕する。

それはゼラスにとって信じられない内容だった。


*

以下の提案が双方、合致でき次第、ゼラス・アルカード男爵を正式に領主として認めるものとする。


1.アルカード家の領地の運営は”異世界人特別対策組織”、通称、”特務機関”とアルカード家との共同運営とする。なお、その責任者はフィクス・エネギスB級士官に一任する。


2.また特務機関との共同運営においてアルカード領の防衛力の強化、及びその指導に関する裁量権はフィクス・エネギスが委託するものとする。


3.アルカード家の令嬢である”規格外”の星級であるセレナ・アルカードを特別枠として特務機関に迎え入れるものとする。


*


一通りの内容を読んだゼラスはわなわなと震えていた。


「これはいったい……」


「簡単に言えば今後、我々が特務機関の名のもとにアルカード領を支えると言ったところです。人手不足のあなた方にとって、悪くない提案のはずです」


「いえ、そういうわけではなく……何故、セレナが……」


最初の二つは信じられない内容だったが、それでもアルカード領にとって利点がある話だった。

人手不足なのは否めなく、特に防衛力に関しては個人の私兵団すらない有様だったのだ。

それが少しでも解決できるかもしれない提案は一考する価値があった。

しかし、最後の提案、セレナを特務機関に渡すことに納得ができなかった。

ゼラスにとって唯一の家族、自分がアルカード家を支えてきたのもセレナのためでもあったのだ。

そんなゼラスの反応に対しエネギスは軽く溜息を吐く。


「”星級”となれば国家クラス……いえ大陸全土を支配できる程の力を持った存在です。そんな力を今まで放置されていたのは現に外の動きが少なく、あなたに5年間の任期があったことを考慮されていたからです」


エネギスは淡々とゼラスに話す。


「しかし、5年の任期も終え、隣国の動きを考えれば彼女を放置することはできない。戦争になれば否応なしにひっぱりだされるでしょう」


星級、それはこの世界では頂点と言える力である。

大海級以下のような霊力総量だけでなくその能力さえも鑑みないといけない力、それを持っているセレナは放置できるものではなかった。


「問題はそれがあなた方のものになっていることです。……上手く、扱えますか?星級の、それも”規格外”。前領主、クリス・アルカード元伯爵程の力がない今のあなたに」


エネギスは真っすぐ、ゼラスを見つめる。



「……セレナはこの5年、暴走していませ……」


「”使えない”のと”使いこなせる”は意味は大きく違いますよ」


エネギスの強い言葉で遮る。


「あなたは5年間、暴走しないように気に掛けていた。それが原因で枷になっていた違いますか?」


ゼラスは何も言い返せなかった。


「規格外が暴走すれば国の大部分が焦土になりかねない力、今のあなたに止める手段はないでしょう?……過ぎた力は身を滅ぼしますよ」


一度発動すれば止めることができず、ただ力の暴力で破壊する”規格外”。

そんな真名を持っているセレナを抑える力をゼラスには持ち合わせなかった。

ゼラスはセレナのことを決して足手まといとは思っていない。しかし、一度使うと暴走し止めるのが困難で多大な破壊をもたらす真名を持ったセレナの存在は他の商人や貴族が距離を取りアルカード家が孤立した一因であることは拭えなかった。

