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Iの冒険記  作者: 一発KO
第二章 異世界漂流編 下
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23話 深泥に嵌る


<エネギス視点>


応接室。

現在、部屋に入った部下達が部屋の隅で立っている中、エネギスは応接室の椅子に座りゼラス達を待っていた。


(……あの従者、最初は転移した異世界人だと思ってたんだけどね)


ある従者、一ノ瀬カイトのことをエネギスは思い出しながら、右腕に付けている腕時計のような機械を左人差し指で軽くコツコツと叩く。


この世界では”魂”は立派な科学として確立している。

魂は世界によって異なる。同じ人間であっても根本的に魂の構造が大きく異なるとされている。

現にこの世界では魂の力である”霊力”とそれを使う”真名”というのが存在している時点で他の世界とはかなり異なっているのだから。

転移者は異世界に移った際、その世界の魂に適応すると言われているが軸は元の世界の魂であることに変わりはない。

故にエネギス達の取り付けている腕時計型の機械は、転生者、転移者関係なく異世界からの魂なら反応するはずだった。


(機械の故障か。または本当にあの従者は我々と同じ”現世人”か。……もし後者なら私の直感もかなり鈍ったものだ)


自ら前線に立たず部下に命令する立場に長くいすぎたかと心の中で嘆く。


(だが、彼には何かがある。少なくとも彼がただの”村から雇った従者”なわけがない)


ゼラスが言った「彼(カイト)は村から雇った」という言葉は嘘だろうと、エネギスは感じていた。

彼には何か秘密があると、自身の今までの経験と直感がそう告げていた。

異世界人の仲間がいるか、あるいはそれ以上の何かがあるのかもしれない。

そう考えていると扉からノックの音が響く。


「失礼します。会談の準備が終わりました」


そして従者らしき声が聞こえ、エネギスはさっきまでの考えを止め、姿勢を正す。

ようやくゼラスとの会談が始まるようだ。


(まぁ、それはゆっくり詰めていこう……何せこれからアルカード家とは長い付き合いになるのだから)


エネギスは薄く笑みを浮かべたのだった。


*    *    *


<カイト視点>


裏庭に着いたカイトは綺麗に咲いているファブラの花を見ていた。


一つ一つ同じ花とは思えない様々な色のファブラの花が咲き乱れている。

この前、見た時とは比較にならないほどの光景だった。


「……」


しかし、カイトは素直に感動することができなかった。

ファブラの花に興味がなかったわけではない。ついさっきのことが気になり目の前のことに目を向けられなかったからだ。


(あの、特務機関って人達。明らかに俺を警戒していたな……異世界人がどうとか言ってたけど)


先ほど自分の前に現れた”特務機関”という存在を思い出す。

その時の殺気、カイトは今も覚えている。


(……もしかして、この世界って異世界人と何かあるのかな?よくよく思い出せばムドやアンクの反応もそんな感じだったし)


アルカード家の従者のムドはカイトが異世界人だということに嫌悪感を示していた。

アンクもカイトが自分と同じ異世界人であると分かると何かと協力的に接してくれた。しかし、異世界人ではない現世人のセレナ達にはかなり警戒していた。

異世界に転移したばかりの頃なら二人のような態度をカイトはそこまで気にしていなかっただろう。

しかし、今朝、自分のことを異世界人だと思われた瞬間に見せた特務機関の剣呑な雰囲気から、この世界と異世界人との間には何かしらの確執があるのではないかと、カイトは嫌でも理解できた。


(俺、ここにいない方がいいのかな?)