セレナが真名を誤って使い、暴走しないよう、その周りにはムドやティグ、メアリなどただでさえ少ない人材を回さざるを得なかったのだ。


しかし、ゼラスは5年前の戦争で両親を失っている。

せめて唯一の家族である妹のセレナを見捨てることはできなかった。セレナを守るためにゼラスは自分の力でアルカード領を支えようとしていた。

しかし、現実は非情であった。


「ご安心ください。特務機関に迎え入れる以上、最低限、丁重に扱うつもりです。こちらも星級は喉から手が出るほどの人材ですので」


エネギスはゼラスに優しく微笑む。

しかしそれが自身の思う”丁重に扱う”ではなく特務機関の論理による”丁重に扱う”であることはゼラスにも理解できた。


「まだ、あなたの任期まで少しですが時間があります。その間にお考えいただければ……」


最後にそう締めくくろうとした瞬間、扉が開かれティグが駆けこむように入り込んでくる。


「会談中、失礼します!!セレナお嬢様とカイトさ……従者のカイトが攫われました!!」


「なっ!?」


その報告にゼラスは頭が真っ白になるがすぐに立ち上がる。


「そんな、一体、誰が!?」


「分かりません。追跡しようとしましたが痕跡が消され見失いました。ただ……恐らく山賊の可能性が」


「……!!すぐに追いかけないと!!」


セレナが攫われたそんな報告にゼラスは冷静ではいられなかった。


「落ち着いてください!!どこに攫われたかも分かっていない状態です。まずは調査を……」


ティグがゼラスを宥めようとすると、更に扉から分裂体のティグが入り込む。



「失礼します!!ゼラス様、館にこんな紙が……」


セレナを早く助けたいゼラスだが一度、落ち着いて分裂体が渡した紙をゼラスは受け取り内容を確認する。

その紙の内容にゼラスはセレナが攫われた報告を聞いた以上に驚愕する。


「……山賊の根城に、デトマール男爵が絡んでいる!?」


紙に書かれている内容は山賊の拠点を簡易的な地図で記した場所と山賊の戦力、そして裏で動いている貴族の名前だった。


「一体、これはどういうことだ。誰がこんなことを!?」


「分かりません。執務室、食堂、階段近くなどで落ちてました」


一体、誰がなんのために。あまりに信じられない内容にゼラスは理解できなかった。


「これをすぐに……」


「アルカード男爵」


ティグに指示を出す前にゼラスの肩をエネギスの手が触れた。


「それを、詳しく聞かせてよろしいですかな?」


笑顔であったがエネギスの目は笑っていなかった。


*    *    *


<アンク視点>


カイトとセレナが泥に飲み込まれた数分後、アルカード領内。


「クソ、こんなことになるなんて!!」


異世界人であるアンクは馬に乗って走っていた。


(まさか、山賊共とデトマールがこんな強硬手段を取るなんて!!)


アンクはカイトとセレナが突然地面から現れた泥によって攫われた所を見ていた。

自分が山賊の情報を集めただけに、それが山賊のそれもその頭の真名であることは察していた。


(あの後、カイトが上手くやれてるか見ていただけだっていうのに……)


昨日、カイトに情報を渡した後、不安になったアンクは他の現世人にバレないように遠くから様子を見ていたのだ。

流石に館の中までは見れないので具体的にカイトは何をしていたのか分からなかったが。

しかし、山賊がこんな強引な方法でやってくるのはアンクも予想だにしていなかった。


(……いや、それだけじゃねぇ!!それ以前にだ)


しかし、アンクにはそれ以前の問題があった。


(何で、特務機関……“異物狩り”が来てるんだよ!!)


この世界の異世界人を何人どころではないほど葬ってきた組織、そんな組織が自分のいるアルカード領に現れたときにはアンクにとって心臓が止まりそうな衝撃だ。

最早、カイトの望む山賊討伐はアンクにとってどうでもよくなるほどだった。

せめてカイトだけを連れて逃げることはできないかと、カイトを見守っていたところ、山賊に攫われたのだ。


(もう、無理だ。これ以上は俺の命が危ない!!カイトには悪いがとんずらさせてもらう)


アンクはアルカード領外に出るために逃げるように馬を走らせていた。

情報収集のための移動の足がほしかったアンクは予め山賊の持っていた馬を盗んでいた。

この世界に生まれて少し乗馬の訓練をしていた経験があったのも相まって子供の体格でもそれなりに馬を操れていた。


すでにアンクはカイトを見捨てる方向だった。

しかし、馬は速く走っているのにアンクの心は重くのしかかっていた。


(……よくよく考えれば仲間がほしいならわざわざあいつじゃなくてもよかったんだ……あんな、考えなしに飛び出すやつを組むなんてメリットがあるはずがない)


そんな心を振り払うようにアンクは心の中で自身に言い聞かせる。


(今回は運がなかっただけだ。どうってことはない。この世界でも一人でやっていけたじゃないか)


アンクは自分を鼓舞するように繰り返す。

しかし、その心の叫びと共に今度は馬をもゆっくり走らせてしまう。


(俺は……俺は……)


『黒瀬、ありがとう。……じゃあね』


「っツ!!」


その時、アンクの脳裏にある言葉が響く。

この世界での言葉ではない。


アンクの前世、黒瀬祐樹の頃の記憶。

前世で唯一の友達だった彼の“最期の言葉”。


気づけば完全に馬の足を止めていた。


「クソ……クソ。……一ノ瀬カイトのせいだ」


アンクは嗚咽を漏らした。


「あいつと出会ってから、忘れたかった俺の……“黒瀬祐樹”の嫌な記憶を思い出しちまうじゃないか」


流していた涙を拭い、アンクは馬を引き返す。

そして、アンクは山賊の本拠点へと、カイトを追って向かっていった。



ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回の投稿は7月25日(土)、18時の予定です。


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