カイトはこれ以上、自分が原因でゼラスやセレナ達に迷惑を掛けたくなかった。

異世界に転移したばかりで右も左も分からない自分を保護してくれたセレナの兄ゼラス。

異世界の生活で不安な中、色々と面倒を見てくれていたティグとメアリ。

自分が落ち込んでいる時に元気づけてくれたセレナ。

それ以外にもアルカード領で出会った人々。

そのような人たちに恩を仇で返すことはできなかった。


「……カイト?」


「えっ?」


すると、セレナがカイトに話しかける。


「大丈夫?ずっと、呼んでも返事なかったから……そのメアリが……」


「ジー」


「……メアリさん」


セレナはカイトの近くまで接近しようとしていたメアリとそれに呆れた顔をするティグに視線を向ける。

もし、このまま気づかなければ普段のようにメアリがカイトの目と鼻の先まで近づいていただろう。

それに気づかないほど、カイトは考え事をしていた。


「えっと、大丈夫ですよ。綺麗なファブラの花に目を取られていただけですし」


セレナにいらない心配をさせたくないカイトは咲いているファブラへと話題を変えた。


「そう、よかった。カイトも喜んでくれて」


自分のお気に入りの花を褒められたセレナは嬉しそうにファブラに視線を移す。


「でも、少し来るのが早すぎたかな?まだ咲ききっていない花もあるし。ムドはもう見頃だと言っていたけどもう少し後でもよかったかな」


セレナは咲いている花に近づきしゃがみ、小さな雑草を抜き始める。


「本当は午後にやる予定だけど、このまま裏庭の手入れをしよう。カイト手伝ってくれる?」


「はい。分かりました」


セレナの言葉にカイトは頷き一緒に雑草を抜き始める。

近くにいたメアリとティグもそんなカイト達を見守りながら裏庭の手入れを行う。


(そういえば山賊の討伐が終わってアルカード領がどうにか持ち直せたら俺はアンクと一緒にアルカード領を離れるんだよな。アンクとはそういう契約だし)


セレナの近くで黙々と雑草を抜き続ける。

アンクがアルカード領の山賊討伐のための情報収集に協力する代わりに問題が解決した後、今度は自分がアンクに協力をする約束だった。

しかし、特務機関が来てから山賊を討伐する必要はなくなった。

アルカード領は救われたし自分の役目はこれ以上ないだろう。後はアンクの約束を果たすだけだった。


(けどセレナさんはどうなるんだろう)


カイトはセレナに視線を移す。セレナは黙々と雑草を抜き始めている。

たった数週間だがセレナはカイトのことを気に掛けていた。

この世界で一番、話をしていた相手とも言える。

その彼女と別れることに少し寂しい感情があった。


(いや、何考えてるんだ。俺はアルカード家に保護されている立場。いつまでもここでお世話されるわけにも行かないじゃないか)


しかし、すぐにその感情を捨てる。今、ここにいるのは恩を返したいからであっていつまでもここに寄生するように居座るわけではないと自分に言い聞かせ再び雑草を抜き始める。


「カイト、ごめんね」


すると横からセレナが申し訳なさそうに謝った。

突然のことにカイトはセレナに視線を移す。


「今朝の件、怖い思いさせちゃったね。私もどうにかしたかったけど……」


特務機関と名乗る彼らとのトラブルの件でセレナは何もできなかったことを悔いていたようだった。


「大丈夫ですよ。寧ろあの時、俺のせいで迷惑を掛けたみたいですし」


「カイトのせいじゃないよ」


セレナはカイトに自分を責めないでほしいというかのように強めに言った。


「カイト、私ね……」


セレナは絞り出すようにカイトに話そうとした。

その瞬間だった。


ズゴゴゴゴゴゴッ。


突如、地面が揺れだす。


「何だ!?」


地面の揺れにカイトは軽くバランスを崩す。


「カイト大丈夫……えっ!?」


セレナがカイトに手を伸ばそうとした瞬間。


バガァ!!


セレナの目の前の地面が割れ、そこから泥の塊が一気に押し寄せた。

セレナはその泥に飲み込まれ引きずり込まれる。


「……セレナさん!!」


カイトは慌ててセレナの手を掴む。


(……泥が!?)


しかし、その泥は今度はカイトをも包み、そのまま地面に引きずり込まれた。


「カイト様!! セレナお嬢様!!」


事態に気づいたのか慌ててカイト達の名前を叫ぶティグの声を最後にカイトの意識は途絶えた。




ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回の投稿は7月18日(土)、18時の予定です。


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